786: tell you that I love ...(8-6) 2012/11/28(水) 23:23:50.54 ID:KUF+1ycV0
-side 豊音-

-大将戦前半戦 東1局
-親 天江衣


――豊音、最初っから全力でね

朝のミーティングでの、照からのアドバイス

曰く、天江さんと大星さんは最初の数局は様子を見てくるタイプ
石戸さんはどう出てくるか読みにくいけど、基本的には防御タイプなので序盤はそこまで気にしなくていい
とにかくスタートダッシュでできるだけ稼ぐこと

うん、頑張るよー

「リーチ」

先制をしたのは石戸さんだった

「んー、おっかけるけどー」

じゃあ、まずは先負からだねー

「通らばリーチ」
「あらあら」

宣言牌され通ればこっちのもの
石戸さんがツモ切り、それはもちろん私のロン牌

「ロン、リーチ一発裏1、5200」

点棒を受け取る
とりあえず1位になったけど、まだまだこれから

チラリと両隣に視線をうつす
大星さんも天江さんも、まだまだ余裕の表情

どの段階で牙を向いてくるのかなー
それまでに極力稼ぐよー

引用元: 照「清澄にも麻雀部はあるのか・・・」【咲-saki-】

787: tell you that I love ...(8-6) 2012/11/28(水) 23:24:55.93 ID:KUF+1ycV0
-side 照-

-東2局
-親 石戸霞


まずは先負、か

私が怜が寝ていたマットを借りて、宥に膝枕してもらいながら観戦していた
うーん、まさかこうやって堂々と膝枕してもらうとは思ってなかったけど

見上げると、宥も嬉しそうにしているから、いいか・・・
でもまだちょっと恥ずかしい。怜と竜華は、そのへんどうなんだろうか・・・

「辻垣内が言うとった通り、姉帯は特殊な打ち手なんか?」
「うん、あっさり見抜いてくるなんて、流石だね」

末原さんの問いに答えた
対局前の解説で、辻垣内さんが言っていたのは、概ねあってる

豊音の力は、一つ一つは打点の高いものでもないし、対応しようと思えばできる
だから極力隠したかったのは事実

「豊音は全力を出すだろうから全部使うと思うけど、彼女は六曜にちなんだ打ち筋を持っている」
「・・・・六種類もあるってことか、初見での対応は難しそうやな」
「でも、知っていれば対応できないことはないってのがほとんど。その点で、辻垣内さんの推測は正しいよ」

もちろん、先負を知られていれば相手からすればリーチがかけにくくなるから、知られることはデメリットだけではない
でも、知られないでいれば、リーチを追いかけて和了できるんだから、知られないに越したことはない

「その点いくとあの大星は、バカなのか、それとも真に魔物なんか・・・・」
『リーチ』

画面から淡の声がする

「・・・・まだ二向聴、ノーテンリーチだな」

菫も、少々戸惑いながら呟いた
淡の手牌が映し出されるが、まだテンパイじゃない

『おおっと、これはどういうことだー。大星淡、ノーテンリーチ!』
『これは、ちょっと分かんないですっ』

実況解説の方も戸惑っているようだった

「そういえば、菫は淡と打ったことある?」
「いや、まだだな。部活対抗戦に向けての調整は、クラス対抗戦が終わってからと思っていたから、まだ部内で打ったことはない」
「そっか・・・」
「そういうお前はどうなんだ?」
「中学のときに1回だけだし、その時はノーテンリーチするような感じじゃなかったけど・・・・」

3年前の打ち筋は、一応豊音には伝えてある
でも、3年も経てば打ち筋はまったくの別物になっていてもおかしくない

『おっかけるけどー』
『おっかけられるけどー』

「・・・・真にバカなんか?」
「残念ながらフォローの言葉は見つからない」

末原さんも菫も呆れ顔でモニターを見つめていた

『ロン、リーチ一発』
『アハ、ふーりこんだー』

・・・・淡、もしかしてもう先負に気づいたのかな?
確認するためにあえてノーテンリーチを・・・
そうでないとしても、これで追っかけ後の一発は警戒されるだろう

さすがに決勝の大将卓、一筋縄ではいかないか・・・

788: tell you that I love ...(8-6) 2012/11/28(水) 23:25:56.50 ID:KUF+1ycV0
-side 淡-

-東3局
-親 大星淡
-ドラ 九

照が大将に据えたこのトヨネって人、なかなか面白そう
先にリーチした人を一撃で仕留めるとか、なかなかかっこいいじゃん

まあでも、最後に勝つのは私
今はせいぜいチマチマ稼いだらいいよ

さって私の親番だけど、ここはスルーかな
ハルエに圧勝してこいって言われたしね

淡手牌:二四六⑤⑥⑧⑧44東東北北 ツモ:中

まあ、東が出ればダブ東だけど、ドラも絡まないし・・・
様子見のままでいいよね

淡 打:中

「ポン」

鳴いたのはトヨネ
あれ、追っかけリーチするんだったら鳴いたらダメじゃん
それとも役牌だったからとりあえずこの局は追っかけ諦めた?

んー、でもさっきは白の対子を頭に使ってたしなぁ
順番が回ってきて、ツモは①ピン。とりあえずツモ切り

「チー」

またトヨネに鳴かれた
ふんふむ、これは私を警戒して、私の親を流そうってことかな

ふっふー、警戒されながらどーんと上がるのが快感なのよね
まあ、最初の親は様子見だから和了できなくてもいいけどさ

「ポン」
「チー」

あっという間に四副露で、裸単騎に・・・
っていうか4鳴きしないとテンパイできないとか、よほど手牌がズタボロだったのかな

それとも・・・

「ぼっちじゃないよー」

ふふ、そういうセリフ言っちゃうと、分かっちゃうよ

「お友達が来たよー。ツモ、中ドラ2。1300、2600」

なるほどねー
今度は裸単騎になったらツモできるとか、そんなとこかな

そういうのも面白いとは思うよ
でもさ、対面の魔物さんには、どう映ってるのかな?

もっと楽しませてあげないと、そろそろ動き出すと思うよー
あのちびっ子、さっきからチラチラこっちのこと見てるけどさ

手の内を晒すのは私の方が後
だって、真打は後から登場するもの。小物からどんどん手の内を明かしていけばいいんだよ

ねぇ、小さい魔物さん?

789: tell you that I love ...(8-6) 2012/11/28(水) 23:26:42.69 ID:KUF+1ycV0
-side 豊音-

-東4局
-親 姉帯豊音

よーし、とりあえず3連続和了で自分の親番までつなげたよー
っていうか順調すぎて逆に怖いくらいだよー

そろそろ天江さんとか大星さんとか動き出してもおかしくないと思うんだけどなー
でもでも、動かないなら動かないうちにどんどん稼がないとね、私そんなに火力ないし

それにしても、みんなリーチしてくれなくなっちゃったなぁ・・・
だったら、どんどん新しいことをやるしかないよね

「リーチ」

いくよー、次は先勝だよっ



-side 衣-

・・・普通にリーチか、見世物はもう終わりか?

ここまで様子を見てきたが・・・

姉帯豊音。確かに面白いが、所詮子供のお遊戯に過ぎない
それよりも、対面に座るあの小娘

――大星淡

テンパイ気配が全くないところからリーチをかけてきた
あれは一体なんだったんだ?

自分の感覚を信じるのなら、ただのノーテンリーチ
だがもしも衣の感覚を超える相手なら?
テンパイの気配のないところからでも、リーチをかけられるとしたら?

「よーし、今度は私が追いかけるしー!」
「通るけどー」

・・・またテンパイ気配のないところからリーチだと!
何を考えている?

「ロン、メンタンピン裏2。親満だよー」
「ふりこんだー」

そしてまたしても大星の振り込み・・・
考えすぎなのか?

そしてこの姉帯、追いかけリーチだけでなく、先制リーチでも振り込ませる力があるのか?

「ふ、面白い!」

ならば見せてやる
リーチすらできぬ、深淵の恐怖を

「そろそろ御戸開きと行こうか。この卓に座ったこと、悵恨するといい!」

絶望をくれてやろう

790: tell you that I love ...(8-6) 2012/11/28(水) 23:27:46.09 ID:KUF+1ycV0
-side 憩-

-東4局1本場
-親 姉帯豊音
-ドラ ①ピン

「やっと本気モードか。・・・・最初からそうしてほしいところやけどなぁ」

衣ちゃんは潮の満ち引きのように、海底まで続く一向聴地獄と、高打点の速攻と2つのタイプを持っている。けど、最初は・・・

「海底コースのようやね、最初は」
「全然テンパイできないから、辛いよね、あれ・・・」

玄ちゃんが呟く

現に衣ちゃん以外の3人はもう13巡目になっているけど誰も鳴けず、テンパイもできていない
けど、一人おかしなことやっとるな・・・・

「大星淡、何者なんやろな?」
「・・・わざと二向聴に抑えているように見えますね」

そう、あの1年の大星淡
起きている小蒔ちゃんでも分かるくらい、露骨に一向聴になるのを避けているようだった

それにあの子は、さっきから2回もノーテンリーチをかけてきている。そのときも二向聴だった

多分リーチをかけたのはあの3年の姉帯さんの打ち筋を確認するためなんやろうけど、それにしたってノーテンでリーチをかけるなんて普通に考えればリスクが高くてできない

「衣ちゃん、油断したらアカンで」

何をしてくるか、まったく読めへん

「ところで、漫ちゃんがさっきからうつ伏せなんですが、体調が悪いんでしょうか?」

ここで突然別の話をもってくるとか、さすが小蒔ちゃんやな・・・

「うう、ほっといてや・・・」
「そうやよ、ただ『ころたんイエイ』っておでこに書いただけですーぅ」
「だけですーぅ、やあらへんわ!」

怒りに任せて顔を上げる
そこには額に『ころたんイエイ』と書かれているわけで

「くくくっ、これはっ・・・。漫ちゃん、顔上げるの反則やわ」
「だからうつむいとるねん!」
「あわわ、漫ちゃん、顔洗いに行く?」
「ダメやよ玄ちゃん、衣ちゃんが帰ってくるまでそのままやからな」
「なんでクラスでもこないな目にあうねんな・・・・はぁ」

再び漫ちゃんが頭を伏せてしまうので、私はモニターに視線を戻した

『リーチ』

衣ちゃんが海底目前でリーチをかけた
誰も鳴けないし、追いつけない

そして海底直前のリーチだから、もうツモが1回しかない姉帯さんは追いかけてリーチすることができない
いくらリーチで先制したり追いかけて潰すことができたとしても、この海底リーチだけは防ぐことができない

「・・・霞ちゃん」

微かに聞こえた小蒔ちゃんの声は、ひどく震えていた

『海底撈月。3100、6100』

衣ちゃんのツモ
これで東場が流れて南入、衣ちゃんの親になる

できるだけ親で稼ぐんやで、衣ちゃん

大星淡も、そして静かすぎる石戸霞も、まだ何かしてくるはずや


クラス対抗戦決勝戦・大将戦
前半戦東場終了時点

天江衣(2-10) 111300(+11000)
石戸霞(3-2)   91200(-10600)
大星淡(1-5)   75100(-22300)
姉帯豊音(3-1) 122400(+21900)

794: tell you that I love ...(8-6) 2012/12/02(日) 21:17:10.93 ID:rQFYGGkq0
-side 豊音-

-南1局
-親 天江衣
-ドラ 九萬

話には聞いてたけど、これが一向聴地獄か・・・・
本当に鳴く機会もないし、テンパイもできない・・・・

ちょーこわいよー
でも、それでもなんとか頑張らないとねっ

豊音 配牌:一四八②②⑥⑨127東北白

うわーん、配牌がズタボロだよー
大星さんか石戸さんのアシストに回ったほうがいいのかなー

淡 打:3

んー、友引行けるかなぁ
うじうじ考えたってしょうがない、せっかく鳴けるんだから、ここは鳴くよー

「チー」

これで海底は石戸さんから大星さんへ
話に聞くと、ちょっとやそっと鳴いたところでそんなの関係ないみたいだけど・・・・

10巡目で、大星さんが②を出してくれてポン
まだまだ手牌はバラバラだよー
でも、これで海底は私になった

豊音 手牌:二四⑥⑧7北北白 3-12 ②-②②

自風の北がまだ出てないから、これさえ鳴ければなんとかなるかもしれない

豊音 打:7

「チー」

衣副露 7-89

あっ・・・

天江さんに鳴かれてしまった。口の端を小さくつり上げている
これで海底は私から天江さんに移ってしまった。またどこかで鳴かないとずらせないよー

ほんと、ちょーこわいんですけどー

・・・海の底が近づいてくる
なんだか息が詰まりそうになってくるよー

795: tell you that I love ...(8-6) 2012/12/02(日) 21:18:18.74 ID:rQFYGGkq0
「まったく、たかだか海の底くらいでビビってちゃダメだよ、トヨネ」

それでも、こんな息が詰まりそうな中でも、大星さんは余裕の表情を浮かべていた

淡 打:三

「チー」
「ポンだ」
「ちぇ、取られたか」

私がチーしようとしたけど、でもポンの方が優先・・・
天江さんに三萬が持って行かれてしまう
でもこれで海底は大星さんになった

カンチャンの牌が喰い取られて、私の手はもう厳しい

残り3巡になる・・・・
まったく進まない、せめて天江さんに鳴かれないでいるのがせめてもの救いかなー

大星さんのツモ番で、大星さんはニヤリとした

「トヨネ、やっと持って来れたよ」

そう言って大星さんが切ったのは、北

「ポン!」

字牌なら横から持っていかれることはない
私は北を貰ってきて、白を切った

「ちょろちょろと小賢しい真似を。ポンだ」
「あっ・・・・」
「あらあら。また海底コースね」
「あはは、意味ないじゃん」

石戸さんに言われるまでもなく・・・

私が大星さんから鳴いて、海底は私に
でも、さらに私から天江さんが鳴いて、海底は天江さんに移る

そして・・・・

「ツモ、海底撈月白ドラ3。4000オール」

衣 手牌:八九九九 白-白白 7-89 三-三三 ツモ:八

せっかく大星さんがいろいろ鳴かせてくれようとしたのに、それでも海底からは逃れられないのかな・・・

・・・しょうがない、こうなったら大安を使うしかないよね

796: tell you that I love ...(8-6) 2012/12/02(日) 21:24:07.50 ID:rQFYGGkq0
-side 憧-

まったく、淡は調子に乗りすぎだっての
巻き返してくれるとは思ってるけどさ

「ほんとに、淡さんの打ち方は理解できません」

ほらー、和をなだめなきゃいけいないこっちの身にもなってよね
ノーテンリーチなんてフォローしきれないわよ

今の局で天江衣の支配から逃れるために、あの大きな姉帯さんって人にいろいろ鳴かせようとしたのはいいと思うけどさ
誰かに鳴かせられるだけ、淡の実力も天江衣には負けてないってことなんだろうけど

「まったく、敵に回ると衣は厄介だな」

去年は天江衣の担任だったハルエ
打ち筋は教えてくれたけど、当の淡がそれを活かす気が全くないのが問題なのよね・・・・

たとえば天江は最初の数局は様子を見るとかさ
あとは今の海底コースと、速攻高打点に切り替えるあいだに1局を消費するとか

それを聞けば、最初っから飛ばしていかないと稼げなくなっちゃう
本当は姉帯さんみたいに、天江衣が本気になる前にできるだけ稼ぐべきなのが本来なんだけど
まあ、淡の能力上、しょうがないっちゃそうなんだけど

能力上なんて理由で和は納得してくれないしさ

「淡ちゃんなら大丈夫だよ」
「うん、淡が諦めるわけがない」

そんな中、咲は静かに、でも食い入るようにモニターの淡を見つめていた
しずも大きくうなづいた

今上がられた親満で2-10が3-1を逆転して一位に浮上した
そして最下位の私たちのクラスとは、もう5万点以上の差がついてしまっている

「和、一緒に応援しようよ」
「別に応援しないと言ってるわけではないですからね。もっと効率的に打ってほしいだけで」

はは、なだめる必要もなかったかな?
私が肩をすくめると、咲が話しかけてきた

「憧ちゃん。聞きそびれちゃってたけど、さっきのお姉ちゃんのオーラス、やっぱり私のコピーだったの?」
「ああ、さっきのね。2回鏡に写して、咲の打ち筋を反転せずに普通にコピーしたって言ってたよ」
「・・・そうなんだね。お姉ちゃん、何か言ってた?」

うーむ、私の口から言うべきなのかな?
どうせ帰ったら家でいろいろ話をするんだろうし・・・・

「言ってたけど、直接聞いたほうがいいよ? 私から言えるのは、悪いようにはなってないんじゃないかな、ってこと」
「大丈夫かな・・・」
「大丈夫だよっ」

私は、まだ不安そうな咲の肩を軽くたたいた
大丈夫だよ、今の咲なら照さんも認めてくれると思うからさ

「ま、とりあえず今は応援応援!」

モニターに視線を戻す

南1局1本場
またしても天江衣に海底が回てくる・・・
これで海底ツモなら、4100オール。さすがにこれ以上離されるのはまずいよね

「また海底なのかな?」
「そんなオカルトありえません」

しずと和も固唾を飲んで見守っている
そして天江衣が海底牌をツモってくる・・・・

「・・・海底じゃ、ない?」
「だから言ったじゃないですか、狙って海底なんて出来るわけがありません」

しずが驚くのに、和が冷静にツッコミを入れる
私は天江衣を一番知っているだろうハルエを見た

「流石に決勝卓、衣と言えども思い通りにはいかないか」

ハルエも意外そうな表情を浮かべていた

797: tell you that I love ...(8-6) 2012/12/02(日) 21:26:33.24 ID:rQFYGGkq0
-side 衣-

-南1局1本場
-親 天江衣
-ドラ 2ソウ

衣 手牌:一二三⑧⑧⑧⑨222 ②-②②

ふん、結局あの大星とやらもただの有象無象

「無為無聊だな。もう少し楽しませてせくれ・・・」

海に写る月を、撈い取る
最後のツモ、それが私の和了牌・・・・⑨ピンだ

衣 ツモ:九萬

「な、に・・・・」

⑨ピンじゃないだと・・・
どういうことだっ

視界に入ってくる、口の端をつり上げる、姉帯豊音
リーチの追撃だけではないということか

「この局、誰にも和了させないよ」
「・・・少しは骨があるようだな」
「それにさ、天江さん」

さらに私を挑発するかのように、笑顔を浮かべる姉帯

「私は海底コースより、速攻で高打点で和了してくる方が好きだなー」

ふん、海底の支配よりも、速攻の場での方が勝算があるとでも思っているのか?

「生猪口才、その挑発受けてやる。お望みどり、業火の責め苦を擬してやる」

夕刻、まだ夜の帳が降りるには早いが・・・
それでも、勝つのは私だ

九萬はツモ切り

「テンパイ」
「ノーテン」
「ノーテン」
「ノーテン」

他の3人は全員ノーテン
一人テンパイで親は続行

目にもの見せてくれる

798: tell you that I love ...(8-6) 2012/12/02(日) 21:29:02.72 ID:rQFYGGkq0
-side 照-

-南1局2本場
-親 天江衣
-ドラ 中

衣 配牌:五六六六④④⑥⑧25(赤)白白中中

霞 配牌:一一五(赤)①②⑥⑦335東南南

淡 配牌:二六①⑤(赤)⑧5678西北北白

豊音 配牌:四九⑤(赤)⑨1279東西北発中


「どういうことや、あの天江が海底であがれんとか」

怜の疑問は、おそらく天江さんを知っている誰もが疑問に思ったことだろう

「豊音が大安を使ったんだろうね」
「大安?」
「次の局の自分の配牌が五向聴くらいの酷い手になる代わりに、その局は誰にも和了させない。平穏に場が流れるという意味で、大安」

前局の大安に続き、この局は赤口を使ってきた
なるほど、いい判断

「そしてこの局は赤口だね。これで仏滅以外は全部使ったかな」
「赤口ってそもそもどういう日なん? 大安とか仏滅とかはなんとなく響きでわかるけども」
「閻魔さまの口とか、悩みを撒き散らす鬼とかいろいろ説はあるみたいだけど。あまりいい日ではないね」

そして豊音の場合、全員の配牌に赤い鬼を紛れ込ませる

「全員に赤ドラ1枚ずつあるんやな」
「確かに、ドラを切るタイミングが悩ましいかもな」

末原さんも菫も気づく

「そう、赤口は赤ドラを全員に1枚ずつ紛れ込ませる。そして、その牌を切らない限り手の進みが遅くなる。さらに、赤ドラの近くの牌も入らない」
「例えば大星なら、⑤の周りの③④⑤⑥⑦は入ってこないということか?」
「そう、だから赤ドラは、いつまでもくっつかずに浮き続ける」

いつ赤ドラを見切るか
手が進まない中で、ど真ん中の赤ドラを切るのは序盤ではしにくいし、中盤以降は危険牌になるので別の意味で切りにくくなる

でも、天江さんは配牌がいいから、手の進み次第では早めにドラが切られてしまうだろう
そこまでに豊音が追いつけるかどうか・・・
配牌はズタボロとは言え国士気配、さらにドラの中を切れば天江さんに鳴かれてしまう。抱えたまま国士を狙うしかないだろう

「・・・・頑張って、豊音」

802: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/05(水) 00:48:08.18 ID:UKvbLhLz0
-side 智葉-

-南1局2本場
-親 天江衣
-ドラ 中

-7巡目

「ここまで重たい空気が漂ってるね。ほとんどの生徒がツモ切りを繰り返している!」
「手が進んでいるのは、一発目に赤ドラを切った姉帯さんの国士だね。でも残りの牌が少ないから厳しいかも☆」

先ほど、姉帯が挑発して天江が速攻高打点にスタイルを切り替えると思いきや、まだ海底支配のままということだろうか?
私なりに海底支配を研究するに、手なりでは無理だが国士を狙えばテンパイはできたという局面は何度かあった

姉帯の一打目の赤ドラ切りも、その決意の現れということだろう
逆に赤を抱えたままの3人ともが手が進んでいないというのはなかなか皮肉なものだ

だが、海底支配が続行しているというなら、天江の手まで進まないというのはいささか理解に苦しむが・・・

「さあ、ここで石戸霞が南をツモってきてダブ南を暗刻にした!」
「姉帯さんはまだ南を引いてないから、これでちょっと苦しくなったかな。あと南と一萬がほしいんだけど・・・」

ここでようやく石戸が有効牌を引いたか
そして次の、大星のツモ

「ああっと、そして最後の南が大星淡に渡ってしまったー!」
「うーん、これで姉帯さんの上がりは消えたかな・・・」

生牌だが、大星はノータイムでツモ切りした

『ポン』

・・・は?

モニターの向こうから、意味のわからない発声がする

「ええっと、なぜか石戸霞が南をポンした!」
「これはちょっと解説不能かなー☆彡」

霞 手牌:一一五(赤)⑥⑦3356東南 南-南南

打:東

・・・なんだこれは

思考をフル回転させる
オカルトに対応するために、デジタルに対抗できるのはとにかく考えることしかない

「さって、はやりんがさじを投げちゃったので、ここは智葉っちに重厚な解説をお願いしよう!」
「私にも理解は出来ていませんが・・・」

それでも、なんとかバラバラの思考をつなげて言葉に置き換えていく

「天江の海底支配への警戒、というのは考えられます」
「というと?」
「ポンやチーは、誰がか鳴ける牌を切ってくれた時にしか鳴けません。けれど、加カンに限っては自分の好きなタイミングでカンすることができ、なおかつ海底をずらすことができる」

そこまでする必要があるのかどうか、正直よく分からないが・・・

「そしてカンが必要なければ、ほぼ安牌として切ってしまえばいい。そういう対応が考えられるかと」
「おお、さすが智葉っち。もう解説は智葉っちで十分だから、はやりん帰ってもいいよ」
「さすがに泣いちゃうぞ☆」

まったく、久もよくこのいい加減な空気に長々耐えられたものだな

「ただ・・・」

そう、その対応には問題がある

「あの姉帯の国士気配は石戸も感じているはず。加カンをすれば槍槓がありえる、そのリスクを背負ってまでカンする権利を保有しておくべきなのかどうかは疑問ですね」

そう、もし石戸が普通に上がりを目指すなら、あんなポンは手の中にリスクを抱えるだけで意味がない

・・・・石戸、お前はもしかして
勝つ気が、ないのか?

803: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/05(水) 00:49:28.11 ID:UKvbLhLz0
-side 洋榎-

「絹ー、おるんかー、返事せー」

絹恵の部屋までやってきたうちは、ドンドンとノックをする
しばらくして、絹が部屋から出てきた

すでにパジャマに着替えて、コートを羽織って出てきた
ふむ、なかなかに芸が細かいな・・・

でもな、顔色まではごまかせてへんで

「お姉ちゃん、どないしたん・・・」
「副将戦を病欠やって、電話にもでんから心配したんやで」
「あ、ごめんなさい。寝たくて電源切ってたわ」
「まあとりあえず無事ならええんや、あがるで」

絹に文句を言われる前に、うちはさっと部屋にあがってしまう

「ちょ、お姉ちゃん。部屋散らかってるから堪忍してや」
「知らん、普段から片付けしとけ」

適当に転がっていたクッションの上に陣取る
座ってしまったうちを見て、絹はため息をついた

「まあええけど・・・。なんか飲む?」
「病人がいらん気遣いすな。とりあえず寝とり」

そう言われて、絹はしぶしぶコートを脱いでベッドに横たわった

「なー、絹。ひとつだけ確認させてくれ」
「・・・なに?」
「逃げたんか、宮永から?」
「・・え?」

ポカンとした表情を浮かべて、視線をあちこちにさまよわせる絹
はぁ、もう。言い訳考えようとしてるのバレバレやで

「いや、だから体調が悪くて仕方なしに・・・」
「良子ちゃんから聞いた。仮病なんやろ?」
「な、誰にも言わへん言うてたのに」

そこまで言って、絹がしまったと目を見開く。まあ、そこに至る以前にバレバレやったけども・・・

「良子ちゃんに殴りかかる勢いで迫ったら自白してくれたんや、良子ちゃんは悪ないで」

一応フォローはしておこう
あっさり教えてくれたこと自体、訳があるのかもしれんし。実際、体調を崩しましたって言われてもその場では納得できなかっただろうし

「そうなん・・・そうなんやね・・・・」

深くため息をつく絹

「昨日な、赤阪先生に放課後呼び出されてん。そしたら、戒能先生に頼んで病気扱いにしてもらえるけどどうするって聞かれて・・・」
「それで、OKしたんか?」

絹はベッドから起き上がり、小さくうなづいた

「だって、私が出てもチャンピオンには敵わへん・・・・。先生も、漫ちゃんを打たせてあげたいって言うたし。クラスに迷惑かけられへんやん、2年の強い人ばっかり集まってるクラスで、私のせいで負けたって言われるのが・・・・怖かった」

はあ、まったく
豆腐メンタル極まれり、やな・・・
同じ血を引いとるとは思えんわ。性格といい、その、胸といい・・・

「ええか絹、うちは卓につく前に負けるかもなんて考えることなんてない。そりゃうちかて宮永にはそうそう勝てへん。それでも、絶対に次は勝っちゃるって向かっていくんや」
「それはお姉ちゃんが強いからや。私なんて全然やもん・・・」
「そんなこと言っとるうちは強くなられへんで」
「・・・・せやけど」

うつむいてしまった絹
しょうがない、我が身を切るか・・・

804: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/05(水) 00:50:03.04 ID:UKvbLhLz0
「なら言うとくけどな。今日のうちは、ボロクソに負けたんやで」
「・・・え、お姉ちゃんが? 小蒔ちゃん?」

試合内容知らんかったら、そう思うのも仕方あらへんか
あの寝とるときの神代はすさまじかったけども、基本的に怜が勝手に振り込みしとるだけで、負けたっていうよりは蚊帳の外って感じやった

「ちゃう。由子や」
「え、真瀬先輩・・・・。なんで、真瀬先輩出てないはずやん」
「怜が倒れて、途中交代で由子が出てきたんや」

普段なら由子に負けるなんてことあらへん
でも、あのときだけは違った

「由子の方が、クラス対抗戦に賭ける思いが強かった・・・。感情論なんかで麻雀の強さなんて語られへんのかもしれんけど、今日ばかりは痛感した。うちのクラスは心がバラバラやったし、由子のクラスはまとまってた。その差が出たんや」

絹は黙って聞いている
試合を見とらんかったら伝わらへんかもしれんけど、それでもこれだけは伝えたい

うちはお姉ちゃんやからな
落ち込んどる妹を、ほっとくなんてできへんのや。こんなん、柄やないとは我ながら思うけどな

「だからな、絹。クラスに迷惑かかるって考えるよりも、クラスのためにやったるって考えんとあかんのやで。それがひいては、自分の強さになるんや」
「でも、怖かってん・・・」

絹は俯いて、肩を震わせる
うちは絹の隣に腰掛けると、肩に手を回した

「誰も見てへん。泣くだけ泣いて、全部はきだしや」
「う、ううっ。お姉ちゃん・・・・」

そうや。それでええ
全部涙で流し出して、もっと強くなるんやで、絹

805: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/05(水) 00:51:13.10 ID:UKvbLhLz0
-side 霞-

-南1局2本場
-親 天江衣
-ドラ 中

-17巡目

さて、そろそろ頃合かしら

衣 副露:白-白白 ②-②②

霞 手牌:一一五(赤)⑥⑦⑧456南 南-南南 ツモ:⑨

結局この赤ドラはまったくくっつかなかったわね・・・
そして天江さんが2鳴きして今は海底コース

これが私のラスヅモ
残る牌はあと3つ。でも、この南をカンすれば海底牌がずれて姉帯さんが海底になり天江さんにまでは回らない

だからここで私がカンするのは、多少リスクがあれど仕方ないこと
もちろん姉帯さんに国士の可能性があるのは見えている
場に見えている牌からも、国士の可能性は消えていない、それでもやはり天江衣の方が怖かった

そういうことにしておけばいい

普通に南の暗刻落としの方がよかったかしら?
でももう仕方ない、開き直ろう

「カン」

そういえばこういう時の格言があったかしら

「南槓に上がり目なしだよー」

姉帯さんの手牌が倒れる
ふふ、そうでなくては困るわ

「ロン、国士無双。32600」
「あらあら」
「わーお、トヨネやるぅ」
「くっ、衣の親が・・・」

姉帯さんに点棒を出す
これでまた姉帯さんのトップ

巴ちゃんはおそらく私が姫様のいる2-10を勝たせようとしているのではないかと誤解していたようだけど・・・

私は確かにクラスの勝利なんて目指していない
ただ、こんな風にクラスをバラバラにされてしまって、私も黙ってはいられない

だから・・・3-1を勝たせてあげるのよ
多少、強引にでもね
それが、私にできるせめてもの抵抗


南2局は自分の親だけど、当然上がる気はない
そのつもりだったけど、上がる気がないときに限って手が入るもので、一応1000オールのツモ
まあ、完全に上がらないのも不自然かもしれないから、安手であがって良かったのかもしれない


南2局1本場
今度は天江さんに3100、6100でツモ上がりされる

806: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/05(水) 00:51:43.49 ID:UKvbLhLz0
そして南3局
そろそろ、様子見は終わりかしら?

「ふふふ・・・」

大星さんが不敵な笑みを浮かべる

「10局も様子見しちゃったよ」

ぐーっと両腕を伸ばし背伸びをする大星さん
あら、経過した局数を数えてるなんて意外と几帳面なのかしら

「テルが1局様子見してあの強さならさ・・・10局様子見した私は、テルの10倍強い!」

・・・・その理論はどうなのかしら

「教えてあげる。海の底なんかより、星の海の方が遥かに広くて美しいってことをね!」

さて、それじゃあお手並み拝見と行きましょうか


大将戦前半戦
南3局開始時点

天江衣(2-10) 137600
石戸霞(3-2)   50500
大星淡(1-5)   66000
姉帯豊音(3-1) 145900

811: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/07(金) 00:48:56.87 ID:lKLUF5XA0
-side 憧-

-南3局
-親 大星淡
-ドラ 五萬

「まったく、ようやく本気出したか・・・」

淡が強いのはわかってるけど、流石にこの点差じゃいささか不安になる

淡 配牌:②③④⑤89白白白発発中中中

「いつもいつも、ほんとに偶然が続きますね・・・」

そうは言っているものの、和も内心ではもうそういうものだと思っているんじゃないだろうか

10局様子を見たから、ストックは20飜か
で、この局は小三元で4飜。まあ4飜で役満狙えるからお得よね


――淡の能力、ビッグバン

様子見の局数×2飜をストックできる。ただし、様子見する局はテンパイの機会を得てはダメ。だから基本的には二向聴以下に抑えておかないといけない

そして様子見から、一気に爆発する。何もなかった空間から、突如宇宙が誕生したかのように
淡は配牌にストックした飜数以内の役を仕込むことができる

例えば小三元なら4飜(厳密には、小三元・白・中、の4飜だけど)
だから配牌は確定小三元がすでにセットされて聴牌している

でも制約もあって、同じストック内で同じ役は使えない
だから一度混一を指定したら、もう混一は指定できない
あと役満は指定できない。ストックが13飜以上あっても、あくまで数え役満になるように役を指定するしかない


いつもならダブルリーチでド派手に決めたいところなんだろうけど、姉帯さんがいるから流石に自重したかな?
リーチの必要のない小三元をセットしてきた。発がすぐ鳴けるかどうか、か

淡の第一打は、8ソウ
手広く受けれるピンズを残して、発の鳴きを待つつもりだろう

まだ発は他の誰の手牌にも無い。早いところツモれればそれが一番いいんだろうけど

「残り2枚の発のありかが問題だね・・・」
「あ、でも張り返した」

咲が心配そうに呟く
しずはそれほど心配はしてなさそうだった
なんだかんだいって、こういう逆境のときのしずは頼りになるんだな

淡の次のツモは②だった。これで発と②のシャボ待ち。②出上がりでも混一小三元で親っパネにはなる。ツモなら三暗刻が付いて倍満

ま、当然ダマだわよね・・・
そう思っていた

でも淡は点棒を取り出す

「ちょ、淡、まさかリーチするの!?」
「追っかけられるんじゃ・・・」

そんな咲の心配なんてお構いなしに、淡は9ソウを横にした

『さって、お試しリーチ!』

お試しじゃないわよっ。点差どれだけあると思ってんの!?
その手潰されたらどうすんのよ!!

812: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/07(金) 00:50:13.09 ID:lKLUF5XA0
-side 豊音-

うう、2巡目リーチかー

豊音 手牌:五七③④⑥⑦13889南西 ツモ:⑤(赤)

まだこっちの体勢が整ってないんだけどー

リーチしてくれたから先負が発動する
だから有効牌が来やすくなるけど、それでもまだ少なくとも2巡はかかる

すぐには追いかけられない・・・
とりあえず字牌も危なさそうだから現物

打:9

「あれー、追いかけてこないのー」

何も答えられない
さすがに2巡目リーチに対応できるほどのスピードはないよー

「ふふ、流石にこれだけ早いとすぐには追っかけリーチできないってことだね」

続く天江さんも、石戸さんも静かな打牌

「あはは、もたもたしてるとツモっちゃうよ」

そして大星さんがツモってきたのは、②ピン

「ツモ。リーチ一発ツモ、混一小三元三暗刻。ちぇ、裏は乗らないか、三倍満で12000オール」

ドラが1つでも乗れば数え役満だった・・・・
たった3巡でこの高打点、ちょーこわいんですけどー

うーん、これどうやって対応しようか・・・

大安を使っても、大星さんの親が続くだけで根本的な対策にならない
赤口かなぁ・・・

813: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/07(金) 00:51:08.60 ID:lKLUF5XA0
-side 淡-

-南3局1本場
-親 大星淡
-ドラ 九萬

あはっ、どんどん行くよー
久々に20飜もストックしちゃったから、役の組み合わせをうまく考えないとね

淡 配牌:①②③④⑤⑥⑦⑧⑨5(赤)9東東東

今度は一通役牌の3飜。残り13飜

もちろんこの手でいきなりダブリーはかけない
ピンズなり字牌なり持ってこればすぐに染まるからね、それで満貫確定。だったら焦る必要なんてない

それに今の私なら、星の重量に引かれるようにどんどん牌が集まってくるんだから

打:5(赤)



-side 豊音-

えー、第一打であっさり赤切られたんですけどー
まさかもう見切られたのかな?

いや、さっきはちゃんと国士狙いってことで偽装できてたハズだし
だからきっと大星さんも国士狙いか、あるいは染手とかで浮いてる赤は完全に不要だったってことかな・・・・

なんにせよ赤口も不発か・・・
あれだけ手が早いと赤が1枚浮いていればさっくり捨てちゃうよね
うーん、この局は赤かかえて心中するしかないなぁ・・・

意味もなく赤を一打目に切るとそれこそ赤口もバレちゃうかもだし

「リーチ」

また大星さんが2巡目リーチ
赤口は完全に失敗だったかなー。大星さん以外誰も赤切ってないからみんな手が遅いだろう。かえって大星さんをアシストする形になっちゃったよー

一発はなかったけど、4巡目

「ツモ。リーヅモ混一東。親っパネで6100オール」

うーん、これは私じゃちょっと止めるの無理かなー
早すぎて追いかけられないよー

ポン材集めて、できるだけ大星さんにツモを回さないようにするくらいしかできないかなー
うまいこと友引であがれればいいけど・・・

814: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/07(金) 00:53:05.06 ID:lKLUF5XA0
-side 小蒔-

-南3局2本場
-親 大星淡
-ドラ 4ソウ

「霞ちゃん、どうして・・・」

あの南ポンからの加カンでの放銃
いつもの霞ちゃんならあんな打ち方は絶対にしない
本気を出したくて、恐ろしいものの許可をもらったんじゃなかったの・・・

「心配なん、小蒔ちゃん」

憩ちゃんが私の顔を覗き込む

「ご、ごめんなさい。衣ちゃんの応援しないといけないですよね」
「部活の先輩が気になるんは別にええんよ。うちかて、部活の先輩とか出てたら気になると思うし」

モニターを見る。今は1年生の大星さんが、今まではテンパイすらできなかったのが嘘のように凄まじい追い上げを見せている

淡 配牌:一一九九①①⑨⑨11北北白中  打:白

「この子、さっきから配牌でずっとテンパイしてるよ・・・・」

玄ちゃんが驚くのも無理はなかった
この大星さんの親になってから、これで3回目の配牌でのテンパイ

これは、混老頭七対子。でもさっきから配牌での役をさらに伸ばして和了している
ならこの手、混老頭のその先へ手を伸ばすはず。清老頭、役満まで・・・・

でも衣ちゃんも負けてはいない
ドラの暗刻を抱え、次巡大星さんが切った中をポンして一向聴
3年生の2人はまったく追いつけていないから、実質2人だけの戦い

そして6巡目

淡 手牌:一一一①①①⑨⑨11 九-九九 ツモ:②

衣 手牌:②②②五五五(赤)4445(赤) 中-中中

大星さんのツモ番
衣ちゃんが暗刻で持っている②ピン

『あーあ、これ掴んじゃったかなー』

と言いつつ、あっさりと大星さんはツモ切りした。流石に役満テンパイで降りるという選択肢はなかったのだろう

『カン』

モニターの向こうの衣ちゃんが②の暗刻を倒す

「大明カンか・・・」
「これでツモなら責任払いだよね」

憩ちゃんと玄ちゃんも少し驚いたようだった
カンしなければ、5ソウで和了の時に三暗刻が付く。わざわざカンするのは、ドラが乗らない限り手を下げてしまう

それに、衣ちゃんの支配は王牌には及ばないはず
リンシャンをツモできる保証はない・・・

「衣ちゃんも必死や。あの大星、それほどにヤバイ」

そう、保証がなくても責任払いを狙った。少しでも点数を減らしておかないとまずいという判断だろう
もっとも、それを衣ちゃんに直接聞いても認めないだろうけれど
でも、その必死さが功を奏した

『ツモ、リンシャン・中・ドラ5。12600、責任払いだ』
『あーあ、親が流れちゃった』

なんとか大星さんの連荘はストップできた
これでまた衣ちゃんが逆転して1位
そして霞ちゃんとの点差はもう10万点近くになってしまった

「霞ちゃん、どうして・・・」

また同じ言葉を呟く
だって、こんなに点差が開いてもおそろしいものを降ろさないなんて

全力を出してください、霞ちゃん・・・

815: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/07(金) 00:54:08.10 ID:lKLUF5XA0
-side 菫-

-南4局
-親 姉帯豊音
-ドラ 白

前半戦もオーラスか
トップの天江と、石戸の点差は10万点近い

なぜだろう
妙に胸の奥がざわざわと、居心地が悪い

ふと清水谷を見ると、そわそわと落ち着かない様子だった
・・・もしかして、私と同じ気持ちになっているのだろうか?

「なあ、清水谷」
「ん、どうしたん?」
「どうした、そんなにそわそわして?」
「・・・・弘世さんもそんな感じやで」

指摘されて、私も清水谷と同じようにそわそわしていたのかと驚く

「どうかしたん?」

清水谷の隣にいる園城寺が尋ねる
清水谷は肩をすくめた

「いや、分からへんねんけど、なんか落ち着かないっていうか、胸の奥がざわざわするっていうか・・・」
「あー、そりゃあ自分たちのクラスがこんなに断ラスやったら、そうなるんちゃう?」

そうなのだろうか・・・
いや、そうなのかもしれないな・・・・

「あー、そんなもんかな」
「なんやかんや言っても、自分のクラスやん」

いまいち腑に落ちない様子の清水谷

まったく、ここまで追い詰められてようやく自分のクラスという自覚が湧いたとでもいうのだろうか・・・
我ながら現金だな・・・

決勝に至るまでは、当たり前のように勝ってきた
決勝になっても、副将戦までは最下位になることはなかったはずだ
だからこれまで、危機感を抱く場面なんてなかった
むしろ望みもしない勝利をこのまま得てしまうんじゃないかくらいのことを、心のどこかで思っていたのだろう

けれど、現実としてこの圧倒的な点差
常識的に考えて、残りおおよそ1半荘だけで逆転など無理な話

目の前に敗北を突きつけられて、ようやく・・・

「・・・そうだな。なんだかんだ言っても、自分のクラスだ」

モニターを見る

相変わらず、淡は配牌でテンパイしている
清一タンヤオ三暗刻。ツモれば三倍満にまで届く

さっきは清老頭にまで手を伸ばそうとして天江に阻止されてしまったが、欲張らなければ早々に淡がツモ上がりするだろう

816: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/07(金) 00:55:02.43 ID:lKLUF5XA0
「失礼します」

ご丁寧にドアをノックする、突然の来訪者

「福路・・・」

同じクラスの福路美穂子だった
彼女もやはり落ち着かない様子だった

「福路さん、部活の後輩と試合見るって言ってへんかったけ?」
「いえ、見ていたんですが・・・。どうも落ち着かなくて」
「福路も同じか・・・」
「え、同じって?」
「なんだかんだ言っても、自分のクラスがここまで負けていたら落ち着いてはいられないさ」

ようやく合点がいったという表情を見せる福路
そうだろうな、自分では気づけない。それほどに麻痺してしまっていた、自分たちのクラスという感覚

『大星淡、三倍満ツモー! これで一気に1位浮上だーー!』
『抜きつ抜かれつの攻防が激しくなってきたね☆』
『これで前半戦終了。残るは後半戦の1半荘のみ、最後に栄光をつかむのはどのクラスか!!』

ちょうど前半戦が終わったようだ

「福路、清水谷・・・・。行こうか、石戸のところへ」
「せやな。最後くらい、ちゃんとしよか」
「そうですね」

福路も頷く

いまさら行って頑張れというのも、虫のいい話かもしれない
それでも、言わずにはいられない・・・

「そうだ清水谷。愛宕の電話番号は知っているか?」
「知っとるけど」
「まあこちらには来れないだろうが、一応連絡だけはしてみてくれ」
「ああ、わかった。じゃあ怜、ちょっと行ってくるな」

園城寺に手を振って、清水谷も教室を出た


大将戦前半戦終了

天江衣(2-10) 126100
石戸霞(3-2)   26400
大星淡(1-5)  131700
姉帯豊音(3-1) 115800

824: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/09(日) 22:08:45.77 ID:QTE/C41y0
-side 霞-

残りは26400点
ずいぶん削られたものね

でも自分の点棒にはそれほどの意味はない
ただ0になってしまえば対局が終わってしまう

いや、それさえも、3-1が勝つためなら失ってしまっても構わない
誰も、3-2の勝利など望んでいないのだから

「じゃ、後半もよろしくねっ」

大星さんがそう言って対局室を出ていく
それに続いて、姉帯さんと天江さんも出ていった

私には帰る場所はない
本当に、どうしてこんなにバラバラになってしまったんだろう

宮永照を倒すために集められたなんて話を耳にしなければ、普通に接することができていたんだろうか?
今となっては、そんな仮定に意味はないけれど

しばらく座っていると対局室の扉が開いた
もう誰か戻ってきたのだろうか?

「霞ちゃん」

入ってきたのは小蒔ちゃんだった・・・・

「あらどうしたの? 天江さんならもう出て行ったわよ」

その瞳を見れば分かる
小蒔ちゃんの目的が天江さんではないことなど

「違います。私は霞ちゃんに会いに来ました」
「あらそうなの?」

言いたいことなんか分かっている
悟られないように支援するなど、この大将戦の面子では至難。結局バレてしまったのだろう、私が勝つ気がないことは

私はこれ以上小蒔ちゃんの瞳を直視できなかった

「どうして本気で、全力で戦ってくれないんですか!」

小蒔ちゃんにしては珍しく語気を荒らげる

「みんな強くてね。これでも頑張ってるんだけど」

それでも、私はとぼけ続ける
分かっている、こんなのはただの現実逃避

でもその退路を、小蒔ちゃんはどんどん塞いでいく

「嘘です。あの南のカン、普段の霞ちゃんなら絶対にしません」
「あれは天江さんの海底を警戒して・・・」
「本当に、国士よりも警戒すべきでしたか?」

国士を狙っているのは分かっていた
ほぼ張っているのも分かっていた

国士振り込みと天江さんの海底の両天秤、しかし天江さんはあの時親番だった。連荘警戒はありえない範囲ではないはず
そう理論武装するつもりだった

でも、小蒔ちゃんの視線はまるで私の心の奥底まで見透かしているような力に溢れていた

私が押し黙ると、小蒔ちゃんは続ける

「答えてください。どうして全力を出さないんですか?」

ここで答えていいのだろうか?

宮永照を倒そうとする大人たちへの、せめてもの当てつけです・・・などと

825: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/09(日) 22:10:42.97 ID:QTE/C41y0
私が逡巡していると、再び対局室の扉が開いた

「先客がいたか」

入ってきたのは、弘世さん、清水谷さん、福路さんの3人。みんな、3-2のクラスメイト

「どうしてここへ?」

そんな言葉が出てくること自体、普通の感覚は麻痺してしまっているのだろうと思う
クラスメイトが対局室に来るなんて、本来なら応援くらいしかないのに

「今さら虫のいい話かとは思うが、激励にな」

弘世さんの答えに、私は戸惑う
本当に今さら・・・

でも、どうして今になって・・・

「これだけの点差をつけられて、ようやくクラスの危機を自覚したというか。吊り橋効果みたいなものなんだろうがな」

弘世さんの後ろにいる2人も小さく頷く

でも、いいの?
一番辛いのは、ずっと宮永さんと戦ってきた弘世さん、あなたじゃないの?

「上の思惑など分からない。だがな、石戸・・・お前が手を抜けば仮に3-1が勝っても譲られた勝利と思われても仕方ないだろう」
「せっかくここまで来たんやし、やるからにはやっぱり勝ちたいわ」
「そうですね。少なくとも、できることはすべきです。本当は、もっと早くに気づかないといけなかったんでしょうけど」

3人の言葉が胸に染み渡る
4日間戦ってきて、ここまでみんながまとまっていたことがあっただろうか・・・

私だって、真剣に戦えるものなら戦いたかった
でもクラス編成にまで口を出して宮永さんを倒そうとする何者かの思惑が、そんな思いに水を差す

「あ、せや。洋榎に電話せんと」

清水谷さんが電話をかけ、一言二言話すと携帯電話を私に差し出してきた

「洋榎からやで」

電話を受け取る

「もしもし、石戸ですけど」
『おお、石戸か。なんか派手にやられとるようやん』
「申し訳ないわ」
『謝らんでもええ。むしろ謝りたいのはこっちやわ』
「なんで愛宕さんが・・・」
『余計な茶々入れられたもんも、結局全部お前に押し付けてまうんやからな』

私が二の句を継げないでいるのにお構いなく、愛宕さんは続ける

『今さら勝ってくれとは言わん。ただ、訳のわからん大人達の思惑に潰されんでくれ。うちが今日不甲斐なかったんも、結局ひん曲げられた思いのままで打っとったからや』
「愛宕さん・・・・」
『そっちに直接行けんくて悪かったな』

そう言うと、一方的に電話が切られてしまった
はあ、まったくせっかちね・・・

826: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/09(日) 22:11:21.57 ID:QTE/C41y0
「あの・・・」

ここまで沈黙していた小蒔ちゃんが、ようやく口を開いた

「クラスで何があったのかはよくわかりませんが・・・みなさんも、霞ちゃんに全力で戦ってほしいってことですよね?」

振り返り、弘世さんたちの方を見る小蒔ちゃん
3人も頷いた

「ですから霞ちゃん、全力を出してください。必要なら、全力以上でも構いません」
「・・・・それは」

恐ろしいものを発現させること自体は想定していた

ただ、絶一門をすると姉帯さんへのアシストがしにくくなるから自重していた
しかし、自分が勝つ方向で戦うなら、アシストという足かせが無くなる

でも、全力以上となると話は別だ・・・

「小蒔ちゃん。気持ちは嬉しいけど、全力以上には踏み込んではいけないわ」
「構いません、許可します」

真剣な表情で私の瞳を見つめる小蒔ちゃん
はぁ、普段はぽやぽやしてるけど、こういうときの小蒔ちゃんは言っても聞かないものね・・・

「分かったわ、必要なら使わせてもらうわ・・・」
「はいっ」

小蒔ちゃんが嬉しそうに大きくうなづく
でも、極力使いたくないのだけれどね・・・

「話はまとまったん?」
「そろそろ時間なので行きましょうか」
「石戸、悪いが後は頼む」

弘世さんたちが出ていくのを、手を振って見送った

「じゃあ私も行きますね」
「ありがとうね、小蒔ちゃん。でも、私なんかより、天江さんを応援するのよ」

今は、私と小蒔ちゃんは敵同士なんだから

「いいえ、私はどっちも応援します」
「・・・・そうね」

まったく迷いなくそう答える小蒔ちゃんに、私もつられて微笑んだ

小蒔ちゃんはそういう子だものね・・・

分かったわ小蒔ちゃん。必要な場面は必ず来るから、そのときは、全力以上であたらせてもらうわ

827: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/09(日) 22:12:36.86 ID:QTE/C41y0
-side 咲-

オーラスで淡ちゃんが逆転した
連荘を止められたときはちょっとヒヤリとしたけど、やっぱり淡ちゃんは強いな

「一時はどうなることかと思いましたが、とりあえずはトップに立ちましたね」

今でこそ落ち着いているけれど、配牌でのテンパイをくずしていく淡ちゃんに和ちゃんはブツブツと文句ばかり言っていた
まあ流石に混老頭七対子を清老頭にまで持っていくのは私も無理があるとは思ったけど・・・

「よしっ、これで行けるね。後半戦はノーテンリーチも必要ないだろしね」
「そう上手くいくかなぁ」

穏乃ちゃんは楽観的に喜んでいるけれど、憧ちゃんは穏乃ちゃんほどには喜べないようだった

「姉帯さんの手の内はだいたい分かってきたけど、まだあの石戸さんって人はハルエが言ってた強制絶一門を使ってないしね。後半戦はもっと動きが激しくなると思うよ」

天江さんの打ち方は、去年担任だった赤土先生のおかげでだいたい分かっている
石戸さんに関しても、これまでの学校で打ってきた配譜なども残っているし、その中で強制絶一門を大きな大会の勝負どころで使っていることも確認できた。問題はいつ使うか、ということだろう

そして姉帯さん。リーチに対して支配力を発揮する人なんだろう
でも、本当にそれだけでお姉ちゃんが大将に据えるんだろうか・・・・

そこに淡ちゃんが帰ってきた

「ただいまー」
「おかえり、淡っ」

穏乃ちゃんが出迎える

「このまま優勝いけるよ」
「当たり前じゃん、後半もどんどん稼ぐよ」

自信満々の淡ちゃん。私も、淡ちゃんの半分でも自信が持てればいいんだけどな

「まったく、ノーテンリーチとか何を考えているんですかっ。あれがなければもっと稼げてましたよ」
「えー、あれは情報料としての必要経費だよー。あれでだいたいトヨネの特性掴めたんだしさ」
「追っかけたら振り込ませるとか、そんなオカルトありえません」
「ま、後半戦が終わったらノドカは、そんなデジタルありえませんって言うようになるから」

和ちゃんは相変わらずだなぁ・・・・
私も、むやみに明カンなんてしてはいけませんって言われるし

でも、見えるんだからしょうがないよね・・・

「淡、まだ油断はできないよ。石戸さんはまだ強制絶一門を使ってないし、他の二人だってこのまま終わるわけがない」
「んー、大丈夫だよ、最後に勝つのは私だから」
「でも淡ちゃん、私も3年生の2人はまだ何かあると思うよ」
「サキが言うなら、そうなのかなー」
「ちょっと、私が言っても聞かなくて咲なら聞くとかどういう了見よ」
「あはっ、日ごろの行いの差?」

常に自分が勝つと思って戦う強さと・・・・
常に自分が負けるかもしれないと思って戦う強さと・・・・

一体、どちらの方が強いのだろう
そこに優劣がなかったとしても、違う強さを持つ人たちが卓を囲めば、勝者は1人だけ

そんな強さの激突から、私はずっと逃げてきた
でも、今日からはそんな誰かの強さと向き合っていかないといけない、そう決めたから

「淡ちゃん、勝ってね」
「私が負けるわけないじゃん、そんなに心配しなくたって大丈夫だよ」

828: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/09(日) 22:13:43.03 ID:QTE/C41y0
-side 憩-

「すまないな、後れをとった」
「まだ十分巻き返せる点差やから大丈夫やよ」

教室に戻ってきた衣ちゃんは、思っていたよりは落ち着いていた

「あの大星の東場のリーチは、やはりノーテンリーチだったのか?」
「うん、そうだよ。っていうか南場の親になるまで、ずっと意図的に二向聴に抑えてる感じだった」
「そうか、なら大丈夫だ。衣の感覚がおかしくなったのかと、雑念に囚われすぎたようだな」

玄ちゃんが答えると、衣ちゃんは納得したように頷いた

衣ちゃんは感覚で相手が張っているかどうか、手の高さが分かる
ノーテンリーチをかけられたら、張っていないのにリーチがかかってきているわけで感覚を疑っても仕方ないことだった
初見の相手ということで、少し慎重になっていたのかもしれんな

でも、あの大星ももうノーテンリーチはしてこないだろう
あれはあくまで姉帯さんの手筋を探るためのリーチやったろうしな

ここからは様子見無しやろ

「そういえば小蒔はいないのか?」
「小蒔ちゃんなら対局室に行ったよ」
「そうか、衣が厠へ向かっている間にすれ違ったか」

衣ちゃんに会いに行ったわけではないけど、ここは黙っておこう

「衣ちゃん」

今までうつむいていた漫ちゃんが顔を上げた
また笑ってしまうかと思ったけど、予想以上に真剣な表情でさすがに笑うのはためらわれた

「勝ってな。もし負けたら、私と同じことしてもらうで」
「ふ、そんな憂いは必要ない。全力で行く」

そうや、衣ちゃんが全力やったら負けるはずあらへんよ
まだ日が落ちるには早いけど、今日は満月に近い。力が充実しとるはずや

829: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/09(日) 22:14:40.36 ID:QTE/C41y0
-side 宥-

「やっぱり大星さんと天江さんはちょー強いよー。ちょっと自信なくしそう」

帰ってくるなり、豊音ちゃんはめずらしく弱音を口にした
点差自体は15000点くらい

「豊音、大丈夫だよ」

膝枕をされていた照ちゃんが立ち上がる
ああ、あったかいのが行っちゃう。でも、今は我慢しないと・・・

「石戸さんが本気を出してからが勝負。3人が3人とも場を支配しようとしてくるからこそ、豊音に勝機がある」
「でも石戸さん、照が言ってた絶一門を使ってこないよー」
「後半は使うよ・・・・やっと、3-2自体が本気になってくれるようだから」

弘世さんたちは今は対局室に向かっている
そしてそのまま3-2の教室に戻ることになっている

照ちゃんも心配していた、3-2がバラバラなこと
それもギリギリのタイミングで、なんとかまとまりそう

「え、今まで2組は本気じゃなかったのー?」
「少なくとも、クラスのために頑張るって雰囲気じゃないことは事実。でも、ここまで点差が開いて、ようやくクラスのためにって意識が出てきたみたい」
「そっかー」

豊音ちゃんはぐっとにぎりこぶしを作った

「じゃああとはタイミングの問題だねっ。がんばるよー」

ふと怜ちゃんが私の方に近づいてきた

「宥姉ちゃん、ちょっとええ?」
「ん、どうしたの?」
「膝枕・・・膝枕分が足りへん」
「ええっ」

顔色は・・・うーん、あったかくなさそうってくらいしか分からないなぁ・・・
様子を伺っているうちに、怜ちゃんは今まで照ちゃんが寝転んでいたマットの上に座っていた

「後生やから膝枕してくれへん」

うーん、若干棒読みな感じも受けるけど・・・

「あ、もうアカン・・・」

そう言って、怜ちゃんが有無を言わせず倒れかかってきた
そのまますっと私の膝に収まってしまう

「ふふふ、これが照を骨抜きにした宥姉ちゃんの膝枕やな」

顔は見えないけど、多分すっごくにやけてるんだろうなと想像ができる

「怜ちゃん、なんか十分元気に見えるけど」
「ううっ、立ちくらみが」
「・・・立ってないよね?」

うーん、ほんとに膝枕が好きなんだなぁ・・・
まだ本調子じゃないかもしれないし、ちょっとくらいならいいかな

と、思いっきり床をドンと踏みつける音がした

「怜、こっちが真面目に豊音にアドバイス送ってるのに、何してるの?」

830: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/09(日) 22:16:03.07 ID:QTE/C41y0
見上げると、照ちゃんがまったくの無表情で私たちを見下ろしていた
本気で麻雀打っている時みたいで、とっても冷たいよ・・・

「そこに膝枕があったら試すんが常識や!」

堂々と言い張る怜ちゃん
言い訳から入らないその潔さは立派だと思うよ・・・

「そう、じゃあもうお試し期間は終わりでいいね」
「まだ膝枕分が補給できてへんもん。膝枕分がないと生きられへんのや」
「竜華にしてもらえばいいでしょ!」
「だって竜華いまおらへんやん!」
「浮気者!」
「愛と膝枕は別物や。膝枕は平和の象徴やで」
「だったら江口さんとかにしてもらえばいいでしょ、同じ部活なんだし」
「セーラの膝は筋肉質で気持ちよくないねん」
「とにかく宥から離れて」
「いーやーやー」

とうとう照ちゃんが怜ちゃんを無理やり引き剥がしにかかるけど、怜ちゃんも抵抗する
うーん、怜ちゃん十分元気だよね

なんとなく手を出せずに見守っていると・・・

「はいはい、ご指名いただいた江口セーラやで」
「まったく、倒れたんやからおとなしくしとれや」

江口さんと末原さんがやってきて、照ちゃんと一緒に怜ちゃんを引き離した
引きずられながらじたばたと抵抗する怜ちゃん

「鬼ー、離せー」
「はいはい、俺の筋肉質な膝枕で我慢せーや」
「いややー、宥姉ちゃんの膝枕をまだ堪能したいー」
「分かった、じゃあ恭子の膝枕で我慢せーや」
「む、それは初体験、興味あるな」

怜ちゃんの左脇を抱えていた末原さんが怜ちゃんから離れた

「なんでやねん、お前膝枕やったら誰でもええんか?」
「まずはテイスティング、それが膝枕ソムリエや」
「もう十分元気やろ、大人しく座っとれや」

後ずさっていく末原さんに、距離を詰めていく怜ちゃん

「もう、まったく・・・」

と、照ちゃんがまた横になって私の膝に頭をうずめていた

うん、やっぱり照ちゃんじゃいとしっくりこないよ
私は照ちゃんの髪の毛をときながら、ぽかぽかとあたたかくなるのを感じていた


「バカみたい。膝枕より充電だよっ」
「ダル・・・・」
「ミンナ、ナカヨシ」
「仲良し、なのかなぁ。と、とにかく豊音、頑張ってよ」
「なんか途中から蚊帳の外っぽいんですけどー」

838: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/15(土) 06:48:46.95 ID:5NYEjkYY0
-side えり-

メールで連絡を受けた場所に、待ち人はいた

「よくこんな穴場ご存知でしたね」
「加治木さんが教えてくれて」

ほんとに校舎の中でも外れた場所にある、3階建ての最上階の観戦室
人はまばらで、私たち以外では外部からの観客が2、3人しかいなかった

その隅に小さく座っていたのが、小鍛治健夜
2年前まではここで私と同じく教師をしていた人物だった

「加治木さんですか。気を利かせてくれたようですね」
「うん、助かったよ」

生徒会副会長、加治木ゆみ
3-18、私のクラスの生徒でもある
彼女なら、小鍛治さんの様子からあくまでお忍びで来たのだと察することもできただろう

「もう、残すは大将戦の後半戦だけのようですね」
「そうだね」
「3-1は、勝てるでしょうか?」
「今のままじゃ、厳しいかな」

小鍛治さんの表情は読み取れない。少しだけ固いとは思うけれど、それが何を意味するのかは分からない

「私もそうだった。3年の時、唯一クラス対抗戦で負けた。当時1年の、赤土さんのクラスに」
「そうでしたね」
「宮永照さん、彼女も私と同じ道を歩もうとしている・・・・。彼女を止めるのが、妹なのか、親友なのか、それとも縁もゆかりもない魔物なのか、それは私には分からないけれど」

小鍛治さんがこの学校の生徒だったとき、唯一敗北したのは3年のときのクラス対抗戦
その年以外のクラス対抗戦、そして部活対抗戦も個人戦もまったく他を寄せ付けなかったらしい

「当時、小鍛治さんを負けさせろみたいな空気はあったんですか?」
「・・・・分からない。ただ、今ほどクラス編成に偏りはなかったと思う。1つのクラスにトップ3集結なんてことはなかったし」

当時、小鍛治健夜を負けさせろというような指示が出ていたのかどうか、私には分からない
常に勝つなんてのは、小鍛治さんをもってしても難しい、というだけのことかもしれないし
何を考えても、想像の域から出るものではない

「ただ、もし宮永照さんがこのクラス対抗戦という鬼門を超えることができるのなら、前人未到の9冠はもう誰にも止められないと思う」
「小鍛治さんは8冠だったってことですよね、他に8冠とかそれに近い人っていたんですか?」
「私が知る限りでは、戒能さんが6冠、愛宕先生と校長先生が7冠だったかな? 全員3年のクラス対抗戦は負けてたはずだよ」
「なにか、ジンクスみたいなものなんでしょうか?」

歴代の強者でも越えられなかった、3年のクラス対抗戦
じゃあ今回、宮永照は勝てないということなんだろうか・・・・

でも、その方がいいのかもしれない
3-1が負けてくれれば、3-1を負けさせろという理事長通達に逆らっている咏さんもお咎めはないかもしれない・・・

「ジンクスか、そうかもね。でもだからこそ、宮永さんにはそれを乗り越えてほしいよ」

小鍛治さんが学校をやめた理由を、私は知らない

それでも学校を辞めてからも個人的に連絡はとっていた。私なら口が固いだろうということで、ときどき学校の様子などを尋ねられていたから
そこまで信用してくれているのだから、このことは福与さんにも咏さんにも言っていない

そして私が今回の理事長通達について相談したとき、小鍛治さんは静かにこう言った

『あなたは逆らっちゃダメだよ。私みたいになるから』

意味を問うても、それ以上は答えてくれなかった

『もし宮永さんが決勝まで進んだら教えて。直接、見たいから・・・』

そうして今、ここにいる

モニターは、大将戦の生徒たちが戻ってくるのを映し出していた
あと、半荘を残すだけ。それで決着がつく

最後に笑っているのは、誰なのだろう・・・・

839: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/15(土) 06:50:00.03 ID:5NYEjkYY0
-side 豊音-

-クラス対抗戦決勝戦
-大将戦後半戦


東 大星淡(1-5)  131700
南 姉帯豊音(3-1) 115800
西 天江衣(2-10) 126100
北 石戸霞(3-2)   26400


-東1局
-親 大星淡
-ドラ 7ソウ

よーし、あと半荘だけだけど、頑張るよー

豊音 手牌:一一⑥112334578白

淡 打:9

「チー」

豊音 打:⑥

染めて友引で十分の手だねっ
さっきの前半の感じだと大星さんは、東場は様子見っぽいからガンガン鳴かせてもらえそうだよー

「あらあら・・・・」

そして石戸さんのツモ番になった時だった
石戸さんの、口癖自体は同じだったけど、その響きは全く違った

思わず身震いして石戸さんを見る
まるで光の竜巻が石戸さんを中心に暴れだしているように見えた

錯覚?
でも、確かに・・・

「へー、やっと本気出すんだ」
「それでなくてはな」

大星さんと天江さんは余裕でそれを見ていたけれど、私はあまりに急変してしまった石戸さんに驚いてしまう
今までは優しい眼差しだったのに、今となってはその眼光は獲物を射殺すくらいに鋭い・・・

これが、強制絶一門・・・

「ツモ、北混一ドラ1。3000、6000、お願いしますね」
「ちぇー、親っかぶりー」

霞 手牌:二三四五(赤)六八八九九九北北北 ツモ:七

きれいに染まってる・・・すごいよー

話は聞いてるけど、石戸さんは自分では解除できないらしいから、もうずっとこの状態が続くってことか
でも頑張るよっ。絶対に負けられないから

840: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/15(土) 06:50:38.39 ID:5NYEjkYY0
-side 淡-

-東2局
-親 姉帯豊音
-ドラ ③ピン

へー、これがハルエが言ってた、絶一門ってやつか

淡 手牌:一一二七八③④⑤⑥⑦北北白 ツモ:⑧

うーん、これめんどくさいなぁ。1種類来なくなるから、二向聴に構えるのが難しいなぁ。これ白とか切っちゃうと一向聴になっちゃう
私の能力は、テンパイ機会を得ると様子見とカウントされなくなちゃう

たとえばこの手で白を切ったとして、

手牌:一一二七八③④⑤⑥⑦⑧北北

この状態になったとする。そこにたとえば一萬を持ってきたとする

手牌:一一一二七八③④⑤⑥⑦⑧北北

ここで二萬を切れば、六-九待ちでテンパイする
他の牌を切ればテンパイしないけど、それはダメ

何かを切ったらテンパイできた、という状態がダメということ(この場合なら、二萬切りテンパイ)

あと、テンパイ機会はツモだけに限らない
自風が北だから、誰かが北を捨てたら「北を鳴いて二萬を捨てたらテンパイだった」ということになるからこれもダメ

だから二向聴以下に保っておかないといけない
結構めんどくさいのよね・・・・

とりあえず両面崩してくか

打:八

「チー」

げ、トヨネに鳴かれた
特に支援する気はなかったんだけど、しょうがないか・・・・

でもこれでツモ番がずれて、カスミのツモがこっちに来るのか
ハルエが言っていたっけ、カスミの絶一門は鳴けばずれるって。とりあえず今はむしろ向聴数落としたいくらいだからいいけど、南場になったときに面倒だなぁ・・・

でも次の私のツモは、②ピンだった・・・

「あっれー、ソウズが来るんじゃないの?」

現にカスミの河にはソウズと字牌しか捨てられていない
これって、カスミは今ソウズを集めてるってことでしょ? なのになんでカスミのツモが来たのにソウズが来ないの?

「ふふふ、いつまでも弱点をそのままにしておくわけないでしょう?」

カスミはそう言って微笑む
なーる、じゃあ鳴いても鳴かなくてもソウズはカスミに集まるってことか
あのドラローさんに鳴いても鳴かなくてもドラが集まるのと同じってことかな

でも、その弱点の克服はこっちにとっても都合はいい
鳴いてもツモがずれないなら、気にせずにどんどん鳴けるってことだからね

「ツモ。4000、8000です」

そうこうしている内にカスミに上がられた
まったく、様子見の途中であんまり高い手をどんどん上がられてもいい気分じゃないなぁ・・・

トヨネの親は終わったし、トヨネが鳴きやすいように支援しよっと

841: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/15(土) 06:51:25.14 ID:5NYEjkYY0
-side 菫-

-東4局
-親 石戸霞
-ドラ 9ソウ

随分と久しぶりに自分のクラスに戻ってきた気分になる
石戸を励ましてきたあと、3人で教室に戻ってきた

「石戸が弱点を克服したと言うが、流石にすぐ対応してくるな」

東3局は天江衣が跳満をツモ。そして次の1本場は、

『ぼっちじゃないよー』

すでに4副露となった姉帯が1400、2700のツモ和了
まあこれは天江の親が続くのを嫌った淡が強引に姉帯を鳴かせにかかったというのもあるだろうが

鳴けばずれるというのは、確かに石戸にとっては弱点だっただろう
けれど、鳴くとずれて自分に不利益になる可能性があれば、他家も鳴きにくいという抑制効果もあるにはあった

石戸が邪魔されずに和了に向かえる代わりに、他の面子も鳴きによるデメリットが無くなったと言える
一長一短といったところか・・・・

「この親で、できるだけ稼ぎたいですね・・・」
「せやな、振り込んでも字牌だけやし、ガンガン攻めてかんとな」

霞 配牌:一一二二三三四五五五六七九南

南切りで待ちこそ八萬だけだが、配牌ですでにテンパイか・・・

「振り込むことも少ないが、逆に直撃も狙いにくいというのもなかなか厳しいかもしれないな」

ツモで全体を等しく削るのと、トップ目を狙って直撃をするのとどちらがいいのか・・・

「弘世さんがこの状況だったら、字牌を残して直撃を狙いたくなりますか?」
「流石にこれは清一優先だろうけどな・・・」

つい直撃を優先して考えてしまうのは、私のクセみたいなものか

『リーチ』

モニターから、リーチ宣言。ダブルリーチだ。ツモしかありえないから、確定三倍満だな
どうせ鳴かれてもずらされることもないなら、じっくりツモを狙えばいいだけか

『むー、こういうときに鳴いてずらせないのが困るのかー』

淡がもどかしそうにしている。まだ様子見をしているのだろう

具体的にどういう理屈で配牌でのテンパイを持ってくるのか分からないが、頑なに一向聴にすらとらないところを見ると、爆発するまではテンパイをしてはいけないとか、そういう感じなのかもしれない
そのへんのことはまた部活の中で聞いたらいい

ここであれこれ考えても、今は石戸には届かない

『ツモ、12000オールです』
「おっしゃ、きたで!」

王牌までは支配が行き届かないからドラには期待できないが、それでも十分な手だ

続く1本場
仮テンの混一のみだったが、淡からの直撃に成功する

『字牌で直とか忘れてたよー。ま、混一のみならいっか』

それでも相変わらずの余裕っぷりだ
2本場は淡がどんどん鳴かせて姉帯が友引で2200、4200のツモ和了だった

「親が流されたか」
「ラス親あるし、そこで期待やな」
「そうですね、まだまだ行けますよ」

当初10万点以上あった点差が、今は33400点にまで縮まった
この面子相手にここまでできるのか・・・

だが、次は淡の親番。おそらく親で稼ぎたいだろうから、配牌からテンパイしてくるはず

この淡の親が正念場だぞ、石戸・・・

842: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/15(土) 06:53:06.65 ID:5NYEjkYY0
-side 淡-

-南1局
-親 大星淡
-ドラ 東


後半戦東場終了時点

大星淡(1-5)   92100
姉帯豊音(3-1) 100900
天江衣(2-10) 120200
石戸霞(3-2)   86800


さって、じゃあ爆発しちゃうよ

淡 配牌:13④⑤⑥西白白白発発発中中

ストックは12飜。小三元で4飜だから、残り8飜
さっきと比べると少ないけど、この小三元を大三元、最低でも混一を絡めて上がれば十分

ラス親ならもっとストックできたんだけど、こればっかりはしょうがない
それに、テルだって立ち親を捨てても十分強いんだから、私だってそのくらいできるっ

――あんまり字牌圧縮すると、石戸霞の清一が早まるぞ

そうハルエには言われたけどね

カスミは字牌もツモってる
でも私がこうやって三元牌を集めるとそれだけ字牌ツモが減り、清一の手の進みが早くなる

でもさ、それより早く上がっちゃえばいいんだよ!
それにさ、カスミが中を掴んだとして、清一目指すんだったら切っちゃうでしょ? 切らないで抱えてくれたって問題ないしさ

霞 打:中

ほら、切った

「ポン」

淡 手牌:④⑤⑥西白白白発発発 中-中中

さっきの字牌直撃、やり返してあげるよ

843: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/15(土) 06:54:37.80 ID:5NYEjkYY0
-side 憩-

うーん、ちょっと衣ちゃんは旗色悪いかもしれへん・・・

「大星さん、すごいですね・・・」

小蒔ちゃんが驚くけど、なんやちょっと眠そうやな
眠ったら強くなるってこと自体はええけど、ところ構わず眠くなったりすると日常生活とか大丈夫なんやろかと思ってまうな

「衣ちゃん、思うように手が伸びてないね・・・」
「一向聴地獄が使えへんからな、片肺飛行でちょっと辛いな」
「え、どうして使えないの?」

まあ私も、初めはどうして使わないんやろうかと思ったんやけど・・・

「石戸霞は、たとえば今やったら萬子しかツモらへん。字牌もツモるとはいえ、萬子と字牌だけの相手にいつまでも一向聴なんてありえへん」

萬子36牌、字牌は平均で7牌くらいツモったとして、ツモる可能性がある牌は43牌程度
1局の間で使えるのは配牌で13牌とツモでおよそ17牌で合計30牌

これだけ種類が限定されていればよほどへません限りテンパイに至るし、ツモもできるだろう

「衣ちゃんが海底にたどり着く前に、石戸霞が先に和了してしまう。それを衣ちゃんは分かっとるから、一向聴地獄のときはそうならんように力を抑えとるんや」

まだリードはある
辛抱するところはぐっとこらえて、高打点のときに一気に稼ぐしかあらへん

「なあ、タオルとかあらへん?」

漫ちゃんが、おでこを腕で隠しながら顔を上げた

もう、隠さんでもええのになぁ・・・

「タオル? どうして?」
「小蒔ちゃんにかけてあげて。もう寝よる」

ふと見ると、すでに小蒔ちゃんは机に突っ伏していた

「おまかせあれ」

玄ちゃんは、タオルやなくて大きなひざ掛けを持ってきて小蒔ちゃんにかけてあげた

『大星淡、大三元をツモだー!』
『これでまた逆転だね☆』

モニターでは、大星淡が西をツモってきたところだった

「これ、ずっと配牌テンパイが続くんか?」
「流石に限度はある、と思いたいけどなぁ・・・・」

漫ちゃんの疑問は、1-5以外の他のクラスも、いや、この試合を見ている人全員が思っていることだろう
南場の親からずっとテンパイとかやったら、さすがにもう勝機が見えへんし

844: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/15(土) 06:55:55.72 ID:5NYEjkYY0
-side 咲-

-南1局1本場
-親 大星淡
-ドラ ④ピン

「・・・・まったく、ほんとに偶然ばかり起こりますね」

和ちゃんは意地でも淡ちゃんの力を認めないつもりんだろうか

「それにさっきから偶然の偏りが酷いですね。あの3年の方はずっと同じ色しかツモりませんし」

東場の間ずっと、和ちゃんの言うところの偏りが続いている
石戸霞さんの強制絶一門によって

鳴けばずれるはずだったのにそれも無くなったことで、石戸霞さんはずっと同じ色の牌をツモり続けている

「そろそろ別の理由を考えた方がいいかもしれません・・・」

そう言っている間に、配牌が終わろうとしていた

「え?」
「どうして・・・」

穏乃ちゃんと憧ちゃんが驚きの声を上げた

淡 配牌:二三七九③③⑤⑦257南北中

え、なにこれ?
テンパイしてないし、それに絶一門でもない

モニターの向こうの淡ちゃんも呆然としていた

「これが正常です。何を驚いているんですか?」

和ちゃんはそう言うけど・・・
だって、淡ちゃんのストックはまだ8飜あるはずだし、それに石戸さんだって自分の意志では解除できないって先生は言ってたのに

赤土先生を見ると、先生も驚きを隠せてはいなかった

「なんだこれ。全員が、それこそ和の言う正常な配牌だな・・・・」
「何が正常で何が異常なのか、なんだかごちゃごちゃしてきちゃいます」

普通の配牌が異常と感じるほど、確かにこの局の東場は偏っていた
だから急に普通の配牌になっていることに対応できていないのかもしれない

いったい、何が起きているんだろう

モニターの向こうで、ただ一人冷静さを保っていたのは
お姉ちゃんのクラスの、姉帯さんだけだった

845: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/15(土) 06:57:29.94 ID:5NYEjkYY0
-side 衣-

なんだ、これは・・・・

衣 配牌:五七④⑥⑧24789南発中

いくら衣が海底支配を意図的に緩めているとはいえ、こんな酷い配牌にはならないぞ
それに、あの石戸霞の絶一門が終わっている?

「ちょっと、なんなのよこれ!」

対面の大星が憤る
・・・同じことが起こっているのか?

石戸は確か、自分の意志では絶一門は解除できないはず
これは小蒔から今朝聞いたこと。鳴いてもずらせないということも含めて聞いていたから、今この状態を作ったのは石戸ではない

だとしたら、残るは・・・・

「仏滅、だよ」

ニヤリと笑うのは、姉帯だった

仏滅? 六曜の1つだが、それが今なんだというのだ?

「私も含めて全員、牌に支配力は行使できないよー」

・・・冬の個人戦が不意に脳裏をよぎった

石戸霞、辻垣内智葉、そして臼沢塞
臼沢が睨んできたとき、確かに力が抑えられるような感覚はあった

でもこれは、今の状況は違う

上から抑えるというよりは、卓に支配力が届かない。どこかに反らされてしまっている・・・
目の前にあるのに、卓が遥か悠遠な場所に感じてしまう

そして普段なら感じるはずの相手の手の大きさ、テンパイか否か、それも見えない
海底が何であるかも、まったく分からない・・・

まるで月明かりもなく樹海を彷徨い歩いているかのようだ

「残り半分、ここからは普通の麻雀しよー」

姉帯は無邪気に微笑んでいるつもりなのだろうが、私には身を竦ませる効果しかなかった

これが、普通だと・・・
力を持たぬ有象無象どもは、こんな暗闇の中で麻雀を打っているとでも言うのか?

「まったく、とんだ隠し玉ね。でも、いいのかしら?」

石戸が首をかしげる
その視線の先には、大星

「やっぱ面白いよ、トヨネ。でも、ちょっと遅かったんじゃないかなー。私が大三元上がる前に、これをしておけばよかったのに」

あの大三元で、大星がトップに立った
かなりの差が出来てしまったが、それをこの暗闇の中で逆転できるつもりでいるのか?

まだ、リーチや裸単騎での上がりに賭けたほうが勝算があるだろう
姉帯は、それでも微笑んだままだった

「ふふ、確かにそうかもね。でも、そうじゃないかもしれない。今はこれが正しいって信じるよ」

そう言って、力強く打牌する

衣の心は、孤独に、そして深淵に飲み込まれようとしていた
支配していたはずの海を、漂流するかのように・・・・

846: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/15(土) 06:59:18.20 ID:5NYEjkYY0
-side 照-

仏滅がようやく発動できたか・・・

「照ちゃん、これどうなってるの?」

髪をといてくれる宥の声

「六曜の1つ、仏滅。全員が牌になんらかの影響力を与えたときに、それをすべて打ち消すことができる。ただし、豊音自身も、友引とか全部使えなくなるけどね」
「マジでか、じゃあ私の未来視とかも封じられるんか?」

私の横で、結局末原さんの膝枕を堪能している怜
末原さんはすごく不機嫌そうだったけど、いつまでも怜がごねるので5分だけと折れた

「いや、怜は無理。未来を見るのと、影響力を与えるのは違うから。宥みたいに赤い牌を集めるとか、牌を自分の有利に動かそうとする力に対して打ち消すことができる」
「なるほどな、魔物対策の切り札って感じなんやな」
「そうだね。でもあれ、誰か1人でも普通の人がいたら発動できない」
「全員が支配力を持っているときだけ、ってことか」

塞のように、上から抑えるようか感じではなく、横へそらすイメージ

豊音の力が天江さんへ、天江さんの力が石戸さんへ、石戸さんの力が淡へ、淡の力が豊音へ

そんな感じでループして、渦巻きのようにぐるぐると卓の回りをただ回るだけ
卓には、力が届かない

塞のように特定の誰かだけ手を抑えるということはできないけれど、塞ぐことによる塞の負担が大きい
でも、豊音の場合は全員の力を反らしてしまえば、あとはぐるぐる回るだけなので負担は軽い

試したことはまだないけれど、おそらく私も仏滅の前には普通の麻雀を強いられるだろう

支配力勝負では、豊音は火力がない分押し負けてしまう可能性が高い
だったら、普通に運に任せた方が、まだ勝機はある

運に任せるには淡との点差はまだあるけれど、それでも・・・

847: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/15(土) 06:59:59.66 ID:5NYEjkYY0
-side 淡-

「リーチ」

ほんと面白いね、トヨネ
でも残念、そこの小さな魔物さんは普段から支配力を振りかざしているから大変なんだろうけど、私は普通に打とうと思えば打てる

私の能力はビックバンだけじゃないからね
ストックを使い果たしてしまってまだ何局か残っているときは、絶対安全圏って手もあるんだから

相手を強制的に5向聴以下にして、自分は軽い手で逃げ切る
でもそのときは、私に特別いいツモが来るわけじゃない。それこそ、普通の麻雀して逃げ切っている

だから今はストックが切れたと思えばいい
8飜も使えなかったのはもったいないけどさ・・・

トヨネがツモって、リーチ棒を取り出した

「追っかけるけどー」
「通るけどー。って、なんで追いかけてくるのよ」

牌を横にしたけど、さっき自分も能力使えないって言ってたじゃない
ウソツキー!

一発目のツモは、自分の当たり牌じゃなかった
もう、これで振るんでしょ・・・

「振り込むけどー」
「通るけどー」
「って、通るのっ」
「通るよー。だから私も先負は使えないって言ったのにー」

もう、ややっこしいのよ
だったら1巡待ってから追いかけなさいよー

結局リーチの捲りあいは、トヨネが制した

「結局振り込んだー」
「まだまだ、ガンガン行くよー」

848: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/15(土) 07:01:14.75 ID:5NYEjkYY0
-side 霞-

-南3局
-親 天江衣
-ドラ 8ソウ

あらあら、これは困ったわね
絶一門状態ならなんとか逆転できると思っていたのだけれど・・・

どこかで仏滅という能力を使おうとしていた姉帯さんが、この場で一番冷静でいられたのは当然のことかもしれない
南2局で安いながらも連荘し、大星さんとの差を詰めていく

なんとか、のみ手で姉帯さんの親は流せたけれど・・・
ラス親が残っているとは言え、まともにやっていては逆転できる状況ではない

「ツモだよー。1300、2600」

また姉帯さんの和了

南4局、これが最後・・・
トップとの差は5万点近く

小蒔ちゃん・・・・

「出させてもらうわよ、全力以上・・・」

不本意ではあるけれど
できるだけ使いたくなかったけれど

これは約束だから

勝つために全力を、全力以上を出すと

まず仏滅を越えられるかどうか、それが第一関門
私は全神経を研ぎ澄ます

私の力も含めて、この卓を囲むように渦を巻いているのが分かる
ふふ、それでみんな支配を行使できないのね・・・

でも、渦を巻いているということは、その中心には台風と同じで目がある
だからその目を通れば、仏滅だろうが関係なく卓に舞い降りることができる

――裏九面

小蒔ちゃんに何かがあった時のために、血筋の近い私は九面を一時的に降ろすことができる

でも時間は限られている。もって3局
それに小蒔ちゃんにも負担がかかる
だから極力使う事態は避けたかった・・・・

でも、小蒔ちゃん自身がそう願うから
そして、クラスのためにも・・・

ここは、使わせてもらうわよ

私自身には降ろさず、卓に直接降りてもらう

一筋の光が、卓に突き刺さる
なんとか成功したようね。あとは、私が頑張るだけ・・・


-南4局
-親 石戸霞
-ドラ 1ソウ

霞 配牌:①③③③④④④⑤⑥⑦⑧⑨⑨⑨



クラス対抗戦
大将戦後半戦オーラス

大星淡(1-5)  119400
姉帯豊音(3-1) 111700
天江衣(2-10)  98600
石戸霞(3-2)   70300

853: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/17(月) 02:30:50.48 ID:tsd/vnvz0
-side 衣-

-4月

「はぁ、また別のクラスですのね」

クラス替えの名簿が貼り出されるのを、透華、一、純、智紀の5人で見上げていた
中学の時からずっといっしょにいて、5人で一緒にいるためにキャッチボール部まで作った友達

1年のときは智紀が同じクラスだったけれど、その智紀とも分かれてしまった
智紀は2-6だった

(2年10組)
天江衣
荒川憩



去年同じクラスだった憩と同じことだけが、救いか・・・

「ま、20クラスもあるんだから同じになる方がラッキーだろ。クラスは隣だから、何かあったら言えよ、衣」

純はまた一人、2-11
そして去年は別々だった透華と一は2-1で、今年は同じクラスだった

「じゃあボク達はラッキーってことだね、透華」
「そうですわね。でも、衣とも一緒になりたかったですわ」

少し悔しそうにする透華

「あ、衣ちゃんや。今年も同じクラスなんやね」

ひょっこりと現れたのは、憩だった。衣のすぐ下に憩の名前があるから、すぐに分かったのだろう

「智ちゃんとは別か、残念やなぁ」
「衣をよろしく・・・・」

小さくこくりと頭を下げる智紀

「む、そんなよろしくされるほど衣は子供じゃないぞ」
「そんなに気にせんでも、どんどんよろしくしたげるって」

そう言って、憩は衣の頭をなでた

「むう、だから子供扱いするなー」
「あはは、何回見てもこの反応はおもろいわぁ」

みんなと離れしまうのは寂しいけれど、憩がいてくれれば今年一年も退屈することはないだろうな
衣と対等に打てる、数少ない友達だから

854: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/17(月) 02:31:46.52 ID:tsd/vnvz0
-2年10組 教室

憩は顔が広い
誰とでもすぐに仲良くなれるし、羨ましい限りだ
すでに友達という何人かを紹介してもらった

まず、大阪つながりで知り合いという、絹恵と漫

「衣ちゃん、こっちが愛宕絹恵ちゃん。愛宕先生の娘さんで、あと3年の愛宕洋榎さんの妹なんよ」
「よろしゅうしたってや、衣ちゃん」
「で、こっちが上重漫ちゃん。可愛いおでこは伝言板やから、何か伝言があったらここに書いたってな」
「ちょ、なんでいきなり嘘教えるねん!」
「だって、洋榎さんがそう言うとったよ?」
「部長ぉぉぉ!!」

ふふ、なかなか楽しそうなやつらだな

そして、煌と玄
あの宮永照との戦いが注目されて自分より目立っていると透華が悔しがっていたので、名前だけは聞いたことがあった

「こっちが松実玄ちゃんやよ」
「よろしくね、衣ちゃん」
「それでこちらが、すばらちゃん」
「すばらです。って、私の名前は花田煌ですよ、憩ちゃん!」

そして、神代小蒔
憩と同じく、衣と対等に打てるらしい

「神代小蒔ちゃん。寝とるとすごい強いんよ」
「寝ると強い? だったら衣と同じだな。衣は満月の夜が一番強いぞ」
「そうなんですね、よろしくお願いします」


それから、クラスで練習もした

小蒔は、起きているときは弱かったけれど、寝ると衣の支配をあっさりと超えてくる
それに、玄と一緒に打つとドラが入ってこない
煌を飛ばすことは、何度打ってもできなかった

衣の支配など、誰もがひれ伏せるほど完璧ではないなんて、分かっていたことなのに・・・



-南4局
-親 石戸霞
-ドラ 九萬

霞 打:①
淡 打:北
豊音 打:北

衣 配牌:①①①②②②⑤(赤)⑤(赤)⑥⑥⑦⑦⑨ ツモ:③

これは・・・

トップの大星までは、20800点差
この手なら、ダマでも倍満。だがこれでは直撃でなければ逆転できない

だが、リーチをかければ三倍満になり、出上がりでも逆転できる

⑨切りで、①②③④の4面張。だが①は既に切られているから、実質は3面張か
迷うことはない

かすかに手が震える

今は力が卓に届いていないのは分かっている
それでも、なぜだ・・・

なぜ、こんなにも牌が重いんだ
まるで、切ってはいけないみたいじゃないか・・・

でも逆転するには、これを切るしかない

「リーチ!」

855: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/17(月) 02:32:29.37 ID:tsd/vnvz0
-side 憩-

・・・・なんやの、これ
こんなの、ありえへん・・・


霞 配牌:①③③③④④④⑤⑥⑦⑧⑨⑨⑨

淡 配牌:124689東南西北白発中

豊音 配牌:一三四五七九東南西北白発中

衣 配牌:①①①②②②⑤(赤)⑤(赤)⑥⑥⑦⑦⑨


「どういうことなの?」

玄ちゃんの声も震えていた

石戸さんと、衣ちゃんでピンズを持ち合っている
そして大星さんと姉帯さんは、それぞれソウズとマンズを持つ形になっている

「今は誰の支配も受けんのとちゃうの?」
「その、はずなんやけど・・・」

漫ちゃんの疑問に、私は答える術がない
もし答えられるとしたら、今寝とる小蒔ちゃんくらいや・・・

衣ちゃんのツモは、③ピン
そもそも、配牌段階での上がり目である⑨ピンは石戸さんが全部持ってるから上がる見込みはなかったけど

「アカン、石戸霞の待ちは③から⑨までの7面張や」

霞 手牌:③③③④④④⑤⑥⑦⑧⑨⑨⑨

配牌から①切りして、今はこの形
衣ちゃんがテンパイを維持するなら、③をツモ切りか、⑨を切るしかない

でも、それはどっちも当たり牌なんや
それをかわすなら、①か②を切るしかあらへんけど、見えてない衣ちゃんにそんな選択無理や・・・

っていうか私だってあの手あの状況なら、⑨しか切るのはあらへん・・・

「衣ちゃん・・・」

玄ちゃんも、

「衣ちゃん、それ切ったらあかんて」

そして漫ちゃんも・・・
みんなの願いは通じへんけど

それでも、衣ちゃんの選択は、逆転しようって気持ちは間違ってないからな
それだけは、胸張ってええからな・・・

『ロン』

モニターの向こうで、無慈悲に石戸霞の牌が倒れた

856: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/17(月) 02:34:17.40 ID:tsd/vnvz0
-side 竜華-

なんやこれ・・・

石戸さんの手牌もなかなかありえへんけど、問題は他の3人のツモや
大星さんも、姉帯さんも、そして天江さんも、自分の持っている色の牌をツモってきてた

絶一門どころの騒ぎやない

全員が一色を独占しとる
けど姉帯さんと大星さんは字牌をバラバラと持っているのに対して、石戸さんと天江さんは字牌は一枚も入ってない

「これは、タイマンの殴り合いだな」

弘世さんが呟く

タイマン、確かにそうかもしれん

「もし、天江さんと石戸さんしかピンズをツモらないとしたら、山に残るのは8牌。4巡までに決着がつくってことですか」
「石戸の絶一門を強化した、ということなのかもしれない。推論に過ぎないが・・・」

姉帯さんと大星さんは字牌がバラバラなせいもあって5向聴
仮に5巡同じ色しかこなかったとしても、その間は何もできない

そしてピンズを持ち合う石戸さんと天江さんの殴り合いは、4巡までに決着がつく
5向聴の2人は追いつけない

まったく、一番の隠し球持っとるのは石戸さんやったってわけか

「今のが偶然か否か、次の局で分かるのかもしれないな」



南4局1本場

霞 配牌:一一三三四五五五七七八八九九

淡 配牌:二二二二三四四五(赤)六六六八九

豊音 配牌:①②⑤⑤⑦⑨東南西北白発中

衣 配牌:234688東南西北白発中



クラス対抗戦
大将戦後半戦南4局1本場

大星淡(1-5)  119400
姉帯豊音(3-1) 111700
天江衣(2-10)  80600
石戸霞(3-2)   88300

865: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/28(金) 00:30:59.42 ID:jdFiJ7Vh0
-side 淡-

-南4局1本場
-親 石戸霞
-ドラ 1ソウ

淡 配牌:二二二二三四四五(赤)六六六八九

・・・・すごい配牌きたけどさ
七萬待ちの清一テンパイ

霞 打:三

私の支配はまだ卓には届いていない
それに前の局、小さな魔物さんがあっさり振り込んだ

その時も、カスミを同じ色を切ってリーチしてた
そして今回も、私と同じ色をカスミが切る

まさか、ね・・

「ねえトヨネ、あなたが持ってる字牌、当ててあげようか?」

揺さぶりが簡単そうなトヨネに聞いてみるか

「え?」
「ふふ、東南西北白発中、1枚ずつ」
「ええええ!?」

ほーら、簡単に動揺した
これでトヨネは白。この異常を起こした本人じゃないって分かる

「な、なんで!? 仏滅が破られた」
「んー、仏滅は継続中だよ」

そしてコロモがさっき振り込んだ以上、こんなおかしなことをしているのは

「ね、カスミ。面白いことしてくれるね?」
「あら、なんのことかしら?」

ふふん、すっとぼけたって無駄だからねっ

「カスミ、今この場を支配しているのは、あなたでしょ?」
「よく分からないけれど、早くツモってくれないかしら?」

まだすっとぼけるなら、こっちにも考えがあるからね

「ツモらないよ。チー!」

打:九

淡 手牌:二二二三四五(赤)六六六八 三-二四

これで振り込んだらカッコ悪いけど、どうやら通ったみたい
まあ、私が振り込むなんてありえないけどさ!

「でもどうせズレないんでしょ?」

これがカスミの支配ってなら、前と同じで鳴いてもマンズしか来ないはず

豊音 打:北

衣 打:北

「ううっ、さっきと同じだよー」

トヨネの声が少し震えている
でも大丈夫、私が勝って終わりだからさ

霞 打:六

「それポン!」

打:八

淡 手牌:二二二三四五(赤)六 三-二四 六-六六

これで、一-四-七 三-六の5面張。まあ、六萬は使い切っちゃてるけど
マンズしかツモらないってなら、これが正解でしょ

866: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/28(金) 00:34:46.61 ID:jdFiJ7Vh0
でも、次巡・・・

霞 打:五

淡 ツモ:八

うっ、鳴かなかったら上がれてた?
いや、鳴いたからマンズが来る順番は、ずれているはず・・・・

だからこれは鳴かなかったらカスミに行っていたはずだよ

うんうん、私が裏目るとか、ナイナイ

相変わらず微笑んだままのカスミ。ほんと、2つ上とは思えないくらい落ち着いてるよね

「ねえカスミ。そろそろ白状しなよ?」
「あら、別に。私は何もしてないわよ?」
「ふーん、まあいいけどさ・・・」

トヨネとコロモはまだ字牌整理中
さっきの私もそうだったけど、今の2人は染まっているけど字牌がバラバラで手が遠いっていう、なんだかなって状態のはず

霞 打:五

ふーん、カスミは五萬を2枚落としか
こっちの待ちが分かってるみたいに上手くすり抜けてくる

ああ、ハルエも言ってたっけ。カスミは滅多に放銃しないって
まあ、放銃しないなら、こっちがツモっちゃえばいいんだしね!

淡 ツモ:九

うえっ・・・
これどうしようかな

最初に私は九萬切っちゃってるから、これを持ってるってことはフリテンになっちゃうし

カスミが捨ててる順番は、

霞:三六五五

だから、九は通ってない
私が今まで切ってきたのは、九八八だけど、カスミの五五の2枚は手出しだったから、今度も九が通るとは限らない

回す?

いやいや、いまさらこんなの回すとかないでしょ?
こんなの回したら、もうオリ同然だよ

でも、なんか掴んじゃった気がするんだよね・・・

ねぇ、ノドカ・・・・

デジタルだったら、答えはちゃんと出るの?
振り込んでも期待値や効率的にしょうがないって割り切れるの?

多分ここで降りたら、もう次はないと思うんだよね・・・

さっきはコロモ、今は私がカスミと殴り合いになってる
だったら、次はトヨネの順番

さっきみたいなバラバラ配牌が来たら、もう上がることはできない

「行くしか、ないよ・・・」

クラスのみんなが、私が勝って帰ってくるのを待ってる・・・

こんなところで、退けるわけがない!

867: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/28(金) 00:38:23.35 ID:jdFiJ7Vh0
-side 和-

「さっきから何ですか、この異常な偏りは!」

オーラスに入ってからの配牌はすべて異常だった
いくら偶然が重なっても、ここまで完全に全員の手が染まるなんて、どれだけの天文学的確率だというのだろう

「どうして、誰の支配も届かないんじゃないの?」
「完全に石戸霞のペース・・・・どうすんのよ、これ」

咲さんも、憧も・・・

「淡、頑張れっ」
「まったく、最後の最後でこれか・・・」

穏乃も、そして赤土先生も・・・

みんな、固唾を飲んで見守っている
淡さんの勝利を信じて

淡さんが2鳴きして、絶好の多面張にする
これなら早々にツモれる

しかし、持ってきたのは、九萬

「最悪・・・・」
「淡ちゃん・・・」

憧と咲さんの呟きが重なる

霞 手牌:一一一三四五七七七八八九九

石戸さんも淡さんの上がり牌である七萬を持ってきて、五萬落としで回し、今は八九萬待ちになっていた
八萬はもうカラだから、現状ではこれが石戸さんの唯一の上がり牌

でも淡さんも、九萬を切らなければ完全に上がり目がなくなってしまう

「淡さん・・・」

分かってます。普通ならそんな九萬、ノータイムでツモ切りです


でもオカルトなら、止められるんじゃないんですか?


相手の待ちが分かったって意味の分からないことを言って・・・・
次のツモが分かったって意味の分からないことを言って・・・・

私には理解できない方法で、こんなピンチでも平然と和了してしまうんではないのですか?

振込さえしなければ、次の局にまだチャンスがあるかもしれない・・
だから、思いとどまってください

『行くしか、ないよ・・・』

淡さんが九萬を掴むのを呆然と見守ることしか、私にはできなかった

868: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/28(金) 00:40:59.85 ID:jdFiJ7Vh0
-side 智葉-

「大星淡、九萬で振り込んでしまったー!」
「これは降りれないし、しょうがないね☆」

オーラスに入ってから、異常な状況が2局続いている

いろんなオカルトに接してきた
その度対策を練ってきた

しかし、これはなんだ・・・
どうしてこんなことが起こる・・・

「どう智葉ちゃん、なんか心当たりある?」

福与先生が話を振ってくるが、心当たりなどはない
それでも何かしらで話はつながなければならない

まったく、解説というのもなかなか大変なものだな

「この2局、まるで石戸霞が対戦相手を選んでいるようですね」
「と言うと?」
「石戸は2局とも字牌もなく手が染まっています。そして前局は天江、今回は大星が振り込みました。それ以外の相手は、手が染まっているものの石戸とは別の色で字牌もあり、バラバラです」

字牌が7種7牌ではどうしようもない
かつ、他の数牌は他に独占されているから国士にも向かえない

「ですから数巡の間は、その場にいながら観客としてみているしかない状況です」
「うーん、確かに石戸さんの絶一門に通じるものがあるかもね☆」

だが、これはネタさえ割れば諸刃の剣だ・・・

「天江に対しては奇襲が成功しましたが、それを見た大星に対しては紙一重でした。対戦相手に必ず振り込ませるまでの強制力はないと思われますね」

残るは姉帯豊音、ただ一人
石戸霞が上がれば、鳴き清一でも満貫あるから逆転。3-2の勝利で決着がつく

ただ、山に残る一色牌は5巡で尽きる
なら、その5巡で勝負がつかなかったら?

そのときは、傍観者だった周りの2人が息を吹き返す
ただ少なくともその5巡で、決着がつく公算が高いのだろうが

当初の予想とは全く逆になってしまったな・・・

だが、それが麻雀か・・・


「さあ、この局で決着はつくのか、南4局2本場、開局だ!」

869: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/28(金) 00:42:48.89 ID:jdFiJ7Vh0
-side 霞-

残り1局・・・

「姉帯さん」

もう、ネタはバレているだろう
1人ずつ一色麻雀を仕掛けているのが、私だということくらい

「何かなー?」

複雑な表情を浮かべる姉帯さん

このまま、2局続いたままのバラバラの手牌だったらどうしようという不安と・・・
次は自分の番だろうという、覚悟と・・・

「あえて、あなたを最後にしました」
「・・・タイマン勝負の対戦相手に、かな?」

私はゆっくりとうなづく

「本当のところ、最後の最後になるまでまとまりのなかった私たちのクラスが勝つなんて、今でもどうかと思う部分はあるの」

姉帯さんは口を挟まず、黙って聞いている

「私はひねくれているから、逆に3-1が勝ったらいいのになんて思っていた」

それは変えられない事実
そして、悲しい過去

けれど、今は・・・・

「でも、こんな私でも、背中を押してくれる人はいた」

最後の最後で、ようやくクラスがまとまった
それは私が捨て鉢になってしまったからなのかもしれないけれど
普通に戦って、そこそこの点差に収まっていたら、まとまっていたのか疑わしい


それでも、それでも・・・・


やっぱり、バラバラになりたくてなったわけじゃないから
どうあれ、5人でここまで来たのだから

だから、姉帯さん。もう勝利は譲れない!

「姉帯さん。あなたが勝ちたいのなら、このくらいの障害、越えてみせなさい。あなたと、あなたを信じるクラスのために」

私は姉帯さんを射抜くつもりで視線に力を込める

それを受け止め、姉帯さんは微笑んだ
ぐっと握りこぶしに力を込める

「もちろん、初めからそのつもりだよ!」
「始めましょう。誰が勝つにしても、これがきっと本当にオーラス」

サイコロが回る
裏九面での支配も、この局までが限界、だから・・・


泣いても笑っても・・・・これが最後・・


ただ願わくば、決着の時に笑っているのが3-2であるように
全力で、全力以上で、戦おう



クラス対抗戦
大将戦後半戦南4局2本場

大星淡(1-5)  101100
姉帯豊音(3-1) 111700
天江衣(2-10)  80600
石戸霞(3-2)  106600

873: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/30(日) 22:47:44.53 ID:YX7GGuO90
-side 豊音-

-南4局2本場
-親 石戸霞
-ドラ ①ピン

霞 打:1

豊音 配牌:1122333579999

うわー、とても配牌とは思えないくらいにきれいに染まってるなぁ
ほんとにすごいよー

私はこの学校に来るまで、同い年の友達もいなかったから・・・
こうやって卓を囲むこと自体、全然できなくて・・・

だから、今はとても楽しい

多分、こんな時間は長くは続かないけれど・・・・
続かないから、だからこそ

私は戦うよ、悔いの無いように

「ポン」
「む、飛ばされたー」

大星さんが悔しそうに口を尖らせる

うん、ごめんねー
でも、私だって負けられないから!

豊音 打:5
手牌:2233379999 1-11 (8待ち)

すごい緊張感だよー

もしかしたら、すぐにでも振り込んでしまうかもしれない・・・
近距離で、逃げ場のない麻雀
ドキドキするよー

でも、こんな気持ちは一人だったら絶対に味わえなかったから・・・

みんな、ありがとう
ほんとに、ほんとに、ありがとう

だから、絶対に勝つよー

874: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/30(日) 22:49:48.70 ID:YX7GGuO90
-side 照-

この局で、決着がつく・・・

霞 手牌:2444556677788

ツモ:6
打:2

霞 手牌:4445566677788 (35689待ち)

5面張・・・・
高目でツモり四暗刻だけど、あがれば勝ちだから今は手の高さは関係ない

とにかく手広く構えること
その点では、石戸さんの方が圧倒的に有利だろう

『ポン』

また、豊音が鳴く

「ダメ、振り込んじゃう・・・」

宥の声は震えていた

豊音 手牌:33379999 1-11 2-22

テンパイを維持するためには、3ソウか9ソウを切るしか無い
7ソウを切れば振り込まないが、それではテンパイが維持できない

「ダメだよ、豊音!」

塞も、

「負けちゃうのよー」

由子も、

「・・・豊音に、一巡先を見せてあげたいな」

怜も、

みんな悲壮感を漂わせ、モニターを見つめていた


ねぇ豊音、その道はとても細くて険しくて、誰もが歩める道ではないけれど・・・
でも、その道を行くと決めたんだったら、私はあなたを信じるよ

勝って、帰ってきてくれるって・・・



――豊音の選択は


875: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/30(日) 22:51:31.98 ID:YX7GGuO90
-side 小蒔-

覚醒する
いつもより少し体が重たい感覚

そう、霞ちゃんが裏九面を使ったのだろう

「あ、小蒔ちゃん、起きたんだね・・・」

玄ちゃんが少し暗い表情で、私を見つめた
ひざ掛けが私にかかっているのに気づく、これは確か玄ちゃんが使っていたはず・・

「すいません、少し眠っていたみたいで。あと、これ」

ひざ掛けを取って、畳む
渡そうとしたけど、玄ちゃんは首を振った

「いいよ、使ってて」

玄ちゃんは小さく首を振って、モニターを見つめた

漫ちゃんも、憩ちゃんも、表情は暗い・・・

南4局2本場
衣ちゃんだけが10万点を切っている状況
そして霞ちゃんと、姉帯さんの手牌・・・

ああ、そうか
これで霞ちゃんが勝って終わり

どうやら、最強の裏九面が降りてしまったらしい

あの場では、ツモができない
どんなにいい待ちだったとしても、ツモ牌はギリギリまで回ってこない。山に和了牌しか残っていないという状況にならない限り
ロンしかできない、殴り合いの場

そして霞ちゃんには、相手の待ちが分かるから・・・


対局者はただ、霞ちゃんに振り込むしかない


霞ちゃんに全力を出せといったのは、私
でも、このクラスの雰囲気・・・

それは正しかったのだろうかと、心に霧がかかったようにもやもやとする

「霞ちゃん・・・」

それでも、全力を出さずにただ敗れる霞ちゃんを見ていたら、そのときはきっと今以上にもやもやとした気分を抱えていたのだと思う

最善なんてその場では何か分からない
ただ、その瞬間の決断に身を委ねられるかどうか・・・

衣ちゃんが戦っているのに不謹慎かもしれないけれど
今は、霞ちゃんが悔いなく戦ってくれるのを願うだけ


モニターの向こうでは、姉帯さんが牌を切るところだった


876: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/30(日) 22:52:50.86 ID:YX7GGuO90
-side えり-

『姉帯豊音、7ソウ打ちで振り込みは回避ー。しかし石戸霞の逆転優勝は時間の問題かー!』
『石戸がツモれなくとも、姉帯の振り込みの方が早いでしょうね・・・』

こんな麻雀は、見たことがない
4人いるのに、戦う資格があるのは、ただ2人だけ・・・

ふと、隣に座っていた小鍛治さんが席を立った

「・・・どうされたんですか?」
「帰るね。決着はついたから」
「は?」

石戸さんがかなり優勢な状況ではあるが、まだすべてが決まったわけではないのに

「石戸さんが勝つってことですか?」

微笑みを浮かべたまま、小鍛治さんは小さく首を振った

「それは言わないでおくよ。でも、終わる前に学校を出ておかないと見つかっちゃうから」

決着がつけば、人の動きは激しくなる
観戦者が学校を出るし、生徒は講堂に集まって表彰式がある
その前に出ておきたいということだろう・・・

「・・・・分かりました。一応、結果はメールしておきます」
「ありがとう」
「おいおい、最後まで見ていきなよー」

出入り口の付近に立ちふさがっていたのは、咏さんだった
なんで、誰にも教えてないのに・・・

同じことを思ったのか、小鍛治さんが私をチラリと見る
私は慌てて首を振る

その視線の意味に気づいたのか、咏さんが扇子をばっと開いた

「えりちゃんの名誉のために言っとくけど、えりちゃんから聞いたわけじゃないぜー」
「・・・加治木さん?」
「違う違う、野依さんに見られてたんだよ」

野依さんか・・・
仮に見つかっても、上手く伝えられない気もするけれど・・・

「いやぁ、野依さん結構鋭いんだよ。でもそれを人に伝えるのが下手だからさぁ・・・探すのが大変だったんだよ?」

877: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/30(日) 22:54:33.18 ID:YX7GGuO90
-side 理沙-

-副将戦対局中

お祭り、楽しいな!
私のクラスはすぐに負けちゃったけど、みんながみんな勝てるわけじゃないし、楽しんだもの勝ちだよね

私はいろいろな出店を回って、ちょっと休憩しようと少し離れた場所で休んでいた

そこで見たのは、

「・・・加治木さんと・・・・小鍛治さん?」

辞めちゃってから連絡も取れなくなっていたけど、間違いない・・・

どうしよう、どうしよう!
誰かに伝えなくっちゃ!

とにかく、まずはみさきちゃんに話そう

私は小鍛治さんたちがどこに向かおうとしているのかもよく確認しないまま、慌てて職員室に向かった



職員室に入ると、みさきちゃんは自分の席に座ってパソコンに向かっているところだった

「みさきちゃん!」
「なんですか? 野依さん」

迷惑そうな素振りも見せずに、パソコンから私に視線を向けてくれる
やっぱりみさきちゃんは優しいな

邪魔したら悪いし、すぐに伝えなくっちゃ!

「いた!」
「・・・・何がいたんですか?」

いつもそうだけど、これじゃあ全然伝わらないよね・・・
みさきちゃんに嫌われちゃうよ
頑張って伝えないと!

「こ、こ、こか・・・」
「コカ・コーラですか? 出店で売ってても不思議じゃないでしょう?」
「違う!」

なんでそうなっちゃうの・・・
つくづく、自分の口下手さかげんが憎いよぉ

みさきちゃんもだんだんイライラしてきてるように見えるし・・・

「なら、はっきり言っていただけませんか?」
「ううぅ。こ、小鍛治さん」

やった、言えたよ!

「ここ、加持さん? ここってどこですか?」
「ここじゃない!」

うう、でも伝わってないよぉ
やっぱり私ってダメ・・・

それに、加持さんじゃなくて小鍛治さんなのに、それすらも伝わってないし

「じゃあどこですか?」
「裏の方!」
「裏の方に、加持さんがいたんですね? で、加持さんって誰ですか?」
「違う!」
「じゃあどこですか? っていうかそもそも裏の方って・・・」
「加持さん、違う!」

だから加持さんじゃないのに!

878: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/30(日) 22:56:40.19 ID:YX7GGuO90
「今日も野依さんと吉村さんのコントが楽しそうだねぇ」

そこに、三尋木さんがやってきた

「いえ、別にコントをしてるつもりはないんですけど」
「コント違う!」
「まあいいけどねぃ。ところで野依さん、そんなに言いたいことがあるなら、とりあえず紙に書いたらどうよ?」

確かにこのままだと全然伝わらないし・・・

私は、『加治木さんと小鍛治さんが一緒に歩いているのを見た』と書いて、2人に見せた

2人とも驚いた表情を見せる
特に三尋木さんの食いつきは予想以上だった

「マジで、どこに行こうとしてた?」
「そこまで見てない!」
「ああそうか。まあいいや、加治木ちゃんと一緒だったなら、私は加治木ちゃんに聞いてみるわ」

そう言うと、三尋木さんは職員室を出ていった
その様子を見送ると、みさきちゃんは大きくため息をついた

「まったく、加持さんって誰ですか・・・」
「そんなこと言ってない!」

私がはっきり言えないのが悪いんだけど・・・

「じゃあこれから野依さんと会話するのは、全部筆談にしましょう」
「イヤ!」

みさきちゃんと話せなくなるなんて、嫌だよぉ・・・

「まったく、そんな怒ってるんだか泣くんだかよくわからない表情しないでください・・・」
「でも!」
「別にいいんですよ、これでも伝わらないのを楽しんでいるところありますから。でも、急ぎの時は紙に書いてくださいね」
「分かった!」

ほんとに、みさきちゃんは優しくて、大好きだよ!

879: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/30(日) 22:58:45.11 ID:YX7GGuO90
-side 咏-

野依さんからの目撃談を元に、加治木ちゃんに電話してみる

『はい、加治木ですが。どうしました、先生』
「単刀直入に聞くぜい。すこやんがどこにいるか教えてほしい」
『・・・おっしゃる意味がよくわかりませんが』

うーん、これはすこやんに口止めされているか、それとも自主的に黙ってるか、か
加治木ちゃん義理堅いから、口を割るのは難しいかもしれんね・・・

まあでも、もうちょっとだけ粘ってみるか・・・

「野依さんが見たって言ってるんだよ、加治木ちゃんとすこやんが一緒にいるのを」
『人違いではないですか?』
「野依さん、そういうところはしっかりしているんだけどねぇ」

少しばかりの沈黙
そして・・・

『これは想像ですが』
「ん?」
『もし、小鍛治先生が学校に来るとしたら観戦が目的になるんでしょう。けれど、お忍びであるならあまり人目には付きたくないでしょうね』
「そうかもしれないねぇ」
『私から言えるのはこれくらいです。よろしいですか?』
「ああ、悪かったね」
『では、表彰式の準備もありますので、これで』

通話が切れる

なるほどね・・・
観戦目的で、かつ人目につかないところ

いくつか候補はあがるけど、これは特定には骨が折れそうだねぃ



そして手当たり次第に、奥の方の観戦室を回って、ようやく見つけた頃にはもう大将戦も佳境を迎えていた
まったく、おかげでろくに観戦できなかったじゃないか
あとでリプレイがあがったら確認しておかないとねぇ

こっそり部屋に入る

む、なんでえりちゃんがすこやんと一緒にいるんだろ・・・
しかもなんかすっげー親しげに話しているし

なんかイライラしてくる
でも今はとりあず落ち着こう。後で問い詰めてやればいいこと・・・
覚悟しとけよ、えりちゃん!

ひとまず見つかったメールをして、話しかけるタイミングを探る

と、すこやんが立ち上がった
最後まで見ていかないのか?

とにかく、今はこの部屋に足止めしとかないとな
時間は稼いでやる、だから早く来いよ・・・

880: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/30(日) 23:01:05.94 ID:YX7GGuO90
「まあ、とにかく最後まで見ていきなって。人は予想を超えてくるって、誰のセリフだっけか?」

扇子をパタパタを仰く
すこやんは、キッと私を睨む
卓上なら震え上がるんだろうけど、普通に睨まれてもそんなには怖くないね

「他に誰か、ここに私がいるって知っている人は?」
「今、すこやんに一番会いたい人に伝えたよん」
「・・・・なら、なおさら私はもう帰らないといけないね」
「だから、せめて最後まで見ていきなって。試合の途中で席を立つのは、いくらすこやんでも見過ごせないな」
「終わったら、そこをどいてくれる?」
「ああ、約束する」

そこらが潮時だろうねぇ
それに、私だって自分のクラスの勇姿を見届けたいんだ、今この場を離れらてても困るんだよ

「・・・・分かったよ。結果は見えてるけど、見届けてあげる」
「終わってもいないのに、ウチのクラスのこと馬鹿にするのやめてくれないか?」

だけど、そう簡単に結果が見えてるなんて言われて黙ってもいられないんだぜ
どうせこのまま石戸が勝つとでも思ってるんだろう

私は3-1が、みんながどれだけ頑張ってきたか見てきたんだ
だから、そんな簡単に結果が見えたなんて、いくらすこやんでも許せるか!

「馬鹿にしてなんて、ないよ」
「じゃあ結果が見えてるなんて言うなよ」
「見えるんだから、仕方ないよ・・・。それに、私は石戸さんが勝つ結果が見えたなんて言ってないよ」

なんだと・・・

『石戸霞は1ソウのツモで、これはノータイムでツモ切り』
『だけど姉帯さんは、何をツモっても3か9を切らないとテンパイにならないから、まだ石戸さんが優勢だね☆』

石戸霞のツモ和了はなかった
でも、まだこれで豊音がすぐに和了できるわけじゃない・・・

いや・・・

「まさか・・・」
「うん、これで決着だよ」

豊音のツモ牌・・・
手の中には、石戸の当たり牌だけになってしまった

そうか、それを引くのか
そこまで見えてたってのかい、すこやん・・・

881: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/30(日) 23:03:39.10 ID:YX7GGuO90
-side 霞-

ツモ上がりは基本的にはできない
けれど、多面張に受けておけば、いずれツモることはできる

そして7ソウを切った姉帯さんの手牌は今テンパイすら維持できていない
いずれ、私のロン牌がこぼれてくるだろう

それで決着する

姉帯さんのツモ
そこで手が止まった

「大星さん、天江さん・・・」

なぜか、姉帯さんは両脇の2人に声をかけた

「なんだ?」
「どうしたの? ツモなら、もったいぶらないでいいんだよ?」

大星さんの問いに、姉帯さんは小さく首を振った

「私がこの石戸さんの一色だけの麻雀の最後の相手じゃなかったら、私は何もできなかったと思うから・・・」

そこで姉帯さんは、ひと呼吸置いて、

「ありがとうっていうのも、ごめんねっていうのも、変な感じだけど。とにかく、そんな気持ちだよって伝えたくて」
「・・・・お前は勘違いをしているぞ」

天江さんが、不敵な笑みを浮かべる
虚勢のようにも見えるけれど・・・・それでも、その声は力強くて

「衣は、勝負が決するまで諦めたりしない」
「私だってそうだよ。だからとっととソウズを全部使い切っちゃえ!」

そう、まだ2人とも諦めてないのね・・・
けれど、ソウズを使い切るなんてことは無いわ

「姉帯さん、ツモでないのなら、切っていただけるかしら?」
「うん、ツモじゃないよ・・・・でも、切るのはちょっと待ってね」

そう言うと、姉帯さんは瞳を閉じた
そして呟く

「仏滅・・・解除!」

え、今になってどうして?

「カン!」

パタンと倒れる、4枚の9ソウ・・・

そんな、まさか・・・

882: tell you that I love ...(8-6) ◆oeEeLVGR7U 2012/12/30(日) 23:05:00.64 ID:YX7GGuO90
-side 豊音-

嶺上牌は、①ピン

そう、もし石戸さんの絶一門と同じことが起こっているなら、嶺上牌は支配下に無いはず
これで違ってたらどうしようかと思ったけど、思ったとおりで良かったよー

これなら、大丈夫!

豊音 手牌:3333① [9999] 1-11 2-22

「もいっこ、カン!」

今4枚揃えた3ソウもカンする

「うわ、サキっぽい!」

照の妹の咲ちゃんが得意な嶺上開花。でも、私は普通の状態でそれを真似できるわけじゃない
本当の目的は・・・

カンした3ソウも倒して、卓の端に寄せる

目の前に残るのは、①ピン1枚だけ

「ぼっちじゃないよー」

そう、友引を成立させるためのカン
誰かから鳴くだけじゃなくて、暗カンでも裸単騎にさえなれば成立するから

ずっとぼっちだった私だけど・・・
もう、一人じゃないから

だから、これで決める!

嶺上牌を引き寄せる

「お友達が来たよー」

手にした①ピンと、手元の①ピンを一緒に倒す

「ツモ、嶺上開花トイトイドラ2。2200、4200」


みんな、勝ったよー!
みんながここまで、一生懸命つないでくれたから

だから、だから・・・

「ありがとうございましたぁぁぁぁぁぁぁ」

勝ったのに、すごっく涙が出てきちゃうよー

すっごく、嬉しいよぉぉぉぉぉ



クラス対抗戦 終了

姉帯豊音(3-1) 120300
石戸霞(3-2)  102400
大星淡(1-5)   98900
天江衣(2-10)  78400

893: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/06(日) 22:06:17.05 ID:G3y4CGvI0
-side 煌-

「ありがとうございましたぁぁぁぁぁぁぁ」

号泣する姉帯さん

「あらあら。まさか嶺上からツモられるなんてね・・・」

平静を装うものの、小さく肩を落とす石戸さん

「負けたか・・・」

言葉少なにうつむく衣ちゃん

審判としては公平に試合を見ていたけれど、私は同じクラスとして一番近くで応援してましたからね
すばらな戦いでしたよ、衣ちゃん

そして、

「負けちゃったかー。面白かったよ、じゃあね」

笑顔を浮かべて、早口にそう言うとあっという間に対局室を去っていく大星さん

「お疲れさまでした。15分後に表彰式がありますので、移動をお願いします」

これで大会実行委員長としての任務もほぼ終わり
あとは表彰式と片付けですが、これは会長も含めた役員全員でやりますから、実質肩の荷が下りたようなもの

ああそうでした、大事な任務がまだありました

「姉帯さん」
「え、なにぃぃ」

涙声の姉帯さんに、預かっていた色紙を渡した

「優勝おめでとうございます。預かっていた色紙です」
「あ、ありがとうぅぅぅ」

あはは、さすがにそろそろ泣き止んでほしいです・・・

894: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/06(日) 22:07:46.09 ID:G3y4CGvI0
-side 淡-

負けた・・・
負けちゃった・・・・

うう、教室に戻りづらいな
居づらいから対局室はすぐに出たものの、一人になった途端泣きたくて仕方ないよ
でも、私が泣くなんて柄じゃないし
そんな弱いとこ見せたくないし・・・

自分の教室の近くまで来たけど、やっぱり戻るのは辛い
はぁ、このまま表彰式とかサボっちゃおうかな・・・

「淡さん!」

今、一番聞きたくない声がした
ノドカが、教室から少しい離れたところから私を見つけて駆け寄ってきた

「まったく、こんなところでフラフラして、道にでも迷ったんですか?」
「サキじゃないし、こんな所で迷わないよ!」

思わず言い返して、ああ道に迷ったってのに乗っかっておけば良かったと思ったけど
それはもう後の祭りで・・・

「そうですか。道に迷っていないとなると、教室に戻るかどうか迷っていたというところですか・・・」
「ううっ、どうしてそうストレートに言うかな・・・」
「淡さん相手に婉曲表現しても通じませんから」

そう言って、ノドカが手を差し出してきて

「さあ、教室に戻りましょう」

だけど、私はその手を取ることはできなかった

「まだ、そんな覚悟できてないよ・・・」

あれだけ大口叩いて、みんなに合わせる顔ないよね

「私はドライなんだと思います」

そんな私を見て、ノドカはため息をつく

「咲さんはもう泣きそうな顔をしていましたけれど、私にはそこまでの感情は生まれなくて。麻雀は勝つ時もあれば負ける時も当然ありますから、今回の結果だってその事象のひとつに過ぎません」
「そうかもしれないけどさ・・・」

言いたいことは分かるけど、まだそんな慰めを素直に受け入れられるほどの気持ちにはなってなくて
それを察したのか、ノドカは微笑んだ

「慰めが不要でしたら、敗因は淡さんですって言えばいいんですか?」
「ほんと、ストレートに言うね。そういうとこ、嫌いじゃないよ」
「じゃあ好かれついでに苦言を呈しておきましょうか」

曰く、混一清一を目指している石戸霞に字牌で振り込むのは不用意すぎる
曰く、大三元でトップに立ったのにダマで役のある手でリーチは必要ない

・・・うん、言い返せない。だけど、

「2向聴にわざと保ってるとか、オーラスの振り込みは不用意とか言わないの?」

どちらかというと、責められるのはそちらかと思っていた
オカルト否定のノドカだから・・・

けど、ノドカは首を振る

「言っても仕方ないことに口出しする気はありません。ただ、今言った2つはオカルトとか関係なく直せた部分じゃないですか?」
「あはは、そうだね・・・」

結局、自分の慢心が招いた敗北ってことでしょ?

もう、無理かなぁ・・・

「ねぇ、ノドカ・・・」
「なんでしょう」
「泣き顔見られたくないんだ。いいかな?」
「ええどうぞ」

ノドカの大きな胸に飛び込んだ時には、もう涙が溢れて止まらなかった

ごめんね、みんな・・・
私のせいで、負けちゃたよ・・・

895: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/06(日) 22:09:04.74 ID:G3y4CGvI0
-side 衣-

煌に背中を押されて、対局室を後にする

――誰も衣ちゃんを責めたりしませんし、そんな人がいたら私が反論します。だから、胸を張って教室に戻ってください

煌自身は、まだ生徒会の仕事が残っているから教室には戻れない

だが、胸を張って帰れと言ってくれた以上、うつむいては帰れない
気分は重いけれど、それでも堂々と教室に帰ろうと気持ちをなんとか引き締める

それでも、教室に入ったらまずは謝罪からなんだろうと考える

そして教室につく
ひと呼吸して、中に入った

「みんな、すまな――」
「衣ちゃん、ごめんなさい!」

衣が言い切る前に、なぜか小蒔が頭を下げていた

「・・・どうして小蒔が謝るんだ?」

事態が理解できず、立ち尽くしてしまう

「霞ちゃんに全力を出してって言ったのは私です。全力以上を出してと言ったのも私です。クラスのことを考えるならそんなこと言わない方がいいのは分かってます」

頭を下げたまま、小蒔が叫ぶように懺悔を続ける

「衣ちゃんが戦いにくくなってしまったのは私のせいなんです。だから、本当にごめんなさい」

そして静寂が訪れて
衣はどうしていいのか分からなくなってしまった

助け舟を出してくれたのは、憩

「衣ちゃんが困ってるから、頭上げてえな、小蒔ちゃん」
「でもっ」
「ええから、とりあえず目と目を見て話そか」

そう言われて、小蒔は顔を上げた
その顔はすでに涙でぐちゃぐちゃだった

「負けたのは衣だ。小蒔のせいじゃない」
「でも私のせいなんです!」
「あの場の全員が強かった、それだけのことで小蒔のせいじゃない」
「でも、それでも私のせいなんです!」

ここで小蒔のせいだと言えば小蒔は満足するのだろう
でも、それでは衣の気が済まない

896: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/06(日) 22:10:43.44 ID:G3y4CGvI0
どう言えばいいのか逡巡していると、

「あーもう!」

漫が声を荒らげた

「もうみんな自分のデコに、『私が戦犯です』とでも書いたら満足なんか!」

おでこに『ころたんイエイ』と書かれたまま
だけどその表情は真剣そのもので、とても笑う気が起きなくて

「それに今日の最多失点は私や、全部私のせいにしたらええやろ! そんな不毛な言い争い見たない!」

けれど、玄がかばうように漫の前に立ち、手を挙げた

「でも、漫ちゃんの相手はチャンピオンだよ。そんなこと言ったら、私だってほとんど稼げてないし」
「いや、先鋒でマイナスくらったうちに責任があるわ」

憩が手を挙げて、落ち込んだ表情を見せた
小蒔もみんなに習ってか手を挙げたので、衣もなんとなく挙手をして、漫も手を挙げた

「そんなことありません。悪いのは私です」
「みんなの点棒を引き継いだのは衣だ。だから責任は衣にある」
「せやから、一番悪いのは私やって」
「どうぞどうぞ」
「ってなんでやねん!」

憩と玄が漫に譲るように手を差し出し、漫は近くにいた玄にツッコミを入れた
ノリが分からない衣と小蒔はポカンとした

「えっと、どういう流れでしょう?」
「よく分からないが、衣たちも漫にどうぞどうぞと言えば良いのか?」
「漫ちゃんが手を挙げた瞬間に言わなあかんから、もうタイミング逃しとるよ」
「あれ、分かってて手を挙げてたのかと思ってたよ」
「っていうかスベったボケの解説されとるみたいやからもうこの件は流そか・・・」

この流れですっかり気が抜けてしまった・・・

「ま、団体戦で誰が悪いなんて言ってもキリがあらへんからな。あんまり責任感じたらあかんよ」
「そうだな。だが、どんな相手が来ても勝てるように、衣はもっと強くならないといけないな」

でも、このクラスで勝ちたかったな・・・

897: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/06(日) 22:14:18.17 ID:G3y4CGvI0
-side 菫-

追撃、及ばずか・・・

「よく、ここまで追いつけましたね」
「せやな。よくやってくれたわ」

福路と清水谷も結果には満足しているようだった
もともとバラバラのクラス状態に加え、一時はトビで終了という可能性すらあったわけだから、結果2位で終わったこと自体が奇跡にも思える

「負けた勝ったよりも、これでクラス対抗戦が終わってくれたという安堵感の方が今は強いな」

照を負けさせようとしている連中が、どういうつもりで動いているのかは知りようがない
それでも、とりあえず1つの山場は越えた

次に何かアクションがあるとすれば、夏フェスの部活対抗戦
そのとき、私はアーチェリー部の部長として照を守ってやらなければならない

だが、それはまだ先のこと。今すぐに考えることでもないだろう

「ただいま」

そこに、石戸が戻ってきた。頭を下げる石戸

「ごめんなさいね。あと一歩だったんだけど」
「謝らんでもええって、ええ戦いやったよ」
「そうです。本当に、お疲れさまでした」

清水谷と福路も気持ちは同じだった

「お疲れさま、いろいろあったが今日でリセットしよう」
「そうね。今日までは、ちょっとギスギスしてたから。明日からはもっと仲良く行きたいわね」

そう言って、みんながみんなの顔を見て、微笑みあった

少しスタートは遅れてしまったが、ようやく3年2組として動き出す
そんな気がした・・・


-side 洋榎-

竜華からメールが来る

『負けたわ、私らは2位。絹ちゃんとこは4位』

あっさりとしたメール。スピードを重視したんやろう

「絹、対抗戦の決着がついた」
「どこが勝ったん?」
「・・・・書いてへんな」
「なんやのそれ」

絹に、竜華から来たメールの画面をそのまま見せる

「あー、私らのこと伝えてるだけやんな。もう一回メールしてもらったら?」

言われたとおりに、どこが勝ったん?とだけ書いて送信

「それにしても、衣ちゃんがラスになるなんてな・・・」
「あのちびっ子、夜の方が強いんやろ。そんなもんちゃうか?」

受け答えしながら、出かける準備をする。と言っても、ポッケから出してた財布をまた入れて上着を羽織るだけやけど表彰式には、今から出ればギリギリ間に合うやろ

と、そこにメールが来る
早いな、竜華

「優勝は3-1やと」
「そっか・・・」
「じゃあ、表彰式行ってくるわ」
「うん、行ってらっしゃい」

病欠という建前上、絹は外出できへんからな

「対抗戦はこれで終わりや。また明日から腕上げてかなかんな、お互いに」
「うん、頑張る・・・」

うちがもっとしっかりしとればとか振り返る段階はもう過ぎた
明日からまた、今日の反省を生かして練習をしたらええんや

2位なら2位で、胸張ったる

898: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/06(日) 22:19:44.66 ID:G3y4CGvI0
-side 咲-

負けちゃった・・・

私のせいだ
私がいつも通りやってたら、もっと点数があったから・・・

どうしよう、どうしよう・・・

「咲、そんなに落ち込まないでよ」

穏乃ちゃんが声をかけてくれた。憧ちゃんも心配そうに私を見ている
ちなみに、和ちゃんは淡ちゃんがなかなか戻ってこないので様子を見てくるって教室を出ている

「でも、私のせいで」
「うん、咲のせいだね」
「え・・・」

正面切って憧ちゃんからそう言われるとは思ってなかった

憧ちゃんが私に顔を近づける
その瞳は、真剣そのもので・・・

「咲が2割悪い。私も2割悪い。しずも和も淡も、みんな2割悪い。だから咲のせいだけど、咲だけのせいじゃないよ」
「でも、穏乃ちゃんも和ちゃんも淡ちゃんも収支はプラスだし、憧ちゃんだってお姉ちゃんが相手だったし」
「相手が誰だって、私の失点は3万点、咲は1万点。私は咲の3倍悪いってことじゃない? 先鋒はエース区間なんだしさ」
「そんなことない!」
「じゃあ咲が悪いなんてことはないって、私も言うよ」

そう言われると、私は上手く反論の言葉が紡げない
でも・・・

「私が初めからクラスのために打ってたら・・・」
「咲はクラスのために打ってたよ」
「・・・そんなこと、ないよ」

お姉ちゃんのクラスをかばったのは事実
そんなことをしなければ、勝っていたかもしれないのに・・・

「途中からだっていいじゃない。それで十分、咲は取り返してくれたよ」
「そうだよ、咲。だから全然気にすることないって!」

穏乃ちゃんも加わって、私のことを元気づけようとしてくれる
でも、まだ胸のもやもやは晴れなくて・・

憧ちゃんが少し考え込んで、また口を開く

「もしもになっちゃうけど。もし咲が宥姉を見捨てて、他のクラスに狙い撃ちさせたとする。そしたら、中堅戦で本当に3-1は飛んで終わってたかもしれない」

実際3-1は中堅戦の選手交代のペナルティで25000点くらいにまで落ち込んでた
もし点数がもっと少なかったら、あの選手交代がそもそもできなかったかもしれない
できたとしても、交代後に残り1万点を切るような状況だったら・・・・

「中堅戦で誰が勝っていたかなんて分からないでしょ。あの流れだと2-10な感じもするけど。だからきっと、咲のしたことは悪いことじゃなかったよ」
「そうなのかな・・・・」
「そうだよ、だからあんまり悔やまないで」

憧ちゃんが、そっと私を抱きしめてくれた
そして、ボソっと私にだけ聞こえるように、耳元で呟いた

「私だって、大失点の責任感じてるんだからさ」
「憧ちゃん・・・」
「でも、淡はもっと責任感じてるかもだからさ、ちゃんと笑顔で迎えてあげないとね」
「・・・そうだね」

大将の重圧がどれくらいのものなのか、私には分からないけれど
クラス5人分の思いを受けて戦う重圧は、きっと相当なのだと思う

899: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/06(日) 22:22:04.55 ID:G3y4CGvI0
「たっだいまー。負けちゃったー!」

戻ってきた淡ちゃんは、想像以上に元気だった
でも、よく見ると、目が赤くなっている・・・・

「もう、オカルトだらけでまいっちゃうよねー。私、今日から原村門下生として一からデジタルを学ぶことにしました!」
「コホン。一番弟子として厳しく鍛えさせていただきます」

大げさに振舞う淡ちゃんに合わせるように、和ちゃんもわざとらしく咳払いをした

「淡ちゃん・・・」
「もう、なんで泣いてるの、サキ。サキのせいじゃないよ、なんもかんもオカルトが悪い! デジタル最高ー!」
「そうですね、すべてのオカルトはただの偶然の偏りにすぎません」

無理に気丈に振舞っているのは分かるけど、それは淡ちゃん自身ショックなのと、私にも気を使ってくれているんだと思う
そうでもなければ、きっと和ちゃんがここまで合わせてくれないだろうし

「っていうか、アコとサキはいつまで抱き合ってるのー」
「えっ・・」
「ふきゅっ」

お互い素っ頓狂な声を出して、慌てて離れた
いい匂いだったのになぁ・・・って、そんなこと考えてる場合じゃなくて

思考を断ち切るように、パンパンと手を叩く音が教室に響いた

「よし、そろそろ表彰式だから、移動するよ」

赤土先生に言われて時計を見ると、あと5分しか残っていなかった

「淡が遅すぎるんだよー」
「シズノがダッシュすれば間に合う。席取っといて」
「席を取っておくとかそういう問題ではないと思いますが」

みんなで慌てて教室を出ていく

「咲、行こう」
「うん」

憧ちゃんに手を引かれて、私も教室を出る

負けちゃったけど・・・
今まで、負けたくないと思ってきたけど。それは傷つきたくないってだけのことで

負けたくないって思えた
勝ちたいって思えた

きっと私は、これから±0のその先へ歩き出す
願うなら、みんなと一緒に・・・

910: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/14(月) 00:04:04.18 ID:NLIrbRd90
-side 照-

2ソウを鳴いた時点で、豊音の狙いが友引であることは分かった
鳴いたところで待ちが変わらないのだから、本来なら鳴く意味なんて無い

なら、鳴く意味は別にある・・・・
けれど、限られた牌だけの一色麻雀で鳴きを進めるのはかなりのリスクを伴う

そんな、か細い道を進むと決めた豊音

私はゆっくりと体を起こした

「照ちゃん?」
「最後だし、ね」

流石に勝負がつく瞬間を寝転んで見てるのも豊音に悪い
宥は座ったままだったから、私も隣に腰を下ろす
膝枕じゃなくても、隣にくっついているだけで、宥からぬくもりを感じることはできる

『もいっこ、カン!』

まるで咲みたいにカンする豊音
そして・・・・

『ぼっちじゃないよー』

嶺上開花が決まる
その瞬間、私たちのクラスの勝利も決まった

「勝ったね・・・」

なぜか、すぐには実感が湧いてこなかった

いろいろあって
いろいろありすぎて
まだ何かあるんじゃないかって、そんな気分になって

「うん、勝ったんだよ」

宥がゆっくりうなづいてくれて
それで、ようやく実感が湧いてくる

はぁ、やっぱり私はダメだな・・・
私一人だったら、きっとどんどん悪い方向に考えちゃう

そう、勝ったんだからもっと胸を張らなくっちゃ

心に余裕が出てきて、私は周りを見渡した

「勝ったな!」
「おめでと。でもそろそろ膝枕終わってくれへんか?」
「勝利の余韻に浸らせてや」
「膝枕やなくても浸れるやろ!」

膝枕分を補充できたのか割と元気な様子の怜と、辟易しながらもなんだかんだ膝枕を続けてあげてくれた末原さん

「おめでとさん。じゃあ俺らは退散するか。恭子、ぼちぼち行くで」

江口さんが立ち上がると、小瀬川さんとエイスリンさんも立ち上がった

「あの、エイスリンさん!」

教室を出ていこうとするので慌てて呼び止める

「ナニ?」
「その、イラスト描いてくれて、本当にありがとう」
「ドウイタシマシテ!」

そう言うと、ボートにさっと絵を描く
6人が優勝カップを囲んでいる絵だった

「優勝おめでとう、だって」

小瀬川さんが解説して、エイスリンさんもコクコクとうなづいた

「うん、ありがとう。エイスリンさんのイラストには励まされたから」
「私まで描いてくれて嬉しかったのよー」
「マタ、カクネ」
「そろそろ行くよ、ダルイけど・・・・」

911: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/14(月) 00:06:48.00 ID:NLIrbRd90
小瀬川さんの視線の先には、まだ膝枕されようとしている怜がいて
そして江口さんに無理やり引き離されていた

「怜、もう恭子のレンタルは終わりやで」
「仕方ないな・・・。まあまあの膝枕やったで」
「それは喜んでええのかよくわからん・・・」

末原さんがようやく開放されて立ち上がる。そして私をじっと見つめた

「宮永。由子のことなら気にせんでええからな」
「うん・・・」

対抗戦に出るなと言われていたのに、怜の代わりに出てくれた由子
サッカー部のレギュラーを剥奪されるリスクを背負って・・・

でも、もう出てしまったのは取り消せない
だからせめて、少しでもいい方向に向かうように願うしかない

「末原さん。由子のこと、よろしくお願いします」
「・・・そんな畏まらんでもええ。それに、これは私らサッカー部の問題やからな」

深く頭を上げる私に、末原さんは苦笑する

「行くで、恭子。じゃああとは、クラス水入らずでなー」

江口さんが手招きして、末原さんも教室を出ていった

「もう大丈夫、塞?」
「流石にもう大丈夫だよ、ありがと」

塞の隣に座っていた鹿倉さんも立ち上がった
そして私の方を見て

「宮永さん、おめでとう。それと、ありがとね」
「え、うん・・・。ありがとうって?」

特にお礼を言われる心当たりがなくて、首をかしげる

「塞を復活させてくれて。こういうきっかけでもないと、きっと塞は麻雀自体打たなくなっちゃったかもしれないから」
「それは塞自身の力で、私は何もしてないよ」

鹿倉さんは首を振った

「謙遜とかいらない。宮永さんがきっかけになったのは事実だから」
「うん、じゃあそういうことで」

反論しても受け付けてもらえなさそうだったので、大人しく相槌を打っておくことにした
その鹿倉さんを、塞が小突いた

「ちょっと胡桃、なんで先にお礼なんて言っちゃってくれてるわけ?」
「別にいいでしょ、それくらい!」
「まったく、胡桃がお礼なんて、シロに介護されるよりビックリだよ」
「私だってお礼くらい言えるよ!」
「・・・うん、ありがとね。心配かけた」
「分かればよろしい」

はにかむ塞に満足げに頷くと、鹿倉さんも教室を出て行こうとした

「ただいまー。勝ったよー」

と、ちょうど豊音が戻ってきた

「あっ、豊音。おめでとう」
「胡桃ー!」
「わー、高いって!」

興奮気味の豊音はひょいっと鹿倉さんを持ち上げた。小さな鹿倉さんの体は簡単に持ち上がる

「ちょー頑張ったよー。ちょー嬉しいよー」
「分かったから降ろして!」
「豊音、あんまり振り回すと胡桃がどっか飛んでっちゃうよ」
「あっ、ごめんねー」

豊音は鹿倉さんを下ろした
鹿倉さんは、じゃあねと言って逃げるように教室を出ていく

912: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/14(月) 00:10:48.40 ID:NLIrbRd90
「まったく。優勝の感動がどっかいっちゃうじゃない」
「だって嬉しかったからー。ごめんね」
「まあいいけどね。ほら、みんなに報告!」

塞が豊音の背中を押す
豊音が、私たちの前で満面の笑みを浮かべた

「みんな、勝ったよ!」
「ホントあの面子相手によく勝ったわ」
「すごいのよー!」

もちろん、絶対に勝てるなんて思っていなかった。与えられた戦力でどうオーダーするのが正解なのかなんて、組み合わせ次第で変わってしまうから

でもこうやって、みんなで力を合わせて勝利を掴むことができた
今まで戦ってきた団体戦の中でも、一番嬉しい

「お疲れさま、豊音。ありがとう」
「こっちこそありがとうだよー。すっごくドキドキして、すっごく楽しかったよー」

純粋に麻雀にドキドキできて、楽しむことができて
少し羨ましいな

私だけじゃなくて、咲も・・・
ドキドキしたり、楽しんだりってことをどこかに置いてきてしまったんじゃないかって、そう思えるから

「私も、楽しかったよ」

隣にいる宥が、微笑みを浮かべた

うん、そうだった
私の隣には、宥がいてくれる

私だけだったら、きっと優勝なんてできなかった
私を負けさせたいなんて、意味のわからない重圧に負けてしまっていたかもしれない

「宥、怜、塞、由子・・・・。みんなも、ありがとう」

宥だけじゃない
怜にも無理をさせてしまったし、塞も復活したとはいえ初めは万全の状態じゃなかった

だけど今は、素直にこの勝利を喜ぼう
ボロボロになりながらも、みんなで掴んだ勝利には変わりないのだから

「お礼言わないといかんのは、私の方やで。あんなに失点したのに、取り返してくれて、ありがとな・・・」

怜が頭を下げた。それに合わせて、塞が苦笑する

「いや、そんなこと言ったら、私なんか4日間通して全部マイナスだよ・・・」
「勝ったんだからあんまり気にしちゃダメなのよ。それに、私も対抗戦に出れてよかったのよー」

由子がそう言ってくれるけど、当の由子の問題もまだ片付いているわけじゃない
末原さんは大丈夫だって言ってくれたけど・・・

『表彰式まで、残り5分です。移動をお願いします』

もうそんな時間か・・・

「じゃあ、そろそろ表彰式に行こうか」

ああ、そういえば去年も表彰式の時、コメント求められたっけ
何か考えておかないと・・・

913: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/14(月) 00:13:25.66 ID:NLIrbRd90
-side 咏-

決着がついた
よくやったな、みんな

「さあ、決着はついたよ。帰っていいかな?」
「ああ、どうぞ・・・」

そういう約束だから仕方ない
すこやんももう少し肩の力抜いてくれればいいのに、真面目すぎるんだよ・・・

「咏さん・・・」
「なに、針生さん?」

いつもはえりちゃんって呼んでるけど、なんだか苛立って名字で呼んでしまう
えりちゃんが表情を暗くしたけれど、それを気遣っている余裕は私にはなかった

・・・まだ来ないのかよ、すこやん行っちゃうぞ

「・・・誰ですか、小鍛治さんに一番会いたい人って?」
「それはすこやんが一番わかってるよな?」

すこやんは立ち上がって私の背中にある出口に向かって歩いてきた

「もう、済んだことだよ・・・・」

すれ違いざまにそう呟くすこやん
そして私のケータイからメールの着信音が響いた。着信音に気を取られている間に、もうすこやんは扉の向こうへ消えようとしていた

「まったく、誰だよ・・・」

もう追っても止められないだろう
メールを確認することにした

「・・・・ったく、意気地なし」

メールの内容を見て、舌打ちする

「咏さん・・・」
「・・・・なに、針生さん?」
「ごめんなさい」
「何を謝ってるのかしらねーけど、後でじっくり聞かせてもらうから」

頭を下げるえりちゃんに、きつく当たってしまう
ここにきてこんな展開予想してないっての・・・・


――ゴメン、やっぱり今の私に会う資格無いわ


こんなメール寄越すなよ、いくのん!
次はいつ会えるのかわかんねーんだぞ・・・

919: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/16(水) 00:04:30.56 ID:C9CHdplS0
-side 良子-

「終わりましたね・・・」

3-1の勝利が決まる
隣に座る赤阪先生が、深くため息をついた

「・・・・そうやね」

そのまま、どこかへとメールを打ち始めた


それにしても、いろいろと妨害を受けてよく3-1は優勝できたと思う
私の時は、そうは行かなかったから・・・

私が1年2年の時、宮永照のように学校内では敵がいないような状態だった
クラスメートにも、部活の仲間にも恵まれていた

けれど、3年になって様相がガラリと変わる
まずクラスメートのレベルが今までとは落ちた

そして当時1年の宮永照のクラス・・・
インターミドルで活躍したメンバーが勢ぞろいしたクラスになっていた
宮永照、弘世菫、辻垣内智葉、藤原利仙、白水哩

私のクラスは準決勝で敗れた

1年2年の時に負けなしだと3年のクラス対抗戦には勝てないというジンクスを聞いたことはある
気になって、過去の記録を調べたこともある

当時の成績から照らし合わせて、私の前に連覇ができなかった小鍛治さんの3年のクラスが極端に弱いということも、他のクラスが極端に強いという感じもなかった
それ以前の、愛宕先生や校長先生の時も同じ傾向を感じた

連覇が気に入らないから学校側が操作したわけではなく、たまたま連覇できないことが積み重なってジンクスとして言われるようになった
それがこれまでの傾向のはず

だから、極端な連覇妨害が始まったのは私の時からではないか・・・
私だけなら偶然クラス編成に恵まれなかったと言えるかもしれないけれど、宮永さんへの妨害も含めると、単に宮永照憎しで学校が動いているわけではないと思う

じゃあどんな理由で動いているのかと考えを巡らせても、それ以上は分からないけれど


920: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/16(水) 00:05:18.81 ID:C9CHdplS0
メールを打ち終わったようで、赤阪先生は再び深くため息をついた

「赤阪先生、そろそろ移動しましょうか」
「良子ちゃん・・・」

携帯の画面を見つめたまま、赤阪先生は動こうとしない

「ここにおっても、ええかな?」
「・・・・ノーウェイ。決勝に出たクラスの担任が表彰式に出ないのはナンセンスでは?」
「・・分かっとる。分かっとるんやけどな~」
「残念ですが、病欠の証明はできませんので」

愛宕絹恵さんに病欠の証明は出したけれど、本人の意向も踏まえてのこと
ボロボロに打ちのめされて、その翌日にまたあの宮永照に立ち向かえる精神状況にはとても見えなかったから

それを逃げだと捉えられるかもしれないけれど
リベンジの機会は、今日だけではない。再び立ち向かおうと思えるのであれば、時間がかかってもいいと思う

「さあ、私も行きますから」
「しゃーないな・・・」
「ひとつだけ、いいですか?」

暗い表情のまま立ち上がる赤阪先生に尋ねる

「なに~?」
「宮永照が勝ちましたけど、これからどうなるんですか?」

宮永照を負けさせろという理事長通達は達成できなかったことになる
その通達に、失敗したらどうなるというような内容は無かった

赤阪先生は、肩を落として首を振る

「なんも変わらへんよ。変わらへん・・・」

他人事のように呟く
まるで抜け殻にでもなってしまったかのように。そこにはもう赤坂先生はいないかのように

「さあ、表彰式に行こか?」
「ええ、そうですね・・・」

本当に、何も変わらないのですか?
まばたきした一瞬の間に、赤坂先生がいなくなってしまうのではないかと、妙な不安に駆られる

気のせいなら、いいけれど・・・

921: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/16(水) 00:06:07.37 ID:C9CHdplS0
-side 智葉-

解説が終わり、急いで講堂へ向かう
解説というのもなかなか大変なものだな・・・

講堂に着くと、概ね準備は終わっているようだった

「すまないな、もうほとんど終わってるみたいだな」
「いいのよ。むしろ解説に回ってもらって助かったわ」

久を始めとして、ちょうど一息ついているところだったようだ

「智葉さんが解説されていたのですね。あとで動画を見るのが楽しみですっ」
「そんな大層なものじゃないぞ・・・」

ああ、花田は誰が解説しているのかなんて知らないんだよな
あの戦いを一番近くで観戦できたのだから、私の解説なんて必要はないと思うがな・・・

次々と講堂に生徒たちが集まってくる

短いような長いようななんて陳腐な言葉が浮かぶが、そうとしか言い様がない
これでクラス対抗戦も終わりだ。こんなドタバタからも、しばらくは解放される

思えば1年の時は、宮永と同じクラスで戦ったんだったな
敵に回せば難攻不落の要塞のようだが、味方になってその要塞の中にいればこれほど頼もしいものも無かった

ただ、それでも要塞攻めの方がやりがいはあるのだがな・・・

宮永照をめぐる今回の攻防を、詳しく知っているわけではない
ただ、余計な噂が流れなければ、勝っていたのは3-2だったんじゃないだろうかとかそんなことを考えないでもない

「まったく・・・」

たらればなんかに思いを馳せるのは、片付けまで全部終わってからでいい
生徒会とすれば、平穏無事にさえ終わってくれればそれでいい

『あーあー、静粛に。これより、表彰式を始めます』

ゆみがマイクを持ち、進行をはじめる

『まずは、会長の総括からお願いします』

久が壇上に上がっていく
一礼して、壇上のマイクを調整する

「みなさん、4日間お疲れさまでした。特に決勝まで戦い抜いた4クラスのみなさんの戦いぶりは、その1打1打を手に汗握って見させていただきました」

普段はいい加減なように見えて、こういうときの久はしっかりしているんだよな・・・
まったく、抜け目無いというかなんというか・・・

922: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/16(水) 00:07:30.45 ID:C9CHdplS0
-side 宥-

会長の総括が終わると、いよいよ表彰になる

『第4位、2年10組。メンバーの方は壇上へお願いします』

呼ばれて、玄ちゃん達が壇上へあがった
リーダーの荒川さんが会長の竹井さんから賞状を受け取り、そのままマイクの前に立つ

「2年10組の荒川です。優勝予想うちらが1位やったけど、食券もらえんくなってごめんなぁ~」

思わずくすりと笑ってしまう

「上級生の壁はやっぱりデカかったです。特に大将戦のおもちとか身長とか。うちらが束になってもかなわへんよ、あれは」

こういう気さくなところが、人気なんだろう
荒川さんを悪く言う人なんて見たことがないから

「まあ、壁はデカい方が乗り越え甲斐があるってもんです。今日はええ勉強させてもらいました、ありがとうございました」

最後はしっかり締めた
玄ちゃん、このクラスなら1年楽しく過ごせそうだね

『つづいて第3位、1年5組。メンバーの方は壇上へお願いします』

今度は、穏乃ちゃんや憧ちゃん。そして咲ちゃんも壇上に上がる

「咲ちゃん、カチコチだね」
「人前は苦手だからな。私も得意じゃないけど・・・」

前に立つ照ちゃんに小さく声をかける
照ちゃんは少しだけ振り向いて答えてくれた

照ちゃんも人前が苦手なんだ。インタビューとか平然と答えてるように見えるんだけど、そうでもないのかな
壇上では、憧ちゃんが賞状を受け取っていた。リーダーは憧ちゃんだったんだね

「1年5組の新子です。荒川さんみたいに気の利いたことは言えませんが、正直言って悔しいです」

憧ちゃんは真剣な眼差しだった

「勝って、みんなで喜びを分かち合いたかったです。でもそれは叶いませんでした。もっと強くなって、また対抗戦をやりたいくらいです。ありがとうございました」

ぺこりと一礼して、憧ちゃんの挨拶は終わった
もう同じクラスで戦うってことはないけれど、またそんな機会があったら楽しいかもしれないね

『つづいて第2位、3年2組。メンバーの方は壇上へお願いします』

5人が壇上にあがる
賞状を受け取ったのは弘世さんだった

「3年2組の弘世です。2位とは言え、敗者が多くを語る必要はないでしょう。ただ一つだけ我侭が許されるのであるなら、私も新子さんと同じ気持ちです。雪辱の機会がほしい。ただそれだけです」

バラバラだった3年2組が、最後の最後にようやくまとまって
だから、初めから一致団結できていれば勝っていたのは2組だったかもしれない

本当に、勝てたのはちょっとしたことの積み重なりで
ほんの少しのことで崩れてしまうような階段を積み上げて
それでも、頂上にたどり着けるのはほんのひと握り・・・・

『つづいて第1位、3年1組。メンバーの方は壇上へお願いします』

照ちゃんを先頭に、由子ちゃんを含めた6人で壇上に上がる

「おめでとう。お疲れさま」

竹井さんがそう言って賞状を照ちゃんに手渡した

「じゃあ、最後、しっかり締めてちょうだいね?」

そうウインクして、竹井さんはさっさと壇上から降りていった
照ちゃんは静かに呼吸を整えて、マイクの前に立った

「3年1組、宮永です。4日間、お疲れさまでした」

背中ごしに照ちゃんを見守る
いったい、どんな表情をしているんだろう
インタビューのときのような笑顔を浮かべているんだろうか・・・

923: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/16(水) 00:09:54.04 ID:C9CHdplS0
-side 咲-

お姉ちゃんが壇上に立つ

「3年1組、宮永です。4日間、お疲れさまでした」

取材を受けるときのような、作った笑顔じゃなかった
いつも家で過ごしているときのような、自然体なお姉ちゃん

思えば、こういう対外的な場面でそんな表情を見るのは初めてかもしれない

「どんなに準備したって、練習したって、負けるときは負けます。けれど、勝ちたいと願わないまま勝つなんて、できません。私はそう思っています」

視線が私の方に向いているような気がした

・・・そうだね、お姉ちゃん
私は、勝ちたいって願うのを諦めてた

枯れたくなかったから・・・
だったら、造花になってしまえばいいって

水も光もいらない
誰かの水を奪うことも、誰かから光を奪われるのもイヤだったから

だったら、私は何も望まない・・・・
そうやって、±0を目指した

「このクラスで勝ちたいって気持ちはみなさんも持っていたと思いますし、ここで気持ちの多寡を争うつもりはありません。気持ちが乗らないときだってある。自分が勝ちたいと思っても、周りが邪魔をしたりするときもあると思います。気持ちを思い通りにぶつけられることの方が、稀です」

心を空っぽになんて、できるわけないのに・・・
ただ機械のように打つなんて、いつまでもそんなことを続けられるなんてできるわけないのに

「でも、それが麻雀です。4人が卓を囲めば、勝てるのは1人しかいないんですから・・・」

その1人になるために打つのが麻雀なのに
私にはそれができなかった

でも・・・・

「けれど、実際には1人で打っていても、その背中を押してくれる人、背中を守ってくれる人・・・・戻ってくるのを待ってくれている人、いろんな人の思いを背負っています」

私が失点しても、誰も私を咎めたりしなかった

±0なんて、ただの逃げ
だけど、その逃げを期待されて・・・

そしてお姉ちゃんのクラスを±0にして、それはもっと酷い逃げで・・・
でも、それでも誰も咎めたりしなかった

逃げるのに必死でその場では気づかなかったけれど・・・
みんなの思いが、重たかった。こんなに重たいだなんて思わなかった
だけどその重みは、いつか自分と同化していて・・・
この重みと同じくらいに、みんなにも勝ってほしいって思うようになって

「みんなの思いがある限り私は勝ちたいと、そう強く思っています」

この気持ちに答えなきゃって・・・

私をまた、陽の光を求めて咲く、嶺の上で揺れる花にしてくれたから

みんなから水をもらって、光を浴びて
精一杯咲きたいと、今は思うから

「またみんなと打てる機会を、私も楽しみにしています。この大会を支えてくれた生徒会の皆さんにも、大変感謝しています。今日は本当にありがとうございました」

お姉ちゃんが一歩下がって一礼すると、講堂はいっぱいの拍手に包まれた

924: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/16(水) 00:10:38.74 ID:C9CHdplS0
-side 健夜-

対局室を出る
誰にも会わないように早く行かないと・・・

階段を降りきったけど、ロビーで仁王立ちする人影に私は足を止めた

「・・・・野依さん」
「どこに行くのっ!」

野依さんは本当に怒っているのではないのだろうけれど、口調の落ち着かなさからどうしても怒っているように見えてしまう

「・・・お忍びで来たから、これで帰るんですよ」
「みんな、久しぶりだよ!」

解読に少々時間を要した
他の先生たちとも久しぶりに会っていけってことだろうか?

もう私はここの先生ではないんだから・・・
あの人がいる限り、私はここに戻れないんだから・・・後戻りなんてできないんだから・・・

私は首を振った

「みんなには会えないよ。よろしくも、伝えなくていいですから・・・」

野依さんの横をすり抜けて、外に出る

「待って!」
「・・・表彰式が始まりますよ?」

なぜか後ろを付いてくる野依さん
・・・目立つからできればやめてもらいたいけれど

振り切るように歩みを早める。それでも野依さんは無言でついてくる
とうとう校門を出てしまったのに、まだ後ろを付けてくる

「いいんですか、表彰式?」
「小鍛治さんの方が大事」

はぁ、こうなったら聞かないからな・・・
駅についてしまえば流石に電車にまでは乗り込んでこないだろう

「・・・なら好きにしてください」

無視して駅に向かって歩くことにする
無言でついてくる野依さんのことを思考から消すように努めながら

932: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/20(日) 18:37:01.12 ID:BMbMoVEX0
-side 郁乃-

-2年前

「・・・戒能シフト~?」
「あまり気は進まないけどね・・・」

私は隣を歩くすこやんに問いかける

「具体的に何するん?」
「・・・クラス編成で恣意的に戒能さんのクラスを弱くしてる」

入学以来、クラス対抗戦・部活対抗戦・個人戦と敵無しの戒能良子
その彼女の3年のクラス編成は、かなり露骨に彼女を負けさせようとしているのが分かる

「確かに、戒能ちゃん以外のメンツはちょっと厳しいなぁ」
「あと今の2・3年生では彼女に太刀打ちできないからって、1年生の編成がかなり偏っている」

1年8組
担任がはやりんで、宮永照・弘世菫・辻垣内智葉・藤原利仙・白水哩

「インターミドルで上位やった子が固まっとるんやな~・・・」

ここまでして連覇を阻止したい理由が見えない
それに、1年を固めたところでそうそう連覇が止まるとは思えへんしな・・・

「理事長も何考えとるんやろうなぁ・・・」

すこやんも小さく首を振るだけ
私は編成会議には出てへんけど、すこやんは会議に出とるから理由を聞かされていてもいいと思うけど

「校長先生もみんな異論を唱えたけど、理事長が頑として譲らなくて・・・・理由を聞いても何も言わないし」
「なんなんやろうな~」

まあ、よく分からんことを考えたってしょうがあらへんしな

「ま、とりあえずランチにしよか。今日のおかずは初めて作ったやつから感想聞かせてほしいわ~」
「ごめんね、いつもお弁当作ってもらって」
「気にせんといて、好きでやっとるんやから~」

933: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/20(日) 18:38:36.94 ID:BMbMoVEX0
麻雀は鬼神のごとき強さのすこやんだけど、家事に関しては正直まるでダメなんよね



教員宿舎で隣の部屋になって、その隣から焦げ臭い匂いが漂ってきた時にはビックリしたわぁ・・・

「なんか臭うけど、火事?」
「あ、赤坂さん・・・」

隣の部屋を伺うと、オロオロするすこやんがいて
でも火事やったらもっと慌てとるやろうし、そんな大したこと無さそうかな

「なんか、レンジが壊れたみたいで・・・」
「はぁ、おじゃましてもええん?」
「うん、ちょっと見てもらえると助かるよ」

中に入ると、お世辞にも片付いているとは言えない部屋で・・・
キッチンには、普通のオーブンレンジがあって、今もウーンと静かに音を立てていた

「・・・これ、オーブンになってますよ?」
「え、オーブン?」

小さな文字でオーブンと表示されていた

「え、え・・・。電子レンジなのになんでオーブンなの?」
「いや、レンジとオーブンと両方できるやつやから」

訳も分からずに買って、今まではなんとなく使ってきたけどたまたまオーブンのボタンを押してしまったということだろう
とりあえずこれ以上焦がしても仕方ないので、スイッチを切る

「しばらく熱いからほっといて、冷めてから使ってな」
「あ、ありがとうございます」
「あんまり家事できへんのやね?」
「・・・・うん」

恥ずかしがってうつむいていしまうすこやん
うーん、とても1つ上とは思えへん

でも、なんかほっとけへんなぁ

「こんな焦げ臭い部屋じゃご飯も食べられへんやろ。私の部屋に来る? お昼はカレーやから、食べてってええよ?」
「えっ、悪いよ」
「でもほっといたら今度はレンジが爆発しかねんし~」
「流石にそこまでじゃないよ!」



そんなこんなで、いろいろと世話を焼くようになって・・・
いつの間にかお弁当を作ってあげたりするようになっていた

すこやんは私がおらへんとダメダメやからなぁ、なんて自惚れたりしてまう

恋愛感情みたいなのはなくて、年上のくせに手のかかる妹ができたみたいな感覚やったけど・・・・
それでも、なんとなくこんな関係がずっと続いたらええなって、そう思っていた


1年後、すこやんが学校を辞めるなんて思ってもいなかった

私のせいで・・・

934: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/20(日) 18:39:55.46 ID:BMbMoVEX0
-side 咏-

表彰式が終わると同時に、またメールが来た
メールの差出人は、野依さんだった

「野依さん・・・・。そういえば、いないな」

いくのんが表彰式に出てくるかどうかしか気にしてなかったけど・・
当のいくのんは表彰式のギリギリに来たんもんだから話しかけることができなかった

とりあえずメールの文面に目を通す

――小鍛治さん、白糸台駅にもうすぐ着いちゃう

・・・野依さん、まさかすこやんの後を付けてるのか
白糸台駅の電車は12分おきに出る。車で飛ばせばもしかしたら間に合うか?

「いくのん!」
「なに~」

表面上はいつも通りののんびりとした口調のいくのん
でも、そんなはずないよな・・・

教員宿舎に住んでないえりちゃんは気づいてなくても不思議じゃないけど、2人は隣同士であんなに仲良しだったんだから

「野依さんがすこやんの後を付けてる。もうすぐ駅に着くんだと」
「・・・だから言うたやん。会う資格なんてないって」
「そんなの知らんし。だったら野依さんに今すぐ電話して付けるのやめさせろよ」

野依さんがどこまで考えてすこやんを付けているのかなんて分からない
せっかく来たんだからみんなと会っていけばいいのに、くらいにしか思ってないかもしれないけれど

そうだとしても、この機会を逃したらもうすこやんには会えないかもしれない・・・

「別に、私のためにやっとるわけないんやろ~」
「ああ、そうかもしんねーよ。私が付けろって言ったわけじゃないしな。でもな、いくのん!」

私だって、なんであのとき殴ってでもすこやんが帰るのを止めなかったんだって思いはじめてる・・・
そう。ここで会ってくれなきゃ、みんな後悔すると思う

「会う資格がないなんて女々しいこと言ってる段階で、本当は会いたいんだよ。会いたくないだったらそんな七面倒くさいこと言わずに、会いたくないって言えばいいんだよ!」
「・・・・・なんも知らんくせに」
「知らねーよ、分かんねーよ。ただな、ちょっとのすれ違いでギクシャクしてるくらいだったら、とっとと会って解消したらいいだろ」

すこやんが学校を辞めた理由は私も知らない

ただ、すこやんが学校を辞めて一番落ち込んでいたのはいくのんだった
表面上はそうは見せなかったけれど、ときどき暗い表情を見せてため息なんてついてたら気づくっての

だからすこやんが今日学校に来たって知った時に、一番に教えてやったのに・・・

「・・・どんな顔して会ったらええんか、分からへんもん」
「5分で考えな」

ほら、ほんとは会いたいくせに・・・

「えりちゃん!」

遠巻きにこちらを見ていたえりちゃんに声をかける
教員宿舎に住んでいないえりちゃんは、自動車通勤をしている。だから、

「車出してくれ、今すぐ!」
「・・・え?」

無理やりいくんの腕をひっぱり、戸惑うえりちゃんを追い抜く

「いいからダッシュ、時間がないんだ」
「は、はいっ」

935: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/20(日) 18:42:20.95 ID:BMbMoVEX0
-side 浩子-

園城寺先輩が倒れたときはどうなることかと思ったけど、とりあえずは無事に対抗戦は終わった
けれど、まだいろいろ片付いてはおらんみたいやな・・・

三尋木先生、赤阪先生、針生先生の3人が慌ただしく講堂を出ていく

校長派として宮永照を勝たせるために動いてきた三尋木先生
その逆に、理事長派として宮永照を負けさせるために動いてきた赤阪先生
その2人が一緒にどこかへ行こうとしている・・・

「おばちゃんにでも、探り入れてみるか?」

誰に言うでもなく、独りごちる
末原先輩が目標としていた、クラス対抗戦の妨害阻止はとりあえずクリアしたとみていい

あとは、個人的な興味の問題だけ・・・

末原先輩に言われて集めたこれまでの歴代対抗戦や個人戦の勝者のデータは興味深いものだった
宮永照を除いた歴代の6冠以上は4人

熊倉トシ・愛宕雅枝・小鍛治健夜・戒能良子

全員が3年のクラス対抗戦で敗北している
けれど、戒能先生のクラスは明らかに弱体化していた。そして今回の宮永照への妨害・・・

ターニングポイントがあるとすれば、小鍛治健夜の敗北

小鍛治健夜の3年のクラス自体は可もなく不可もなくだったが、他のクラスも戦力が分散されている印象だった。全体的に平坦すぎるほどに平坦・・・平坦であれば、小鍛治健夜のクラスの勝利は約束されたようなもの

まるで小鍛治健夜の勝利を望んでいるかのような編成・・・
少なくとも私にはそう読み取れる

けれど、それを破ったのは当時1年の赤土晴絵と藤田靖子

先鋒でぶつかりあった小鍛治健夜を、赤土晴絵はリードを許したものの見事に抑えた
先鋒で10万点以上のリードは当たり前、下手をすれば先鋒戦だけでトビまでありうる小鍛治健夜との差を3万点で抑えたのだから、大健闘だろう
中盤で少しずつその差を詰めた当時の1年15組は、大将の藤田靖子でまくって逆転勝利を収めた

「・・・代行はどこに行くんや」

隣には末原先輩がいた
考えにふけっていた私は不意を打たれる

「突然現れんでください、ビックリしますわ」
「悪いな。一応、礼だけは言っとかないとアカンと思ってな」
「礼ですか?」
「クラス対抗戦も無事に終わった。協力してくれて助かったわ」

そう言って、小さく頭を下げる末原先輩

「礼には及びません。それになかなか興味深いデータが取れましたわ」

末原先輩を見て、不意に真瀬先輩のことを思い出す
園城寺先輩の代わりに中堅戦に出たけれど、出たらレギュラー剥奪・・・

「中堅戦の交代はビックリしましたけど?」
「・・・あれは単に怜が無茶しすぎただけや」

表立っては言わない方がいいと判断して、曖昧に尋ねる

「まさか洋榎さんがマイナスを食らうとは思いませんでしたわ」
「あれは由子以外みんなビックリしとる」

・・・ふむ、レギュラー剥奪は覚悟の上で真瀬先輩は交代を名乗り出たというところか

「あと、絹の体調はどないかご存知ですか?」

同い年の従姉妹、愛宕絹恵
小さい時から知っているけれど風邪一つ引かない健康体が、この大一番で体調不良とは考えにくかった

「なんなら、今から見舞いに行くか? ここでどうこう言うより、その方が分かりがええやろ」

ここでは話されへんってことか?

「そうですね、どうせこの後は寮へ帰るだけですから」
「じゃあ決まりや、行こか」

ほんと、まだいろいろ片付いてはおらんみたいやな・・・

936: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/20(日) 18:45:00.58 ID:BMbMoVEX0
-side えり-

言われるままに、咏さんと赤阪先生を乗せて車を出す

「どこまで行くんですか!」
「白糸台駅。頼むぜ、えりちゃん!」
「まったく、仕方ないですね」

いつだって突拍子の無い人なんだから・・・
さっきは針生さんだなんて言って怒っているかと思ったら、もう「頼むぜ、えりちゃん」なんだから

まったく、勝手が過ぎます
まあ、それを心地よいと思ってしまっている段階で、私の負けなんだろうけど・・・

時間帯的には渋滞が始まる頃
でも、任された以上、最短時間でたどり着いてあげますよ

「ちょっと無茶しますよ!」

頭の中であらゆる抜け道が浮かぶ
その中からこの時間帯一番空いていて、極力安全な道を考える。事故なんて起こしたら意味がない

「・・・なんでここまでするん?」

か細い声で、聞き逃しかける
後ろに座る赤阪先生と、咏さんの表情は見えない

「いろいろ聞きたいのはこっちだっての。なんですこやん辞めたんだ。なんでいくのんを避けるんだ?」
「・・・・知らへんよ」
「ほう、会う資格うんぬん言ってたのにか?」

赤阪先生は返事を返さない

小鍛治さんとは連絡を取り合っていた私だけど、赤阪先生の様子だけを聞かれたことはなかったと思う・・・
仲がいいのは、てっきり福与さんかと思っていたけれど・・・

「まあいいさ。一応そっちの質問に答えておくと・・・ただのおせっかい」
「・・・・ろくな理由やないな~」
「理由なんてそんなもんだろ」

電車を使わないので何分に電車が出るのか分からない
だからもう電車に乗りんでしまっているかもしれない・・・・

「咏さん、野依先生に連絡を取った方がいいんじゃないですか?」
「おう、そうだねぃ。でも野依さん、電話だとますます何言ってるのかわっかんなくなるよなー」

あと信号2つ、まっすぐ抜けるだけ・・・
でも赤になってしまったので仕方なく停車する

「もしもし、野依さん?」

電話の向こうの野依先生の声が微かに聞こえるが、いつも以上にテンパっているのだけは分かった

「おおう。よし、殴ってでも引き止めてくれ!」
「間に合わんならそれでええって・・・」
「田舎じゃないんだから、電車の一本くらい遅れたって大丈夫だって。もうすぐ着くから、頼むぜぃ」

通話が終わると同時に信号も青になった
ここが青なら次の信号も青のままいける。アクセルを踏みこむ

「もうすぐ着きます」
「うっし、終わったらまた迎えに来てくれよ」
「ええ、近くで待機してます」

駅に到着した
小さなロータリーに車を付ける

「ほら行くぜ、いくのん」
「すこやんはもう電車乗って帰ってるって」
「つべこべ言ってないでとりあえず行くぜ」

気乗りしない赤阪先生の手を引っ張って、咏さんが車を降りる
小さな背中がますます小さくなっていくのを見届けて、私は近くの駐車場を探すことにした

940: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/25(金) 22:37:59.90 ID:y6WeG5Yq0
-side 理沙-

「電車、来る!」
『おおう。よし、殴ってでも引き止めてくれ!』

三尋木さんからの電話を受ける
ホームには電車の到着を知らせるアナウンスが流れる
どうしよう、殴ってでも止めるなんて・・・

「じゃあ、お疲れさまでした」

小鍛治さんはもう電車に乗り込む気まんまんだし、私がなんとかしないと

「・・・行かないで!」
「そういうわけには、いかないので」
「じゃあ殴る!」
「ええええっ」

ああ、思わずとんでもないことを言ってしまった気がする。でもとにかく止めないと
私は思いっきり右腕を上げた

「ちょっと、ほんとに殴る気ですか!?」

小鍛治さんが怯えて体を半歩後ろにそらす。私はそのまま右腕を振り落とした
目をつぶって両手で頭をガードする小鍛治さん

よし、視線がそれたっ

私はそのまま小鍛治さんに抱きついた

「え、ええっ」
「捕まえた!」
「離してください、電車が来ちゃう」
「離さない!」

私から離れようとするけど、私は目一杯抱きついて小鍛治さんを逃がさない
電車が到着すると、降りてくるお客さんの視線を集めるけれど、今はそんなことを気にしている余裕はない

必死に抱きついて、なんとか小鍛治さんを電車に乗せないことに成功した
電車が行ってしまったので、私は小鍛治さんから離れた

「野依さん、どうしてここまでするんですか・・・」
「さみしいから!」
「さみしい?」
「そう、さみしい・・・」

訳も分からず学校を辞めてしまって
久しぶりに会えたのにゆっくりもできずに帰っちゃうなんて、さみしい

「野依さん! ほら、いくのん、すこやんいるぞ!」

振り返ると、改札口から三尋木さんが赤阪さんを引っ張ってくるところだった
小鍛治さんが、小さくため息をつく

「気まずいなぁ・・・」

きっと言えない理由があって辞めっちゃったんだろうけど・・・
そんなの、周りはそこまで気にしたりしないのに

「ほらいくのん、とっとと顔見せなって」
「やから、どんな顔したらええかわからんってゆうとるのに」

赤阪さんが三尋木さんの後ろに隠れようとするけれど、小さな三尋木さんじゃ隠れようもなくて・・・

赤阪さんは、ほんとに複雑な表情を浮かべていた

泣きたくもあり、笑いたくもあり
悲しくもあり、怒りたくもあり・・・

「野依さん、ありがとな。それでさ、ちょっと2人きりにしてやってくんね?」

三尋木さんが無理やり赤阪さんを小鍛治さんの前に押し出した

「分かった!」

きっと、2人の間に特別な事情があるのだろう

「2人とも、頑張って!」

こんなことしか言えないけれど。2人の表情を見てたら、次の電車が来るまでのわずかな時間だけかもしれないけれど、それが貴重な時間になるのは分かるから

941: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/25(金) 22:40:14.77 ID:y6WeG5Yq0
-side 照-

「はぁ、なんで明日普通に授業なんやろうなぁ・・・」

表彰式も終わり、教室に戻る途中
怜がため息をついた

月曜日から始まって4日間のクラス対抗戦が終わったけれど、まだ金曜日が残っている。土曜日は休みだけれど

「今日は疲れたし、打ち上げは明日かな?」
「打ち上げとかちょー楽しみだよー」

塞と豊音は、打ち上げはどこに行こうかと盛り上がってた

「宥は、どこか行きたいところある?」

対抗戦の前はボウリングに行ったけど、流石に同じところというのも芸がないかな
宥は、うーんと首を傾げた

「特にどことかは、無いかな・・・。ぱっと思いつくのはカラオケとかだけと、私そんなに歌とか上手じゃないし」
「私も、あんまり歌えるのない」

人前で歌うのはいくら友達でもちょっと恥ずかしいし、みんなを盛り上げるような曲も知らないし・・・

「カラオケー! 行ってみたいよー。行ったことないんだ!」
「ええなぁ、今からでも行きたいくらいやわ」
「怜は今日は寝ないとダメなのよー」
「由子はケチやなぁ・・・」
「体が資本なのよー」

カラオケという言葉が聞こえてしまったのか、豊音がはしゃぐ
怜も同調したが、流石に由子が諌めた

「どっちにしても、今日は私はパスだよ。早く帰らないといけないから」

もしかしたら咲のクラスは打ち上げでどこかに行くかもしれないけれど、晩御飯の用意とか洗濯物片付けたりとか色々あるし

「予定はこっちで立てとくから、明日は空けといてよ」

塞がそう言うのに頷いて

「照ちゃん、咲ちゃんによろしくね」

悪いようにはなっていないと、宥は言っていた
きっと、そうなんだろう

「あ、電話・・・」

宥の携帯が鳴る

「憧ちゃんだ」

宥は新子さんと2、3会話をかわして、電話を切った

「照ちゃん、憧ちゃんたちのクラスは今日打ち上げするんだって」
「そっか。じゃあ咲も?」
「うん、照ちゃんにも伝えてって言ってたよ」

じゃあ晩御飯はそんなに用意しなくてもいいのか・・・・

「照ちゃんは今日は忙しいの?」
「え、まあ。洗濯物とかあるから。晩御飯は簡単に済ませようと思うけど」
「そっか・・・」

意味ありげな視線を受けて、質問の意味を理解する

「まあ、慌てて帰るほど忙しいわけじゃないけれど」
「うん、だったらちょっとお部屋に寄ってほしいな」

はにかむ宥に逆らえる訳もなく、私はゆっくり頷いた

942: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/25(金) 22:41:21.66 ID:y6WeG5Yq0
-side 小蒔-

表彰式が終わったあと、憩ちゃんは言った

「みんなで絹ちゃんのところ行かへん?」
「え、でも体調が悪いのにみんなで押し寄せて大丈夫かな?」

玄ちゃんの指摘ももっともだった

「私は今日のところはメールで済ませといたらええと思うけど」
「む、衣はお見舞いに行きたいぞ」

漫ちゃんは反対して、衣ちゃんは賛成
みんなの意見が真っ二つになって、自然と私に視線が集まる

「わ、私は・・・」

逡巡して、

「お見舞いに行きたいです」

やっぱり突然体調を崩したというのも心配だし、なによりこの4日間一緒に頑張ってきた結果も直接話したかった
負けてしまったけれど、みんなで一生懸命戦ってきたんだから

「3対2やな、じゃあお見舞いに行こか」
「ん、まあ顔くらいは出しとかなな・・・」
「たくさんでお邪魔そうだったら、私は部屋の外で待ってるからね」

漫ちゃんも玄ちゃんも一緒に来てくれるようだった
うん、きっとみんなで行ったほうが絹恵ちゃんも喜んでくれるはず

みんなで寮に向かって歩いていくと、

「あ、末原先輩」

漫ちゃんが、船久保さんと歩く末原さんを見かけて声をかけた

「漫ちゃん、10組総出でどないしたん?」
「これから絹ちゃんのお見舞いに行こうと思ってたんですよーぅ」

聞くと、末原さんと船久保さんも絹恵ちゃんのお見舞いに行く途中だったようだ

「流石に7人は多すぎですわ。私は遠慮しときましょう」
「え、大丈夫だよ。私はお部屋に入らないから。浩子ちゃんと絹恵ちゃん従姉妹なんだから遠慮しなくてもいいよ」

船久保さんが辞退しようとするのを玄ちゃんが止めた

「順番に見舞えばいい。全員で行ったほうがきっと絹恵も喜ぶぞ」

衣ちゃんが喜色満面にして言うので、誰も反対できなくなってしまったようで

「ま、とりあえず絹ちゃんの様子を伺ってから考えたらええ」

末原さんがそうまとめて、7人でお見舞いに向かうことになった

「・・・明日にするか」

誰に言うでもなく、末原さんが呟くのが聞こえた

943: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/25(金) 22:43:44.97 ID:y6WeG5Yq0
-side 健夜-

はぁ、どうしてこうなっちゃったんだろ・・・

「とりあえず座ろうか」

いずれにせよ、電車がまた来るまで10分くらいはある
郁乃ちゃんに席を勧めると、大人しく座った

「あんな・・・」
「だいたいは、針生さんから聞いてる」
「・・・そうなんや」

俯いたままの郁乃ちゃん
こうなるから、会いたくなかったんだけど。でもそれもただ引き伸ばしただけで、いつかはこうなったんだろうと思う

「宮永照、勝ったな」
「うん、そうだね」
「私は、何をしてたんやろうな~」

郁乃ちゃんが宮永さんを負けさせるために動いているのは知ってた
だから余計に、会いたくなかった・・・

何のためにそんなことをしたのか、分かってしまったから

「理事長から、何て言われたの?」
「・・・・持ちかけたのは、私の方からや」
「何を?」
「宮永照が負けたら、すこやんを復職させてくださいって・・・」

そんなことだろうと思った
どうして私なんかのために、そんなことするかな・・・
だから、気が重くなっちゃうんだよ

1年前、郁乃ちゃんはちょっとした仕事のミスをした
けれど、あの理事長はミスの大小に関わらず郁乃ちゃんに目をつけていたんだろう

ミスに付け込んで、去年郁乃ちゃんを宮永照シフトの責任者にしようとした

当然郁乃ちゃんは反対する
2年に進級する宮永照はまだ3連勝しただけ、ジンクスになぞらえてクラス編成をいじるには早すぎる

理事長は強硬姿勢を崩さない
きっと恐れたんだろう、宮永照が9冠を達成してしまうことを

もうあなたには懲り懲りだよ、理事長・・・
だから辞表を叩きつけてやった
平静を装いながら、それでも内心で狼狽えているのだろうと思うと、少しは溜飲も下がった

この1年間は宮永照シフトを敷かないこと。来年以降のシフト責任者を郁乃ちゃんにしないこと
宮永さんが3年になってそれでも連覇を続けていたら、またシフトを強行するのは目に見えていたけれど

その条件だけは飲ませた

だから、やりたくなかったはずのシフト責任者になっていると聞いて、苦しかった・・・

944: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/25(金) 22:47:04.58 ID:y6WeG5Yq0
「なあ、すこやん・・・」
「なぁに?」

まだ俯いたまま
うん、それでいいよ・・・

私も、面と向かって話されたら、きっと視線を泳がせてしまうから

「夏になったら善野先生帰ってくるんよ」
「そうなんだ・・・。確か倒れたの、私が辞めてちょっとしてからだったんだよね」
「サッカー部の顧問代行もそれで終わるから、潮時かななんて思うんよね」
「うん、そうしなよ・・・」

私だって辞めている
なのに続けろなんて言えなかった

「久しぶりに、郁乃ちゃんのご飯も食べたいななんて、思ってたところだよ」
「せやな、せやなぁ・・・・」

郁乃ちゃんがしゃくりを上げはじめる

もう、泣かないでよ
私は慰めたりするの苦手なんだから・・・・

「何食べたい? なんでも言ってや・・・」
「カレーかな。私たちが最初に食べた」
「・・・・あの頃より、もっと上手くなっとるけどな」
「楽しみだね・・・」

もううまく言葉を紡げていない郁乃ちゃんを、そっと抱き寄せた

ほんと、なんで私なんかのためにここまでしてくれたんだろう
ここまで、泣いてくれるんだろう・・・

「離れてみて分かるよ・・・・。私、郁乃ちゃんがいないとなんにもできないって」
「・・・もう、離れたらあかんよ」
「そうだね・・・」

それでも、どこかで思う
ここまで想ってもらえるほどに、私は価値のある人間なんだろうかって
こんなことになるんだったら学校に、残るべきだったんじゃないかって・・・

そうは思えど、あの人の影がちらつく
結局、私には逃げるしかできなかっただろう



――次の電車がもうすぐ到着すると、アナウンスが入った

945: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/25(金) 22:49:27.90 ID:y6WeG5Yq0
-side 恭子-

絹ちゃんを見舞いに行く途中で、2年10組の面子と遭遇してしまった

この中で、絹ちゃんが仮病だと知っているのは私だけやし、上手いことフォローしたらなかんな
船久保だけやったら本当のこと話して今後のことについて話でもしようと思っとたけど、まあ明日にするしかないな

どうせ代行はどこかに行ってしまったしな
対立しているはずの三尋木先生と一緒に行動しとったのは気になるけれど、それも含めて今日は動きようがない

「あの、ご迷惑でしたか?」

声をかけてきたのは、神代だった

「ん、なんで私が迷惑なん?」
「いえ、明日にって言っていたようなので」

思わずつぶやいていた言葉が聞こえてしまったようだった
ぽやぽやしているようで、意外と鋭いのかもしれんな・・・

「気にせんでええよ。部活の話とかあったんやけど、別に今日でなくてもええことやしな」

遠からず近からずの回答をしておく
下手にごまかしても勘付かれそうやしな

「そうですか。それならいいんですが・・・」

浮かない顔の神代

「ん、まだ何かあるんか?」
「いえ、絹恵ちゃんが体調不良なのも心配なんですが、園城寺さんが倒れてしまったのも、大丈夫なのかと思って・・・」
「表彰式に出とったやろ、心配せんでもええよ」

怜のことか・・・
神代や洋榎、それに原村といった実力者相手に、怜は無理をしすぎた。結果、由子が出場することになった
まあ、誰を責めるなんて話やないけれど

「でも、私のせいで倒れてしまったので。ちゃんと謝りたくて」
「単に怜が無茶しただけや。それは自己責任ちゅうもんやで」
「その・・・・。いえ、すいません・・・」

言いよどむ神代
神代には何か見えて、それで責任を感じているのかもしれんけど・・・
見えた何かを言ってくれへんと、凡人の私には解決しようがないで

「謝りたいのなら、謝りたいって気持ちがあるうちに謝った方がええで。時間が経てば経つほど、気持ちに重りがのしかかって動かれへんくなる」

メゲるときだってあるし、辛くて逃げたくなる時だってあるけれど・・・
それでも前を向かなければ、前には進めない
足が震えて、目をそらしたくなっても、それでも・・・

「・・・そうですね」
「なんなら怜と連絡とってもええで」
「園城寺さんも、寮生ですよね?」
「ああ、そうやで」
「なら、絹恵さんのお見舞いが終わってからでも、お会いできますよね?」
「まあ、メールはしとく。もしかしたら打ち上げで帰りが遅いかもしれんからな」

優勝したクラスやから、そのままの流れでどこか遊びに行くということは考えられた
ただまあ、私がクラスにおったら明日にしろと言うけれど

怜からのメールが帰ってきた
由子に怒られたからまっすぐ帰る、か・・・・

「ありがとうございます、末原さん」
「ただのおせっかいや、礼なんていらへんよ」

そうこうしているうちに、絹ちゃんの部屋までついた
率先して、荒川が扉をノックする

「絹ちゃーん、起きとるー?」
「・・・・今開ける」

辛そうな声が返ってきて、ロックが外れる音がする

946: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/01/25(金) 22:51:32.26 ID:y6WeG5Yq0
「わ、みんなおるんや・・・。それに末原先輩に浩子も」
「お見舞いにきたぞ、絹恵」
「あ、ありがと。でもこんなにたくさんは部屋に入られへんよ」

かえってこの大人数の方が断る理由にはなるかもしれんな

「うん、顔を見に来ただけだから。大丈夫そうで安心したよ」
「まったく、長い付き合いやけど絹恵が病気とかいまだに信じられへんわ」
「もう、私だって病気くらいするって・・・」

絹ちゃんはうつむきながら受け答えする
まあ、顔色までは誤魔化せへんからな。極力正面は向かない方がええやろ

「絹ちゃんの代わりのとかしんどかったんやで。今度おごってな」
「あはは、ありがとな」

いきなり宮永や竜華の相手をした漫ちゃん
まあ爆発の片鱗は見せたし、これからもっと鍛えたらなあかんな

「絹恵ちゃん。私たち、4位でした。優勝したかったけど・・・。ごめんなさい」
「小蒔ちゃん、なんで謝るの。足引っ張ったのは私やで・・・」
「あとはまた明日にしよか。絹ちゃんも、立ち話じゃ辛いやろうしなー」

荒川がさっと神代と絹ちゃんの間に入る

ええタイミングやな。ほっとくと私が私がって無駄なループをしかねん・・・
ただ、なんとなく荒川は気付いとるような感じがするな・・・
絹ちゃんが、ほんとは体調不良やないってことに

「みんなごめんな、急にこんなことになって・・・」
「そんなしょげとったら、洋榎にどやされるで。だからあんまり気にしたらアカンで、絹ちゃん」
「お姉ちゃんにはもうどやされてますわ」

最後に絹ちゃんが小さく笑みを浮かべる。洋榎の言葉が一番の薬なんやろう

そうして絹ちゃんのお見舞いは終了して、解散になった
そこへ、荒川が声をかけてくる

「末原さん、ちょっとええですか?」
「どうしたん?」
「絹ちゃんことやけど、何か聞いてますか?」

探るような感じ、そこまで確信持ってる訳やあらへんのか・・・

「仮に何かあったとしても、それは絹ちゃんが言うのを待つべきやと思うで」
「そうかも、しれませんね・・・」

もう、終わったことやしな
後始末はせなならん、あまりことを大きくしてもな・・・

「もう一つ、ええですか?」

このあとに続く荒川の質問は、想定していなかった

「赤阪先生、辞めへんよね?」
「は? 辞めるって、学校をか?」
「保健室で絹ちゃんの病欠を聞いたときはなんとも思わへんかったけど、今から思うと、なんかいつもとちょっと違う感じがして」

荒川が言うには、いつもなら感情が読み取りにく代行だけど、少し無理をしているのが伝わってきたらしい
だから、絹ちゃんが休んだのは漫ちゃんと交代するためじゃないかと、直感でそう思ったようだった

ふむ、さすがの洞察力というべきなんやろうな

「でも、それがなんで学校辞めるなんて話につながるんや?」
「んー、なんとなく、としか言えへんのです。そのくらいの覚悟してへんかったら、そんな無茶せーへんやろうなって」

代行が、学校を辞める?
夏に戻ってくる、善野先生・・・・
ちょうど顧問も交代できて、辞めるにはいいタイミングかもしれへんけど・・・

散々迷惑かけられて、辞めてくれるならせいせいするはずやん・・・
でも、なんでこんなもやもやするんや・・・

いや、まだ仮定の話や。暴論もええとこや
宮永照が勝ったくらいで、なんで学校まで辞めなあかんねん。そんなこと、あるわけないやろ

「変な話してごめんなさい。でも、末原さんくらいしか話せる人おらへんと思って」
「ああ、せやな・・・」

私は、適当な相槌を打つので精一杯だった

952: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/04(月) 00:09:01.06 ID:yO9yCiR60
-side えり-

咏さんからメールが来たので、ロータリーへ車をつけた
改札から出てきたのは、咏さんと野依さんだけだった

「えりちゃん、ありがとねぃ」
「ご苦労さま!」

咏さんが助手席に、野依さんが後部座席にそれぞれ乗り込んだ

「あの、赤阪さんは?」
「すこやんと話してるよ」
「引き止めた!」

どうやら、野依さんが小鍛治さんの引き止めに成功したようだ。一体どうやったのか気になる・・・

「ま、あとはあの2人に任せるしかないさ・・・」

ロータリーに長く停めておくことはできないので、車を一度走らせる

「さって、えりちゃん。すこやんとの関係についてうかがおうか?」
「・・・このタイミングでですか」
「このタイミングしかなくね? 知らんけど」

野依さんもいるというのに・・・・

「いや、ほんとに。一番口が硬そうって理由で連絡をもらって、学校の様子を教えていただけですよ」
「信頼されてんのな・・・・」
「・・・・すねてます?」
「すねてねーし!」

運転中だから表情はうかがえないけれど・・・
これは確実にすねてるなぁ

もう、そんなんじゃないのに

「逆に私が聞きたいくらいですよ。小鍛治さんが突然辞めた理由とか、赤阪先生との関係とか、今回の宮永照シフトと関係があるんですか?」
「私も全部知ってるわけじゃないよ。ただな、きっとすこやんは辞めたくて辞めたんじゃないんだと思うんだ。じゃなきゃ、学校の様子を気にしてえりちゃんに連絡とったりしないだろ・・・」
「そう思う!」

野依さんも同意した。確かに、未練があるのだろうと言われれば、そうとしか言えない・・・

「シフトのことも、校長先生からテルルを守ってやれって言われたくらいだしなぁ。でもなんとなく想像はできるよ」

咏さんがため息をついた

「理事長だか、理事長の関係者だか知らねーけど・・・・。きっとすこやんに変な愛情の注ぎ方してるんだと思うんだ」
「・・・ちょっとよく意味が分からないのですが」
「すこやんに成し遂げられなかった9冠、完全制覇を、他の人にされたくないって考えてそれを実行できちゃう人がいても、おかしくないと思ってるんだよね」

そういう感情を、理解できないわけではない・・・
自分の出した記録が抜かれた時にどう感じるのかは人それぞれだけど、この記録は抜かれたくないという感情は多少なりとも生まれるはずだ

「でなきゃ、説明がつかないんだよね。私も連覇記録は気になってちょっと調べたんだけど、すこやんにはむしろ甘いくらいのクラス編成だったのに、戒能ちゃんには厳しいシフト組んでるわけだからさ」
「じゃあ、小鍛治さんに執着している誰かが指示して連覇をさせないようにしてるってことですか?」
「私はそう思ってる。まあ、それが正解かどうかなんてわっかんねーけどな」

もしそうなら・・・
宮永さんはなんの関係もないのに、ただとばっちりをくらっただけということになる

こういう咏さんの推理って、だいたい当たるからなぁ・・・


踏切に差し掛かると、小鍛治さんの帰り方面の電車が通過していった
あれが駅に着けば、小鍛治さんは帰ってしまうんだろうか・・・

955: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/12(火) 00:01:58.66 ID:qv6IIvio0
-side 照-

宥の部屋に入る

今更驚きはしないけど、やっぱりこの時期にまだコタツとストーブがあるのはなかなかシュールだなぁ・・・
っていうか、夏でもあるらしいから、「まだ」とかじゃないようだけど

宥の匂いがする
とっても安心できる…
なんだかんだで、今日まで張り詰めていたものが、ゆっくりとほぐれていくようだった

「お茶入れるね」
「うん」

熱いお茶を入れるのは分かっているけれど、流石にそこまでは合わせられなくて
宥が入れてくれたお茶に、氷を1つ入れる

ちょっと狭いこたつだけと、思いっきりくっつけば隣同士で座ることはできた

「もうちょっと大きいこたつ買った方がいいのかなぁ・・・」
「それはダメ」

だって、くっつける方がいいよ
お茶を一口すすり、宥の顔を見る
宥も、私の方を見ていた

「ありがとね・・・」
「どうしたの、急に?」

私が不意にお礼を言ったのに、宥はキョトンとした

「うん、なんというか・・・、いろいろ。今日なんか特に、怜が倒れたりしたし・・・それでもなんとか優勝できて。でも、ここまでこれたのは、宥のおかげだから」
「私は何もしてないよ」
「そんなこと、ない。だって、宥がいなかったら、私はもしかしたら途中で手を抜いて勝たないようにしていたかもしれない」

由子が脅されたと知って、誰も動いてくれなかったら・・・
私は、ざわと負けることを選んでいたかもしれない

「それを、勝つ勇気をくれたのは、間違いなく宥だから」
「そっか・・・。私はただ、照ちゃんの一番カッコいいところを見たかっただけだよ」
「・・・・勝つところが?」
「勝ちに向かって駆け抜けるところ、かな?」

小首をかしげて微笑む宥
はぁ、ほんとに、宥には叶わないな

「じゃあ、今日の私は、カッコよかった?」
「うん、カッコよかったよ」
「ギギギって反転コピー、結構振り込んだりするからあんまりカッコよくないと思うだけどね・・・」

まだまだ未完成だったから、できれば大事な決勝戦で使いたくはなかった
けれど、宥は首を振る

「うーん、駆け抜けるところっていうのは、最終的に勝てなくても、勝とうとして一生懸命に戦ってるところってことだよ」
「ま、まあ・・・。一生懸命ではあったかな」

どちらかというと、必死というか、もがきながらなんとか追いついたという感じだった

それが、カッコいいのかな・・・
あまり実感は沸かなかったけれど
麻雀をしてて怖がられることはあるけれど、カッコいいって評価はあまり受けたことがなかったから・・・・

ちょっと手を動かした時、宥の手に当たった
反射的に手を引いて、またゆっくりと、宥の手のあった場所を探り当てる

ちょんちょんと、手の甲をさする

「なあに?」
「なんとなく」
「なにそれ…」

苦笑しているけど、構わずまたさする

ん、感じが変わった?
と思った瞬間、指を掴まれた。ああ、手の甲じゃなくて、ひっくり返って手のひらをさすってたんだ…

「つかまえた」
「うん、つかまっちゃた」

956: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/12(火) 00:03:48.32 ID:qv6IIvio0
宥が私の指を捕まえた手で、今度は指を絡めてくる
ああ、恋人繋ぎってやつだ・・・

「ねえ、照ちゃん」

こたつだからあったかいのか、宥の手に包まれているのかよく分からないまま
それでも、私はギュッとにぎりかえす
まるで手がしびれてしまったかのように、ジンジンとする
それが心臓にも伝わって、今度はドクドクいい始めて・・・

「なに、宥?」
「キス、していい?」

宥は顔を真っ赤にしていた
私もつられて真っ赤になっていることだろう。もう顔が熱くなりすぎてよく分からない・・・

「あ、改めて言われると緊張しちゃう・・・」
「突然初めて奪っておいて、そんなこと言うの?」

あ、初めてだったんだ・・・

「そんな言い方、ずるい…」
「ごめんね。だから、仕返し」

ゆっくりと、宥の唇が近づいてくる
宥が瞳を閉じるのにつられて、私もゆっくり目を閉じた

繋がった手を、さらに強く握り締める

そして――

「おねーちゃん、いるー? 優勝おめでとう!」

いきなり扉が開く音がした

・・・え?

「って、あれれ・・・」
「玄ちゃん、お部屋に入るときはノックしてっていつも言ってるでしょ!!」

目を開けると、扉の向こうで立ち尽くす玄ちゃんがいて・・・
宥は顔を真っ赤にしたまま、その玄ちゃんを怒鳴っていた

「あ、えっと、おねーちゃんと、チャンピオンが、キス?」
「玄ちゃん、これは、その」

慌てる宥は言葉がうまく紡げていない
私もなんと言っていいのか、頭が真っ白になってよく分からない

もうすでに3年の何人かには、私と宥がそういう関係だって知られているわけだし、今更慌ててもしょうがない
というのは、しばらく経ってから思ったことで

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

バターン!

大声をあげて、玄ちゃんは勢いよく扉を閉めた
声が遠くなっていく。どこかへと走り去ってしまったようだ…

「あ、玄ちゃん!」
「どうしようか、これ・・・」

寮は広いようで狭い、なんて話を聞いたことがある
特に噂話なんかはあっという間に広まるらしい・・・

「とりあえず、追いかけてみる?」
「そ、そうだね・・・」

その時にはもう、いろいろと手遅れだったけれど・・・

957: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/12(火) 00:05:35.68 ID:qv6IIvio0
-side 怜-

恭子からメールが来た
どうやら、神代が用事があるらしい

隣を歩く竜華にメール画面を見せる

「ってメール来とるんやけど、どないしよか?」
「不安なら一緒におったるけど?」
「今日のことなんかな?」
「まあ、それしかあらへんやろな・・・」

中堅戦で、私の未来視に割り込んできたこと
それくらいしか、神代と私との繋がりはない

「まあ、とりあえず部屋で待っとればええか」
「じゃあ私も怜の部屋にお邪魔するな」

部屋について、早速横になる

「はぁ、やっぱり布団がええな」
「さらに膝枕のオプションはいかがですか?」
「勘違いしたらあかんで」

ベッドに腰掛けて膝をポンポンと叩く竜華をきっと睨んだ

「布団がオプションで、竜華の膝枕がメインやで!」
「怜! 私は感動した!」

というわけで早速竜華の膝枕を堪能する。恭子のも悪くはなかったけど、やっぱり一番は竜華やなぁ
こんな膝枕で寝られるなんて、私は幸せもんや

「このまま死んでもええな」
「縁起でもないこと言わんといてや・・・」

頭を撫でてもらうと、眠たくなってくるな・・・

「ちょっと寝てええ?」
「ああ、神代来たら起こしたるからな」

そう言われると、あっという間に私は眠りについていた


次に目を覚ますと、目の前には神代が座っていた

「あ、怜。起きたん?」
「神代来とったんか、やったらすぐ起こしてくれてよかったのに」
「いえ、今座らせていただいたばかりですから」

お気遣い無くと会釈をする神代
流石にこのままじゃ悪かろうと、体を起こしてベッドに腰掛ける

「それで、何の用やったっけ?」
「今日の中堅戦のことです」

真剣な表情の神代は、いきなり頭を下げた

「本当に、申し訳ございませんでした」
「え、いきなり何謝っとるの?」
「その、対局中にはちゃんと言えませんでしたが、少しくらいは覚えてるんです。未来の中に割り込んだこと」

ああ、だからか・・・
未来の中でも、かすかにやけど謝る声が聞こえてきたんわ

あの未来いじっくって人の心折るのが生きがいみたいな神様やったら、絶対に謝らへんやろうからな・・・

「園城寺さんの未来に割り込んで、園城寺さんが倒れてしまったのは私のせいなんです・・・。だから、どうしても謝りたくて」
「いや、まあ確かに割り込まれたときは怖かったけどな・・・」

とりあえず神代に頭を上げるように促す
神代は、今にも泣きそうな表情に変わっていた

「でも、そのおかげで、いろいろ分かったこともある」

なあ神代、自分やない誰かに勝手に麻雀打たれるって、どんな感覚なんやろうな・・・
今となっては、未来いじられるより、そんな麻雀をいつも打ってる神代の方がかわいそうに思えてきたり、するんやで

「未来視に頼りすぎて、私は自分で考えるのを止めてたんやって気付けたし。なによりな」

隣で黙って話を聞いていた竜華を抱き寄せた

958: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/12(火) 00:08:02.29 ID:qv6IIvio0
「わ、突然なんやの、怜」
「私がピンチになったら、この竜華が駆けつけてくれたんやで。かっこよすぎるやろ?」
「そうでしたね・・・。覚えてます」
「だからまあ、結果的にはプラスになっとるんや。そんなに気にせんといて」

まだ釈然としてないようやったけど、そんな表情を打ち消すように、廊下で叫び声が上がった

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
「な、なんや?」

竜華が立ち上がって、廊下まで様子を見にいった

「玄ちゃん?」
「え、玄ちゃんですか?」

その名前を聞いた神代も廊下を覗き込む

「あ、小蒔ちゃん! どうしようどうしよう!!」

その神代を見かけたのか、廊下から聞こえてきた声は確かに玄ちゃんのものだった

「何があったんですか、玄ちゃん」
「おねーちゃんがチャンピオンに襲われてた!」

…はて? 空耳か?

「とりあえず落ち着きや、玄ちゃん。どういう状況でそうなったん?」

ちょい気になるし、私も見に行くか・・・
私も廊下の様子を見に行くと、ひどく慌てふためいた玄ちゃんがいて

「私がおねーちゃんの部屋に行ったら、おねーちゃんがチャンピオンに襲われていたのです!」
「あー・・・」

照と宥姉ちゃんが好き合っとるのは今日聞いたばかりやけど・・・
まあなんや、とりあえず鍵は掛けよか・・・

「ちょっと竜華、玄ちゃんに付き合ってあげて」
「しょうがあらへんなぁ…」

竜華も苦笑しながら、玄ちゃんの手を取った

「とりあえず宥ちゃんのところへ行こか」
「え、でも・・・」
「ええからええから。任せとき」

そう言って、竜華が不安そうに玄ちゃんを連れて廊下を歩いていく

「えっと、大丈夫なんでしょうか?」

取り残された小蒔も不安そうにしているけれど
まあ、竜華は事情は知っとるし、悪いようにはならへんやろ

「まあ大丈夫やで。っていうか多分、玄ちゃんのおねーちゃん大好き補正がかかっとるだけやから、そんな大ごとやあらへんで」
「なら、いいんですけど・・・」

まったく、素のこの子は心配性なんやろうな・・・
そこまで気を遣わんでもええのにな

「ああ、あと。わざわざ謝りに来てくれてありがとな…。そんなに気にせんでええからな」
「はい、ありがとうございます」

ぺこりと頭を下げる神代を見送って、私は部屋に戻った

一応照にメールしとくか・・・

玄ちゃんが、竜華と一緒に宥姉ちゃんの部屋に行くからな、って

959: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/12(火) 00:13:55.45 ID:qv6IIvio0
-side 郁乃-

すこやんの帰りの電車が来てしまう

「じゃあ、行くね」
「結構ドライなんやね?」

もうちょっとくらい時間をずらしてくれてもいいと思うけど・・・

「うーん、次の電車に乗らないと、なんかずるずるしちゃいそうで」
「別にええやろ、ずるずるしたって」
「そういうわけにもいかないよ・・・」

それでもすこやんだって、そんなさみしそうな顔しとるやん
だったら、残ってもうちょっと話でもしてくれたらええのに

「ごめんね、私だってこうなったら帰りたくないって気持ちもあるけど・・・」
「だったらっ」
「でも、ごめん。それでもまだ、私は学校に近寄れない」
「なんでなん!」

帰ってきたのは沈黙で・・・
顔を伏せてしまったすこやんが、何を考えているのか読み取れない

「理事長、いるでしょ」
「え?」
「理事長さ、ちょっと複雑なんだけど、私のお爺ちゃんにあたる人なんだ」

まさか・・・
でも、だから戒能ちゃんや宮永照の連覇阻止に動いたんか。すこやんに成し遂げられなかった連覇を、他の誰かにさせたくなくて

「だから、あの人がいる限り、私は学校にはもう戻らない」
「じゃあ、私がした賭けは無駄やったん?」
「それはわからないけど・・・」

私が宮永照の連覇を阻止できたら、すこやんの復職を認めてほしいという賭け
でも、理事長がいる限りすこやんが戻ってくる気がないのなら、まったく意味がなかったことになる

首を振りながら、すこやんは顔を見せてくれた
弱気に微笑んでいた

「あの人のこと、好きじゃないけど。でもそういう賭けは守る人だから、きっとそのときは、理事長を辞めたんじゃないかな」
「すこやん・・・。私のしたこと、間違っとったん?」
「それは、私が決めることじゃないよ」

電車がホームに入ってきた
周りが騒がしくなり、言葉が聞き取りにくくなる

「じゃあね。学校辞めるときに、連絡して」
「すこやん・・・。休みの時に、会いに行ってもええ?」
「もちろんだよ」

そう言って、電車に乗り込んでしまう

「じゃあ、またね」
「うん」

ただ頷くことしかできず、私は見送る
すこやんは、最後まで無理やり作ったような笑顔でいてくれた

久々に会えたのに、これだけの短い時間で別れないといけなくて、もう涙でぐちゃぐちゃな私を見て、笑っていてくれたんだろうと思う
ああほんとに、何してたんやろうな、私は・・・
すこやんに気を使わせてどうするんやろな

電車が出ていき、見えなくなるまで、私はホームで立ち尽くしていた
おせっかいな咏ちゃんから電話がかかってくるまで・・・


ああ、そうや
辞表の書き方、確認しとかんとな・・・

961: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/18(月) 00:10:50.03 ID:bP+/SzDL0
-side 照-

あれから怜からメールがあって部屋に戻ると、竜華と玄ちゃんがいて
竜華は事情を知っているから、うまく玄ちゃんのことをなだめてくれた

私と宥は、お互いに好きで付き合ってるんだよって言って
玄ちゃんはショックだったようだけど、とりあえず誤解はとけたようだった


家に帰ってきて、簡単なご飯を作って食べて
洗濯物を片付けてお風呂を沸かして

お風呂に入って髪を乾かし終わったくらいに、咲が帰ってきた

玄ちゃんみたいに変な誤解される前に、言っておかないといけないよね。私と、宥とのこと

咲が部屋に戻って部屋着に着替え終わった

「咲、ちょっといい?」
「いいよ。そういえば言ってなかったね、優勝おめでとう」
「ああ、ありがとう」

そう言って、リビングの椅子に座る。咲も正面に座った

「今日、宥と麻雀を打ってみてどうだった?」
「お姉ちゃんのクラスの人だよね。敵なのに私のこと励ましてくれて・・・びっくりしちゃった」

咲は意味ありげに微笑んだ

「だから、お姉ちゃんにお似合いの人だと思うよ?」
「え?」
「もう情報流れてるよ?」

詳しく聞くと、玄ちゃんから新子さんにメールで連絡が入り、一緒に打ち上げに参加していた咲の耳にも入った、ということらしい

「話があるって、このことでしょ?」
「まあね。玄ちゃんがパニックになっちゃうくらいだから、咲にはちゃんと話をしようと思ったんだけどね」
「うん、でも私は大丈夫だよ」

にっこりと微笑む咲
でも、その意味合いがなんとなく変わった

「むしろ、相談に乗ってほしいくらいで」
「相談?」
「お姉ちゃんが今日一緒に打った、憧ちゃん。一緒に打ってみてどうだった?」

逆に同じような質問を返されてしまった
新子さんか・・・

「芯のしっかりした子だよね。私に対しても一歩も引かないで自分の麻雀を貫いてきた。なかなかできないことだと思う」
「そうだよね。私なんかと違って、ちゃんと周りに気が使えて。私が自分勝手に±0にしても、それでもいいって言ってくれて」

±0か・・・

鏡越しに見えた、咲の力

嶺上牌だけじゃなくて、±0にするために必要な牌は全部見えた
だからあのとき、竜華が9ソウを持っていて、8ソウをカンすれば切ることも予想がついていた
そしてきっと、直撃相手が9ソウを持っていたのも、偶然じゃない気がしている・・・

「だからな・・・・。私、今日の打ち上げで、憧ちゃんのことほとんど直視できなくて・・・」

うつむく咲は少し震えていた

「この気持ちって何なんだろう、なんでこんなに憧ちゃんのこと見たいのに不安になるんだろうって思ったんだけど・・・」
「うん・・・」
「お姉ちゃんと宥さんが付き合うって聞いて、分かったんだ・・・。私、憧ちゃんのこと好きになっちゃったんだって」
「そうなんだね・・」

咲も、今回の対抗戦で成長できたんだろう
見えるが故に、周りに気を使って勝たないようにしていた

私はそれを責めてしまったけれど、咲を理解してくれる人がいてくれるなら、こんなに喜ばしいことはない

「それで、相談って?」
「・・・うん。その、こんな気持ち、普通は変なんだよ?」
「変?」
「だって、女の子同士なんだよ。お姉ちゃんは白糸台が女子高だから、女の子同士には抵抗なくなったのかもしれないけど」

962: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/18(月) 00:13:03.83 ID:bP+/SzDL0
「確かに、女の子同士って多いかもしれないね、うちの学校」
「でも、憧ちゃんがそうとは、限らないでしょ?」
「それはそうだけど・・・・。でも、それは男の子を好きになっても同じじゃないかな。相手が告白を受けてくれるかどうか、それはその時になってみないと分からないから」
「でも、超えないといけないハードルが1つ多くなるわけで・・・」

青春してるなぁなんて口にするのは、流石にやめた
でも、こればっかりはお互いの気持ちの問題だからなぁ・・・

「じゃあ、宥に探りを入れてもらおうか。新子さんが咲のことどう思ってるのか、それとなく聞いてもらう?」
「大丈夫かなぁ、バレたりしないかな・・・」
「宥なら心配いらないよ」

それに、なんとなく予感がするんだ
もうすぐ、宥から電話がかかってくるんじゃないかって

プルルルルル

「噂をすれば・・・。ちょっと電話してくるね」
「うん、宥さん?」
「そう」

私たちの部屋に戻ってから、電話に出る

『もしもし、照ちゃん。遅くにごめんね』
「大丈夫だよ。それで、どうかしたの?」
『私の部屋に、憧ちゃんが来てるんだけどね・・・』

思った通りの電話の内容に、私は思わず頬が緩んだ

咲、きっとあなたたちもお似合いだよ
考えてること、同じなんだから



-side 宥-

はぁ、玄ちゃん、すごくショックを受けてたなぁ・・・
好きなものは好きなんだし、きっとそれは分かってくれると思うんだ

でも、ちゃんと鍵をかけておかないといけなかったよね
・・・そういえば今も、鍵が開けっ放しだ

「はぁ、こたつから出たくないけど」

クセをつけないと
そう思って立ち上がろうとしたとき、ノックの音がした

「宥姉、入ってもいい?」
「・・憧ちゃん? いいよ」

入ってきたのは、憧ちゃんだった

「玄から聞いたよ、宥姉。照さんに襲われたんだって?」
「ふぇ、襲われてなんてないから!」
「冗談よ。でも、付き合ってるってのは本当なんでしょ?」
「もう、憧ちゃんったら・・・」

はぁ、でも今日の騒ぎを聞いていた人がいたらきっとそんなふうに誤解しちゃったりするんだろうな・・・
しばらく大変そう・・・

「あ、これ一応差し入れね。そろそろ自販機もあったか~いがなくなってくる頃ね」

そう言ってくれたのは、お茶のペットボトルだった
憧ちゃんも自分で持ってきたお茶のペットボトルを開ける。キャップの色が違うから、きっと冷たいのだろう

「わざわざありがとう。あまり自販機で買わないから平気だけどね・・・。それで、今日はどうしたの?」
「ホントは優勝おめでとうトークをしようと思ってたんだけど、もうこれは恋バナするしかないっしょ?」
「こ、恋バナ・・・」

改めてそう言われると、なんだかむずがゆいなぁ・・・
憧ちゃんが腰を下ろすと、さっそくコタツに乗り出してきた

「それでそれで、どっちから告白したの?」
「ええっと、どっちだろ・・・」
「ええ、そこ肝心なとこなのに!」
「照ちゃんから、かな。でもほとんど同時っていうか、私も言おうと思ったら言われてたっていうか」
「うわぁ、アツアツだぁ」

ううっ、こういうの人に話すのってなんだかとっても恥ずかしい・・・
しかも、その告白した場所って、この部屋だよ・・・

963: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/18(月) 00:14:36.27 ID:bP+/SzDL0
「それで、どこで? どんな流れで?」
「ええ、もういいでしょ・・・」

もう顔が真っ赤になってるに違いないよ
あったかいを通り越してなんだか熱いくらい・・・

でも、憧ちゃんは不服なようで

「それじゃあ参考にならないじゃない!」
「参考って、何の?」
「ふきゅ・・・べ、別に私のことじゃないわよ」

慌てる憧ちゃん・・・
んー、憧ちゃんが私たちの告白を参考にしたいの?

「じゃあ、憧ちゃんの友達ってことで、話を進めようか?」

自分でもちょっと意地の悪そうな笑顔を浮かべている自覚はあった

「あー、もういいわよ・・・。私です、私が参考にしたいんです」

観念して、憧ちゃんはため息をついた

「そうなんだ、憧ちゃんも誰かに告白したいの?」
「まあ、そうできたらいいなぁとは思ってるけど」
「しずちゃん?」
「違う違う・・・。しずに恋愛なんてそれこそ100年早いわよ」

まあ確かに、しずちゃんが恋愛してるところなんて想像できないかな・・・

「・・・・その、今日の先鋒戦、どうだった?」
「今日の先鋒戦・・・」

対局したのは福路さん、荒川さん、そして咲ちゃん

「もしかして、咲ちゃん?」

憧ちゃんは顔を真っ赤にして、こくりと頷いた
そっか、咲ちゃんかぁ

「咲ちゃんと打ってみて、びっくりしちゃった。だって、私は普通に打ってるのに、きっちり調整されちゃったんだから」
「それもあるけど、そういういうことじゃなくて」
「うん、休み時間にお話したよ。咲ちゃんは優しいから、勝つことも負けることもできなかった」

だからといっていつも±0に調整できるなんて、それはそれですごいことだけど

「でも咲ちゃん、みんなのために勝ちたいんだって言ってたから。これから勝ちたくても勝てなかったりすることもあると思うけど、憧ちゃんが支えてくれるなら、咲ちゃんはきっともっと強くなるよ」

照ちゃんでも、もしかしたら負けてしまうくらいに・・・

憧ちゃんも頷いた

「普段は小動物みたいで全然強そうに見えないのに、いざ麻雀になったら全然別人でさ。もっと咲が強くなるってなら、それを支えてあげたいななんて思っちゃったのよね」
「うん、憧ちゃんと咲ちゃん、お似合いだと思うよ」
「でもさ・・・」
「ん、なにか問題ある?」

大きくため息をつく憧ちゃん

「問題ありよ、大アリよ。だって私のこの感情、宥姉と照さんと同じ感情だよ・・・」
「うん、別にいいんじゃない?」
「だって、咲が女の子同士OKとは限らないじゃない。なんか今日の打ち上げの時も目を合わせてくれなかったしさ」

ああ、そういうことか・・・
この学校、女の子同士って容認されてるっていうか、そういうカップルが多いからあんまり気にならなくなっちゃうけど

憧ちゃんも咲ちゃんもまだ学校に入って間もないから、そういう心配をするのも当然だった

「じゃあ、この学校の空気に咲ちゃんが染まるまで待とう」
「え、そういう対策になっちゃうの?」

何ヶ月かすれば結構染まっちゃうんだけどな、これまでの傾向からすると

「ダメかな? じゃあ、照ちゃんに咲ちゃんの様子聞いてみる?」
「あんまり露骨にならないようにしてくれるなら、そうしてくれると嬉しいけど」
「照ちゃんなら大丈夫だと思うよ」

964: tell you that I love ...(8-7) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/18(月) 00:29:44.73 ID:bP+/SzDL0
早速電話をしてみよう

ちょっと時間がかかったけど、電話がつながる

「もしもし、照ちゃん。遅くにごめんね」
『大丈夫だよ。それで、どうかしたの?』
「私の部屋に、憧ちゃんが来てるんだけどね・・・」
『ああ、それなら私も同じ用件で電話しようと思ってたところだよ』

同じ用件・・・・
それって・・

目の前に憧ちゃんがいるし、どこまで話していいんだろう。帰ってから電話すればよかったかな・・・

「咲ちゃんの様子を、今度教えてほしいなって思って」

今聞くのはまずいような気がして、とりあえずほんとに探りだけいれておくようにする

『今度? ああ、別に構わないよ。こっちも、新子さんの様子も教えてほしい』
「うん、それも大丈夫」

照ちゃんも察してくれたんだろう

『まあ、あとはタイミングの問題だけだと思うけどね』
「うん、そうだね」
『じゃあ、私も咲と話をしてたところだから、今日はこのへんで』
「うん、ありがとね」

咲ちゃんも、きっと照ちゃんに同じことを相談したんだろう
ふふ、なぁんだ、もう2人とも息がピッタリなんだね

「宥姉、照さん、何か言ってた?」

憧ちゃんが緊張しながら私を見てた
私は、安心させてあげられるようににっこりと微笑んだ

「大丈夫、きっと悪いようにはならないよ」

だってもう、2人の気持ちは1つになってるんだから


tell you that I love ...(9)へ続く

966: tell you that I love ...(9) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/20(水) 01:29:36.79 ID:1xlIlZ7v0
-side 洋榎-

昨日はなんやいろいろあって疲れたなぁ・・・
それに寮じゃ昨日は、宮永が松実を襲ったとかなんとかって話でもちきりやったしなぁ

まあ、どこぞのカップルがーなんていつものことやけど

「お、恭子。おはようさんー」
「末原先輩、おはようございます」
「洋榎に絹ちゃん、おはよう・・・」

学校へ向かう途中で恭子を見かける
恭子はなんか知らんけど暗い面持ちで携帯を見つめていた

「どないしたん、そんな暗い顔して?」
「まだ連絡きとらへん?」

そう言ってメール画面を見せてくる

「代行からか・・・。放課後、部室に集合のこと、か」
「なんで私にメールよこして、部長の洋榎に連絡せんのや・・・」
「そりゃお前、代行に愛されとるからやろ」
「冗談は顔だけにしてください」
「おう、どういう意味やそれ?」

と軽い掛け合いをしてみるものの、恭子の表情は晴れない

「何をそんなに思いつめとるんや?」
「・・・何を言ってくるか、予想ができるんです。なのに、気持ちの整理がつかなくて」
「んー、そんなん何か言ってきてから考えたらええんとちゃう?」

予想しとっても、そんなん一言一句同じなわけないんやしな
恭子は私の顔をまじまじと見て、ため息をついた

「洋榎と違って、まず手が出るタイプやないんからな・・・」
「おう、どういう意味やそれ?」

まあ気が済むまで考えたらええけどな。それが恭子の性分なんやしな

「ほんま、お姉ちゃんと先輩は仲がええね」
「絹ちゃん、これは腐れ縁って言うんや」
「腐ってへん、ピチピチや!」

967: tell you that I love ...(9) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/20(水) 01:30:48.08 ID:1xlIlZ7v0
-side 咏-

昨日、すこやんが帰ってしまって・・・
えりちゃんが運転する車でいくのんを駅まで迎えに行って、学校に戻る途中

「すこやん、なんて言ってた?」
「休みの日には遊びにおいでって言うてたで~」

・・・まあ、それだけじゃないんだろうけどな
そこから核心に触れることもなく学校に到着してしまって、解散するしかなかった

ま、うじうじ考えてもしかたねーか
とりあえず今日から普通に授業だし、気合入れて行きますか

「おっしー、ホームルームすんぞー」

思いっきり教室の扉を開けて、中に入る
教室の中では、照ちゃん宥ちゃんを中心に人だかりになっていた

「おう、祝勝会か何か?」
「先生来たよ、みんな散った散った」

塞ちゃんがみんなを追い払った
んー、でも何があったか、気になるじゃん。私は人だかりを縫うように照ちゃんと宥ちゃんのところへ向かう

「なんかあったの?」
「2人がラブラブだよーって話をしてたんですよ」

そう答えてくれたのは、豊音ちゃんだった。まったく、天井につくんじゃないかってくらい身長があるから見上げるのが大変だっての・・・

「そうかそうか。それはつまり、宮永宥になるってこと?」
「そうそう、結婚式には呼んでなのよー」
「否定してくれないかな、由子・・・」
「け、結婚だなんてそんな・・・」

案外ノリノリの由子ちゃんに、照ちゃんがげんなりしていた。宥ちゃんは真に受けたのかオロオロしている
あー、多分こんなふうに、みんなにからかわれていたんだろうなぁ

そうかそうか、照ちゃんと宥ちゃんがねぇ。なるほどなるほど、これは面白い組み合わせだわ

「まったく、イチャイチャとかよそでやってくれって感じやわ」
「ほんまやなぁ、イチャイチャしてええのはウチらだけやもんな、怜」
「もう、竜華ったら、照れるやん」
「・・・そろそろ久保っち来るぜぃ?」

一方、以前からカップルとして有名だった怜ちゃんと竜華ちゃんもイチャイチャ具合が増しているように見えた
ひざまくらしているとき以外はそこまでくっついているイメージはなかったんだがなぁ・・・

まあ、これが対抗戦マジックってやつだろうか
一つのイベントを乗り越えて生まれる愛、深まる愛ってのもあるもんだ

「もうそんな時間か・・・。じゃあ怜、なんかあったら大声で呼ぶんやで」
「うん、すぐ来てな」

ふむ、怜ちゃんも素直なこって

「はいはい、みんな席につけー」

968: tell you that I love ...(9) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/20(水) 01:31:57.96 ID:1xlIlZ7v0
-side 霞-

「大丈夫、小蒔ちゃん・・・」
「はい・・・・」

いつも以上にポケーっとした返事。まあ分かっていたことではあるけれど・・・・
とにもかくにも、小蒔ちゃんの手を取ってなんとか2-10の教室までたどり着いた

「小蒔ちゃん、おはよう」
「石戸さん、どないしたんですか?」

教室には松実玄さんと、荒川さんがいた
松実さんの挨拶にも、小蒔ちゃんは小さくうなづくだけだった

「ごめんなさいね。小蒔ちゃん、今日こんな感じで半日はぼーっとしていると思うから」
「はぁ、なんでまたそないなことに?」
「うーん、ちょっと無理した反動ね」
「小蒔ちゃーん、小蒔ちゃーん?」

松実さんが小蒔ちゃんの目の前で手を振って呼びかけるけど、反応は乏しい
昨日、私が裏九面を使った反動・・・。今日の小蒔ちゃんは、神様どころか小蒔ちゃん自身もいないような感じになってしまっている

「まあ、今日は移動教室ないんでええと思いますけど」
「ごめんなさいね。書道部でできだけフォローするつもりだけど」
「これ、休んだほうがいいんじゃないですか?」

松実さんがため息混じりにそう言う
私も、本来ならそうして欲しいところなのだけれど

「小蒔ちゃん、授業には出るって言って聞かないから。一応先生方には連絡しておくけれどね」
「ん、連絡なんて聞いてへんよ~」

突然にゅっと顔を出してきたのは、赤阪先生だった

「うわっ、先生突然出てこないでよ。びっくり」
「そんな人をお化けみたいに言わんといてや~。それで、小蒔ちゃん、どないしたの?」
「すいません、半日はこんな感じで、心ここにあらずって感じの状態なんです。それでも授業には出るんだって言うので、とりあえず教室には連れてきたんですが・・・」
「そうなんや。まあ1時間目は私の授業やからええけどな」

特に理由も聞かず、赤阪先生も小蒔ちゃんの目の前で手を振った

「あー、ほんとに反応あらへんな」
「どうしても無理でしたら私も一緒に寮に戻りますから、それまではお願いしたいんですが」
「そこまでせんでも無理やったら保健室に連れて行くから、心配せんでええよ~」

間延びした声でにっこりと笑う
まあ、お任せしても大丈夫そうかしらね

「それよりも、私は玄ちゃんに用があって早く来たんやけどな~」
「へ、私?」
「じゃあ、よろしくお願いしますね」

松実さんと何やら話があるようなので、私はお任せすることにして教室を後にした

「まあ、正確に言うと玄ちゃんのお姉ちゃんに用があるんやけどな」
「え、おねーちゃんにですか?」

969: tell you that I love ...(9) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/20(水) 07:13:20.76 ID:56nf4pTu0
-side 恭子-

そしてもやもやが晴れることもなく、放課後を迎えてしまった
ホームルームが終わると同時に私は教室を飛び出して部室に向かった

きっと、代行は・・・・

部室に着くと、そこにはもう代行がいた

「早いね、さすが末原ちゃんや」
「・・・一番乗りかと思ったんですけどね」
「2年の教室の方が部室に近いからな~」
「それにしては絹ちゃんや漫ちゃんの姿が見えませんが?」

代行がホームルームを早めに切り上げたとしても、担任するクラスには絹ちゃんと漫ちゃんがおる
その2人と同時はあっても、早く来るというのはないはずやけど・・・

「んー、さすがに末原ちゃんや。実はホームルームは憩ちゃんに半分丸投げした」
「仕事せぇや!」
「え~、でも早く部室に来たかったんやもん」

まったく、子供かっ・・・

「おー、もうおったんか、早いな」
「こんにちわなのよー」

そこに洋榎と由子が入ってきた。まだ絹ちゃんと漫ちゃんは来ない
ちなみに今日来るのはこの5人だけだ。他のレギュラーはクラス対抗戦で早々に負けとるし、そこまで話を大きくしても仕方ないしな

「んー、なんで代行がおって絹たちがおらんねん?」
「荒川にホームルーム丸投げしてきたんやと」
「あー・・・。先生に代わってホームルームを回せちゃう憩ちゃんを褒めるべきなのか迷うところなのよー」

まあ確かに荒川はなんでも出来てまうやつやけど・・・
麻雀の学年ランクだけじゃなくて、普通のテストとかでも学年1位を取ったことがあるらしいしな

「すいません、遅くなりました。漫ちゃんもすぐ来ます」
「お、絹が来たな。・・・漫も来たか」
「お疲れさまです。っていうかなんで赤阪先生が先におるんですか・・・。私らがホームルーム終わらないとどっちみち話が進まないのに」
「もっと言ったれや、漫ちゃん・・・」
「え~、なんや・・・。気分?」

気分でホームルーム投げ出されてもなぁ・・・
まあ、とりあえず気を取り直して行こう。ここからは、きっと頭フル回転でいかなあかんやろうからな

「それで代行、今回のクラス対抗戦について。何を話してくれるんですか?」
「まあ、察しのええ末原ちゃんやったら私が言わんでも全部分かっとるんやろうけどな」

そして代行から聞いた説明は、概ね予想の範囲内だった

曰く、理事長からの通達で、代行が宮永照の連覇を妨害する責任者であったこと

そして、そのために由子を3-1のオーダーから外そうとした。
さらに怜の薬の入れ替えを画策したこと。それが失敗して、絹ちゃんを無理やり病欠扱いにして漫ちゃんを出したこと

流石に責任者なんてあるとまでは思わへんかったけど・・・。でも、概ね予想のできたことだった

「で、なんで理事長は宮永照の連覇を妨害したがったんですか?」
「さあな~、それは分からへん。ただ通達が来ただけやからな・・・」

・・・この点で追求するのは無駄か?
まあわかったところでどうなるんやって事柄やしな・・・。それよりも、もっと肝心なことがある

「結局、クラス対抗戦は宮永照が勝った。責任者たる代行の処遇はどないなるんですか?」

昨日荒川が言っていたこと・・・

『赤阪先生、辞めへんよね?』

あの荒川の予感や、無下には出来へん。だからきっと代行は・・・

「まあ、簡単に言うとクビやね」
「・・・あっさり言いますね」

まあ・・・・・。これも、予想通りや
でも、他の4人からすればそんな予想なんてしているはずもなく

970: tell you that I love ...(9) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/20(水) 07:16:37.27 ID:56nf4pTu0
「は? 宮永が勝ったらクビってどんな学校やねん!」
「そんなのおかしいよのー・・・」
「だから、私を引っ込めたんですね。少しでも勝率を上げるために」
「なんか、私がチャンピオンに勝てんかったんが原因みたいやないですか・・・」

全員が動揺してしまう。まあ、それもそうやろうな。心の準備をしていた私でも、未だにどうしたらええんか分からへんのに

「まあ、善野先生が戻ってきたら引き継いで学校を辞めるつもり。みんなにはお世話になったな」
「それはどうにもならんのか!」
「ならへんな。仕方あらへんことや」

洋榎が激高するも、代行はいたって冷静だった。もう観念してしまったかのよう
クラス編成までいじって宮永照の連覇阻止に動いとるんや。それが失敗した時の代償がそう簡単に覆るとは思えない・・・

・・・・代行にはいびられてばかりやし
善野先生が戻ってくるんやったら、それでええやん・・・
なんて、そんな感情が浮かんできてしまう。でもそんな感情になることに罪悪感があったり・・・

なんや、自分でもよく分からん。分からへんけど、分かったところでなんかできるとも思えへんのや!

「分かった。どうにもならんこと嘆いてもしょうがあらへん。とりあえず代行」

洋榎が真剣な表情で代行を見つめた

「エクストリーム土下座や。理事長通達やかなんやか知らんけど、とりあえず対抗戦に出れんかった由子には謝れ」
「・・・・まあ、そう来ると思っとった。一応サッカー部の代行顧問やしな、郷に従うよ」

相対する代行も、真剣な表情でそう答えた。その言葉に、由子が慌てて首を振った

「そ、そんな。私はいいのよー」
「よくあらへん。出れたのに出れなくしたのは代行や。由子を出すなって通達が出てたわけやないやろう?」
「確かに、手段は私が選んどるからなぁ。反論はできへんね」

代行はさっと立ち上がると、外へ向かって歩いていく

「じゃ、行こか。土下座会場」
「・・・もう場所決まっとるんですか?」

漫ちゃんの質問に、代行は頷く

「手配済みやよ~。ま、楽しみにしといて」

・・・・代行、もう覚悟は固まっとるんやな
なら、今更どうこう言っても仕方あらへんのやろうな・・・



-side 宥-

「これでいいの、玄ちゃん?」
「オッケーだよ、おねーちゃん。ありがとね」
「じゃあ、あとはお片づけお願いね」
「うん、おまかせあれ」

放課後、よく分からないけれど赤坂先生に頼まれたという玄ちゃんと一緒にプールまでやってきた
でも、赤坂先生、どうしてこれを使いたいんだろう・・・

そう思っていると、赤坂先生とサッカー部のメンバーがやってきた
由子ちゃんもいる、ちょっと事情を聞けるかな?

「玄ちゃん、あとお姉ちゃんもありがとな」
「いえ、大丈夫です!」
「はぁ・・」

玄ちゃんは元気に返事をするけれど、意図が分からない私は生返事なってしまう

「由子ちゃん、こんなところで何をするの?」
「それが私も知らないのよー。とりあえず、ここでエクストリーム土下座をするらしいんだけど・・・」

エクストリーム土下座、か
サッカー部名物の、ド派手な土下座。それで失敗も全部水に流すっていうなかなか豪快なサッカー部の伝統だよね

「代行・・・。もしかして」
「んー、まあ察しはつくと思うけど、とりあえず見届けてや」

上重さんが、軽く屈伸を始めた赤阪先生に声をかけた
でも、まだ4月なのに・・・・

「玄ちゃん、ちょっと私離れてるね」
「おねーちゃん?」

971: tell you that I love ...(9) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/20(水) 07:25:46.31 ID:56nf4pTu0
「じゃあ行くで!」

気合の叫声を上げ、赤阪先生はプールに向かって走り出した

「すいませんでしたーーーーー!!」

大声を上げながら、先生は体をプールに向かって投げ出した

弧の頂点に達したところで体を大きく曲げて頭を下げる
膝も曲げて、土下座のような体勢になったのは一瞬だった

ザパーーン!

水しぶきが四方八方に飛び散る

とりあえずすぐ離れたから濡れなくて済んだけど
まだ4月なのにプールの水なんて私じゃなくてもとても冷たいはずなのに・・・

「マジか、まだ4月やぞ!」
「え、本当に飛び込んだ・・・」

愛宕さんたちもあっけにとられていた

「あわわ、先生大丈夫ですか!!」
「っていうか無茶しすぎやないですか」
「久々にすごいエクストリーム土下座を見たのよー」

玄ちゃんは慌てふためいて、上重さんも由子ちゃんも驚きを隠せないでいた

「ぷはっ・・。寒い!!」

水面から顔を出した先生がプールサイドに戻ってくる

「・・・・それでストーブか」
「そういうことみたいだね」

末原さんだけは呆れ顔で事態を見守っていた

そう、玄ちゃんが用意していほしいと言われたものは私が部室で使っているストーブだった
きっと飛び込んだあとに暖をとりたかったのだろう

末原さんが足元に置かれたカバンの中から大きなタオルを取り出した

「しかもタオルに着替えまで用意してあるとか、始っから飛び込む気満々やないか・・・」
「タオルちょうだい、ストーブストーブ!!」

赤阪先生がようやくプールから外に出ると、ガタガタ震えながらタオルを羽織ってカバンを受け取り、ストーブを効かせた更衣室へ走っていった

「まったく、アホやろ・・・」

そう呟く末原さんの表情は、なぜか少しだけ嬉しそうに見えた

「代行がこんなに吹っ切れてるんやったら、こっちも吹っ切れなしゃーないな」

そして今度は意地の悪い表情を浮かべた
まるで、子供が面白いイタズラでも思いついたかのようだった


tell you that I love ... (Epilogue)へ続く

973: tell you that I love ... (Epilogue) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/22(金) 00:15:15.84 ID:9S+0C2nA0
-side トシ-

『赤阪先生の辞職撤回に関する嘆願書』

目の前に積まれた書類と、それを持ってきた生徒をまじまじと見比べた

生徒会長の竹井久、サッカー部部長の愛宕洋榎、そして同じくサッカー部の末原恭子
今回の嘆願書の発起人だった

「・・・よくこれだけ集めたね」
「週明けの月曜日から3日間で、全校生徒すべての署名を集めました。ご精査ください」

全員とは・・・
まったく、赤阪先生は愛されているんだねえ

とりあえず最初の数枚だけ見て、一息つく。
全校生徒は約2000人。よくもまあ、これだけ集めたものだねぇ・・・・

「分かったわ。これは私が責任をもって理事長に届けます」
「ありがとうございます」
「よろしゅう」
「よろしくお願いします」

3人がそれぞれに頭を下げた

退室を促して3人が部屋から出ていくのを見届けると、すぐに扉をノックする音がした

「どうぞ」
「失礼します。お呼びでしょうか?」

入ってきたのは、赤阪先生。表情はこわばっているように見えた
私は署名の束を軽く叩いた

「この3日間、どんな気分でこの活動を見守ってたんだい?」
「生きた心地はしなかったですね。私はもう辞める気やのに・・・。クビにされるなんて言わんと、辞めたいから辞めるって言えばよかったです」
「まあ、そのへんは手は回してあるけどね」

流石に理事長が先生をクビにしようとしているからと理由で動かれるわけにはいかないからね
今来ていた3人には、赤阪先生の自発的な辞職を思いとどまるようにという名目の署名を募るように頼んである

「ご迷惑おかけしました。それも含めて、私は辞めるべきやと思ってます」
「・・・・昨日、理事長と話をしたよ」
「私のこと、役立たずとでも言ってましたか?」
「辞職するそうだよ」
「・・・は?」

はは、予想外に射抜かれたみたいな表情をしてくれるねぇ
まあ私もそれを聞いたときは、もしかしたら同じような表情をしたのかもしれないねぇ

「誰が辞職するんですか?」
「だから、理事長だよ。理事長が辞職する」
「そんな突然、なんでですか?」
「さぁ。一身上の都合じゃないかい。あの人も年だしね」

私も辞めるとしか聞いていないからね。いろいろと予想はできるけれど・・・

「それで、私が臨時で理事長になるということで手筈を進めているんだよ」
「すいません、急すぎてちょっと事態についていけてないです・・・」
「畳み掛けるようで悪いんだけど、まだ話はあるんだ」
「・・・・なんでしょう?」

この一瞬でフルマラソンでも走ってきたかのように疲れはててしまった赤阪先生だけど
これを聞いたら、どんな反応をするのかね

「小鍛治健夜を呼び戻そうと思うんだけど、どう思う?」
「え、すこやんを・・・・」

思わずすこやんと呼んでしまってしまい、赤阪先生は慌てて口を塞いだ

「あ、すいません・・・。小鍛治先生を?」
「ふふ、別にすこやんでいいんだよ?」
「・・・・小鍛治先生は、了解しているんですか?」

流石にすこやんとは言わないか・・・
私は苦笑を浮かべながら、首を振った

「まだだよ。けれど、理事長が正式に辞任したら、声をかけようと思っているわ」
「そうですか・・・・」

974: tell you that I love ... (Epilogue) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/22(金) 00:17:53.91 ID:9S+0C2nA0
肩を震わせうつむく赤阪先生。まったく、若いってのはいいわねえ・・・

「じゃあ、私は・・・・辞めなくても、ええんですね・・・」
「まあ、この署名を前にして辞められるなら、私には止められないけどね?」
「・・・・ほんま、アホばっかやわ。こんな私に、なんでここまでするんやろうな・・・」

軽口を叩く余裕があるのかと思ったけど、単に強がっているだけもしれないねぇ
もうしゃくりを上げて何を言ってるのか分からなくなってしまっているんだから・・・

「とりあえず、この辞表は返すわよ」
「・・・・はい」

辞表を受け取ったまま、いつまでも泣き続ける赤阪先生の背中をさする

さて、これから忙しくなるね・・・・





-side 恭子-

理事長の辞任と、赤阪先生の辞職撤回が発表されたのは、署名を渡した次の日だった



代行がエクストリーム土下座を披露してから、私の脳裏に浮かんだのは

「・・・・署名を集めましょう」

ありきたりといえば、ありきたりのアイディアだった
でもな、ここまでした代行をそう簡単に辞めさせてたまるか

エクストリーム土下座を披露した人のミスはすべて許し、そしてそのミスを取り戻すために全員で動く。それがサッカー部の伝統なんやしな

「おお、それええな。じゃあ早速動くで。ウチは久んとこ行って生徒会として協力してもらるか聞いてくる」
「絹ちゃんと漫ちゃんは荒川憩に声をかけてや。あと神代経由で石戸霞を押さえとけ」
「分かりました!」
「じゃあ漫ちゃん、行こう!」

洋榎、漫ちゃんに絹ちゃんがプールを出ていく

「由子、ちょうど松実がおるから一緒に宮永に声かけや」
「分かったのよー」
「ええっと、どういう状況なのかな・・・」
「私もよくわからないのです・・・」

ああ、松実姉妹は事態を知らんのやったか・・・
まあどうせこれから宮永にも説明せなならんしな

「説明は道々由子から聞きや。私は代行が着替えるの待っとるから」
「よく分からないけど、おねーちゃんは行っていいよ。私がストーブ片付けとくから」
「う、うん。ごめんね、玄ちゃん」
「じゃあ行くのよー」

こういうのは、もたもたしとったらあかん
相手がこれ以上手を打ってくる前に、速攻の超早上がりを見せたる

私一人じゃどうにもならんけど、全員の力集めたらどうにかなるかもしれんからな

「はあ、寒かった・・・・。あれ、みんなは?」

着替え終わった代行が出てくると、キョロキョロとした
そりゃそうやろうな、もう私と松実玄しかおらへんのやから

「洋榎たちにはもう動いてもらってます」
「動くって、なにを?」
「見事なエクストリーム土下座でした。ですんで、私たちはこれから署名を集めます」
「・・・・署名?」

目を点にする代行。ふむ、なんか察しが悪いな・・・

「赤阪先生の辞職を撤回するための署名ですよ、監督」
「・・・監督って」
「ゆうときますけど、あなたを監督なんて呼ぶのは今日だけですからね」
「末原ちゃん・・・。でも署名なんて、集めなくてもええって・・・」

何一人で諦めとるんや、まったく
そんなふうに狼狽えるなんて、らしくないで・・・

975: tell you that I love ... (Epilogue) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/22(金) 00:20:05.75 ID:9S+0C2nA0
「じゃあこう言い換えます。監督に辞めてもらったら困るんです、それを私たちは行動で示します。それを見て、それでも辞めるって言うなら好きにしてください」

それでもなんとも微妙な表情を浮かべたままで黙りこくってしまう
はぁ、大方辞める決意固めたのにそう簡単には翻せないってところやろう

まあ、だったら困ったらええやん。普段は私が困らされてるんやからな
いずれにしたって、宮永照が勝ったからとかそんな理由で辞めるなんて目覚めが悪すぎる



その日が金曜日の放課後で次の土曜日が休みだったため、実際に署名を集めに動いたのは月曜日からだった
でも、その土曜日に生徒会が生徒会議と部長会議を招集してくれた
だから、月曜日からの署名集めはスムーズに進んだ

辞職撤回が発表され、私はほっとした。やったことは無駄にはならんかった・・・

さて、次は部活対抗戦や
今年の部活対抗戦、勝つんはサッカー部やからな!




-side 菫-

「さて、今日からは部活対抗戦に向けての調整も行っていく。各自抜かりのないように」

もちろんアーチェリーの練習も行うが、半数を麻雀の練習に分ける

特に今年は照の完全制覇がかかっている。ここで負けるわけにはいかない
個人戦で照とぶつかれば、もちろん全力で戦うが・・・

「特に淡、お前には期待してるからな」
「ごめんなさい。私は対抗戦には出れません」
「・・は?」

予想外の返答に素っ頓狂な声を上げてしまう

「何かあったの、淡?」

照も戸惑っているようだ・・・
あれほど照と一緒のチームで打てるんだと、クラス対抗戦の前には言っていたのに

「テルと一緒に戦うのも楽しみだけど、それ以上に私はもっと強くならないといけないから!」

むふーと鼻息荒く、そう主張する淡

「私は今、オカルトを捨ててデジタルを身につけるべく特訓中の身。だから部活対抗戦にはまだ出れません」
「あのクラス対抗戦のときに配牌でテンパイしていたのを捨てるっていうのか?」
「はい、その通りです」

いやいやいや・・・・
いろいろ予想外過ぎてどう対処していいのか分からないぞ

「淡、それは淡が強くなるのに必要なこと?」

照が尋ねる
そうだ照、淡を説得してくれ!

淡は大きく頷いた

「もちろん。私はテルに勝ちたいから、だからオカルトを捨てるんだよ」
「分かった。淡が納得できない状態で対抗戦に出てもしょうがないからね。その代わり、個人戦には間に合わせるんだよ」
「はい、ありがとうございます!」

おおおおおおいいい!!
なんでそんな簡単に納得するんだ

「おい照! お前、完全制覇がかかってるんだぞ、それでいいのか!?」
「菫、ありがとうね。でも・・・」

そう微笑む照に、迷いの欠片もなくて

「私は、淡に無理強いしてまで完全制覇なんてできなくてもいいよ。それよりも、みんなで悔いなく戦えれば、その方がいい」
「・・・・はぁ。まあお前がそう言うなら仕方ないな」
「大丈夫だよ。菫と一緒に戦って、負けたことなんてないんだから」

まあ仕方ない・・。淡のあの闘牌に期待はしていたが、戦力が足りないわけではない

部活対抗戦、勝つのはアーチェリー部だ

976: tell you that I love ... (Epilogue) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/22(金) 00:26:56.97 ID:9S+0C2nA0
-side 淡-

ノドカのデジタル講座、初日

「いいですか、淡さん。まず淡さんが信じてらっしゃる絶対安全圏とビックバンとやらは捨ててください」
「えー、どっちも強いよ。絶対安全圏を使いながらデジタルで打った方が強いでしょ?」
「淡さんは、チェスか将棋はご存知ですか?」

全然関係ない質問で返された
むー、納得いかないけど、負けたらデジタルを学ぶってのは約束だったからなぁ・・・

「チェスなら知ってるよ?」
「ではチェスで例えましょう」

まあ知っているといっても、全然強くないけど・・・
ちょっと暇つぶしに付き合わされることがあったくらいで

「いいですか。淡さんの絶対安全圏は、相手からクイーンを取り上げた上で勝っているようなものです」
「うん。まあ、相手の手が遅くなるってことはそういうことだよね」
「しかし真の強者は、逆ではないですか? 自分のクイーンが無くても相手に勝ってしまう、それでこそ強いと言えます」

た、確かに・・・・

「加えて配牌でテンパイという、麻雀のゲームにありそうな手牌で戦っても、それは同じことです」
「・・・私はハンデをもらって勝ってきただけだって言うの?」
「有り体に言えば、そういうことになりますね。ですから、いざハンデを奪われたときに右往左往してしまうのです」

テルと同じクラスのトヨネに、絶対安全圏とビックバンを同時に封じられた
それにカスミがオーラスで使ってきた一色独占の強化版に対しても、果たして私の能力は通用しただろうか・・・

私の力の及ばない相手は、テルだけじゃなかった
だったら、私はもっと強くならないと・・・

「もちろん、デジタルも万能じゃないです。しかし、長いスパンで見たときには勝率を上げられる、そういう打ち方です」
「それでテルに勝てるの!?」
「それは分かりません。ですが、チャンピオン相手ならミスは許されないでしょう。そういう意味では牌効率や期待値による押し引きを習得することは攻略の手助けにはなると思いますよ」
「分かった、やるよ!」

テルに勝つためだったら、なんだってやるよ
それに私がもっと強かったら、クラス対抗戦だって優勝できたはずなんだ

「そうですか。デジタルなんてって言われると思ってました、良かったです」

嬉しそうに笑うノドカを見ていると、私があのとき勝ててたらもっと喜んでくれたのかなとか考えちゃうんだよね

「その代わり、しっかり教えてよね!」
「もちろんです。淡さんこそ、しっかりついてきてくださいよ」

ノドカのことなんか、あっという間に抜いちゃうんだからね
そしたら今度は、私がオカルトを教えてあげるんだから



-side 咲-

クラス対抗戦が終わって、1週間が経った
その間、署名を集めてとかいろいろ騒ぎはあったけど、それもようやく落ち着いた

憧ちゃんのことはどうしても意識しちゃうけど、なんとか普通にしゃべっている
憧ちゃんが私のことをどう思っているのか結局分からないままだけど、少なくとも友達としては好きだってお姉ちゃんは言っていた
それ以上は、自分で確かめないとダメだからって言われて

確かに、そうだよね。この思いは、自分で伝えなきゃ・・・

そして、そのお姉ちゃんから、今度の土曜日に憧ちゃんと宥さんと一緒に買い物に行かないかと誘われた

「咲、照さんから聞いた?」
「うん、憧ちゃんも宥さんから聞いたんだよね?」

もちろん憧ちゃんもそのことは知っていて

「楽しみにしてるからね、咲」
「うん、私もだよ」

きっと、これはお姉ちゃんと宥さんがくれるチャンス・・・
だから、頑張らなくっちゃ!


(もう少しだけ続く)

978: tell you that I love ... (Epilogue) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/24(日) 16:21:02.89 ID:wh5IVdvA0
-side 照-

土曜日
待ち合わせの駅前で、咲はいつになくそわそわしていた

ふふ、緊張しちゃって。かわいい

「お姉ちゃん、寝癖とか大丈夫かな?」
「角が5本くらい生えてる」
「え、ウソ!!」

ちょっとからかってみると、面白いように動揺する咲

「冗談だよ。いつも以上に可愛いから」
「お姉ちゃん!」

頬をふくらませて私を小突こうとするので、私はさっと避けた

「私、緊張してるんだからね。そういう冗談やめてよ」
「ごめんね、咲」

それでも本気で怒っているわけじゃないって分かるから。それに、このくらいした方が、緊張もほぐれるでしょ?
現にそわそわしなくなったわけだし

「咲、照さん、お待たせ!」
「遅くなっちゃった、ごめんね」

そこに宥と新子さんがやってきた
新子さんはやっぱりオシャレで、ずいぶん気合が入っているようだった

「今来たところだよ、憧ちゃん」
「咲、嘘はいけない。10分くらい待った」
「お姉ちゃん、そういうのは待ってても今来たところっていうものなんだよ!」
「私と宥の間に嘘はいらない」

微笑みながら、私はそう言う
宥も微笑んでくれる

「ごめんね、待たせちゃって」
「アツアツだねぇ、宥姉。本当に一緒にお買い物で大丈夫だった?」
「誘ったのは私たちからだから、気にしなくていいよ。新子さん」

んー、っと新子さんはちょっとだけ首をかしげた

「憧って呼んでくれていいですよ、照さん。私たちの間に、遠慮は要りませんってね」
「そうだね。じゃあ、憧って呼ばせてもらうね」
「そろそろ行こうか、電車が来ちゃうから」



もともとは、私が本を買いたいだけだった
近くの本屋さんではなかなか欲しい本がないのと、大きい本屋さんで知らない本を手にとってみるのも楽しいから

土曜日に宥に用事があるかどうか聞かれたから、本屋に行くと答えた
宥はじゃあ一緒に行こうかなって言ってくれたけど、私が本屋さんに入ると開店から閉店までいるときがあるから退屈しちゃうかもしれない
でも宥は日曜日が部活らしくて・・・

「本屋さんの予定、日曜日にならないかな?」
「いいよ」

土曜日に買った本を日曜日に読もうかと思っていたけれど、1日ずれても問題ないか・・・

「土曜日にね、憧ちゃんを誘おうと思ってるの。だから照ちゃんも咲ちゃんを誘ってほしいなって思って」
「ああ、そういうこと」

お互いに友達として好きだけど、それ以上は直接確かめること
咲にも憧にもそう伝えてある
けれど今のところ、進展はないみたいで・・・

あまりおせっかいを焼くのもどうかなと思うけど

「2人を見てると、きっかけがほしいのかなって思うから」

そう宥が思うのなら、反対する理由もなかった

979: tell you that I love ... (Epilogue) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/24(日) 16:22:22.54 ID:wh5IVdvA0
-side 憧-

電車に揺られて、今は商業ビルのエントランスでフロア案内を見ていた

「それで、最初はどこに行くんですか?」
「本屋の下見」
「・・・・照ちゃん?」
「ごめんなさい、服です」

真顔で本屋と言った照さんを宥姉がたしなめた。
ホントに本が好きなんだなぁ・・・。姉といい、妹といい

「咲も本屋に行きたいんじゃないの?」
「え、私は大丈夫だよ・・・」

と言いつつも、視線はしっかり本屋がどこにあるか確認してたりするんだよね

「いいよ、別に本屋見てからでも」
「ホントに!」
「憧は話がわかるね」

喜色満面の咲に、照さんもやけに興奮しているように見えた

「憧ちゃん、大丈夫?」

宥姉が不安そうにしてるけれど、別に本屋を見るくらいどってことないでしょ?

そう思っていたけれど、私はこの宮永姉妹の本好きを甘く見ていた

「あー、よく飽きないわね・・・」
「姉妹だからよく似ちゃうのかな。特に大きい本屋さんだから、いろいろ見たいんだろうね」

30分もしたら私と宥姉はギブアップして本屋の近くにある長椅子に腰掛けていた

「まあ、今度は気をつけるよ。本屋が最後になるようなルートとか考えてさ」
「うん、ごめんね。もともと照ちゃん、1人で本屋さん巡りするつもりだったらしいから、本屋さんが入ってるところの方がいいかなって思って」

しょうがないか。でもそろそろ本屋から引き剥がさないとね・・・
じゃないと、もったいないもんね!

「宥姉、ありがとね」
「え、突然どうしたの?」
「宥姉のことだから、私と咲のこと気遣ってくれたんでしょ?」
「・・・・うん、そうだね」

一瞬どう答えようか迷ったみたいだけど
わざわざこうやって私と咲を誘ってくれたことからすれば、咲の気持ちも何となく察することはできる

でも、それは希望的観測かもしれないなんて、ちょっと不安になったりもするんだよね
こんなに誰かを好きになったり、そしてそれを打ち明けたりなんて、今までしたことなかったんだから

ここまでお膳立てしてもらったんだし、午後から巻き返さないとね

「ちょっと本の魔物に囚われたお姫様の救出に行ってくるわ」
「・・・どうする、憧ちゃん?」
「どうって?」

宥姉の質問の意図が分からず、私はキョトンとしてしまう
宥姉は柔らかな表情を浮かべて、

「このまま、咲ちゃんと2人きりになってもいいんだよ?」
「あー、そういうことか・・・」

それもアリかもしれない。多分、今日のこの機会を逃しちゃったら、次はいつになるか分からなくなっちゃうし・・・
それに、宥姉だって照さんと一緒にいたいだろうし

「うん、じゃあここで解散にしよう。照さんによろしくって言っておいて」
「分かった。じゃあ、頑張ってね・・・」

頑張って、か・・・
よし、気合入れろ私!

980: tell you that I love ... (Epilogue) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/24(日) 16:25:12.71 ID:wh5IVdvA0
咲を探す。結構広い本屋だからちょっとウロウロしたけど、ようやく見つかった
こっちには気がついてないみたい

私は咲の背後にそっと近寄った

「だーれだ?」
「ひゃん!」

可愛い声を上げて咲がビクンと体をこわばせた

「憧ちゃん、ビックリさせないでよ。本を落とすところだったよ!」
「あはは、ごめんね。あんまり集中してるもんだからさ」
「もう次のところに行くの?」
「ああ、そのことなんだけどね」

私は、ここで宥姉と照さんとは別行動をすることを告げた

「え、そうなんだ・・・。憧ちゃんは、どこか行きたいところある?」
「とりあえず服見たいかな。あと、咲のコーディネートもしてみたい」
「私はいいよ、憧ちゃんみたいなオシャレなのは似合わないし・・・」
「いやいや、別に私と同じ服着させるわけじゃないからね」

グー・・・

その音が鳴ったのは同時だった・・・

「そ、その前にご飯にしようか、咲」
「そうだね・・・」

ああもう、恥ずかしい・・・・



-side 咲-

同じビルの一番上の階が食べ物屋さんのフロアになっていて
その中からパスタ屋さんを選んだ

ちょうど窓際の席が空いていて、近くの景色が一望できた
目の前にもビルはあるけれど、半分くらいは遠くまで見渡せた

「お姉ちゃんたち、まだ本屋さんにいるのかな・・・」
「聞いた話によると照さん、一日中本屋さんにいられるらしいけど、ご飯も食べずに本読んじゃうの?」
「滅多にないけど、すごく面白い本があったりするとずっと立っても平気なんだって」
「はぁ、すごいなぁ・・・。咲は?」
「私は流石にお腹が減ったら切り上げるよ」

まあそれでも、あとちょっとだけって思って1時間くらい経ってたってことはあるけど・・・

「あ、咲の分、来たよ。食べていいよ」
「憧ちゃんの分もすぐ来るよ」
「いいからいいから、あったかいうちに食べなって」

悪いなと思いながら、手を合わせる。なぜか憧ちゃんがじっと私の口元を見ているように感じた

「いただきます。って、そんなのじっと見られると照れちゃうんだけど・・・」
「えー、いいじゃん。咲の食べるところ見たいなぁて思っただけで」
「もう・・・。ほら、憧ちゃんの分も来たよ」

憧ちゃんのパスタも来たので、とりあえずこれでじっと見られることはないだろう
ドキドキしちゃうから、そういうのはまだ困るよ・・・

「じゃあ私も、いただきます」

世間話をしながらあっという間にパスタを食べ終えた

「ふう、結構お腹いっぱいになったね」
「もうちょっと休んでから行こうか」

981: tell you that I love ... (Epilogue) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/24(日) 16:26:05.06 ID:wh5IVdvA0
ふと外を眺める。ビルが立ち並ぶ。こういうのも、悪くないけど・・・

「長野の方が景色は良かったかな」
「それはしずが喜びそうだね。こっち来てから山が足りないって嘆いてるしね」
「あはは、山不足とか聞いたことないよ」
「今日も自転車でどこか出かけてるんじゃないかな」

穏乃ちゃんは元気だからなぁ・・・

「あと、淡と和が最近仲がいいみたいだよね」
「和ちゃんのこと師匠って呼んでるの聞いてビックリしちゃった」

うん、淡ちゃんはすごいと思う・・・

お姉ちゃんに中学の時に負けてから、様子見して強くなるってイメージを形にできるだけの力があって
でも、それをあっさり捨てて新しい自分のスタイルを身に付けようとしている

私も、そんな風になれるのかな・・・
いままで自分を守るために続けてきた±0を止めて、勝つために打ちたいって思うけれど
また何かのきっかけで、±0にしてしまうかもしれない

「咲、どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ?」
「・・・・何かあったなら、相談に乗るよ?」

憧ちゃんがじっと私を見つめてきて・・・

「うん、そうだね・・・」

憧ちゃんなら、こんな私の不安も、受け止めてくれるかな・・・

「私ね、淡ちゃんみたいに、今までの自分を変えていけるのか不安になるの」
「咲・・・」
「クラス対抗戦のときはみんなのために勝たないとって思えたけど、じゃあ自分が一人っきりで打つときはどうなのかなって」

普段の練習だって、チームを組むわけじゃない
次の部活対抗戦はまだまだ先だし、冬には個人戦もあるけどそれも自分一人っきり

だから・・・

「咲・・・。咲は一人なんかじゃない」
「憧ちゃん・・・」

憧ちゃんの表情は真剣そのもので
だから、目をそらすなんてできなくて・・・

「一人じゃ打てないってなら、私のために打ってよ!」

えっ、それって・・・
憧ちゃんも言ってから、顔を真っ赤にしていた

「その・・・。私が咲のこと支えるから、傍にいるから・・・。だから、一人だなんて悲しいこと言わないでよ」
「憧ちゃん・・・」
「それじゃあ、ダメ?」

その微笑みは、今まで私の心の中にくすぶっていた不安を全部吹き飛ばしてくれて
きっと、憧ちゃんがいてくれたら私は思うように打てるんじゃないかって、そう思えて

「私も、憧ちゃんが隣にいてくれたら嬉しいよ」

私も、上手く笑顔で返せているのかな?

泣き顔なんて、見せたくないから・・・
ちゃんと笑顔でいられるかな?

「咲、ハンカチ・・・」
「・・・憧ちゃんこそ」

鏡に写したみたいに、きっと私と憧ちゃんは同じ表情をして、同じ感情でいて・・・・


だから・・・

これからよろしくね、憧ちゃん!

982: tell you that I love ... (Epilogue) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/24(日) 16:27:28.63 ID:wh5IVdvA0
-side 照-

「照ちゃん」

宥の声に振り返ると、頬に宥の指がささる

「・・痛い」
「彼女をほっておいて、本に夢中になる照ちゃんへのお仕置き」
「・・・・ごめん」

本気で怒っているわけじゃないんだろうけど、ほほを膨らませる宥はそれだけで可愛かった

はぁ、でもこれだけ大きな本屋さんがあるとどうしても夢中になっちゃう・・・
明日もう一回来るから、このくらい我慢しないといけないのに

「ところで、咲と憧は?」
「別々に行動することにしたよ」

折を見て咲と憧を2人きりにしてあげようって話だったけど、思ったより早かったな

「そう、じゃあどうしようか。宥はどこか行きたいところ、ある?」

とりあえず買い物に誘ってあとは成り行きで、という話だったのでこのあとの予定は特に決まっていなかった

「んー、実は私も大体のものは買ってあるから、特に買いたいものはないかな・・・」
「困るな、どこか行きたいところがないと私は本屋から出られない」
「ホントに本が好きなんだね・・・」

呆れ顔をされてしまう・・・
まあ、でもとりあえずそろそろお昼ご飯だから

「ご飯を食べながら考えよう、そうしよう」
「うん、そうだね」

誤魔化すように宥の手を取って、本屋さんを出る
名残惜しい気持ちもあるけど、明日も来るんだから我慢する・・・

983: tell you that I love ... (Epilogue) ◆oeEeLVGR7U 2013/02/24(日) 16:28:24.15 ID:wh5IVdvA0

ご飯を食べたあと、好きな小説が原作になった映画がやっているのを思い出した
それで、一緒にその映画を見ることにした

話題にはなっても映画館に行くことはほとんどない
でも、誰かと一緒の時でもない限り映画館で見ることもないだろうから

結論から言うと、ストーリーを知っている私は泣くことはなかったけれど、宥が号泣してしまった

「ごめんね、照ちゃん。みっともないよね・・・」
「大丈夫だよ」

映画館のロビーのできるだけ角の椅子に宥を座らせた
できるだけ他の人から宥の顔が見えないように体を寄せる

「私のお母さん、早死してるから・・・・。誰かが死んじゃう話を見ると、そのこと思い出しちゃって」
「そうだったんだ。ごめん」

・・・完全に失敗した
でも、宥は首を振る

「照ちゃんが悪いわけじゃないよ。映画が面白かったから、余計に感情移入しちゃっただけだから」
「でも、ごめん」

私は胸に宥を抱き寄せた

まだまだ宥のこと、知らないことが多いんだって、そんな当たり前のことに気づいて
抱きしめたくらいじゃ、宥のことを知ることはできないんだろうけど
それでも、安心させてあげるくらいはできると思うから

大丈夫、大丈夫だからね、宥
そう伝わればいいと思いながら、背中をさする

「照ちゃん・・・・。照ちゃんは、居なくならない?」
「・・・私は消えたりしないよ」

一時的に別れることは、あるかもしれない・・・
もう私も宥も高校三年で、来年には卒業してしまう
そこからの道は、別々かもしれない

私はプロを目指すつもりでいたけれど、宥はどうなんだろう・・・・
そんなことも、まだ知らないから

「宥、私はまだ宥のことを全然知らないから。もっと教えてほしい」
「・・・私も、もっと照ちゃんのこと知りたい」
「うん。お互い、教えあって、分かり合って、そうやって一緒の時間を過ごそう」

泣きじゃくる宥は、まるで小さい頃の咲のようで・・・
でもあの時と違うのは、私がお姉ちゃんだからなんて気負う必要はないってこと

私だって、宥に弱音を吐いたりしたんだから・・・

だからお互いに支えあって、一緒に歩んでいければいい


「ねえ、宥・・・・」


どんな言葉を使っても、100%は伝わらないんだろうけど

それでも、伝えたいんだ・・・


「愛してるよ、宥」

「私もだよ、照ちゃん・・・」




tell you that I love ... (完)

984: ◆oeEeLVGR7U 2013/02/24(日) 16:29:29.91 ID:wh5IVdvA0
以上にて完結です
去年の8月の終わりから書いて、ちょうど半年ですか・・・・長かった

>>289を投下した段階では先のことなんて何にも考えてなかったので、よくエタらずに書ききれたと思います

皆様のレスもあって、憧咲とか思わぬ方向に進んでしまいましたが、これはこれでよかったのかなと
なかなか長編を書くのは大変なので、次からはちょこちょこ短編を書いていきたいなと思っています

ここまで読んでいただきましてありがとうございました!!