289: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) 2012/08/25(土) 09:23:45.04 ID:JSl+fESu0
『tell you that I love ...』

春、クラス替え
張り出されたリストに、喜んだり残念がったり、そんな声が周りから聞こえる
私は、残念がる方だった

「別々だね、菫」
「まあ、2年間一緒だった方が奇跡だ。1学年20クラスもあるのに、な」

白糸台高校
麻雀のプロを目指す女子高生たちが集う
現在活躍しているプロのほとんどが、この学校の出身というくらい

「3年1組・・・知らない人ばかり」
「照シフトを組むといううわさは、本当だったか」
「なにそれ?」

ため息をつく菫

「お前、この学校に入ってから大会と名のつくもの全て負けなしだろ?」
「そうだっけ?」
「春はクラス対抗戦、夏は部活対抗戦、冬は個人戦、お前は1年のときから負けなしだよ」
「そういえばそんな気がする」
「どんな形でもいい、お前に勝ったという実績をほしがる奴もいる、そういうことだ」
「そう・・・」

そんなことのために菫と離れるのは、悲しい

「私のクラスは特に、お前をつぶすためのクラスだろうな・・・」
「そう?」

菫のクラス、3年2組の名前を見るけど、よく分からない

「まったく、少しは他人に興味を持て」

またため息

「家庭科部の福路、書道部の石戸、ソフトボール部の清水谷、サッカー部の愛宕洋榎、そしてアーチェリー部の私。大所帯の部長を全部集めてるぞ・・・」
「きっと、部長会議をしやすくするためだね」
「お前は前向きでいいな・・・」
「そうかな?」

単純に、感想を述べただけなのだけれど

「お前の妹も今年入学だろう?」
「そう、楽しみ」
「そのクラス担任が、担任や顧問を受け持つと大会で番狂わせを起こしてくる赤土先生だ」
「去年の赤土先生のクラス、強かったもんね」
「それは覚えているのか」
「荒川さんと天江さんだっけ、春のクラス対抗も決勝まできて、個人戦でも荒川さんは強かったから。よく覚えてる」

荒川さんは、とにかく状況対応力がある。いろんな打ち方をする人がいるけど、荒川さんはそれにうまくあわせてくる
私は周りから言わせるとどんな相手でもねじ伏せるタイプらしいけど、荒川さんは柔剛の柔というところだろう

「その荒川と天江が同じクラスだ。しかも、神代というおまけ付きでな」
「じゃあ2年の本命は、そのクラスか」
「お前のクラスじゃあ、太刀打ちできないだろうな・・・」

ふと、菫の視線が止まった

「いや、伏兵がいる・・・」
「伏兵?」
「まあ、クラスへ行けば分かるさ。そのクラスで、一番目立つ奴だ」
「目立つ? 派手なの?」

ヤンキーとかだったらいやだなぁ

「派手というか、季節違いというか・・・」
「季節?」

季節違いと聞いて、ふと思い浮かんだのは

「冬でも半ズボンをはく小学生みたいな?」
「逆だ。まあ会えば分かる」

引用元: 照「清澄にも麻雀部はあるのか・・・」【咲-saki-】

290: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) 2012/08/25(土) 10:54:25.00 ID:JSl+fESu0
そして自分の教室へ入って
菫の言うことは、本当だった
もう春なのに、コートにマフラー着用で、窓の外をぽーっと眺めている彼女。暑くないのだろうか・・・
菫が伏兵と言っていたのは、彼女で間違いないのだろう

「おはよう」
「ひゃいっ」

びっくりしたのか、奇妙な声を上げて振り返る

「ああ、えっとはじめまして」

私の顔を見て一瞬硬直したみたいだったが、すぐに落ち着いてくれたようだ

「はじめまして。私は宮永照、あなたは?」
「私は、松実宥です」

これが、彼女との出会いだった

「ところで、暑くないの? ダイエット中とか?」
「私寒がりで、これくらいでなんとか耐えられるくらい」

朝だからまだ肌寒いと感じることもあるかもしれないけれど、それでもこんな冬用の装備をするほど寒いとは思えなかった

「そう、大変なんだね」
「おかしいとか、言わないんですね」
「別に、人それぞれ事情はあるだろうし。それをどうこう言うつもりは無いよ」
「事情を説明しても、変な目で見てくる人も多いから」
「やっぱり、大変なんだね・・・」

事情を聞いても、感想は変わらなかった

「ところで、部活は何をしてるの?」

これ以上寒がりの話をしても彼女は喜ばないだろうから、話題を変えることにした

「私? ボーリング部ですよ」
「ボーリング部なんてあったんだ・・・」
「人数少ないから、知らないのはしょうがないよ」

でも、と彼女は笑顔になって付け足した

「今年は玄ちゃんの友達が2人入ってくれることになってるから、これでようやく夏の部活対抗戦に出られるんだ」
「くろちゃん?」

どこかで聞いたことがある名前だった

「あ、冬の個人戦で私が倍満を振った・・・」
「そう、私の妹なんですよ」
「そうだったのか」

そうだ、確か彼女の名前は松実玄
あのときは、その後ソフトボール部のマネージャーさんが倒れてしまったり、いろいろとインパクトの強い一局だった
そういえば、すばらすばらって言ってた人、名前なんだったかな・・・

291: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) 2012/08/25(土) 10:57:42.25 ID:JSl+fESu0
「その、妹さんは私のこと恨んでたりとか、そういうのある?」

私と戦って、暗い目をする人はかなりいる・・・

「負けたときは落ち込んでたけど、それからはもっと強くなるんだって、玄ちゃんがんばってる」
「そう、よかった」
「一緒に戦った園城寺さんと花田さんとは、それから仲良くなったみたいだし」

あのすばらの人は花田さんというのか・・・

「うわさされとるで、怜」
「そうなん?」

ふと、背後から降りかかる大阪弁

「あ、園城寺さんと、清水谷さん」

振り返ると2人がいて。あれ、清水谷さんってソフト部の部長で菫のクラスだったんじゃ?

「宥姉ちゃんと同じクラスなら、まだよかったわ。竜華とクラス分かれてしもうてな・・・」
「怜をよろしくお願いしますっ・・・何かあったら隣のクラスやからすぐ飛んでくるからな」
「過保護すぎや・・・」

ただの付き添いだったらしい。そして、園城寺さんがふと私に視線を向けた

「チャンピオンももしかして、同じクラスなん?」
「1組だけど?」
「そっか。クラスの人が誰かまで見とらんかって。竜華がクラスが違うって騒ぐんやもん」
「そやかてずっと一緒だったのにぃぃぃ」

どちらかというと清水谷さんの方が心配になるくらいショックを受けているようだった
対する園城寺さんは、あっさり割り切っているように見えた
若くして人生の真理に到達したのかもしれない

「わっかんねー、ホームルームの進め方とかわっかんねー」
「あ、先生来た」
「咏ちゃんやん、ええなあ」

三尋木咏先生は、先生の中でも1、2を争う腕を持っている。ただ、授業は結構てきとーらしいけど

「竜華んとこ、担任誰なん?」
「久保っち。あの人すぐ切れるからなぁ・・・」
「それはご愁傷さまや」
「よーし、席付けよー」
「もう行かな、じゃあな怜」

そうして名残惜しそうに清水谷さんは教室から出て行った

「ま、とにかくよろしゅうな、チャンピオン」
「その呼び方はちょっと・・・」
「うーん、呼び捨てでもええの?」
「構わないよ」
「じゃあ、よろしくな、照」
「こちらこそ、怜。あと、宥も呼び捨てでいい?」
「ひゃうっ」

しばらく話に加わらずに黙っていた宥は、また変な声を上げた

「え、いいの?」
「宥姉ちゃん、聞いてるのこっちやで?」
「あの、友達みたいだなって思って」
「友達やん、なあ照」
「そうだよ」
「すごく、うれしい・・・」

その時の笑顔は、忘れられないくらい輝いていた

296: tell you that I love ... (2) 2012/08/26(日) 14:48:27.64 ID:/HMmGune0
-side 咏-

「三尋木先生」

いつもの堅い声
振り返ると、階段下の踊り場にえりちゃんがいた

「どったの、えりちゃん」
「校内では針生と呼んでくださいと言っているでしょう」

いちいち目くじら立てんでもとは思うが、それが彼女の性分なのだから仕方ない
つかつかと階段を上がってくる

「クラス対抗戦、本気で来るわけじゃないですよね?」
「・・・冷静になろうよえりちゃん。少なくとも、ここで話すことじゃない。ちょうど資料室もあるし、そこで話そうか」

返事はため息
いつものことだけど、ほんとに堅い人だよ
そこが可愛いなんてまた軽口を叩けば冷静に話もできないので、今はこらえておく

資料室に入ると、さっそくえりちゃんは詰め寄ってきた

「通達、聞いてますよね?」
「困っちゃうよねー、いくら理事長だからって、宮永照を負けさせろだなんてさー」
「ですが、理事長に逆らったらどうなるか分からないわけじゃないですよね?」
「まあ、そんときはそんときさねー。横浜に帰って麻雀教室でも開くさ、知らんけど」
「どうしてそこまでしますか!」

えりちゃん、そんなに思いつめたら血圧上がるよ

「宮永照を除いたらうちのクラスは、一番高くても真瀬由子の学年ランク20位。私がちょっとやそっとやる気出したところで何も変わらないって、そう思わない?」

これでもいろいろ考えたんだよー
校長のトシさんからは、逆に宮永照の力になってくれなんて言われるしさー。まあこれは特命で、えりちゃんにも言えないけど

宮永照以外の4人を校内学年ランク20位以下で選抜してくれってさー
どういういじめだよこれ、って思ったけど。まあそれはそれで面白そうだしねー

1クラス30人程度で20クラスあるから、1学年600人程度
かといって、この中で30位程度にはなっていないとプロへの道は厳しいから、3年生ともなるともうほとんどが就職とか進学とか、プロへの道を閉ざしてしまっている人が多い

だから人数が600人もいても、実はそんなに選択肢が多いわけじゃない
そんな中で、「宮永照のクラスは勝てないな」と一見するとそう思えるような人選をしろと言われたわけで
きついっすねーって軽口でトシさんに言ったら、じゃあ一人転校生を入れるって軽く言ってくれたけども、さてその実力はどんなもんかねー

「ですけど、万が一ってこともありますし・・・」
「っていうか、うちの組より、3年2組とかの方が凶悪じゃね? あと、晴絵ちゃんのクラスとかも面白そうだしねぃ」
「ですからそうではなくて」
「っていうか2年10組だって荒川、天江、神代がいるんだろ。まあ無理無理、うちのクラスじゃ勝てっこナイナイ。わっかんねー、どうやったら勝てるかなんて全然わっかんねー」

それが正直な感想
ただ、やるからには当然、勝ちに行くけどねぇ

「・・・・咏さん」
「およ、学校だよ、えりちゃん?」

うつむいてしまったえりちゃんの表情を確認することはできなかった

「あんまり、無茶しないでくださいね・・・・」

もう、そんなに震えた声出さないでよ
思わず抱きしめて、体まで震えているのを知る

「守りたいものがあるから、無茶できるんだぜー。知らんけど」

297: tell you that I love ... (2) 2012/08/26(日) 15:14:25.72 ID:/HMmGune0
クラス替えして1週間経つ頃には、だいたいクラス内のグループ分けも終わる
と同時に、一通りクラスメイトと対局してその力量はわかったつもりだ

「さて、そろそろクラス対抗戦のオーダーを考えないといけないねぇ。どうだ、てるてるー。考えてくれねーかな」
「てるてるって、私ですか?」

ホームルームの最中、三尋木先生の視線はこちらを向いていた
照と呼び捨てにされたことはあったが、てるてるーはなかったので戸惑う・・・

「そそ、あれだろー、1回打つとその人の力量わかるんだろー。理屈はさっぱりわっかんねーけども」
「ええ、まあ」
「だったら宮ちゃんにさっくり決めてもらった方がよくねーかなーとか思うわけよ」

今度は宮ちゃんか、ほんとによくわからない人

「好きに決めていいんですね?」
「逆に反対意見があったら私が説得してあげる」
「分かりました、提出日は?」
「悪いけど、明日の放課後まで」
「十分です」

私が大きく頷くと、三尋木先生はパンパンと大きく手を打った

「よっし、じゃあホームルーム終了。おつかれー」

そしてさっさと教室を出ていってしまった

「照、オーダーどうするん? 相談に乗るで」
「私も、力になれれば」

怜と宥がすぐに駆け寄ってくれた

「ありがとう。二人には、大会に出てほしい」
「ええけど、途中で体調悪くなったら堪忍な」
「私で大丈夫かなぁ・・・」

理由はそれぞれ違うのだろうけれど、不安そうな2人

「大丈夫だよ、それに2人と一緒に出たいんだ」
「うーん・・・」

怜は体力的なことだけが心配のようだけど、宥は別の心配をしているようだった

「もし、私の連勝を止めたらとか、そういうことを考えてるんだったら気にしなくていいよ」
「そう言われても、すぐには・・・」

とそのとき、宥の携帯が鳴った

「あ、ごめんね。もしもし、玄ちゃん。うん、少し遅れるかもしれないから先に行ってて。うん、ごめんね」
「玄ちゃんからか、今日は部活外に行くん?」
「そう、2週間に1回はボーリング場で部活。あんまり部費がないから、部活として実際のレーンでなかなか投げられないんだ」

人数や実績に比例して部費が支給されるけれど、ボーリング場で練習となるとお金もかかるだろうし、大変なんだろう
ただ人数が少ないとは言え、鷺森さんという人がボーリングの全国大会常連らしく、実績面で多少優遇はされているみたいだった

「あの近くのボーリング場?」
「うん、そうだよ」
「私は真瀬さんと、転校生の姉帯さんに声をかけようと思ってる。そのあと、お邪魔でなければ見学に行ってもいいかな?」
「それは大丈夫だけど、照ちゃんは部活無いの?」
「ああ、私は幽霊部員だからね。菫と一緒に入っただけで、1年の頃はそれでも少しは射ってみたけど、全然的に当たらないしそのうち誰かに怪我させてしまうんじゃないかと思って、やめた。夏の部活対抗戦で貢献してるから、活動しなくても何も言われなくなったし」
「照っぽいなぁ、おもろいわ」

怜がくすくす笑う。私っぽいとはどういうことだろう・・・

「じゃあ、ソフト部の練習始まるし、行くな。宥姉ちゃんもそんなに深刻に考えんでも、気軽に出たらええと思うよ」
「ごめん怜、真瀬さんと姉帯さんって、何部?」

すでに二人の姿は教室にはなかった

「由子はサッカー部で、姉帯さんはたしか臼沢さんに誘われて美術部に入っとるはずやで」
「そう、じゃあグランドまで一緒に行こう。宥、じゃあまたあとで」
「うん、待ってるね」

298: tell you that I love ... (2) 2012/08/26(日) 15:47:45.89 ID:/HMmGune0
怜がサッカー部の部室まで案内してくれると、ちょうど真瀬さんがユニフォームに着替えて出てくるところだった

「あ、ちょうどよかったな。じゃあ照、がんばってな」
「ありがとう、怜」
「宮永さん、どうしたのよー?」

私に気づいたのか、真瀬さんが声をかけてきてくれた
でも、なぜかその表情は暗かった

「もしかして、クラス対抗の話?」
「うん、そう。真瀬さんに出てもらいたくて」
「・・・・」

なぜか視線をそらす真瀬さん
何か気に障るようなことを言っただろうか?

「もうちょっと、目立たないところでもいい?」
「ああ、構わないけど・・・」

2人して部室の裏にまわると、いきなり真瀬さんが頭を下げた

「ごめんなのよー。誰にも言わないでほしいけど、圧力かけられてるのよー」
「圧力?」

ふと、菫の言葉を思い出す
照シフト・・・・
まさかそこまでしてくるとは思っていなかった

「クラス対抗戦はずっと出てたし、宮永さんと同じチームになれるのも楽しみだったのよー。でも・・・」
「いいよ。・・・巻き込んで、ごめんなさい」

私のせいで、真瀬さんの楽しみまで奪ってしまったなんて・・・

「ごめんなさいなのよー」
「私から声をかけられたのは忘れて。部活、始まっちゃうから」

小さくまた、ごめんなのよーとつぶやき、真瀬さんは走っていった

もしかして、宥がいいよどんだのも何か圧力がかかっていたからだろうか?

真瀬さんは20位くらい
宥は確か50位くらい
怜は100位くらいだったはず
怜が未来予知できるようになったのは冬の個人戦の直前、それ以前は300位くらいだったことを考えると大きく順位は上げているが、怜には圧力がかかっているような素振りはなかった

単純に、2番手を抑えておけば戦力ダウンするだろうくらいのことならいいけど・・・

しかし・・・

「これで、宥がOKしてくれても、1人足りなくなるな・・・」

とりあえず姉帯さんがいる美術部に向かおう

「・・・・美術部ってどこだろう」

299: tell you that I love ... (2) 2012/08/26(日) 16:32:13.14 ID:/HMmGune0
いろんな人に聞いて、美術部にたどり着いたのはあれから40分以上かかってしまった
この学校、生徒が多いのは分かるけど広すぎる・・・

「失礼します」

ノックして中に入ると、一人が椅子にぽけーっと座っていて、それを取り囲むように4人がスケッチをしてした
その4人の中に、姉帯さんと臼沢さんがいた

「デッサン中だから静かにっ」
「あ、ごめんなさい」

姉帯さんの隣に座る、ひときわ小さな子に注意された
姉帯さんは2mくらいだけど、この子は130センチくらいしかないんじゃないだろうか。とても同じ高校生には見えなかった

「ダルい・・・・休憩しよう」

真ん中に座っていた子が、そう言って姿勢を崩した

「シロ、勝手に休憩しないでよっ」
「お客さん来たし、いいでしょ?」

崩した態勢を変えようとしないので、小さな子もため息をついて鉛筆を置いた

「いいよ、10分休憩。で、用件は何、チャンピオン」
「ああ、クラスのことで姉帯さんと臼沢さんに話したいことがあって」
「・・・なら、隣で話して、ダルいから」

ダルいという理由はよく分からなかったが、3人で話せるならその方がいい

「ありがとう。いいかな、姉帯さん、臼沢さん」
「いいよー」
「っていうか、私は必要なの?」

姉帯さんは気楽に返事をしてくれているが、臼沢さんは戸惑いを隠せていない
圧力でなければ、何を思っているのかは思い当たるけれど・・・

「うん、お願い」

そして3人で、隣の準備室に入った

「まあ、分かってるとは思うけど、クラス対抗戦の話。2人に出てほしいと思ってる」
「塞と一緒にー、やったー。もちろんいいよー」

姉帯さんはあっさりそう答えてくれる

「ちょっと豊音、勝手に決めないでよ」
「どうしてー、ちょー楽しみだよー」
「だって私は・・・」
「もう塞げない、から?」

彼女が、特定の相手の手を塞ぐ力を持っているのは、いや、持っていたのは分かっていた
そしてそれが、冬の個人戦を境に使えなくなってしまっていることも

「知っているのね・・・いや、見抜いちゃうんだっけ」
「え、塞げないってなに?」

転校してきたばかりの姉帯さんにはよく分からない話なのだろう

「ちょっと調子に乗りすぎてたのよね。冬の個人戦、いいところまで行けて。とんでもない卓に入ってしまったのに、いけるんじゃないかと思ってしまった・・・」

天江衣・石戸霞・辻垣内智葉と同卓して、1人を塞いだところで誰かが上がる
2人同時、3人同時に塞ぐしかないと無理をした結果、塞ぐ力をそのものを失ってしまった

臼沢さんの説明を、姉帯さんは真剣に聞いていた

「塞ー。じゃあ、もう麻雀も打てないのー?」
「いや、昨日も打ったでしょうに・・・でも、塞ぐことに慣れてしまった私は、塞げなくなって目に見えて成績が落ちてる。だからクラスを代表する力なんて、私にはない」

私は、大きく首を振った

「力は、完全になくなったわけじゃない。眠ってるだけだよ」

300: tell you that I love ... (2) 2012/08/26(日) 17:06:50.86 ID:/HMmGune0
「眠ってるだけ・・・それも、見えているの?」
「ああ。そもそも、完全に失われていたら、私には塞ぐ力があることは見えてなかったと思う」

私が対局で見抜けるのは、今現在の状況だけ
過去や未来まで見通すほど万能ではない

「そう、眠ってるだけか」
「クラス対抗戦、嫌なら出なくてもいい。でも、ホームルームで言っていたけど、明日の放課後までには先生に提出しないといけない。だから、時間がないけど一晩考えて結論を出してほしい。急かして申し訳ないけど」
「そんな時間はいらないよ」

心配そうに見つめる姉帯さんをよそに、臼沢さんはもう笑顔だった

「そこまで分かってて、それでも私に頼むって言うなら仕方ない。出るよ」

その言葉を聞いて、私よりも姉帯さんが大はしゃぎしていた


美術室に戻ると、先ほどはずっと無口だった金髪の女の子が私に駆け寄ってきた

「ミンナ、ガンバレ」

そう言って差し出してくれたのは一枚のスケッチブック
そこには、「3-1 ガンバレ」と書かれて、姉帯さんと臼沢さんと、私のイラストが書かれていた

なにこれ、かわいいっ

「これは?」

あくまで冷静に努めながら尋ねる
先ほどの気だるげな子が見当たらないので周囲を見回してみると、彼女は準備室との扉にもたれかかったままだった。聞き耳立ててたな・・・

「餞別、ついでに塞の復活も期待してるよ」

小さい子がしれっと言うが、それを臼沢さんが許さない

「胡桃、聞き耳立ててたな?」
「知らない、豊音の声が大きかっただけ」
「えー、私のせいなのー」
「ダルい・・・」

一気に賑やかになった室内を見渡し、そして手元のイラストに視線を落とした。かわいいけど、まだ足りない
私は、金髪の子にイラストを返した

「あと2人、メンバーが決まったら書いてくれないかな?」
「ウン」
「あ、ごめん、あと3人だった」
「ダイジョウブ、イッパイカク」

ここに、怜と、そして宥
それに、真瀬さんも書いてもらおう・・・・

私は美術室をあとにし、ボーリング場に向かうことにした

304: tell you that I love ... (3) 2012/08/29(水) 09:43:04.97 ID:cMwJG2Om0
ボーリング場に入ると、平日だから随分すいていた
だから、宥たちがどこにいるのかもすぐに分かった
特に宥は、マフラーをしているからすぐわかる

「こんにちわ」
「あ、照ちゃん、ちょっと遅かったね」
「姉帯さんが見つからなくてね」
「うわああ、リアルチャンピオンだ!」
「しず、指ささないの」

リアルってなんだろう・・・
とりあえずジャージを着た子が私を指差しているのは分かった、まあよくあることだから気にはならないけれど

「ごめんね照ちゃん。1年生の高鴨穏乃ちゃんと、新子憧ちゃん」
「高鴨穏乃です、よろしくお願いしますっ」
「新子憧です、よろしく」
「宮永照です。突然見学に来て、申し訳ない」
「そんなに遠慮しなくても大丈夫だよ、照ちゃん」

高鴨は元気が有り余ってるようで、すごい勢いで頭を下げてくれた
対する新子さんは逆に落ち着いた様子でぺこりと頭を下げた
今年入ってくれると言っていた1年生2人、か

レーンに目をやると、投げているのは2人
髪の長い方が宥の妹の玄さんだから、髪の短い方が全国常連と言っていた鷺森さんなのだろう

「宮永さんて呼ぶと、咲とかぶっちゃうし、照さんって呼んでいいですか?」
「咲とクラスいっしょなの?」

新子さんから突然咲の名前が出てきて驚いたが、考えてみれば同じ1年だから知り合っていても不思議ではなかった

「そうです、咲って麻雀強いっすね」

どうやら高鴨さんも咲のことを知っているらしい
早くも友達が出来ているようで、喜ばしい

「正直、私でも勝てるかどうか怪しい」
「そんなことないですよ。って言っても、咲もそんなことばっかり言ってましたけどね、お姉ちゃんには全然かなわないって」

多少謙遜、多少本音
ある程度改善はしてきているものの、まだ咲は勝ちたいという気持ちが薄いように感じる
±0に調整する力は、私ですら崩すのは難しいけれど

そこに、レーンで投げていた2人が投げ終えてこちらに戻ってきた

「しず、憧、交代」
「よっし、投げるぞー」
「あ、宮永さんだ、本当に来てくれたんだね」
「ああ、冬の個人戦以来だね」

玄さんが笑顔で出迎えてくれた

「はじめまして、チャンピオン」
「ああ、はじめまして。えっと、あなたが鷺森さんでいいのかな?」
「ええ、鷺森灼です。よろしくお願いします」
「チャンピオンって呼ばれるのは恥ずかしいから、照でいい」
「それはいきなりすぎるかな・・・宮永さん」
「それでいいよ」

フランクな1年生2人に対して、上級生はややおとなしい印象だった

「それで、今日はどういった用件なの?」

鷺森さんが尋ねてくるのも当然だろう
私は本来、こんなところにはいるはずもないのだから

305: tell you that I love ... (3) 2012/08/29(水) 09:47:39.72 ID:cMwJG2Om0
「クラス対抗戦のことで、宥と話をしたかったんだけど。部活が終わってからでいいよ、それは」

2週間に1回のボーリング場の練習を邪魔する気はない

「あと、ちょっと興味があってね、ボーリング。やったことないから」
「今まで一度も?」

鷺森さんが意外そうに聞いてくる
誰しも家族で1回くらいやったことあるだろうと思うのが普通だろうけど、我が家はある意味麻雀バカな一家だったから、休みの日といえば麻雀というくらいだった
遊園地とかに行ったことも、数回しかない

「そう・・・じゃあ宥姉と一緒に投げてみたらいいと思う」
「え、それは悪いからできない。2週間に1回しか使えないんだろう?」
「部費では、ね。自費で来ることもあるし、部としての体面を保つために宥姉や玄に入ってもらってるようなものだし」

部活としては最低3人は必要
部活対抗戦では5人必要だけど、それはあくまで大会規定に合わせているだけで、部活の成立要件とは別問題
ちなみに部活対抗戦では、臨時の部費が支給されるのでクラス対抗よりも盛り上がる
クラス対抗はどちらかというと親睦を深める方がメイン

「それにそもそも、ボーリング場に来てボーリングをやったことない人を、そのまま帰すわけにはいかない」
「それは確かに、そうだな」
「照ちゃん、それじゃあ靴を借りにいこう」

今まで座って話を聞いているだけだった宥が立ち上がった

「靴? レンタルしてるの?」
「そう、レーンの上は土足厳禁」

そうだったのか・・・
知らないことはまだまだ多い

「あとボールもいろんな重さがあるし、穴の大きさも微妙に違うから、いろいろ持ってみてね」

重さが違う?
カラフルなボールがたくさんあるなとは思っていたが、好きな色を選んでくださいねということではなかったらしい

「ボーリング、深い・・・」
「そんなに重く考えなくてもいいよ?」

306: tell you that I love ... (3) 2012/08/29(水) 09:50:24.78 ID:cMwJG2Om0
結局、初めてのボーリングは、42点

「すまない、これは麻雀に例えるとどのくらいの点数なんだ?」
「うーん、5000点くらいで4着かな?」
「そうか、トビ目前なんだな・・・」
「そんなに深く考えなくても、楽しめればいいんだよ?」
「確かに、8本倒せたときは嬉しかった」

ただ転がすだけかと思ったが、まったくそうはいかなかった
まっすぐ投げているつもりでも、少しの回転で曲がってしまう
一度もストライクやスペアをとることはできなかった

「さて、じゃあそろそろ片付けようか」
「あ、宥姉と玄は先に帰っていいよ。照さんも待っただろうし」

鷺森さんの号令に、新子さんが応えた

「そうだね、今日はお言葉に甘えるね」
「じゃあ帰ろう、おねーちゃん」
「照さん、また来てくださいね」
「ああ、また教えてくれ」

307: tell you that I love ... (3) 2012/08/29(水) 09:52:47.79 ID:cMwJG2Om0
もう外はすっかり暗くなっていた
あ、まずい、咲に連絡しとかないと

「すまない、先に家に連絡してから」
「どうぞ」

慌てて携帯電話を取り出して、登録ボタンを押す

「もしもし、咲?」
「あ、お姉ちゃん。ご飯そろそろできるよ?」
「ごめん、あと30分くらいかかるから先に食べてていいよ」
「今日部活出たんだ」
「いや、ボーリング部に一緒に行ったんだ」
「あれ、お姉ちゃん、穏乃ちゃんや憧ちゃんと面識あったっけ?」
「いや、同じクラスの友達がボーリング部でね」
「そうなんだ。30分くらいだったら待ってるよ?」
「分かった、できるだけ早く帰るね」

携帯をしまい、改めて宥の方を見る

「一緒に住んでるんだね」
「ああ、ちょうど母さんがこっちに来ててね。逆に今は実家なのに父さんが単身赴任みたいになってしまってる」
「私たちは寮だから、部屋が別々だから羨ましいです」

宥たちは奈良から上京している
上京してくる生徒も多いので学校の寮も充実しているが、全室個室なので姉妹で通ったりする分にはちょっとさみしい部分もあるのだろう

「それで、クラス対抗戦だけど」

ようやく本題に入ると、宥は少しうつむいた

「うん、今まで私、クラス代表に選ばれたことないから」
「別にそんなに重く考えなくてもいいよ」
「それに、照ちゃんの足を引っ張っちゃうんじゃないかって・・・」
「そんなことは気にしなくてもいい」

どうも気が乗らないようだ・・・
あまり無理強いさせても仕方ないけれど、できれば宥と出たい
不当な圧力をかけられているという雰囲気でもなさそうだし。ただ、気持ちの問題なんだろう
どうアプローチしようか迷っていると、玄さんが口を開いた

「私は、おねーちゃんが試合してるところみたいなー」
「玄ちゃん・・・」
「それに、私だってとんでもないクラスに入っちゃってるから、代表に選ばれたらどうしようってドキドキしてるんだよ」
「えっと、何組だっけ?」
「2年10組。荒川さんと天江さんと神代さんがいるクラス。明日赤阪先生が発表することになってるけど、残り2人の中に私が入るんじゃないかってクラスのみんなが言ってるから」

菫と話していた、2年最強の3人がいるクラス
その中に玄さんもいるようだ・・・
菫のクラスの部長連合よりも、2年10組の方がすごいような気がする

「宥、別に私は勝たなければ死ぬとかそういうことはないし、クラスの中で最善の布陣を敷いて戦いたい。その最善の中に、宥が入ってるんだよ。だから仮に負けたとしても、後悔しないし責めもしない」
「そう、だね・・・」
「それに、ボーリングの時に楽しめればいいって、私に言ってくれたじゃない。それと同じだよ」
「うん、さすがに自分で言ったことを返されちゃうと、もうお手あげかなぁ」

宥は、ようやくうつむいていた顔を上げてくれた

「私、頑張るね」


308: tell you that I love ... (3) 2012/08/29(水) 09:56:56.36 ID:cMwJG2Om0
「ただいま。ごめんね、咲」
「大丈夫だよ、早く食べよ?」
「うん、すぐ着替えるから待ってて」

約束の30分を少しばかり遅れてしまって、私は少し息を切らして帰ってきた
もう少し運動しないとまずいかなぁ・・・
さっと制服を脱いで部屋着に着替えると、手を洗って食卓についた

「咲は料理が上手で羨ましいよ」
「そんなことないよ、お姉ちゃんの方が上手だってば」
「それじゃあ、いただきます」
「いただきます」

ポテトサラダと豚の生姜焼きと味噌汁、シンプルだけどそれだけで十分おいしい

「咲は、クラス対抗戦出るの?」
「明日赤土先生が明日の朝に発表って言っていた。メンバーは先生が決めるけど、オーダー順はその5人で決めていいよって」
「やっぱり先生によっていろいろ決め方が違うんだね」
「お姉ちゃんは?」
「私に一任。全部決めて放課後にオーダー提出だって」
「やっぱりお姉ちゃんくらいになると、先生からの信頼が厚いんだよ」

物は言いようというか・・・

「いや・・・あれは単にめんどくさいのと、私がどんなオーダー組むか知りたいっていうことだと思う」
「そっか、先生にもいろいろいるんだね。それで、お姉ちゃんは先鋒? 大将? もし代表に選ばれたら、お姉ちゃんと打ちたいな」
「秘密。まあ、ガチで行くよ、とだけは言っとくけどね」
「分かった。じゃあそれは本番までの楽しみにしておくね」

真瀬さんが入る予定だったから、オーダーは考え直しだけど
お風呂に浸かりながらゆっくり考えよう

309: tell you that I love ... (3) 2012/08/29(水) 10:27:34.01 ID:cMwJG2Om0
次の日の放課後
私は教室に残り、三尋木先生と2人きりになるのを待っていた
ようやくみんないなくなり、私はオーダー用紙を先生に提出した

「これでお願いします」
「うは、マジすかっ」

まあ、そういうリアクションが返ってくるのだろうなとは思っていたので特に驚かない

「それにしても、そーかー。由子ちゃん断られたかー」
「あの、先生は真瀬さんのこと何かご存知なんでしょうか?」
「いや、知らんし。大人は汚いなー、ってことは知らんし」
「知ってるじゃないですか・・・」
「わっかんねー、何の圧力かかってるかなんてわっかんねー」
「いや、圧力とか言っちゃってますよね」

なぜかお互いのため息がかさなりあった

「ま、大人のごたごたは私に任せて、てるりんは目の前の試合を1つずつ進んでいってくれればいい」
「てるりんというのはよく分かりませんが、やるからには勝ちます」

よくもまあ、毎度毎度呼び方を変えられるものだ・・・

「そっか。参考までに教えてくんね、このオーダー組んだ理由」

3年1組
先鋒 松実宥
次鋒 臼沢塞
中堅 園城寺怜
副将 宮永照
大将 姉帯豊音

「まず、臼沢さんは調子を落としていますし無理をさせられないので次鋒でなんとかつないでもらえればと思います」
「この面子なら、次鋒はそのへんだろーねー」
「怜の性格から考えて、先鋒に据えた方が無茶をしてしまうと思うんです」
「だねぇ、冬の個人戦もてるるに対抗するためにそうとう無茶してたみたいだしねぇ」

今度はてるる、か・・・

「無茶をして、また倒れてまで打ってほしくはありません。例えば私が先鋒で怜を中堅にしても、それでも怜は無茶をすると思うんです」
「だねぇ、照の稼いだ点棒は渡さへん、とか考えそうだわ」
「だとすると、私は怜の後ろにいた方がいい」

怜は一生懸命なのはいいけど、それが無茶になってしまうときもあるから気を付けないといけない

「なるほどねぇ。そうすると誰を先鋒にするか、宥ちゃんか豊音ちゃんか、になるわけだが」
「姉帯さんは転校生でデータ不足。できるだけその実力は隠しておきたい」
「なるほどね、テルチャーが副将に座ることで、大将の豊音ちゃんをできるだけ楽させて打ち筋を隠しておきたいってことか」

もはや何も言うまい・・・

「そうです。それに、宥なら先鋒でもうまくやってくれると思います」
「よし分かった。まあどんなオーダーが来ても文句を言うつもりなんてなかったけど、これで行こう」
「よろしくお願いします」

313: tell you that I love ... (intermission-1) 2012/08/30(木) 02:46:22.71 ID:rXT6qUUz0
intermission … 演劇などの休憩時間

2年6組

まこ「1年の時はバラバラじゃったが・・・」

未春「ついに私たちの力が1つになりますねっ」

智紀 コクン

浩子「よろしゅうに」

尭深「はい、お茶」

ズズズズズ

まこ「うまい。さて、わしら最強の地味メガネ軍団の、最強オーダーをそろそろ決めんといかんの」

浩子「他のクラスのオーダーを予想したリストがこちらです」

智紀「一緒に作った・・・」

未春「全59クラス分ですか・・・すごいですね」

浩子「伊達にIDソフトボールは名乗ってません」

尭深「強敵は、3-1、3-2、2-10、1-5・・・」

まこ「まあ宮永照は今回クラスメイトがあまり強くないという話を聞くが、そのへんはどうなんじゃ? いつも団体戦では先鋒で出てくるらしいが」

浩子「クラス戦ではこれまで宮永照・弘世菫の先鋒次鋒で逃げ切りというパターンで勝ってきたのですが、今回2人は違うクラス。新しい戦略でくるのかはやや読みきれない部分があります」

尭深「去年の部活対抗戦のとき、宮永先輩は先鋒が好きと言っていたから、多分変わらないんじゃないかと思う」

未春「なるほど、それでこの予想ですね」

3年1組予想オーダー
先鋒 宮永照(学年ランク1位)
次鋒 臼沢塞(68位)
中堅 松実宥(50位)
副将 園城寺怜(103位)
大将 真瀬由子(20位)

智紀「ただ、転校生の姉帯さんという人のデータが足りない」

浩子「なのでその転校生いかんによっては、中盤の誰かが入れ替わる可能性があります」

まこ「まあ何にせよ、先鋒に宮永照というのは変わらんじゃろうな」

315: tell you that I love ... (intermission-1) 2012/08/30(木) 03:22:00.10 ID:rXT6qUUz0
尭深「次は、3-2。強豪の部長ばかり集まるクラス・・・」

浩子「まあ、こちらはメンバーの入れ替えはないでしょう」

3年2組予想オーダー
先鋒 福路美穂子(4位)
次鋒 弘世菫(7位)
中堅 愛宕洋榎(2位)
副将 清水谷竜華(8位)
大将 石戸霞(10位)

智紀「ほぼ、これで間違いない・・・」

未春「これはこれでヒドイですね。全員学年ランク10位以内とか」

尭深「宮永先輩に対抗するために、わざわざ集めたといううわさがあるくらい」

浩子「ま、そのへんのうわさはいろいろあるようですが、もうクラス編成は終わってますからオーダーに影響を与えるようなことはないでしょう」

まこ「なるほどの」

浩子「次は、2年10組ですが・・・。ここもなかなかになかなかですわ」

2年10組予想オーダー
先鋒 神代小蒔
次鋒 上重漫
中堅 荒川憩
副将 愛宕絹恵
大将 天江衣

智紀「次鋒が、松実玄の可能性も高い・・・」

尭深「冬の個人戦で、宮永先輩に倍満を直撃した」

未春「通称、ドラゴンロード。龍を統べる者・・・」

浩子「担任が赤阪先生でサッカー部顧問代行ですんで、上重を持ってくる可能性がやや高いかと予想しとります。ただ、どちらにしても爆弾娘なのは変わりありませんが」

まこ「それにしても、派手メガネが副将なんじゃな?」

尭深「メガネの中では人気がある・・・・」
参照:http://saki-daisuki.info/archives/4916

未春「咲日和で愛宕の巻とか、許せませんっ」

浩子「ま、まあそのへんはさておき・・・。このオーダーですが、神代と荒川が入れ替わるパターンもありえるかと思います。正直、赤阪先生が曲者なのでトンデモオーダーになる可能性も否定はしきれません」

まこ「最後は、1年5組か」

浩子「それはですね」

智紀「【tell you that I love ...(4)-side 淡-】をお待ちください」

まこ「って、ここで終わりかいっ」

未春「まあ、所詮幕間のおまけ扱いですから・・・」



2年6組
先鋒 染谷まこ
次鋒 沢村智紀
中堅 吉留未春
副将 船久保浩子
大将 渋谷尭深

なお、予選で登場させるかどうかはまだ決めてない模様

320: tell you that I love ...(4) 2012/09/02(日) 22:49:30.52 ID:X0Rzf6dT0
-side 淡-

宮永照との対戦は、中学の時に1度だけあった
私が1年で、彼女が3年。もちろん、完敗
だけどそれ以上に、その打ち筋に魅了された

あれを恐怖と思う人は、所詮その程度の器量しかないということ。だったら麻雀なんて止めたほうがいい

私もああなりたい、それが目標であり、あこがれだった

「ねーあなた、宮永照の妹なの?」

だからその照の妹、咲と同じクラスになったのは、運命なのかもしれないと思った

「そうですけど・・・」

おそらく今までも耳が腐る程聞かされた質問なのだろうけれど、未だ慣れていないように戸惑う咲
その様子が、なんだか可愛かった

「よし決めた、友達になろう、サキ!」
「え、あ、はい」

こういうのは勢いが肝心。特に気の弱そうなこの子には
それにしても、あの宮永照の妹がこんなにかよわいなんて、血なんてものはあてにならないのかしらね、まあそれはそれで興味あるけど
麻雀の腕はどーなんだろ、まあこの学校に入ってるくらいだからそれなりには打てるんだろうけど

「ところで、名前は?」

咲が尋ねてくる

「大星淡よ。淡って呼んでくれていいからね」
「うん、よろしくね、淡ちゃん」
「今聞こえたんですけど、宮永さんあのチャンピオンの妹ってほんとですかっ?」

突然話に入ってくる、正直申し上げて猿っぽい子。っていうかなんでジャージなの、今日入学式終わったばかりでしょうに

「穏乃、そんな突然話しかけたら迷惑ですっ」
「まーまー、しずにそんなこと言ったって聞きゃしないわよ」

その後ろからやってきた、とっても大きなおもちと、髪をツインにした子

「えー、だってあのチャンピオンの妹だって聞いたらいてもたってもいられなくって」
「誰それの妹とか、そういう見方はするべきじゃないと思います」
「まあ和もそうかっかしない、妹だからどうこう言ってもしょうがないってのは私も同感だけどさ」

のどか?
ああ、確か去年の全中チャンプの原村和か。中2中3のときは私は海外にいたから、私のいない中学チャンプとか全く意味はないと思うけど

「ま、とりあえず急に話に入っちゃってごめんね。私は新子憧、こっちが原村和」
「私は高鴨穏乃です、よろしく」
「宮永咲です。確かに、宮永照は私のお姉ちゃんですけど・・・」
「おお、やっぱりそうなんだ、すごいすごいっ」
「だから、姉とか妹とかで人を見るべきじゃありません」

身を乗り出して咲に迫る穏乃に食ってかかる和
それをため息まじりに見ている憧
一番話が通じそうなのは、この憧って子かな・・・

「愉快なお友達ね、アコ?」
「そうね、しずはバカ正直というかなんというか、和は正直すぎるというかなんというか・・・」

同じ正直でもこうも違うものなのね

「あなたの名前、大星淡でよかったかしら?」
「ええ」
「ま、とりあえずよろしくね、淡」
「こちらこそ」

私たち5人の出会いはこんな感じだった

321: tell you that I love ...(4) 2012/09/02(日) 22:52:27.85 ID:X0Rzf6dT0
宮永照がいるというので、私はアーチェリー部を見学することにした
しかし実際に見学してみるとそこに宮永照の姿はない

「部長? 宮永照もアーチェリー部って聞いたんですけど?」
「ああ照は幽霊部員でな、たまに来るが、今日は来ないとメールが入ってるから来ないぞ」
「ええー」

海外にいるときからアーチェリー部に入ってるって情報を入れてたからこれでも結構練習してきたのに
でも全く来ないわけではないらしいし、それに夏の部活対抗戦には一緒に出られるはずっ

「照目当てなら、あまり入部はお勧めしないぞ。あまり特例は作りたくはないが、宮永照だから幽霊部員を黙認されているだけで、うちの部は全国クラスだ。練習はしっかりやる。去年もそうだったが、照目当てで入って半分位は辞めている」
「大丈夫ですよ、アーチェリーの経験はあります」
「そうか、なら少し射っていくか?」
「はい」

流石に道具は持ってきていないので練習用のものを借りる
結果は3射して、7点、2点、7点。自分の道具じゃないし、こんなもんかな

「ふむ、3射してミス無しか。経験者というのは確かなようだな」
「ええ、照目的のニワカじゃないですよっ」
「なるほど、それは悪かった。歓迎するよ」

こうして晴れてアーチェリー部に入部した


照に会えたのは、その2日後だった

「大星、今日は照が来るらしいぞ。というかまあ、新入部員もいるんだから1度くらい顔を出せといって渋々来させたんだが・・・」
「ありがと、スミレ」
「まあいいんだが、部活が始まったらせめて部長と呼べ」
「はーいっ」

どうもさん付けとかちゃん付けとか苦手だからほんとはみんな呼び捨ての方が楽なんだけどね

「お疲れさま、菫」

渋々連れて来られたからかなんなのか、無表情でようやく宮永照が現れた

「お待ちかねの照だぞ、大星」
「初めまして、新入部員の大星淡です、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。・・・あれ、どこかで会った?」

少しだけ私の顔をのぞきこむように顔を近づけてくる
え、覚えてくれてるの?

「3年前の全中で一度だけ対戦してます。覚えてるんですか?」
「ああ、中学の時か。髪が長くて、特徴的な打ち筋だったから記憶の片隅にあったのかも・・・。名前までは覚えてなくて、ごめんね」
「いえ、そんな。光栄ですっ」
「ほう、照が人の顔を覚えているなんて、珍しいこともあったものだな」
「人の顔とか名前覚えるの苦手だけど、そこまでじゃない・・・」

なんか菫と話しているのを見ると、対局中に想像してたルークビューティとは随分違う
事前に咲から話を聞いておいて、ある程度予想はしていたけれど

「まあとにかく、よろしくね大星さん」
「あの、淡って呼んでください。あと、できればテルって呼んでもいいですか?」
「ああ、別にいいよ」
「じゃあよろしくね、テル」
「よろしく、淡」

案外あっさり認めてもらえた。菫には海外生活が長くてとかいろいろ説明してようやく納得してもらえたから

「ところで菫。顔を出したのはいいけど、私は何をすればいいの? 手本とか見せられるわけじゃないし」
「どうにも、お前の神格化が激しくてな。私が何を言っても信じてもらえなくてな・・・。だから普段通りにしてくれればいい」
「なんだかよくわからないけど、分かった」

ため息をつく菫。私以外にも照に憧れてみたいな理由でアーチェリー部に入部しようとする人が多いみたい
たまたま来てないだけで、ほんとはアーチェリーも華麗にこなすんだわ、とかそういう想像をしている人もいるみたい。私は咲からその辺も聞いたから今更驚きはしないけど

「よし、じゃあ部活をはじめるぞ」

結局照は部活の最初から最後まで、ずっと本を読んでいるだけだった

322: tell you that I love ...(4) 2012/09/02(日) 22:53:45.51 ID:X0Rzf6dT0
部活が終わり、さっと帰ろうとする照を引き止めた

「テルー、一緒に帰ろっ」
「いいけど、家はどこ?」
「学校の寮だよ」
「そう、じゃあ寮に寄ろうか」
「テルは図書館の近くに住んでるんだよね?」
「そうだけど、どうして?」

不思議そうにこちらを見る照
うーん、やっぱり対局中に見せる表情とは別人だなぁ。麻雀してる時は、全部見抜いているかのようなのに

「私、咲と同じクラスだからね」
「そう、咲と仲良くしてくれると嬉しい」
「一番の友達だよ」
「淡みたいに明るい子が友達なら咲も楽しいだろうね」

寮が近くなので雑談している間にもう着いてしまった

「じゃあ、ここでお別れ」
「テルー、明日も部活来てくれる?」
「来ても私は本を読んでいるだけだよ」
「それでも、来てくれたら一緒に帰れるよね」

少し考えて、照は私の頭をなでた

「暇だったらね。晩御飯は咲と当番制だから、少なくとも来週は来れないし」
「うん、できるだけ来てね」

それだけ約束して、私は寮へ戻ることにした

323: tell you that I love ...(4) 2012/09/02(日) 22:55:41.48 ID:X0Rzf6dT0
しばらくして、クラス対抗戦のメンバーが赤土先生から発表された

「よーし、じゃあメンバーを発表するよ。私から発表するのはメンバーだけだ。その5人で集まってオーダーを考えてほしい。団体戦は総合力、1人だけ突出していても勝てるものじゃない。短い期間だが、チームワークを育てるためにもオーダーを全員で考えるところから初めてほしい。じゃあ名簿順に発表するよ」

そう言って、名簿に目を落とす先生

「新子憧」
「はいっ」

一緒に打つ機会が何回かあったけど、強いというよりは上手いという感じの打ち筋だった。誰が相手でも無難にこなすという点では、団体戦向きかもしれな



「大星淡」
「はーい」

ま、当然よねー

「高鴨穏乃」
「よっしゃー、頑張りますっ」

正直よく分からない子、逆境には結構強いけど、変なとこで無茶したりとにかく安定しない。他にもいたと思うんだけどなーというのが正直なところ

「原村和」
「はい」

まあ実績からしてもここは外せないのだろう

1年生はまだ正式なランクはないから、入試とか中学までの実績とかでランクを決めるみたいだけど、その暫定ランクで1位なのは事実だし。ただ、教科書通りって感じで打ち筋はあんまり好きじゃないけどね

ちなみに私は中学時代の実績がないという理由で、暫定ランクは150位らしい
まあすぐに上がるからいいけどさ

「そして最後、宮永咲」
「は、はいっ」

ま、ここも当然でしょ
とはいえ、まだまだ咲の底は知れない。正直、まだ実力を出してないっていうか、出すことを恐れているっていうかそんな感じがする
全然遠慮することなんてないのに・・・じれったい

「じゃあこの5人で昼休みにでもオーダーを話し合ってみてくれ」

朝のホームルームはそれで終了した
先生が出て行くと、すぐに声を上げたのは憧だった

「じゃあクラス代表のメンバー集合!」

みんなが集まると、憧がみんなにメモ用紙を渡した

「あんまり時間ないし、とりあえず昼休みまでに自分の希望のポジションと、全体のオーダーを各自考えておきましょう。全体は無理でも、とりあえず自分の希望するポジションだけは考えること、いいわね」

こういう仕切りは憧に任せておくのがいいっていうのは付き合いの短い私でも分かることだったので、誰も文句を言わずメモ用紙を受け取った

324: tell you that I love ...(4) 2012/09/02(日) 22:58:10.23 ID:X0Rzf6dT0
そして昼休み
憧がみんなのメモ用紙を受け取ると、真っ先にため息をついた

「しず、どこでもOKって何よ?」
「え、だって実際どこでもいいし」
「そんなんだと余り物になるわよ」
「それならそれでいいよ。どこだって自分の麻雀をするだけだしね」
「大した自信ね・・・」

そして次の用紙を見て、またため息

「のどかー、あなたもどこでも構いませんってさー」
「いえ、私は自分の適性が分かるほど団体戦の経験がありませんので、この位置が適正というのを分かりかねます」
「真面目かっ」

ある意味似たもの同士なのだろうか、穏乃と和って・・・

「じゃあ次は咲。先鋒、ダメなら大将。いいわねー、こういう回答待ってたわ・・・」
「うん、お姉ちゃんと打ちたいから。お姉ちゃんほぼ先鋒だし、チーム事情で先鋒を譲る場合に大将になることがあるくらいで、他のところで打ったって聞いたことないから」
「で、淡は大将or先鋒ね。大将を先に書いたってのは、大将の方がいいってことかしら?」
「サキが先鋒希望すると思ったから、先に大将を書いただけだよ」
「じゃあ、先鋒・咲、大将・淡は決定でいいわね」
「そういうアコの希望はなーに?」

散々どこでもいいを否定しておいて、自分の希望を言わずに決めるのはちょっとアンフェアかと思った

「私? 次鋒か副将よ。流石にこの面子で先鋒とか大将とかいうほど自惚れちゃいないわよ。それにこの学校、中堅マニアの愛宕洋榎っていう3年のランク2位の人がいるらしくてね、中堅にもそれなりの人員を配置しないとやばいらしいのよ」

中堅マニアってのもすごい響きね・・・、そんなに中堅って魅力的かしら?

「他のクラスもそうしてくるから、結局中堅も準エースくらいの人がくることが多くなるらしいのよね」
「3年の2位っていうと、お姉ちゃんの次に強いってことだよね。そんな人が中堅で出てくるんだ・・・」
「うん、だから私がオーダー組むなら、先鋒・中堅・大将に咲・和・淡。残りの次鋒と副将を、私と穏乃で回せばいいのかなと思ってた、組み合わせまでは個人の希望でいいかなと思ってたけど」
「じゃ、それでいいんじゃない?」

とにかく私にさえ回してくれれば、たとえそれが4着でもなんとかする自信はある

「じゃあ和は中堅ね」
「分かりました、頑張ります」
「しずと私はどうしよっか、正直どっちもどっちって感じだけど」
「じゃあジャンケンで決めよう、勝った方が副将ね」

あ、そのへんは結構適当なのね・・・
ジャンケンの結果、憧が勝ったので穏乃が次鋒、憧が副将になった

「じゃあ、これで決まりね。やるからには優勝目指すわよっ」
「おー!」

まさかこのジャンケンの勝者が宮永照とあたるだなんて、この時は思いもしなかった

325: tell you that I love ...(4) 2012/09/02(日) 23:00:44.88 ID:X0Rzf6dT0
-side 久-

春のクラス対抗戦や夏の部活対抗戦は学校行事ではあるけれど、主催は生徒会ということになっている。生徒会長としては、一番盛り上がる仕事
冬の個人戦は、最終的なランク選考なども兼ねているので学校主体で行われる

「久、先生方から全クラスのオーダーをもらってきたぞ」
「ありがとう、ゆみ」

副会長の加治木ゆみが職員室から戻ってきた
いち早く全クラスのオーダーが見れるというのは生徒会の特権よねー

「絃(いと)、じゃあこれのまとめよろしくね。明日の朝には速報出さないといけないから」
「了解です」

書記の霜崎絃。あまり千葉は麻雀が強くないのだけれど、彼女だけは別格だった
なぜか1年の時から生徒会に所属しているので、生徒会歴は私よりも長い
どうしてずっと生徒会にいるのか聞いたことがあるのだけど、「え、だって生徒会だったらチャイナ着ててもいいって聞きまして」という回答だった
それ以上深く聞くのはやめた

「ほかのクラスはどう出たのかな?」
「何か手伝いましょうか?」

絃の手元を覗き込むのは、会計の辻垣内智葉と、3年庶務の狩宿巴
庶務は各学年から1人ずつ出すことになっているが、まだこの時期では1年の庶務は決まっていない。2年の庶務は花田煌だけど、まだ来ていない

「いえ、大丈夫ですよ。入力が終わったものから横に置いていきますから、気になるようでしたらそちらから見てくださいね」

とはいえ絃も空気を読んで、まずは3年生の処理から始めたらしい

「はい、3年1組終わりました」

私も気になるので見に行くことにした
ゆみは気にならないのだろうかと思って彼女を見ると、ゆみは別の作業に入っていた。反応を示さないところを見ると、ここに来るまでに見たのだろう

「へー、そう来る・・・」
「ひと波乱ありそうだな」

3年1組のオーダーは、おそらく誰も予想できないものだった。確かに組まれてみれば、そう来るのも分からなくはないと言えるけれど
まこから聞いた、2年きってのデータ派である船久保さんでも、先鋒あっても大将くらいと予想していたと言っていたし

「参ったわねー、うちの副将、智美にしちゃったわよ」
「まあ、中堅までに極力削るしかないな。うちのクラスが1組に当たることがあれば、だがな」

ゆみが作業の手を止めないまま話だけふってくる

ちなみにうちのクラスのオーダーはこう

3年18組
先鋒 小走やえ
次鋒 椿野美幸
中堅 竹井久
副将 蒲原智美
大将 加治木ゆみ

どこのクラスも大体そうするのだろうけど、重視するのは先鋒・大将、次いで中堅。だから次鋒や副将は後回しになってしまう

「それにしても、うちのクラスも部長が3人もいるんだからもうちょっと注目されてもいいのにねぇ」
「やえはともかく、久もうちも去年は部活対抗戦にも出れてないような弱小だ。話題にはならないよ」
「まあそうんだけど、今年はお互い部活対抗戦に出れそうなんでしょ?」
「まあな」

そこで話を打ち切り、ゆみはまた作業を始めた

326: tell you that I love ...(4) 2012/09/02(日) 23:04:55.03 ID:X0Rzf6dT0
「巴や智葉のクラスはどうなの?」

仕方ないので、絃の作業を眺めている二人に話を降ることにした

「まあうちもそんなには進めないだろうさ。予選を抜けられれば御の字というところだ」
「そうですね。智葉さんに極力稼いでもらって、その後はなんとか逃げ切りを図るという感じですから」

3年9組
先鋒 辻垣内智葉
次鋒 安河内美子
中堅 古塚梢
副将 狩宿巴
大将 新井ソフィア

智葉が学年3位というくらいであとは正直パッとしないオーダーなので、先鋒逃げ切りに賭けるしかないのだろう

「まさか副将で宮永さんと当たるかもしれないとは思いませんでしたよ」
「私も肩透かしをくらった感じだな。久々に対戦できるかもと思っていたんだがな・・・」

副将宮永照を読めという方が難しいだろう


ちなみにクラス対抗戦はトーナメントのような形式を取る

予選で60クラスを16クラスに絞る、ある意味ここが一番の難関だったりする
60あるので15卓で1位の15クラスが勝ち抜け、残り1クラスは惜敗率上位4組による敗者復活戦で選抜される

16クラスからは4卓で1位2位が勝ち抜けて8クラス
8クラスの2卓で1位2位が勝ち抜けて4クラス
4クラスで決勝、となる

ちなみに予選の組み合わせは優勝予想投票によって決まる。なので明日には速報を出して予想してもらわないといけないのだ

前評判1位から15位をシード扱いとして、予選段階では同じ卓に入らないようにする
自分のクラスを予想してはいけないというルールがあるので、ひたすら自分のクラスを予想してシードを獲得する戦法は取れない。また、優勝クラスと予想的中者には学食の食事券が配られることになっているので、予想はだいたい実力通りになる

この形式だと1年生はよほど中学の時に活躍しているか、担任の先生が注目されるか出ないとシードを取りにくいけれど、まあ得てして学校行事は先輩有利にできているものだし、それをはねのけて宮永照は1年の時から優勝しているのだから無茶苦茶不利というわけでもない


「会長、全部打ち終わりました。確認お願いします」

絃がもう全クラス分打ち込んだらしく、プリントアウトされた全クラスのオーダーと、クラスごとに書かれた用紙を持ってきた
それぞれを照らし合わせて間違いが無いか確認。OKなら明日の朝のHRで配って夕方回収という流れだ

「速報を出してからの投票集計が勝負よ。みんな、頑張りましょう」
「はい」

さて、生徒会の特権として、一晩ゆっくり優勝予想を立てましょうか・・・

331: tell you that I love ... (5-1) 2012/09/04(火) 21:27:10.26 ID:hPMHQG//0
「おっし、ホームルームはじめるぞー」

三尋木先生が教室に入ってきて、みんなが席に戻っていく

「みんなお待ちかねのクラス対抗戦のオーダー表を持ってきたぞー。優勝予想を書いて放課後までにこの箱に入れておくよーに」

前の席から順番に配られていく
回ってきたオーダー表を後ろに回し、まず咲のクラスを探した
昨日の夜にもオーダーの話になったけど、明日の楽しみにしようとついはぐらかしていた。咲が副将とは思えなかったし、私が副将と知ったら残念がるだろうし。結局今日には分かってしまうことだけれど・・・

1年5組
先鋒 宮永咲
次鋒 高鴨穏乃
中堅 原村和
副将 新子憧
大将 大星淡

やっぱり先鋒だよね・・・
淡が大将、それにボーリング部の高鴨さんと新子さんも入っている。中堅の子は、確か去年の全中チャンプだったような気がする。うろおぼえだけど
これは侮れないかな

いつも優勝予想とか適当だったけど、今回は咲のクラスにしようかな。今まで当たった試しはないけれど・・・


昼休み
今までは宥と怜と一緒に食べていたけれど、昨日からは豊音と塞も(昨日の昼休みに名前で呼び合うことにした)一緒に食べることにしていた

「みんなとお弁当食べれてちょーうれしいよー」
「転校する前はどうしてたん?」
「私が大きいからか、あんまり近づいてもらえなかったんだー。しょぼーんだよー」

座っていても顔を見るためには見上げないといけない
その背の高さからか、バスケ部の小走さんという人が一度スカウトに来たらしいけれど、運動は苦手らしく断ったらしい

「みんなは優勝予想どうするの? ま、準優勝予想の気分だけどね」

塞がオーダー表をみんなで寄せ合っている机の真ん中に置いた

「私は、玄ちゃんのクラスにしようかなぁて思ってるよ」
「私は咲のクラス」
「うんうん、姉妹愛やねぇ。微笑ましいわ」

怜が大げさにうなづいた
そういえば玄さんは代表になれたんだろうか?

「玄さんのクラスって、何組だっけ?」
「2年10組だよ」

オーダー表の2年10組を見ると、確かに玄さんの名前があった

2年10組
先鋒 荒川憩
次鋒 松実玄
中堅 神代小蒔
副将 愛宕絹恵
大将 天江衣

「すごいクラスだよねー。特に荒川さん、天江さん、神代さんはちょー有名だよ。対戦したらサインもらわないと」
「ほんとに豊音はミーハーね」
「うん、照からはもう10枚ももらったよー」
「それは貰い過ぎや」

なぜか会うたび書かされた時期があった
まあ、書いてしまう私も私なのかもしれないけれど・・・

「玄ちゃんも負けないくらい頑張ってるから、応援の意味で投票しようと思ってるんだ」
「いいよねー兄弟ってー。私一人っ子だからお姉ちゃんとか欲しかったなー」
「豊音ちゃんのお姉ちゃんとか、どのくらい大きいのか想像できないなぁ」
「いや、別に豊音の姉ちゃんやからって豊音より大きくなくてもええんやで」

うんうん、怜がいると的確にツッコミが入るなぁ。感心する

「で、照の妹の咲ちゃんってどのくらい強いん?」
「難しい質問かな・・・」
「強い弱いかってそんな難しい質問なん?」
「咲の打ち方は、特別だから」

異能と呼ばれる力は、ほとんど勝つためのものを指す
でも咲の打ち方は、勝ちも負けも目指さない

332: tell you that I love ... (5-1) 2012/09/04(火) 21:28:50.99 ID:hPMHQG//0
「咲はその気になれば、どんな局面でも±0にする。でも、団体の先鋒だったら合ってるかもしれないな。どんな相手でも、10万点を2半荘で11万点にして戻ってくるんだから」
「それって、照相手でもそうなの?」
「そうだよ」
「それは、なかなかになかなかだね」

塞が少し呆れ気味に言う、そして

「とりあえず、宥にその咲ちゃんの打ち方がどんなのか教えてあげなよ。多分、妹さんの方も、お姉ちゃんの打ち方はこう、みたいな感じで話をするだろうしさ」
「あ、じゃあ私も玄ちゃんの打ち方を塞ちゃんに教えればいい?」
「まあ玄ちゃんは学校内の牌符もあるし、ドラゴンロードは有名だから牌符見て疑問点があったら質問するよ」
「うん、わかった」

となると、私から宥に教えることになる

「どうする、明日から学校休みだけど・・・」
「放課後は、私は部活があるから遅くなっちゃうよ?」
「相談するんなら週末にしとかんとまずいんちゃう」
「じゃあ週末にみんなで集まればいいよー」
「いや、みんなで集まる必要はないからね、豊音」
「えー、みんなで集まりたいよー。寮にいても暇だしー」
「わがまま言わないの」
「えーん、塞のケチー」

なぜか豊音と塞の言い合いになってしまった・・・
さてどうしようか

「あの、例えばだけど・・・」

おずおずと宥が手を挙げた

「予定が合えばだけど、土曜日の午前に私と照ちゃんで話をして、午後にみんなで集まるとか。土曜日に2人で会って、日曜日にみんなで会うとか、予定をうまく合わせられれば両方できるんじゃないかな? 対抗戦に向けて親睦を深めておくっていうのも、必要だと思うし」
「それええアイディアやな」
「わーい、私はいつでもいいよー」
「私たちはいいけど、照と宥は大変じゃないの?」
「予定が合えば、私もそれでもいいよ。晩御飯までに帰れれば大丈夫」

結局、怜が土曜日は部活があるということだったので、土曜日に私と宥が会い、日曜日は午前中に学校に集まってみんなで打ち、午後はどこか遊びに行くということになった
授業に麻雀があるくらいの学校なので、届けさえ出しておけば生徒は自由に出入りして麻雀卓を使っていいことになっている

「どうする宥、どこで会おうか?」
「どこかで一緒にお昼ご飯食べて、それから落ち着いて話せる場所に行こう。図書館なら照ちゃんの家から近いし、どうかなぁ」
「とりあえずそうしようか。途中でなにか思いついたら変えたらいいし」

あまり外食しないけど、近くにいいお店あったかな・・・
そんなことを思いながら、咲が作ってくれた卵焼きを口に運んだ

337: tell you that I love ...(5-2) 2012/09/08(土) 00:51:37.85 ID:sPpHQ6cU0
「ただいま」
「あ、お帰り、お姉ちゃん。ごめんね、ご飯これから作るから」
「そう、なら手伝うよ」

エプロンをつけて後ろ手に結ぼうとしているから、ほんとにこれから作るところだったのだろう

「今日は何を作るの?」
「遅くなっちゃったから、さんまを焼いて、あとは野菜炒めと味噌汁」
「ご飯は?」
「朝予約しておいたから、もう炊けてるよ」

炊飯器を見ると、確かにもう保温状態になっていた
野菜をまとめて切って、炒める分と味噌汁に使う分と分けてしまうのだろう。そうするとあまり手伝うこともなかった。台所も広くないし

「じゃあ私は洗い物するから、咲は料理お願いね」
「ありがとう、お姉ちゃん」

自分と咲の弁当箱を洗うことにした

「お姉ちゃん、副将なんて初めてじゃないの?」

聞かれるだろうなと思っていたことだったけど、咲は楽しそうに聞いてきた

「ああ。ガチって言っただろう?」
「そうだね。ガチって、普段とは違うよって意味だったんだね。みんな大騒ぎだったよ、特に憧ちゃんなんて、なんで副将でお姉ちゃんと当たるのよって叫んでたし」
「うーん、そこまで騒がなくてもいいと思うけど・・・」

別に意表をついてどうこうとか考えていたわけではないので、オーダーが発表されてからの反応は大げさすぎると思うのが正直なところ

「あとね、あの宮永照が大将を任せた姉帯さんってどんな人なんだってすごい話題になってたよ」
「それは秘密」
「だよねー」

会話をしながらも、咲は手際よくキャベツを切り刻んでいく

「あ、あとね。明日なんだけど、クラスのみんなで練習することになったんだ。お姉ちゃんのクラスの先鋒の、えっと松実さんだっけ、その人は穏乃ちゃん

と憧ちゃんの知り合いみたいだから、傾向と対策を教えてあげるって話になって」
「ああ、なら私も同じだな。咲の打ち筋を宥、ああ松実さんに教えることになってる」
「じゃあ帰り遅い? 一応晩御飯までには帰ってくる予定だけど」
「いや、昼ごはんは一緒に食べるけど、晩御飯までには帰ってくる予定だよ」

よくよく考えれば、咲の打ち筋について話してもそんなに多くの時間は必要がない気がする
それこそ、昼食を一緒に食べている間にも終わってしまうかもしれない
まあでも、宥と二人きりになる機会もそうはないだろうし、麻雀以外の話をしてもいいだろう

「でも盛り上がっちゃうかもしれないから、明日の朝はカレーを作って晩御飯は好きな時間に食べるってしておいた方がいいかもね。カレーだったら次の日に食べても問題ないし」
「ああそうだね。そうしようか。それに、私はクラスで練習するのが日曜日だしね」
「あ、そうなんだ。じゃあ土日はカレーで済むように少し多めに作るね」

咲は本当に気が利いて助かる

「あ、それとね、憧ちゃんにお姉ちゃんの弱点とかないの?とか聞かれて。そんなのあったら苦労しないよね」
「逆に私こそ、咲の弱点を知りたいところだけどな・・・」

こうして会話していると、あっという間に晩御飯が出来上がっていた

338: tell you that I love ...(5-2) 2012/09/08(土) 00:52:49.37 ID:sPpHQ6cU0
翌日
時間は少し早目に11時半が集合時間
たまに行く、近くの洋食屋さんで待ち合わせることにした
オープンテラスもあり、一人で本を読むときにも使ったりする。そんなに外食はしないけれど、ここは悪くないと思っている。宥も気に入ってくれるといいけど

先に入って待っていると、宥がやってきた

「ごめんね照ちゃん、待った?」
「今来たところだよ」

まるでデートみたいなセリフだなと思いながら、宥が座るのを待ってメニューを渡した
季節感はないけれど、初めて見る宥の私服。かわいい・・・
でもどうしてだろう。すぐにでも消え去ってしまいそうな、そんな儚さも感じるのは・・・
いや、変なことを考えるのはよそう

「はい。今日は土曜日だからランチもあるよ」
「そうなの? うーん、でもデザートがアイスか・・・」

宥の表情が曇る
多分真夏でもかき氷とかアイスは食べないんだろうな。寒がりというのも大変そうだ・・・

「ホットケーキとかに変えられるよ?」
「あ、じゃあ大丈夫だね」

AセットBセットとそれぞれ違うものを頼んだ

「いつもここで食べてるの?」
「いや、外食はそんなにしないから、たまにかな。近いし、落ち着くからね」
「そうだね、ゆったりしてていいよねぇ。人ごみは苦手なんだ・・・」

第一印象はいいようだ、すこしだけ肩の力を抜く
うーん、デートとかしたことないけれど、初めてのデートとかはこんな感じなのだろうか・・・

ただ友達とお昼ご飯を食べる、それだけのはずなのに。なんでこんなに意識してるんだろう

その時、先出しで注文しておいたドリンクが運ばれてきた
私はアイスコーヒー。宥はホットコーヒー
お互いの砂糖の入れる量が同じくらい多くて、くすりと笑った
その笑顔がまた儚くて・・・
私はまた意識してしまう、このもやもやした気持ちは、何?

「照ちゃん、甘党なんだね」
「宥も相当だと思うよ」

気づけば自然と受け答えしていた
でも意識は宥の空気に溶け込んでしまうかのように、どこまでが自分なのか分からなくなりかける
見惚れるって、こういう状態のこと?

私は落ち着こうと、アイスコーヒーを口にした

好みの甘さの中にかすかに残るほろ苦さ、とりあえず意識を覚醒させるには十分だった
とりあえずちゃんと決めていなかった午後の予定を決めよう

「ところで、午後はどうする? 昨日は図書館って言ってたけど、図書館じゃそんなに話込めないし」
「そうだね。学校は・・・今日は届け出してないし」
「それか、家に来る? その方が牌符も見やすいし、自動卓はさすがにないけど、牌とマットはあるから」

なぜそんなことを言い出したのか自分でも分からなかった
ただご飯食べに来ただけでこんなに意識しちゃってるのに、家で二人きりとかナイナイナイ

「え、でも咲ちゃんがいるんじゃないの?」
「咲は今日は学校でクラスメイトと練習するって言ってたから、夕方までは戻ってこないよ」

ああ、なんでここで咲がいるとかてきとーなことを言わないの私っ

「そっかぁ。あ、お母さんもいないってこと?」
「仕事だからね」
「じゃあ、お邪魔しようかな」
「ああ、歓迎するよ」

自分の営業モードをこんなに憎く思ったことはない・・・
もう一回コーヒーを口に入れるけれど、もう後の祭りだ

「うれしいな、友達の家ってほとんど行ったことないんだ」

ああ、でも・・・

「そんな大したところじゃないよ、普通のアパートだし」

こんなに喜んでくれる宥が見られるのなら、それでもいいかと思う自分がいた

339: tell you that I love ...(5-2) 2012/09/08(土) 00:54:25.09 ID:sPpHQ6cU0
ランチの味は、正直よく覚えていない
あっという間に時が過ぎ、いつの間にか家路についていた・・・



「そこの角を曲がったところだよ」

ときどき吹く風にマフラーがたなびく
儚く見えたのは、この寒がりのせいなのだろうか

たとえばマフラーが風に飛ばされたりしたら、宥は寒がってそのまま動けなくなってしまうのではないかみたいなことを頭のどこかで想像してしまうから、その命の灯火がか細く見えるから

・・・落ち着こう

私は大きく深呼吸する
多分、宥が気になるのはそんな理由じゃない・・・と思う
なんだか自分でもよく分からないけれど

アパートに着くと階段を上がり、部屋の鍵を開けた

「どうぞ、大したところじゃないけど」
「おじゃまします」

靴を脱ぎ、とりあえずリビングへ

「きれいにしてるんだね。寮で一人だとなかなか片付けられなくって」
「私も一人だったらここまではしてないよ」

咲と当番なのもあるし、咲が来る前は母さんの仕事が忙しいからほとんど家事はこなしていたし。でも一人だったら家事なんてだいたいにして、本を読むの

に費やしてしまっているのだろうなと思う

「とりあえず牌を持ってこようか。・・・あ、でもここじゃ無理か」

リビングにあるのはガラスの丸テーブル。流石にマットを敷いたとしても牌をガラガラ混ぜるわけにはいかない

「家では麻雀するの?」
「母さんは最近はほとんどしないから、牌もマットも私たちの部屋に置いてある。今までは1人で大会の牌符を並べたりしてたけど、そういえばまだ咲とここで打ったことはないな」
「あ、咲ちゃんと2人部屋なんだね。いいなぁ、私も玄ちゃんと2人部屋の方がよかったなぁ・・・」
「まあ、一人になりたい時には困るし、それぞれじゃないかな」

2人部屋では寝る時間をなるべく合わせないといけないので、つい本を読んでキリのいいところまでなんて読んでしまうともう咲が部屋が明るいまま寝てしまっているということがあった
悪いなと思いながら、逆のパターンもあったのでそこは持ちつ持たれつ

「じゃあ、部屋に行く?」
「そうしようか」

っていうかいきなり部屋に入れるとかどうなんだろうと、今さらになって後悔する
見られて恥ずかしい本とかは置いてないし大丈夫なはず・・・
あっ、私だけの部屋じゃないじゃないか

「いや、咲に了解もらってないし、机と牌をリビングに持ってくるよ」

部屋に入ろうとした宥を制する
ギリギリで間に合ったようだ。うん、やっぱり部屋はいろいろまずい

部屋に入り、まず牌とマット、そのあと机を運び出し、リビングに置いた。さすがに牌に触っていると、いつもの研ぎ澄まされた感覚が戻ってくる

340: tell you that I love ...(5-2) 2012/09/08(土) 00:55:43.19 ID:sPpHQ6cU0
部屋に入り、まず牌とマット、そのあと机を運び出し、リビングに置いた。さすがに牌に触っていると、いつもの研ぎ澄まされた感覚が戻ってくる

「まず、赤い牌とそうでない牌を並べてみようか」

宥の特性――赤い部分のある牌が集まりやすい
逆に言えば、他の人にはこの赤い牌が集まりにくくなるということだ

「赤い牌は、萬子9種、ピンズは①③⑤⑥⑦⑨、ソウズは1579、そして中。全部で20種80牌」
「うん、逆に冷たい牌は14種類だね」
「そう、だけど実際に配牌とツモを合わせても、自分が使う牌はだいたい30牌程度。それに冷たい牌だって混じったりするね?」
「そうだね。特に鳴かれたりすると冷たい牌が来ることが多いかな・・・」

だいたい照魔鏡で覗いて分かっていた通り。ここまでは改めて確認

「それで、咲の打ち方だけど。咲は嶺上開花が得意で、嶺上牌が上がり牌だったり有効牌だったり、とにかく無駄ヅモにはならない」
「ふあ、すごいんだねぇ」
「だから普通はやらないような大明槓とか、加カンのために役もないのにポンとか、そういう打ち方が見られる。カン材や嶺上牌は見えるんだって」

まあ見えているのはそれだけはないのだろうけど、咲の底は私をもってもまだまだしれない

「宥は字牌は他の牌に比べるとツモりにくいから、咲とは戦いやすいかもしれない。よく西でカンすること多いから、あの子」
「あ、じゃあ西が生牌だったらオリた方がいいのかな?」
「順目によるかな。序盤だったら切ってもいいと思う」
「うん、そうするね」

小さくうなづく宥
もっとも、毎回西でカンするわけではないし、西だからといって簡単に降りてしまうもの考えものではあるけれど・・・
2半荘しかない短期決戦ならそのくらいの慎重さがあっても間違いではないと思う

「あと、赤い牌は宥に集まりやすいから、逆に咲はこの辺の牌ではカン材を作るのが難しい。だから逆に、浮いてる冷たい牌が生牌でも、警戒した方がいいかもしれない」
「カンされて嶺上ツモだと、ロンと同じことだもんね。待ちが1つ多いって考えた方がいいのかも・・・」

理解が早くて助かる

その後いくつか打ち筋について話をして、講習は終了した

341: tell you that I love ...(5-2) 2012/09/08(土) 00:58:30.20 ID:sPpHQ6cU0
「まあ、だいたいこんなところかな。あとは明日、みんなと打ちながら確認していけばいいと思う」
「うん、ありがとう」

頭を下げ、再び宥は私のことをじっと見つめた
視線をそらすことができず、またもやもやとしたものが吹き出してくる

「あのね、ありがとう」
「そんなに何回も言わなくてもいいよ」
「・・・違うよ」

小さく首を振り、宥はいきなり私の手をとった

え、ええ、えええっ
なにこれっ

あ、でも寒がりっていってたけど手はあったかいんだ
そんなことを考えているうちにも、そのぬくもりが私に溶け込んでくる

「これは、私を大会に誘ってくれて、ありがとうってことだよ」
「そ、それも前に聞いたけどっ」

うまく言葉が紡げない
こんなときこそ営業モードで軽やかにかわさないといけないんじゃないの?

「しかも、先鋒なんて大事なところ」
「それは、宥なら大丈夫だと思って」
「うん、だからありがとうって言いたいの」

宥の顔をまともに見てはいけないような気がして、視線が泳ぐ
でもどんなに逸らそうとしても、また戻ってきてしまう

ああ、やっぱりそんな今にも消えちゃいそうな儚い笑顔は見せないでよ・・・・

「私ね、玄ちゃんに頼ってばかりだったから。お姉ちゃんらしいこと、ぜんぜん出来てないし」

他の人の名前が出て、少しだけ落ち着く
でも心臓がドキドキと、耳の隣でなっているかのように高鳴っている

「だから、照ちゃんみたいに強くてかっこいい人に、先鋒を任せてもらえるなんて思わなかったんだ」

あっ・・・

瞬間、心音の合間を縫って、私を押しとどめるものが崩れる音がした

「わ、私は、強くもかっこよくもない!」
「えっ」

宥の手がビクッと震えるのがわかる。でも、もう私は止まらない

「こんなの虚勢なんだ、咲の方がしっかりしているし、お姉ちゃんらしいことなんてできてないし。それに私のせいで真瀬さんだって苦しめてっ」
「え、由子ちゃん?」

あ、しまった
誰にも言わないつもりだったのに・・・

342: tell you that I love ...(5-2) 2012/09/08(土) 00:59:26.74 ID:sPpHQ6cU0
泣きたくなる・・・
今更ごまかしたって、もう遅い
それでも逃げるように、うつむく

でも・・・

すっとぬくもりが消えた

「え?」

無意識にそのぬくもりを求めて、また顔を上げる
宥は笑って、膝をぽんぽんと大げさに叩いた

「照ちゃん、膝枕」
「え?」
「怜ちゃんが言ってたよ。辛い時は膝枕が一番だって。だから、どうぞ」

その辛いとこの辛いは違うような気もするけれど・・・
私は三日三晩彷徨ってようやくオアシスを見つけた放浪者のように、ふらふらと宥の隣に座り、膝に頭を落とした

ふわっと、宥のにおいがする
落ち着く・・・

「話したくないなら、話さなくていいからね」

宥が私のあたまをなでてくれる
ああ、私、誰かに甘えたかったのかな・・・

「宥、私、どうしたらいい?」
「何があったの?」
「よく分からないけれど、私に負けてほしい人がいるんだって。それで、真瀬さんに、クラス対抗戦に出るなって言ってきてるらしくて」
「そっか、そんなことがあったんだ」

私の髪を、宥の細い指先が泳いでいく
それが気持ちよくて、私はどんどんと自分を囲んでいた虚勢という名の砦が崩れていくのを感じる

「意識しないようにしてたけど、どこかで負けた方がいいのかなって考えたりして」
「1人で抱え込んだら、ダメだよ」

見上げると、宥がとても頼もしくみえた

「苦しいことは割り算、2人なら半分になる。楽しいことは掛け算、2人なら倍になる。だから、ね、1人で抱えてもいいことないよ」
「でも私は、どうしたら・・・」
「勝てばいいと思うよ。だって、直接照ちゃんに、負けろって言いに来た訳じゃないんでしょう?」
「それはそうだけど、真瀬さんみたいに他の人に迷惑が掛かるかもしれない。もしかしたら宥にだって」
「大丈夫だよ、大丈夫」

いつも1人でいようとする私・・・
姉として、チャンピオンとして、ふさわしい振る舞いをしなければならないと一生懸命に、ただ自分の逃げ場を塞いでいただけだったのかもしれない

「ほんとに、大丈夫かな・・・」
「大丈夫だよ、安心して」

宥の手も、ふとももも暖かくて

「私、誰かを頼ってもいいのかな・・・」
「むしろ私は、誰にも頼られないで、守ってもらってばかりの方が辛いかな・・・」

ああ、なんだ、そういうことか

「私が宥を頼りにすれば、それで解決する話なんだね」

だから惹かれて

「うん、まかせて」

だから意識したんだろう

「しばらく、このままでいさせて」
「どうぞ」

スカート、濡らしちゃうけどごめんね・・・・

343: tell you that I love ...(5-2) 2012/09/08(土) 01:00:11.05 ID:sPpHQ6cU0
気がつくと、もうすぐ4時になろうとしていた

「もう大丈夫、照ちゃん」
「ああ、ありがとう」

夕方と言っていたので、そろそろ咲が帰ってきてもおかしくない頃だろう

「じゃあ、今日のところは帰るね」
「送っていかなくてもいい?」
「大丈夫、だいたい覚えてるから」
「じゃあ、また明日、学校で」
「うん、そうだね」

とりあえず玄関まで送り、宥が出て行く後ろ姿を眺めていた
引き止めたいような、引き止めたくないような複雑な気持ちになりながら、ドアが閉まる音が響くのを聞いていた   

349: tell you that I love ...(5-3) 2012/09/09(日) 16:36:24.15 ID:DikaT/yZ0
-side 怜-

『私は真瀬さんと、転校生の姉帯さんに声をかけようと思ってる――』

オーダーを組む前、確かに照はそう言っていた
実際、サッカー部の部室まで案内したのだ。誘ってないということは考えにくい
けれど、実際に組まれたオーダーに、由子はいない。その代わりに、塞が入っていた

別に塞を入れたことは悪いことではない。
ただ、照は確かに由子を誘いに行っているのだ。それなのに由子がいない理由・・・

「なんか、あったんやろうか」

つぶやき、私は自分の部屋の壁を見つめた
寮の個室、隣は由子の部屋
1年の時は同じクラスで、しかも寮の部屋が隣で同じ大阪出身ということで、すぐに友達になった

明日は照たちと練習をする
20時。そろそろ薬を飲む時間だ
私はベッドから起き上がると、よろよろとミニキッチンに向かう

オーダーが組まれてから、照にも由子にも、由子がオーダーから外された理由は聞いていない
宥も照が由子を誘おうとしていたことは知っているはずだが、豊音と塞は知らないかもしれない
あまり下手に騒ぎ立てない方がいいかもしれないと思い、みんなの前では聞けなかった

でも、今は由子の部屋を訪ねれば2人きりになれる
何があったかはわからないが、明日の練習に由子も来てくれたらいいなと思う

「さすがに、照と由子が喧嘩した、みたいなことはないと思うんやけどな・・・」

さっと薬を飲むと、私は由子の部屋に向かうことにした

350: tell you that I love ...(5-3) 2012/09/09(日) 16:38:20.70 ID:DikaT/yZ0
真瀬由子と書かれた扉をノックする

「はーい」

間延びした声がして、扉が開いた
由子が顔を出すが、特に表情に変わりはなかった

「怜、どうしたのよー」
「ちょっと話があるんやけど、ええ?」
「いいのよー」

由子について部屋に入る
ちゃんと片付いている、私もちょっと整理しないとと思う
由子がベッドに腰掛け、私はクッションの上に座る

「それで、突然どうしたのよー?」
「照に、クラス対抗戦に誘われたんやろ?」
「・・・どこまで聞いてる?」
「聞いてるのはこっちや」

探るような視線
誤魔化そうかどうか考えたのだろう・・・

「はぁ、もういいか。オーダーは決まったし・・・」

さみしそうな表情で、由子がつぶやく

「赤阪先生に言われたのよー。クラス対抗戦に出たら、サッカー部のレギュラーから外すって。だから、宮永さんに誘われたけど断ったのよー」
「は、なんやのそれ」

あまりにも予想外の理由に、私はそれ以上の言葉を失う
いくら顧問やからって、そんな横暴許されるんか・・・

「麻雀も好きだけど、サッカーも好きなのよー。洋榎や恭子と一緒に、ようやく同じピッチに立てるようになったのに・・・」
「そう、か・・・」

そういえば浩子が言ってたな・・・
3年2組は照を倒すために強豪の部長ばかり集めたらしい、って

学校全体が照を倒すために動いている兆候はある
2年のトップ3である、荒川・天江・神代が同じクラスなのもその内の1つ

対して3年1組は、照の次は由子の20位。次が宥の50位、塞の68位、私の103位・・・それ以下は、確か200位近かったはず
ランクだけで実力が測れるわけではないけれど、客観的に見ればクラス全体の実力は他とかなり劣るといえる

その上で、さらに20位の由子を狙い撃ち

徹底して、えげつないな・・・

「ほんとは、クラス対抗戦出たかったのよー。ごめんなさい」
「いや、うちも悪かったわ・・・そんな大事とは思わんかったん」

いくらなんでも、これは手に負えん
強すぎるっていうのも考えものやな、照

「実はな、そんな大した理由やなかったら、明日うちら学校で練習するから来てくれんかなって思っとったんやけど。赤阪先生に目つけられるとヤバイんかな?」
「うーん、オーダーからは外れたし、練習にも付き合うなとは言われないし、大丈夫だと思うのよー」

それに、と付け足す由子

赤阪先生も本意ではないらしい
誰とは言わなかったけれど、上から言われて仕方なく、と
それでも由子は食い下がった
10分くらい話をして、レギュラーを外すと言ったのは、ほんとに最後の最後だったらしい
由子も悟る、これは先生にもどうしようもないことなんだろうと・・・

「じゃあ明日9時半に第三対局室でな」
「わかったのよー」

351: tell you that I love ...(5-3) 2012/09/09(日) 16:41:02.40 ID:DikaT/yZ0
由子の部屋を出たのが20時半すぎ

「まだ電話しても大丈夫かな・・・」

照は口には出さないだろうけれど、由子のことを気にしているはずだ
照には「圧力がかかっている」としか言えなかったそうだから、余計に悩んでいるかもしれない

携帯を取り出し、電話をかける
5、6回発信音がなったところで、つながった

「もしもし怜、どうしたの?」
「ああ照、遅くに悪いな」
「まだ大丈夫だけど、何かあった?」
「実はな、明日の事なんやけど。練習に由子も誘ったんや」
「え、真瀬さん・・・」

照のトーンが暗くなる
やっぱり気にしとるんやろうな

「OKしてくれたの?」

言葉を選ぶように、ゆっくりと尋ねてくる照

「照、うちもさっき由子に聞いたんやけどな、由子のことやったらそんなに気にせんでもええからな」
「・・・なんて言ってたの?」

さっき由子から聞いた話を説明する
それを聞いて、照は安心したようだった

「そっか・・・。命に関わるような脅しまでかけられてたらどうしようかってことまで考えてた」
「それは大げさやわ」

そこまで由子のことを心配してくれたんだなと思うと、嬉しかった

「ありがとう、怜。心から感謝するよ」
「なんやの改まって、気持ち悪いわ」
「私は一人でいろいろ背負いすぎたってこと、今日気づかされたから」

今日気づいた、か
宥となんか話したんやろうな
宥はぽけーっとしとるようで、しっかりしとるからな

「そっか。じゃあ、もう遅いから、また明日な」
「ああ、おやすみ」

さて、練習に備えて今日は早く寝とこ

356: tell you that I love ...(5-4) 2012/09/11(火) 06:05:02.19 ID:kw53WJ610
日曜日
第三対局室の鍵を宿直の先生から受け取り、部屋へ向かう

「ちょっと早すぎたかな・・・」

まだ9時になったばかりだ
日曜日ということで部活をしているところもなく、平日には想像もできないくらい静かだった

第三対局室は学校の中でもずいぶん外れた場所にある
部屋も小さく、2卓しか置いていない
あまり広い部屋では落ち着かないし、豊音は極力隠しておきたい

豊音には悪いけど、多分本当の出番は決勝くらい・・・
そのくらいの覚悟で行く

第三対局室に着く
鍵を開けると、こもった空気が鼻につく
あまり使われていない部屋だから仕方ない・・・
私はすぐに窓を開けた。心地よい風が吹き込んでくる、30分もしないうちに問題なく使えるようになるだろう

「照ちゃん、早いね」

10分ほどして、最初にやってきたのは宥だった

「もしかしたらまだ誰もいないかもと思って鍵を借りに行ったんだけど、先生が照ちゃんが借りていったって言っててびっくりしちゃった」
「ああ、手間をとらせてすまない」

見慣れた制服姿だからか、それとも昨日怜から真瀬さんのことを聞いたからか、宥を見ても妙に意識したりはしなかった
きっと無意識の不安が、宥にSOSを出せとサインを出していたんだろう

「今日、真瀬さんが練習に付き合ってくれるって、怜から電話があった」
「そうなの? 由子ちゃん、大丈夫なの?」

昨日怜から聞いた話を宥にも説明する

「そっか・・・。でも、そこまでして照ちゃんを負けさせたいなんて」
「真瀬さんについては、一回三尋木先生に聞いたことがある」

かなりはぐらかしてはいたけれど・・・

「大人のことは、大人に任せておけって言っていた。その時は正直話半分に聞いていたけれど、今となっては先生が影でいろいろしてくれているのかもしれないと思う」
「ちゃらんぽらんに見えて、肝心なところでは嘘はつかない人だもん、きっと大丈夫だね」

それからまた10分して、今度は怜と真瀬さんが入ってきた

「照、宥姉ちゃん、早いなぁ。おはよ」
「おはよーなのよー」
「おはようございます」
「おはよう」

挨拶を交わし、真瀬さんが私の前で頭を下げた

「宮永さん、私が言葉足らずで心配かけたみたいでごめんなのよー」
「真瀬さんは悪くない。逆に、私こそ巻き込んでしまって、ごめん」

私も頭を下げる
どんな大人か知らないけれど、こんなことをして一体何になるというのだろう・・・

「こればっかりは、しゃーないよ」

それよりも、と怜があきれたように言う

「宮永さんとか真瀬さんとかそんなふうに呼ばずに、名前で呼ぼうか。由子は6人目のチームメイトやで?」
「6人目とか照れるのよー」

まんざらでもなさそうだった

「豊音に任せた私が悪かったわ・・・」
「えー、だってこういうの渡すのしたいんだけどー」
「だったら部室に忘れないでよね」

随分と騒がしく、豊音と塞が入ってきた

357: tell you that I love ...(5-4) 2012/09/11(火) 06:06:28.28 ID:kw53WJ610
「あ、真瀬さんもいるんだ。ならちょうどいいか。ほら豊音、見せてあげて」
「じゃーん、エイスリンさん作の3年1組の似顔絵だよー」

豊音が色紙を高々と掲げた
そう、高々と

「豊音ちゃん、その、もうちょっと下げてくれる? 天井を見上げるのと同じくらいだから・・・」
「あ、ごめんねー」

そう言って胸元まで色紙を下げた。それでもまだ高いけれど・・・
豊音が持ってきた色紙は、このまえ豊音と塞を誘いに行った時に書いてくれたイラストと同じタッチだった
その時は返したけれど、今度は6人分書き直してくれたようだ

「私もいるのよー」
「うん、初めは美術部に行った時に即興で書いてくれたもので私と豊音と塞の3人しかいなかったけど、どうせなら全員書いてほしくて、お願いしてたんだ。今度、お礼をしないといけないね」

とてもかわいいイラストで、ちゃんと6人の特徴を捉えて書いてくれている

「ほんとに、ありがとうなのよー」

由子はうっすらと涙を浮かべていた

「ところで、ちょっと聞きにくかったんだけど、真瀬さん何か対抗戦に出れない用事でもあるの?」

塞が疑問に思うのも仕方ないだろう

「ちょっと複雑でね・・・」

あらかたの事情を話す

「そんなのちょー許せないよー」
「まあ、でもそのへんは三尋木先生に任せるしかないよ。それよりも、私たちは真瀬さんの分まで頑張って、絶対に勝つ」

豊音と塞に気合が入る

「そう、由子の分まで頑張る。1人で背負ったら大変だけど、団体戦は5人いる。だから、1人が1.2人分頑張ればいい」
「よし、そうと決まったら練習すんで。絶対優勝や」
「おー」


十分な最終調整が出来たと思う

「もうすぐお昼だね」
「ちょーお腹すいたよー」
「じゃあそろそろ切り上げようか」

午後はボウリング場に行くことになった
宥の顔が聞くので少しサービスしてもらえるらしい

「じゃあ昼はモスかどっかで済ませて、ボウリング場へ行くで」

358: tell you that I love ...(intermission-2) 2012/09/11(火) 06:08:47.25 ID:kw53WJ610
intermission … 演劇などの休憩時間


【ボウリング】
怜「ちゅうわけでやってきたで、ボウリング場! 宥姉ちゃんが水着姿でボウリングする姿見られるのはこのボウリング場だけっ」

宥「ちょっと、何言ってるの!?」

豊音「私ボウリング初めてだけどー、水着持ってきてないよー」

塞「ちょっと怜、豊音が真に受けてるでしょうが」

怜「大阪の小粋なジョークやんなぁ、なあ由子」

由子「冗談は相手を見て言わないとダメなのよー」

怜「裏切られたっ」

照「ちなみに前回ボーリングと表記したが、ボーリングだと掘削という意味になるらしいので、各自補完するように」

怜「何ゆうてんの?」


【ボウリング 2】
怜「投げるでー」

由子「頑張るのよー」

怜「よし、ここで一巡先を読んだる」キュイーン

宥「ボウリングの一巡先って・・・」

怜「見えたで。照は次のフレーム、2回ともガーターやっ」

照「」ショボン

塞「見えててもそれは言っちゃダメ!」


【ボウリング 3】
豊音「投げるよー」

塞「あの身長でまさかの両手ころがし・・・」

宥「でも意外とまっすぐ進んでる」

照「な、あれで9本も倒れただと・・・・」

由子(さっき、怜の言った通りに2回ともガーターだったから照のショックが大きそうなのよー)

怜「お、1ピンだけ残ったな」

豊音「1ピンだけ・・・」

塞「何か思いついた顔ね?」

豊音「ぼっちじゃないよー」

塞「ボウリングで友引!?」

怜「すごいくねくねしながらも、ピンに向かっとる」

豊音「ぼっちじゃないよ、スペアだよー」

塞「汎用性高っ!」


【ボウリング 4】
塞「私も、何か塞ぐものがあれば・・・」

怜「ガーター塞ぐお子様用のレーンはあっちやで」

塞「なんで先にオチ言うかな!」

359: tell you that I love ...(intermission-2) 2012/09/11(火) 06:10:30.34 ID:kw53WJ610
【ボウリング 5】
照「1ゲーム目、38点。前よりも低い・・・・」

宥「まだ始めたばかりだからしょうがないよ」

怜「っていうか、照も麻雀みたいにどんどん点数上げていったら点数上がるんとちゃうか?」

照「なるほどっ!」

2ゲーム目第1フレーム
一投目 G
二投目 -

照「・・・・・・・・・」

怜「・・・・・・・・・」

照「うん、東1は様子見だから」

由子「何の様子を見るのよー?」


【ボウリング 6】
照「点数を上げていったら自己ベスト更新した」

F|1|2|3|4|5|6|7|8|9|10|計
点|0|1|2|3|4|5|6|7|8|9|45

照「どうよ!」ドヤ

宥「照ちゃんがんばったね」ヨシヨシ

怜「・・・・最後にはスペアくらいたどり着くと思ったんやけどな」

由子「細かすぎるのよー」

豊音「やったー、150点出たよー」

塞「なんであの両手投げでそんなスコアでるのかな・・・」

照「」ショボン

宥「ああ、照ちゃん落ち込まないでー」

372: tell you that I love ...(5-5) 2012/09/15(土) 00:06:21.95 ID:XYNbcDO10
ボウリング場を出て、私は一人で帰路についていた
他の5人は寮に住んでいる、私だけがアパートに住んでいるため、こればかりは仕方ない

「待ってぇ」

少しして、そんな声が聞こえた

――宥

遠くでもはっきりと分かる
振り返ると、汗をかきながら走ってくる宥の姿

「どうしたの?」
「一緒に帰ろうと思って」
「でも、方向が違う・・・」

喜びと戸惑いが交錯する

「うん、なんでだろう。ただ、一緒に帰りたいって思って・・・・。ダメ?」
「ダメじゃない」

思ってもない申し出に、心臓が跳ねる音がする

「それとも、寮に来る? 門限は8時だからまだ時間あるよ?」

今は5時すぎ。家に帰ってご飯をと思っていたところだった

「迷惑でなければいいけど、ご飯はどうするの?」
「大丈夫だよ、作りおきがあるから。一緒に食べる?」

逡巡する
宥の顔が心なしか紅がかっているのは走ってきたからだろう
でも、そんな表情でまた心がざわめく

「分かった、咲に連絡するよ。遅くなるって」

昨日今日でお互いの家に呼び合うなんて、なんだか随分と展開が急だ
そこまで深い仲の友達は初めてかもしれない
菫は部活が終わるとすたすた帰ってしまうし・・・

「うん、じゃあ一緒に帰ろう」


寮に着くが、日曜日のせいか人影はほとんどなかった
平日ならこの時間帯には学校から帰ってくる人で賑わっているのだけれど

「あ、下駄箱は来客用のを使ってね」

あまり寮に来ることもないので、少しきょろきょろしながら階段を上がる
見ると、寮の行事とかもあるようだ
菫は自宅から通っているので、寮が近くにあってもほとんど関わりはなかった

「寮でも役員会とかあるんだね・・・」
「うん、自治会みたいなものだよ。だから寮長とかもいるし」
「そうなんだ」
「ちなみに今の寮長は新免さん、剣道部の部長もやってる人。ルールを破るとすぐ竹刀を持って飛んでくるから、寮は平和だよ」
「そ、そう・・・」

それは平和と言えるのだろうか・・・
正直、寮暮らしでなくて良かった。門限は必ず守ろうと心に誓う

「はい、ついたよ。ちょっと散らかってるけど、ごめんね」

扉には「松実宥」と書かれている。4階の一番角の部屋だった
中に入ると、大小様々なぬいぐるみが飾られていた

「かわいいぬいぐるみがいっぱいだね」
「うん、もこもこしたのがあったかいの」

基準はあったかいなのだろうか
確かにクマとかのもこもこしたぬいぐるみが多かった
それを差し引いても、十分整理されていた

「とりあえずご飯にしようか、用意するから待っててね」
「手伝うよ」
「私から誘ったんだから、照ちゃんは待っててね」

作り置きと言っていたから、冷蔵庫からタッパーに入ってるサラダなどを皿に盛り付けていくだけのようだ
エプロン姿の宥もかわいい・・・

373: tell you that I love ...(5-5) 2012/09/15(土) 00:07:51.45 ID:XYNbcDO10
程なくして、机にはいっぱいの料理が並んだ
いやに漬物が多いけれど・・・

「一人で料理していると、日持ちする漬物とかが多くなっちゃうんだ。家からも送ってくれるし」
「あまり家では漬物は食べないから、分けてもらいたいくらい・・・うん、おいしい」
「今度お裾分けしてあげるね」

食べ終わって、食器は私が洗うことにする
遠慮する宥だったけど、そのくらいはさせてもらわないと悪い

時間は6時半になっていた

「ねえ、照ちゃん」

急に視線が泳ぎ始める宥
顔も心なしか赤い

「ん、どうしたの?」
「また、膝枕する?」

今度は私が顔を真っ赤にする番だった
・・・いくらなんでも不意打ちすぎる
いや、部屋に来た時にちょっとは期待しないでもなかったけれども

「う、うん、そうだね」

宥も恥ずかしいのかな
ドキドキしてるのかな

この前はとても自然に膝枕してもらったと思っていたけれど、あの時の私は正直冷静じゃなかったし
だからあの時の宥も、本当はドキドキして、勇気を振り絞って言ってくれたのかもしれない

「じゃ、じゃあ。失礼します」
「そ、そんなにかしこまらなくてもいいよぉ」

なぜか一礼してから、私はゆっくりと宥のふとももに顔をうずめる
やわらかいな・・・

「これは怜が病みつきになるもの分かる」
「じゃあ、私は清水谷さんかな?」

見上げれば、宥がほほえんでくれている
とても落ち着く

それでも・・・
だからこそ見えてくる、自分の心の奥底

明日の朝になれば、こんな気持ちにはもうなれない

「ねえ、宥」
「なに、照ちゃん」
「明日から、勝てるかな?」
「照ちゃんでも、不安になったりするんだ」

私はみんなを引っ張って、みんなと勝ちたい
ただ純粋にそれだけなのに、なぜそこに邪魔が入るのだろう

374: tell you that I love ...(5-5) 2012/09/15(土) 00:09:22.38 ID:XYNbcDO10
「卓の前では、こんな気持ちにはならない。でも、卓の外で起こることには、私は無力・・・」

由子の件はひとまず解決したとは言え、それでも彼女を巻き込んでしまったことには変わりない
対抗戦が始まってからだって、何かしらの妨害がないとも限らない

「大丈夫だよ。何があったって、みんなこのクラスで勝ちたいって思ってるから。卓の外だって、照ちゃんは素敵なんだよ」
「素敵だなんて・・・」

面と向かって言われたこともない言葉に、どんどん鼓動は高鳴っていく

「素敵だよ。こうやって膝枕してると、私だって、ドキドキするんだよ?」
「・・・宥?」
「昨日から照ちゃんの強いところも、弱いところも、いろんな顔が見れて、とっても嬉しいの」

ああ、やっぱり私は無力だ
そばに寄り添ってくれる宥の気持ち一つ、私には見えやしない

でも、そんな盲目な私が素敵だと言ってくれるのなら・・・

「宥・・・」

私はゆっくりと起き上がる
宥がそんな私を見つめる。膝枕をやめてしまって戸惑っているようだ

「照ちゃん、私変なこと言った?」
「いや、変なのは、私・・・」

言い終わらないうちに、私は宥を抱きしめていた

「えっ・・・」
「ごめんね。この方が、宥を感じられると思って。もう何言ってるかわからないけど、なんだか抱きしめたくなって」
「・・・・うん」

着ぶくれていても、宥の背中に簡単に手が回る
ゆっくりと、背中に宥の手が回る
もうこのまま、宥の中に溶け込めたらいいのに・・・・

「明日になったら、私はまたチャンピオンの宮永照になっちゃう」
「そうだね・・・」
「だから、こんな気持ちは今だけだから。明日から大丈夫かなとか不安になっちゃうのも、こんな風に宥を抱きしめたいって思っちゃうのも・・・今日だけだから」
「・・・抱きしめるのは、今日だけじゃなくてもいいよ」

ポツリと宥がつぶやく
同時に、きゅっと抱きしめる力が強くなった

今のうちに、今の勢いで言わなきゃ・・・
この、ぬくもりと呼ぶには熱いくらいの抱擁で私の殻が溶けているうちに・・・


「宥、好き・・・」


「私も・・・」


それ以上の言葉は必要なく
このぬくもりと静寂が、時の流れを緩めてくれるのを感じていた

378: tell you that I love ...(6) 2012/09/16(日) 09:35:46.46 ID:LK6c9zYA0
-side 煌-

金曜日
生徒会はアンケートの集計をようやく終えた

「終わったわねー」
「ええ、これで組み合わせも決定しました、すばらですっ」

会長が大きく背中を反って伸びをする
私も首をコキコキと鳴らした

「それにしても悪いわね、煌。2年生なのに実行委員長を任せることになっちゃって」
「いえいえ、お任せあれですよ」

3年生の生徒会員は全員、クラス対抗戦の代表メンバーに選ばれている
従って、代表になっていないのは生徒会の中では私だけ
代表メンバーが対抗戦の実行委員長を同時にこなすのは難しい、だから私に委員長の大任が回ってきたのだ

「最後のクラス対抗戦なのですから、思いっきり楽しんでください。それがすばらというものです」

私が在籍するのは2年10組
2年トップ3の3人に加えて、冬の個人戦以来すっかり戦友となった松実玄さんなどもいて、クラス編成がなされた段階で対抗戦に出られるとは夢にも思ってはいない
それに対抗戦だけがすべてではないのだし、これほど強い人とクラスメイトになれたというだけでも、すばらです

「それに、学校中が盛り上がるこの対抗戦の実行委員長という大役を任されるなんて、こんなすばらなことはありません」
「そう言ってもらえると、助かるわ」
「ええ、実行委員長、任されました!」

クラス対抗戦は4日間に渡って行われる
初日の予選こそ1人1半荘のみなので早く終わるが(ただし敗者復活戦に回るとダブルヘッダー)、その後の本選3日間は1人2半荘で行われる

1日目:予選(60→16)
2日目:本選(16→8)
3日目:準決勝(8→4)
4日目:決勝

麻雀が授業に組み込まれているが、その麻雀の授業の枠を使って大会が行われるため、この大会が終わるとしばらく麻雀の授業がなくなる
それほどの大会で校外からも観戦者が来るし、それを目当ての出店の許可なども生徒会で行っている

「今回の投票は、なかなか面白いことになったな」

出来上がった対戦表を見ながら、会計の辻垣内さんがつぶやく

「ああ、2年が1位になったことはほとんどないんじゃないか?」

副会長の加治木さんがうなづく

投票の結果、私のいる2年10組が1位となった
僅差で、3年2組の部長連合、宮永照さんのいる3年1組と続いている

3年生は今までクラス対抗戦2連覇を果たしている宮永弘世ペアが崩れたのを筆頭に、戦力が分散されている傾向
逆に2年生はトップ3集結で戦力には随分偏りがある

「みなさんはどこに投票したんですか?」

庶務の狩宿さんの質問に、私はまわりを見渡した
にやりと笑う、会長

「私は3年13組よ」
「13組ですか。あまり騒がれてはいないですけど、確かに実力者が揃っていますね」
「ね、そこまで悪い待ちではないと思ってるわよ」

書記の霜崎さんが頷く
はて、どんなメンバーだったか。私はオーダーを見返した

1組や2組に話題こそ持っていかれているが、確かにランク上位の人が揃っている
これはいかにチャンピオンといえど一筋縄ではいかなそうです

それでも私は、3年1組に投票しましたけども

どんな困難にでも打ち勝って見せるのが、チャンピオンというもの
すばらなところ、見せてくださいよ宮永さん

379: tell you that I love ...(6) 2012/09/16(日) 09:38:26.59 ID:LK6c9zYA0
-side 照-

「ツモ、12600オール」

卓に着けば、自然と心は落ち着く
ただ目の前の勝負に集中するだけ

実際の大会と同じように、対局者と生徒会から選ばれた審判役の生徒が2人いるだけの対局室
クラスのみんなは教室でモニター越しに応援をしてくれていることだろう

さて、次は7本場
打点を上げて、次は役満。これでツモなら上家の1年生が飛ぶ

「ツモ、四暗刻。16700オール」

すごく久々の役満
大会ルールで10万点持ちじゃないと、2万5千点持ちでは打点を上げる途中で誰かが飛んで終わってしまう

「ありがとうございました」

すっと立ち上がり、席をあとにする
背中越しに打ちひしがれた3人の暗い声が聞こえる

「ノーぉぉぉぉぉぉである」
「これって・・・・」

悪いね・・・
でも私は負けるわけにはいかないんだ



教室に戻ると、大歓声が上がった

「照ちゃん、すごかったよ」
「まあ、予選だしね・・・」

宥が差し出してくれたペットボトルを受け取る

「ごめんね、豊音。今日は出番なしで」
「全然大丈夫だよー。なんてったって私は、最終兵器だもんねー」

最終兵器という言葉がいたく気に入ったらしい
出番が少なくなるだろうことを説明したときは、みんなとたくさん打ちたいよーと言っていたけれど、塞がうまく豊音をのせてくれた

でもその塞は、ひどく落ち込んでいた

「照、ごめんね。私が役満を振っちゃって・・・」
「いや、あれは仕方ない」
「やなぁ、まさかこの白糸台にあんな素人みたいな打ち方する人がいるとは思わんかったわ。しかも2年やで・・・」

怜も同調してくれる

2年19組次鋒、妹尾香織
みっつずつ、みっつずつと言いながら理牌し、打ち筋はめちゃくちゃ
しかしそのめちゃくちゃな打ち筋が迷彩となり、塞は親の四暗刻単騎待ちに振り込んでしまった

先鋒で宥が稼いでいてくれていたから良かったものの、次鋒では3位転落
中堅戦で怜が原点まで復帰した

「うん、ありがと。でも落ち込む・・・」
「大丈夫だよ塞ー、最終兵器の私がいるんだしねっ」
「豊音に極力回さないようにしないといけないんだけどね、はぁ」

うーん、これはちょっとまずいかもしれない
ただでさえ、自分の能力が失われて自信を無くしているところに、自分自身の力さえ信じられなくなってしまうとなると、支えにするものが無くなってしまう

「ただいまー。あ、照が戻ってきてるのよー」

そこに由子が戻ってきた

380: tell you that I love ...(6) 2012/09/16(日) 09:40:49.92 ID:LK6c9zYA0
由子には他のクラスの状況を偵察してもらっている

牌譜自体は、大会終了後に速報が出るので知らないクラスでも参考にすることはできる
しかし牌譜だけでは分からない、リアルタイムで感じることもある
実力のある由子に偵察を任せられるというのは、不幸中の幸いといったところかもしれない

「照がいて豊音もいるってことは、飛ばしで終わったってこと?」
「ああ、無事に1位通過だ」
「それは良かったのよー」

由子は手にしたメモ帳を広げる

「他のところで番狂わせはなかったのよー。特に2年10組と3年2組は流石なのよー。中堅で他のクラスを飛ばして終了してる」
「玄ちゃんのクラス、勝ったんだね」
「竜華にまで回らんかったんやな。まあ予選やしそんなもんか」

優勝予想で1位2位というだけのことはある
ほかも概ね、予想上位のクラスが勝ち抜けたようだ

「咲のクラスは?」
「咲ちゃんは照の言う通りだったのよー。先鋒戦は1半荘だったからきっちり105000点で次鋒に回してる。1年5組は大将まで回ったけど、見た限りあの大星さんって人は本気出してる感じじゃなかったのよー。まあ大将に回った段階で5万点差ついてたから、豊音と同じで実力隠しだと思うのよー」

まあ淡が5万点差持っていれば流す程度で問題ないのだろう

「さて、じゃあ早く終わったし、お昼ご飯は屋台に何か買いに行こうか」
「せやな、たこ焼きの屋台あったで」

由子と怜が連れだって教室を出ていく
それを追いかける豊音

「私はわたあめがいいよー」
「豊音、昼ごはんって言ってるでしょうに・・・」
「じゃありんごあめー」
「祭りかっ」

やれやれと、塞が立ち上がる

「落ち込んでる暇なんてなさそうね」

笑顔を浮かべて、教室を出ていく豊音を追いかけていく

それでもその場しのぎだろうと、私はそう感じる
また卓に着けば、自分の不調、振り込んだ時の記憶が蘇ってしまうだろう・・・

それでも、これは塞自身が乗り越えないといけないこと

「塞ちゃん、元気になってくれるといいけど・・・」
「そうだな」

何かしてあげられることは、あるのだろうか

「じゃあ行こう、照ちゃん。屋台ってあったかいご飯が多いから楽しみ」
「ああ、行こう」

384: tell you that I love ...(7-1) 2012/09/16(日) 22:13:23.85 ID:LK6c9zYA0
-side 照-

大会2日目も順当に勝ち上がった
展開も、1日目と似たようなものだった

宥が約2万点プラス、塞が約2万点マイナス、怜が約1万点プラスで2位でバトンが回ってきた
そこから私が連荘するけど飛ばすには至らず、8万点リードの1位で豊音にバトンを渡すことになった

予選からは2位以上で通過できる
豊音は平打ちに徹しても十分通過できる状況
いろいろ技を使いたそうでうずうずしているようだったけれど、なんとか実力は隠しきれただろう
まだ、塞は復調の兆しが見えない。そこだけが気がかりだった


そして大会3日目
いよいよベスト8が出揃った

組み合わせはこんな感じ

準決勝A卓
3-1
3-13
2-10
1-11

準決勝B卓
3-2
3-9
3-18
1-5


試合前、由子を交えてのミーティングを行う

「一番の強敵は2年10組なのよー。でも3年13組も強いのよー、恭子は私よりも強いのよー」
「シロとエイちゃんだってかなり強いしね・・・」
「セーラもおるしなぁ・・・竜華は調子に波があるんやけど、セーラは安定して強いからなぁ」

私はオーダー表を見る

3年13組
先鋒 小瀬川白望
次鋒 エイスリン・ウィッシュアート
中堅 江口セーラ
副将 薄墨初美
大将 末原恭子

今名前が挙がったのが4人
先鋒次鋒の2人は美術部で会ったことがある
江口さんは、ソフト部では4番サードをしているらしい
末原さんは、サッカー部で司令塔として活躍しているみたい

残るは、1人

「この、薄墨さんっていう人はどうなの?」
「・・・・・」

なぜか沈黙が広がる
沈黙に耐えかねたのか、怜が口を開いた

「・・・痴女やな。本来やったら友引は、薄墨初美にこそふさわしい」
「裸単騎なのよー」
「ちじょってなにー?」
「豊音は知らなくていいのよ」

なんだか話が脱線してしまっている
助けを求めるように宥に視線を移す
宥は、怯えるように震えていた

「薄墨初美は、ヒトじゃない・・・」

カタカタと声まで震えている
宥が、そこまで恐れる相手なの・・・

「あんなに露出して、私だったら寒くて死んじゃう・・・」
「いや、その感想は宥姉ちゃんだけやで」

結局、とにかく露出がすごいということしか分からなかった
グラビアアイドルとかやってる人なのかな・・・現役高校生麻雀アイドルとしてテレビにも出てるちゃちゃのんみたいに
まあ、対戦すればわかるからいいか

385: tell you that I love ...(7-1) 2012/09/16(日) 22:14:56.95 ID:LK6c9zYA0
「あと、1年11組は正直そこまでチェックしてなかったから、牌譜の確認と他の人からの聞き込み情報だけなのよー」

再びオーダー表に目を落とす

1年11組
先鋒 片岡優希
次鋒 南浦数絵
中堅 滝見春
副将 東横桃子
大将 二条泉

「先鋒の片岡は、とにかく東場に強いのよー。逆に次鋒の南浦は南場にやたら強くなるのよー」
「お、泉のクラスなんか。泉は去年の全中2位やし結構強いで」
「中堅の滝見は技巧派なのよー。さっと安手で流したり差し込んだり、火力はないけど高い手を潰しに来るから要注意なのよー」

そこで解説が止まる
また副将に問題ありなの?

「それでこの東横ってのが、話を聞いてもよく分からないのよー」
「どういうこと?」

尋ねると、由子も釈然としていないようだった

「対戦した後輩によると『消える』らしいのよー」
「消える?」
「まあ、実際に照が対局するんだし、その時に見てくれればいいと思うのよー」

副将戦までに時間はあるし、少し牌譜を見ておくことにしよう

『準決勝先鋒戦まで残り15分です。選手はそれぞれ対局室まで移動してください』

「お、きたで。宥姉ちゃん、いったれ!」
「宥、がんばれー」
「うん、行ってくるね」

立ち上がる宥と視線が合う

「あんまり、無茶しないようにね」
「大丈夫だよ、照ちゃん」

柔らかく微笑み、宥は教室を出て行った

その笑顔が曇らないよう、今はただ祈るだけ

386: tell you that I love ...(7-1) 2012/09/16(日) 22:17:45.31 ID:LK6c9zYA0
-side 宥-

精一杯と、無茶の境界はどこなのだろう
はっきりとした線なんて、引かれてはいないことだけは確かだけど

だから、塞ぐことのできた頃の塞も、何巡も先を見ようとした怜も、あいまいな線をいつの間にか超えてしまっていたのだろう
私も、そうなってしまうことがあるのだろうか・・・

場決めも終わり、対局者4人が席に着いた

「よろしくだじぇ!」
「よろしくお願いします」
「よろしく・・・」
「ほなよろしゅうな」

東 片岡優希(1-11)
南 松実宥(3-1)
西 小瀬川白望(3-13)
北 荒川憩(2-10)


立ち上がりは由子に聞いていた通り、優希が先制する

「ツモ、4000オール!」
「ツモ、裏が乗って6100オール」

いずれも早い順目でのリーチ一発ツモ
流石にこれでは対処のしようがない

「・・・・ダルいなぁ、もう」

白望がつぶやく。視線は、優希と憩へと行ったり来たりしていた
1年生は知らないのかもしれない、荒川憩の恐ろしさを。これ以上、優希に上がられるわけにはいかなかった


-東1局2本場

「ポン」

特急券の中を鳴く
とにかく1000点でもいいからここは流したい

でも、こんな鳴きくらいでは優希の勢いは止まらない

「ナイ鳴きだじぇ。リーチ」

またしてもリーチ
対抗戦の牌譜だけを見ても、東場では最低でも満貫はあるという火力の持ち主
ツモでも困るけれど、差し込むには高すぎるし親が続くだけだから事態の解決にならない

「んー、ほな追っかけてみようかな」
「通らず、ロンだじぇ! 12000の2本場」
「優希ちゃんやったっけ、強いんやなぁ」
「ふふん、2年最強でもこの私には手も足も出ないようだじぇ!」

憩が振り込んだ・・・

始まるっ・・・

「東1からとは・・・ダル」

白望が髪をくしゃくしゃとなでる

「ふふ、優希ちゃん?」

不敵に微笑む、憩

「お、なんだじぇ?」
「仏の顔も三度までって言葉、知っとる?」
「それくらい知ってるじぇ!」
「ほうか、それなら手間が省けるなぁ」

387: tell you that I love ...(7-1) 2012/09/16(日) 22:28:58.22 ID:LK6c9zYA0
-東1局3本場

「ダブルリーチや」
「む、この私の速度を上回るとはやるじぇ。こんなの事故事故!」
「ロン、ダブリー・一発・ホンイツ・三暗刻・トイトイ・白・発・北。数え役満やなぁ、32900」
「なっ・・・なんですとー」

荒川憩
ツモ・ロンに限らず、同じ相手から累計3回点数を取られると、その後火力が一気に上昇する
その高火力状態は1半荘が終わるまで続くため、東1でこの状態になってしまうとかなり厄介になってしまう

それでも、なんとか頑張らないと・・・


-2半荘目
-南4局

「ロン、タンピン三色ドラ2。12000」
「張っとったかぁ、残念・・・」

トップから直撃できた
ようやく肩の力を抜ける・・・

「おつかれぇ、だじぇ・・・」
「ありがとうございました」
「おつかれ・・・」
「ありがとうございました、おつかれー」

片岡優希(1-11)   78500
松実宥(3-1)     94200
小瀬川白望(3-13)  90200
荒川憩(2-10)   137100



原点を下回ってしまった
かろうじて2位にはなれたけど・・・

「明日はもっと頑張らないといけないな・・・」

教室に戻る途中で、対局室に向かう塞と会えた

「さすがだね、宥は。早い段階から覚醒してる荒川相手にほぼ原点なら大したもんだよ」
「そんなことないよ、だいぶ離されちゃったし」
「私の方がみんなの足を引っ張ってばかりだからさ」
「そんなことないよ」
「いいよ、わかってる」

元気のない笑顔を浮かべ、塞は強がってみせる

「今回こそ、点数稼いでくるよ」
「うん、頑張ってね」

対局室に向かう塞を見送る

それでも、次の相手は玄ちゃん・・・
ドラが来ない以上、そんなに点数は稼げないだろう

「無茶、しないでね・・・」

もう見えなくなった背中に声をかける

無茶の境界がせめてぼんやりとでも、塞の瞳に映ることをただ願うしかなかった

394: tell you that I love ...(7-2) 2012/09/17(月) 10:12:31.28 ID:Tp/nKkeU0
-side 塞-

分かってる・・・
所詮私は数合わせ
初めは由子を誘おうとしたけど断られたから、私が代わりに出ているだけ

・・・ってそんな考えだからマイナスばっかりくらってるのよ

気合入れろ、私!

対局室に入ると、すでにエイちゃんが座っていた

「サエ」
「まさかエイちゃんが敵に回るなんてね。ま、お互い頑張ろう」
「ウン、ガンバル」

美術部で麻雀する時も、塞げたころは勝てたけどそうでないとなかなかエイちゃんには勝てない
しんどいことになりそう・・・

「お待たせしましたー」
「よろしくお願いします」

すると、玄ちゃんと、1年の南浦さんが入ってきた
さって、始めますか


東 臼沢塞(3-1)     94200
南 エイスリン(3-13)  90200
西 松実玄(2-10)   137100
北 南浦数絵(1-11)   78500


南場に強い南浦さんがラス親か、ついてない

「ツモ、2000、4000デス」

その上、初っ端から親っかぶりで3位転落・・・
かといって、エイちゃんの支配から逃れようと無茶鳴きしてみても

「ツモドラ5、3000、6000です」

だぁ、今度はこっちか、ドラゴンロード
これ以上2年に上がられると後ろには神代と天江が控えてるし・・・

東場はエイちゃんに任せておくか


-南場

「さて、優希が取られた点棒、返していただきましょうか」

南入、来るか・・・
まったく、エイちゃんだけでもしんどいっていうのに

「ロン、12000」
「ひゃうっ」
「ツモ、2000、4000」

2連続で上がってくる南浦さん
エイちゃんのあっさり支配を上回ってくる

でもエイちゃんも負けてない

「ロン、3900」
「あうっ」

それにしても玄ちゃん、守りは弱いのね・・・
っていうか私も焼き鳥じゃない

結局私は1度も上がれず、南浦さんが2連荘したあと、エイちゃんが上がって前半戦が終了した

395: tell you that I love ...(7-2) 2012/09/17(月) 10:13:56.96 ID:Tp/nKkeU0
-廊下

近くの自販機まで行ってコーヒーを買う
まったく、こんなんじゃ私のせいで負けかねない・・・

いくら後ろに怜や照、豊音が控えてるって言っても限度がある

「サエ」

と、そこにエイちゃんがやってきた

「エイちゃんも、何か飲む?」

フルフルと首を振ると、スケッチブックに絵を書き始めた
うーん、解読班のシロがいなくて解読できるものか

書かれた絵には、文字で「south」と書かれて、髪留めがほどける髪の長い女の子が書かれていた
すごい勢いで牌をツモっている

「えと、南浦さんのこと?」
「yes」

さらにそこに、お団子頭の女の子が付け足される。私のことか
その私が、南浦さんよりも大きく書かれている

「ええっと、私より南浦さんの方が大きい?」
「サエ、コノヒト、フサグ」
「いやいやいや、言ったでしょ。私はもう塞げないって」

また首を振るエイちゃん

「イメージ」
「え?」
「ワタシガ、タクジョウデ、イメージスル」

確かにエイちゃんは自分のイメージを卓上に描く
無茶鳴きされたり、それを上回る支配にはそのイメージを壊されてしまうけれど、簡単には破られない

私が塞ぐイメージを、卓上で描くっていうの・・・

「そんなこと、できるの?」
「ワカラナイ」

そしてスケッチブックの南浦さんを、こつんと叩く

「コノヒト、ツヨイ。サエ、タスケテ」

ああもう、この子は状況分かってるのかなぁ
一応敵同士なんだよ、私たち・・・

っていうか、こんなことをエイちゃんが思いつくはずがない
まったく・・・私はどんだけ周りに心配かければ気が済むんだ

「おいこら、シロ、出てこい」
「バレてたか・・・ダル」

廊下の陰から、ゆっくりとシロが出てくる

「シロの差金でしょう? 一応敵同士なんだけど」
「うーん、正直クラス対抗戦とか興味ないし」
「ぶっちゃけすぎっ」
「それに、塞が落ち込んでる方が、ダルイ」
「はは、まったく。シロにまで介護されちゃあおしまいだわ」

さて、そろそろ後半戦か

「心配しなくても、実力で塞いで見せるわよ。いくよ、エイちゃん」
「ウン」

空元気なのは分かってる
でも、元気ですらないより、少しはましでしょ

396: tell you that I love ...(7-2) 2012/09/17(月) 10:16:36.55 ID:Tp/nKkeU0
-2半荘目
-南4局1本場

「ツモ、6000、3000の1本場」

今日一番の上がりで、なんとか終了
塞ぐ力が戻ってきたとは思えないけれど、少しだけ、南浦さんの手が遅れていたような気がする
まあ、それはエイちゃんの支配が優ったのだろう、多分

それにしても最下位転落か・・・
みんなに申し訳ないな


臼沢塞(3-1)     83100(-11100)
エイスリン(3-13) 102500(+12300)
松実玄(2-10)   120100(-17000)
南浦数絵(1-11)   94300(+15800)

399: tell you that I love ...(7-3) 2012/09/17(月) 18:23:38.12 ID:Tp/nKkeU0
-side 怜-

最後は塞の上がりで次鋒戦終了

「心なしか、後半の南場の方があの1年のテンパイ速度が遅い感じやったなぁ」
「塞げてきてるのかなー」
「うーん、塞自身は自覚なさそうだけど・・・」

教室でモニター越しの応援というのはなんとももどかしいものがある

「次、怜ちゃんだね」
「おー、逆転してくんでー」


対局室に到着すると、私が最後だったようだ

「重役出勤やな、怜」
「真打は後からやってくるらしいで、セーラ」
「なら丁重に扱ったるで」
「セーラの丁重とか、怖いわ」

場決めまで終わっているようで、私は空いている席に着いた
神代と1年の滝見は同じ和装。確か二人とも書道部やったか

「ほな、よろしゅう」
「よろしくお願いしますっ」
「よろしく・・・」
「お手柔らかになー」

東 園城寺怜(3-1)   83100
南 神代小蒔(2-10) 120100
西 江口セーラ(3-13)102500
北 滝見春(1-11)   94300


-東3局

今のところ神代はおとなしい
打ち筋にムラがあり、弱い時はミエミエのホンイツとかにも振り込んだりするらしい

ここまではセーラが高い手を仕上げてくるのを、鳴いてずらしてなんとかしのいできた

「リーチ」

セーラの親リーが入る
はあ、また高そうやな・・・

「チー」

滝見がその牌を鳴く。これで3鳴き。役はドラがなければ中だけか?
そして私のツモは、西。とりあえずはセーラの安牌

ここで一巡先を覗く

どうやら 打:西 で滝見に振り込む、中ドラ1の2000点
セーラにツモられるよりはましか。セーラ親やし・・・

ツモってきた西をそのまま切った

「ロン、2000点」
「はい」
「流されてもうたかぁ、怜相手やと高い手はなかなか上がれんなー」


-東4局

滝見の狙いはこの中堅戦自体を即流しすることかもしれん・・・
自分が親なのに、私が即効で白を鳴くやいなや、鳴きごろの牌をどんどん切ってくる

「ロン、白ドラ1。2000」

さっきの点棒を返してもらった格好になる
神代小蒔のことは滝見の方がよく知っとるんやろうからこそ、覚醒する前に局を消化しとこうという狙いなんやろう

まだ原点には復帰しとらんけど、神代とセーラが同時に暴れたらさすがの私でも手が負えん・・・
ならその戦略、乗ったるで

400: tell you that I love ...(7-3) 2012/09/17(月) 18:25:23.59 ID:Tp/nKkeU0
-後半戦
-東3局2本場

「ツモ、4000オール」

セーラの連荘が続く・・・
まだ神代はおとなしいけど、滝見がさっきからチラチラ見とるし、ぼちぼちやばいんとちゃうかな

「2人でちまちま場を流そうとしとるみたいやけど、親で上がれるときに上がらんと痛い目見るで」
「何が正解かなんて、終わってからやないと分からんもんやで」

とにかくセーラの親を流さなな・・・


-東3局3本場

「リーチ」

またセーラの親リー。調子に乗りすぎやでほんまに
その瞬間だった

「・・・・寝た」

危うく聞き逃しかねないくらいの小さな声で、滝見がつぶやく

ゾクゾクゾク

全身を冷たい風が駆け抜けるかのように体が震える

「おー、ついに姫様がきよったかー。ここからが本番やな」

楽しそうに笑うセーラ
その余裕、羨ましいわ・・・

「うおい、まったくツモが来んくなってんで」

6巡目にリーチしてから、その後6巡ツモ切り

そして次巡
一巡先を読んだ私には、もう結末が見えた

セーラ、やっぱり正解は即流しやで・・・

「はぁ、この辺やろ、神代?」
「ロン、24900」
「やられたわぁ」

それでも面白そうに点棒を出すセーラ
まあ、楽しそうなら何よりやけど

401: tell you that I love ...(7-3) 2012/09/17(月) 18:27:20.96 ID:Tp/nKkeU0
-後半戦
-オーラス

その後神代がかなり暴れ、区間では一人浮き状態になった
しかしここに来て勝負手が舞い降りる
わずか4巡でピンズでホンイツ手がきれいに染まった。どれを切るかで待ちが変わるが、どうしたもんか・・・

でも、これは上がっときたい
無理はするなって照からも、みんなからも言われとるけど、少し無茶させてもらうで

2巡先、ダブルや


―――――

1巡先はピンズは全く出てこんかった。
2巡先のツモも、字牌やけど上がりには関係ない

2巡先の神代の捨て牌は・・・
そこで神代の手が止まる

ん、上がるんか?

「ここから先は、ご遠慮願えますか?」

・・・はっ?

「あまり未来視を続けると、お体に障ります」

神代の視線は明らかに私を捉えている
未来視の中に入り込んで来とるっていうんか?

「それに、いくら麻雀限定とは言え、あまり神様の領域に踏み込んではいけません」
「私は、勝たなあかんのや・・・」
「・・・・あまり無理しないでください」

みんな、無理するなって言うんやな・・・
神代が切ろうとしていた牌から手を離し、別の牌を切る

「今回はこれで手打ちにします」

切ったのは当たり牌・・・・

―――――


「怜さん、大丈夫ですかっ!」

あれ、煌の声?
ああそうか、意識がちょっと飛んどったみたいや。煌は今日の審判やったわ・・・

「ああ、悪いな」
「怜、大丈夫なんか?」

セーラも心配そうに私を見る
ただ、神代だけが意味ありげな視線を私に向けていた

ああ、手打ちにしといたる
今日のところはな

2巡先、不意に目が覚めた神代が慌てて切った牌で、私はホンイツ手を上がった



園城寺怜(3-1)   85600(+ 2500)
神代小蒔(2-10) 137200(+17100)
江口セーラ(3-13) 98100(- 4400)
滝見春(1-11)   79100(-15200)

408: tell you that I love ...(7-4) 2012/09/19(水) 00:27:41.31 ID:9BAIo3Z70
-side セーラ-

「いやあ、まいったまいった。姫さん強いわ」

3年13組の教室に戻ると、チームの4人が出迎えてくれた

「お疲れや。できればプラスで帰ってきて欲しかったけどな」
「恭子は手厳しいなぁ。でも自分を曲げずに打ったんや、悪いけど後悔はしてへんで」
「大丈夫ですよー、午後からは私がバッチリ稼いできますからー」
「ハツミ、ガンバレ」
「もう帰っていいかな、ダル・・・」

相変わらずシロはやる気のない奴やな
それでなんだかんだ慕われてるんわ、役得ってやつなんかな
っていうかもうエイちゃんに飯食わせてもろうとるし・・・雛鳥かお前はっ

「まあ、化物ぞろいの2年10組が先行するのは想定内やし、怜にもたいして稼がせなかったから、今のところは及第点ってとこやな」
「今んところは、末原監督の采配通りってとこか?」
「今のところは、な・・・」

思案にふける恭子
こういうやつやけど、あんまり考えすぎても血圧上がるだけやで

「まあ、あとは初美の場決めの運に託すわ。宮永照の上家になれれば、まだ勝機はある」
「2半荘の内、1回くらいは上家になれればええけどな・・・」
「2半荘に1回以上上家になれる確率は5/9や。悪くない賭けやろ?」

宮永照の恐ろしいところは、打点を上げながら連荘するところ。そしてそれを止められへんところ・・・
やけど、初美が宮永照の上家なら、親で連荘する限り初美は北家になり続ける
上がり続ける宮永は、東や北をいつまでも抑えるわけにもいかへんやろう

仮に500オール、1100オール、2200オール、4300オールと4回上がっても、合計は24300点。収支差考えても32400点
その間に役満1回上がればチャラにできる

「読んどったんか、末原監督。宮永照が副将に来るってことを」
「ある程度3年1組のチーム事情は知っとったからな・・・少なくとも先鋒と次鋒は無いと思っとった。まあでも、3年1組だけ警戒すればええわけやないしな」
「難しい話はそれくらいにして、ご飯食べに行きましょー」

少し重たくなりかけた空気を払拭するように、初美が大げさに手を振る

「せやな。あとは2人に任せて、俺はゆっくり観戦させてもらうで」
「お任せですよー」
「凡人の私が天江にどこまで通じるか、楽しみにしといてや」

あんまり卑屈になりすぎるもんやないで、恭子
それだけが心配なんや・・・

409: tell you that I love ...(7-4) 2012/09/19(水) 00:30:09.95 ID:9BAIo3Z70
-side 憩-

「小蒔ちゃん、おつかれー」
「最後不用意に振り込んでしまって、ごめんなさい」

教室に戻ってくるなり、小蒔ちゃんが頭を下げた

「プラスで帰ってきたんやから、十分やよ」
「そうだぞ小蒔。それに衣もそろそろ打たないと、徒然に耐えかねる」
「つれづれに?」
「要は暇やっちゅうことや」

衣ちゃんの言葉使いは慣れんとよく分からんからなぁ・・・
玄ちゃんが戸惑うところに、絹ちゃんがフォローに入った
でもその絹ちゃんが、ため息をつく

「初めて副将戦に回ってくるんやな・・・」

1日目2日目と、いずれも中堅戦で他のクラスを飛ばして勝ち進んでいる
衣ちゃんはおろか、絹ちゃんもまだ試合に出ていない状態だった

「しかもその初めての相手が、よりによって宮永照とか。足引っ張るくらいで済めばええんやけど・・・」

宮永照はヒトやない・・・
去年対戦して、それは肌で感じとる
やからこそ志願して先鋒をかってでたのに、まさか副将で出てくるとは思わんかった・・・

「ええか、絹ちゃん。宮永照を止めなあかんと思っとるのは、絹ちゃんだけやないってことを忘れんことやよ。他のクラス、薄墨さんも、1年の東横さんっていう子も、対策を練っとるはずや」

席順によっては、薄墨さんを支援に回ってもええくらいやしな

「どんどん差し込んでええ、最下位になってもええ。とにかく衣ちゃんにつなげるんや。な、衣ちゃん?」
「衣に任せろ、絹恵。1000点もあれば、衣が百倍にも千倍にも著増させてやる」
「1000点の千倍、100万点ですねっ、衣ちゃんすごいです」
「100万点も行く前に誰か飛んじゃうけどね・・・」

天然ボケを炸裂させる小蒔ちゃんにツッコミ入れる玄ちゃん
でもまだまだツッコミのキレが甘いなぁ

「とにかくそういうことや。13万点もあるんや、派手に使ってきぃ」
「みんな・・・」

ぐっと拳を握り締める絹ちゃん
そうや、まだ涙はいらんで

「がんばるさかいなっ」
「その意気やで。よし、じゃあお昼ご飯に行くで」

おそらく、無事では済まんやろう
傷だらけでもええ、とにかく帰ってくるんやで、絹ちゃん・・・

410: tell you that I love ...(7-4) 2012/09/19(水) 00:32:20.24 ID:9BAIo3Z70
-side 照-

「怜、大丈夫?」

一瞬気を失った怜を心配して、試合が終わると同時にみんなで怜を迎えに行った

「大丈夫やって、みんな心配性やな」

そう言うが、とても大丈夫には見えない・・・

「怜、大丈夫なんか!?」

そこに駆け込んで来たのは、清水谷さんだった

「竜華・・・自分のクラスの方はええんか?」
「ずっと怜の試合見とったで、気を失ったんやろ?」
「それはありがとう言うべきなんか迷うなぁ・・・」

清水谷さんが自分の教室にいたら怜の試合は見れない。私たちはA卓、2組はB卓だから
ということは、清水谷さんは一般開放されている観戦室で試合を見ていたことになる

菫も言ってたっけ・・・
2組は個々は強いかもしれないが、横のつながりが薄い。ただの寄せ集めだって

それでいいのかなぁ・・・

「とにかく、どっかで休もう、な?」
「まあ確かに、膝枕分が著しく不足しとるわ・・・」
「やろ、やろ? いつものところ行って膝枕しよや」
「・・・自分がしたいだけちゃうんか?」
「そ、そんなことあらへんよ」

露骨に清水谷さんが動揺している
というか怜が清水谷さんを手玉にとっている感じ・・・

それにしても、膝枕分か・・・

ちらっと宥を見てしまう
宥は私の視線に気づいて、微笑む

はあ、対抗戦が終わるまでは甘えないでいようって思ってたんだけどな

「じゃあ怜は清水谷さんに任せて、私たちはご飯にしようか」

弱くなったと思うべきか、それとも力の抜き方を知ったと思うべきなのか・・・
膝枕してもらわないと、試合に集中できないかもしれない


「宥、ちょっといい?」

ご飯を食べ終えて、教室に戻る途中

「どうしたの、照ちゃん?」
「その、なんというか・・・」

なんでこうも恥ずかしくなるんだろう
でもさすがに、怜や清水谷さんみたいに人前で堂々と膝枕なんて恥ずかしいし・・・

「ボーリング部の部室、多分誰もいないと思うよ?」

察してくれているのだろう、宥の提案に私は小さくうなづいた

411: tell you that I love ...(7-4) 2012/09/19(水) 00:34:15.44 ID:9BAIo3Z70
部室につくと、宥が先に中を確認する。中には誰もいないようで

「いないね、入ろう」

宥に手招きされるまま中に入る
人数が少ない部だからだろう、部室は教室の半分位の大きさだった

小さな本棚にはボーリングの本
あとはスチールの机と椅子、そして部屋の奥にはなぜかソファーがあった

「赤土先生が仮眠用にって入れたの。ほとんど自分で使ってるみたいだけど」

教員宿舎もあるが、学生優先のためか学生寮の方が学校に近い
昼ごはんを寮に戻って食べる人もいるくらいだが、初めからそのつもりでないと昼休み中には戻ってこれない
学校で昼ごはんを食べてしまうと、行って戻ってくるだけで昼休みが終わってしまうくらいの距離はある

先生がちょっと休憩したいと教員宿舎に戻るには、少々遠いということだろう
授業のない時間帯にサボっている疑惑も浮上するが・・・今は感謝して使わせてもらおう

「はい、どうぞ」

宥がソファーに座り、膝を叩く
吸い寄せられるようにふとととに頭を乗せる

お昼ご飯を食べた後の満腹感と相まって、思わず目を閉じて眠りそうになってしまう
もう無理、この誘惑には逆らえない・・・

「ごめん、寝そう・・・」
「私も寝ちゃうかも・・・アラームセットするね」

薄目越しにかろうじて宥が携帯を操作するのが見えた
でもそれもすぐに真っ暗になって、私の意識は暖かく溶けていく



ピピピピ ピピピピ

覚醒する
電子音が響く

「宥?」

ばっと体を起こすと、まだ宥は瞳を閉じていた
とりあえず机に置かれた宥の携帯を取り、アラームを止める

まだ、寝てるのかな?
宥の寝顔か・・・かわいいな・・・

なぜか唇に目がいってしまう

柔らかそう・・・

ゆっくりと腕を上げ、指先でその紅い唇に触れようとする
何してんだろう私・・・
押し止めようとする気持ちと、触りたいという誘惑が私を硬直させる

ピピピピ ピピピピ

また電子音
ああもうスヌーズとか、宥の気遣いが今は痛い・・・

「宥、起きて」

上げた手をごまかすように、慌てて肩を掴んで揺らす

「あ、照ちゃん・・・・時間大丈夫?」
「うん、あと9分。今から行けば間に合うよ」
「そっか、目覚ましつけておいてよかったね」
「ああ、そうだな」

良かったのか良くなかったのか、私にはよく分からなかった
まあでも、膝枕分は補えたしあとは麻雀に集中しないとな

「行こう、私は直接対局室に行くよ」
「うん、じゃあ教室で応援してるね」

宥が応援してくれる限り、私は勝ち続ける

419: tell you that I love ...(7-5) 2012/09/20(木) 00:23:36.29 ID:HZBD5G460
-side 桃子-

時はさかのぼって、春。入学当初・・・

ようやく、先輩の通う学校に入学することができた
退屈な中学2年からの2年間
それでも先輩に追いつこうと必死に勉強し、麻雀も強くなった

どうして2年後から生まれたというだけで、同じ学校に1年しかいられなくなってしまうのだろう
加治木先輩と出会ったのは中学1年の時
先輩が卒業するまでの1年間はとても楽しかった

私は存在しない
存在できるのは、先輩の前でだけ

先輩と同じ学校に入学できて、ようやく私は存在できる

クラス対抗戦になんて興味はない
そんなものに出ている暇があったら、先輩の応援でもしていた方がはるかに有意義だ

私は教室の、自分の席に座ってじっとしていた
こうしていれば、誰に声をかけられることもない

ふと見ると、隣には私と同じく何も物言わず座る子がいた
なぜか黒糖をポリポリと食べている

「食べる?」
「え?」

まさか話しかけられると思っていなかった私は思わず立ち上がる

「見えるんっすか?」
「初めは、幽霊かと思った」

会話しながらも、それでもポリポリと黒糖をつまみ続ける
・・・自分のことは言えないけど、変な人っす

「それで、食べる?」
「え、ああ・・・。いただくっす」

すっかり毒気を抜かれた私は、黒糖をもらうと口に放り込んだ

「あ、うまいっすね」
「それが自慢」

今まで仏頂面だったのが、ニコリと笑う
なんだかよくわからない人っす

「あー、いたじぇ! 鶴賀のステテコモモ」
「ステルスでしょう・・・」

やけにハイテンションな声と、やけに冷淡な声
振り返ると、そこには長野の県大会で見たことのある2人

片岡優希と南浦数絵
中学の個人戦で対戦経験もあり、随分苦戦したので覚えていた

優希がこちらにスタスタと歩いてくる
この黒糖の子と会話していたので見つかってしまったのだろう
正直、優希はテンションが高すぎて苦手っすけど・・・

「とうとう見つけたじぇ、ステレオモモ。今日が年貢の納め時だじぇ」
「いや、だからステルスって言ってるでしょう」

冷静にツッコミを入れる南浦さん
南浦さんは南浦さんで、クールすぎてとっつきにくいんっすけどね
やっぱり先輩みたいにクールだけど情熱も秘めてる感じじゃないとダメっす

420: tell you that I love ...(7-5) 2012/09/20(木) 00:26:09.87 ID:HZBD5G460
また無表情に戻った黒糖さんが、首をかしげた

「あなたの名前、捨て犬モモなの?」
「なんすか、その可哀想な感じっ」
「捨て駒モモ?」
「すばらっ」
「捨て鉢モモ?」
「ああ確かにもうやけくそっすよ!」

ぜいぜいと息をつく

やっぱりコミュニケーションなんて疲れるだけ・・・
でも、なんでこんなに心地いいんだろう

「私は東横桃子っす。あなたは?」
「滝見春、よろしく」
「なんや、面白そうな漫才してるやん」

そこに声をかけてきたのは、やけにボーイッシュな人
もう、これ以上の面倒は勘弁っすよ・・・

「お前は確か、のどっちに跳直くらった全中2位」
「あれはリーチのまくり合いやし」

優希がビシっと指をさす
ああ思い出した、確か全中の決勝戦、おっぱいさんと一緒の卓にいた大阪の人

「二条泉や。高校では1番とったるから、よぉ覚えとき」
「かませの匂いがプンプンするセリフだじぇ!」
「うっさいわっ」

コミュニケーションなんて、ほんとに疲れる
でも・・・・

少なくともこの1年は、退屈しなくて済みそうっすね・・・

「よろしくね、スペースモモ」
「宇宙キターとか言ってる場合じゃないっすよ」

ああ、でもやっぱり疲れる・・・

422: tell you that I love ...(7-5) 2012/09/20(木) 00:28:32.78 ID:HZBD5G460
-クラス対抗戦、準決勝副将戦

1年11組は今のところ最下位
しかも副将戦に、高校生麻雀界の頂点、宮永照が出てくる

先輩にいいところ見せるには、うってつけの舞台っす
ただ先輩のクラスも準決勝に出てるから、私の対局は見れないだろうけど・・・

はじめの場決めが終わる

東 宮永照(チャンプ
南 薄墨初美(鬼門さん
西 愛宕絹恵(メガネさん
北 東横桃子

チャンプが立ち親なのは助かるっすね
東1は様子見をするみたいっすから

「ツモ、2000、4000や」

その東1、まずはメガネさんがツモあがった
瞬間、チャンプからただならぬ気配が発せられた

これが、見透かすってやつっすか・・・

「ツモ、300、500」
「ロン、2000」
「ロン、3900」

チャンプの3連続和了
それぞれメガネさんと鬼門さんが1回ずつ振り込んだ

悪いっすけど、私は振り込まないっすよ

中1のときに先輩にステルスを麻雀に活かすことを教わってから、私はいかに早く消えられるかを考えてきたっす

序盤は、ポンチーカンロンツモと言った発声は全くしないこと
そして振り込みは避ける。振り込めば、それだけ注目を集めてしまう。私は存在しないのだから、消える前から振り込みなどしてはいけない。防御は徹底的に磨いたっす、全中でもあのおっぱいさんに振り込んだ以外は放銃0っすからね

今回に限って言えば、チャンプの圧倒的な存在感が、すぐに他の2人から私の存在を消してくれる

いずみんには悪いけど、大将戦には回さないっす
いくら意気込んでも、やっぱり天江衣にはかなわないと思うっす

チャンプに他の二人の点棒を徹底的に毟り取ってもらう
誰かがトびそうになったときに、漁夫の利的に2位をかっさらう
それが私の作戦・・・・

「ロン、4800」

チャンプの親番に、またメガネさんが振り込む
チャンプには、私がいつか消えるかもしれないということはわかっているだろう
最悪消えられないかもしれないっすけど、それでもこの席順は都合がいい。仮に私が消えていても、チャンプ同順でチョンボすることはありえないから

だからチャンプは、遠慮なく出上がりできる

「ツモ、2700オール」

ただツモられると厳しいっすけど
それでも、他の二人はいつもよりも厳しい条件で戦わないといけない。そんな中で振り込まないでいるのは、難しいはずっすよ

「ロン、10200」
「あかん・・・」

メガネさんのつぶやきは暗い
いいっすよ、トップからどんどん点を取ってほしいっす

「ツモ、4300オール」

あー、またツモられたっすか・・・
できれば出上がりして欲しいっすけどね
ただ打点が上がれば上がるほど、安目見逃しの高目ツモって傾向は見られるっすから、ある程度のところで見切りはつけないといけないかもしれないっすけど

「ロン、19200」
「ロン、25500」
「くっ・・・」

もうメガネさんがこの世の終わりみたいな暗い顔してるっすね
無茶して上がりに向かおうとしてくれるから助かるっす
そろそろ鬼門さんも削ってほしいとこっすけど、最悪は自分で上がりに行くしかないかもしれないっすね・・・

424: tell you that I love ...(7-5) 2012/09/20(木) 00:30:49.04 ID:HZBD5G460
-side 憩-

・・・アカン、アドバイスが完全に裏目に出とる
必死に上がろうとしとるのは、現状絹ちゃんだけ。だから振り込むのも絹ちゃんばかりになってしまう・・・

「絹恵ちゃん、もう完全に自分を見失ってるよ」
「絹恵ちゃん・・・」

去年の冬、同じ立場になった玄ちゃんがつぶやく。小蒔ちゃんも心配そうや

それでも、去年の玄ちゃんの方が状況はマシだった

玄ちゃんが手も足も出なくても、煌ちゃんは玄ちゃんの牌も鳴くことはできた
さらに同卓には未来予知のできる園城寺さんもいて、ようやく照に一矢報いることができた

しかし今は三麻状態や。あの桃子ちゃんの捨牌で絹ちゃんは1回上がれとったし、役牌を鳴く機会も何回か見過ごしとる
せめて薄墨さんが北家にいれば、東と北を鳴かせて照と戦わせるということもできたかもしれんけど、南家にいては何もできない・・・凌ぐのが精一杯なんやろう

宮永照は3人協力して倒すものやと、思い込んどった・・・

「まさか宮永照を使って、他家をへこませようなんて考える人がいるとは思わんかったわ・・・。肝っ玉の座った1年やわ・・・」
「諦めるのはまだ早い」

力強い、衣ちゃんの声

「絹恵も、愛宕の血を引く者。必ず衣に繋げてくれる」

その瞳は絹ちゃんを遠くからでも支えてあげようと、必死に画面を見つめていた

「せやな。うちらは精一杯応援したらんとな!」

絹ちゃん、頼んだで



【得点経過】
1半荘目 南1局5本場終了時点

宮永照(3-1)  169300(+83700)
薄墨初美(3-13) 84700(-13400)
愛宕絹恵(2-10) 76200(-61000)
東横桃子(1-11) 69800(- 9300)

432: tell you that I love ...(7-5) 2012/09/20(木) 22:42:56.70 ID:HZBD5G460
-side 絹恵-

牌をツモる腕が重い

なんやのこれ・・・
なんやのこれ・・・・・

怖い・・・
もう牌を切りたくない・・・

今の倍満放銃で3位に転落した
次は三倍満。36000に6本場で37800・・・
そんなの振ったら最下位になってまうし、次に役満を振ったらトんでしまう

対面に並ぶ牌を見る

東白四⑨

もう、安牌はない・・・
なんでこんな時に限って字牌がほとんどないねん

三倍満やから清一は絡んどるやろ。だったら初めに切った萬子は無いはずや
ドラは竹やし、萬子は赤ドラも1つしかない

薄い理にしがみついて、二萬を切る

「ロン、37800」
「え・・・」
「タンピン清一二盃口」

照手牌:二三三四四五五六六七七八八

こんなん、どないしろっていうの・・・

点棒を出す
どんどん減っていく数字

207100 宮永照
84700 薄墨初美
38400 愛宕絹恵

これで4位転落やな
役満振って終わってまうのかな

って、あれ、3位誰や?
でも宮永と薄墨しかおらん・・・
いやいやいや、三麻しとるんやないんやで。最下位って4位やよな? 宮永が約21万点、薄墨が約8万点、私が約4万点・・・・7万点足りんやん

どないなっとるんや・・・
何かが起きとる、でもそれが分からん

サイは振られ、配牌・・・・
やっぱり普通の麻雀や、三麻やない。でも牌はちゃんと減っとる

4巡後、役もドラも無いし待ちもカンチャンやけど、とりあえずテンパイする
おもろいやん、覚悟決めたろか

「審判さん、ちょっとええ?」

忘れてしまった者は、何を忘れたのかを覚えてはいない
だが思い出せば、そこに何があるのか見えなくても、在ることは、分かる

433: tell you that I love ...(7-5) 2012/09/20(木) 22:45:40.12 ID:HZBD5G460
-side 桃子-

まずいっすね
このままこのメガネさんが振り込んだりしたら、3着で負けてしまうっす

でも降りに徹してばかりの私に事態を打開するような手なんか入ってこない
ただ見てるしかないんすか・・・・

「審判さん、ちょっとええ?」

メガネさんが牌をツモってきたところで手を止める
・・・何をするつもりっすか?

「オープンリーチって、ありやったっけ?」

オープンリーチ?
何を言ってるっすか、この人は・・・・あんまり振込みすぎて気でも狂ったんすか!

「オープンリーチという役はありません。ただ、普通にリーチをかけて、手を開くことを禁止する規約もありません」
「なるほど、手は開けてええんやな」
「無意味に手を開くのはすばらではありませんが」
「意味ならあるで」

そう言って、リーチ棒を取り出すメガネさん
まさかほんとにオープンする気っすか!!

「よくわからへんけど、聞いとけよ。消える1年」

リーチ棒を小指と薬指で抱え、手牌を横にした

「通らへんかったら話にならんからな。まずは通らばリーチ」

切ったのは六萬
チャンプも鬼門さんも反応はしない

「差込みせんと、私はトぶで。消える1年、あんた3着やろ、私と心中するか?」

待ちはカン三萬
役もない、ただのリーチ
あー、もう、最悪っすよ
ここで差込みしないと、ほんとに終わってしまう

「チー」

せめて一発は消す
これでステルスは一時解除、でも念は押しておく

「ご希望の三萬っすよ!」
「ロンや。悪いな、裏が3つ乗って満貫や、8000の7本場は10100」

あー、マジ最悪っす!!!
もう、これしばらくステルス完成は諦めて上がりに行くしかないっすね・・・
チャンプにどれくらいで消えられるか試したかったっすけど、それどころじゃなくなったっす

2位の鬼門さん狙いで、上がりにいくっすよ


1半荘目終了

宮永照(3-1)  208100
薄墨初美(3-13) 75700
愛宕絹恵(2-10) 42100
東横桃子(1-11) 74100

440: tell you that I love ...(7-6) 2012/09/22(土) 09:40:16.52 ID:jkTB8KBn0
-side 由子-

念のための付き添いで、私は保健室に来ていた

「戒能先生、常連さんを連れてきたのよー」
「保健室で常連とか、あまり歓迎しないですけどね」
「大げさやてー、教室戻るー。照の応援するー、怜ちゃんすこぶる元気ー」

駄々をこねる怜の手を無理やり引っ張る

「ダメなのよー。怜、昼休み中、竜華の膝枕から一歩も動かなかったのよー。体力がない証拠なのよー」
「それは由子が竜華の膝枕の恐ろしさを知らんからや。由子も一度体験してみたら分かるで。でも竜華の膝枕は私のもんや、使わせへんで」
「思いっきり矛盾してるのよー」

膝枕をさせてくれるのかダメなのかよく分からないのよー
まあ、確かに元気そうに見えるけど、でも対局中に少し気を失っていたのは事実なのよー

「明日の方がもっと大変なのよー。だから今日はしっかり休むのよー」
「まあ、そう言われるとそうかもしれんけどー。やったらここのベッドを教室に持っていけばええんや」
「ノーウェイノーウェイ。黙って聞いていれば・・・・」

戒能先生が呆れ顔でつぶやくと、小さいテレビを運んできた

「ここにも頼んでモニターは持ってきてもらっているから、ここで観戦しなさい」
「おー、センキューセンキューやで」
「真似とかしなくていいから」

肩をすくめて、先生は書類の整理を始めた

「お、照の連荘が始まっとるなー」

当然に3-1がいるA卓を流す
画面隅には点棒状況も表示されている。まあ照の心配とか、釈迦に説法とかそういうレベルだけれど

「ところで竜華のクラスはどないやの?」
「3-2の安定っぷりは異常なのよー」

昼休み前、中堅戦を終えたところでの成績をメモした紙を怜に見せる

3-2  160500
3-9   44300
3-18  84600
1-5  110600

「9組のメガネーズは厳しそうやな」
「先鋒がほとんど平らだったから、後が続かない感じなのよー」

辻垣内智葉で稼げなかったのが痛い。福路が他の二人をうまくコントロールしてた
その段階で9組はジ・エンド

「中堅でいつもどおり洋榎無双で、ほぼ3-2は勝ち抜けなのよー」
「次の相手は洋榎か・・・」

B卓では、中堅の怜の相手はほぼ洋榎が確定
18組が上がってこれば、中堅は生徒会長の竹井久
1年5組が上がってこれば、全中チャンプの原村和
どっちになっても厳しいのよー

そしてA卓からは、セーラか神代か滝見。滝見なら協力体制が取れるかもしれないけど、他は無理だろう

「洋榎とセーラと会長とかやったら、私は死ねるな。ベッドから出たくなくなるわ。生きるんて、辛いな」

というか、滝見って1年以外はほぼ死ねると思うのよー
視線をモニターに移す

我がサッカー部の正キーパーと言えど、照の連荘は止められそうにないのよー

「あー、これが消えるっていうことなんかな?」
「うーん、絹ちゃん、あの1年の7ピンで上がれたのよー」

高目安目の無い手だし、そもそも照の連荘中に見逃しとか普通にありえないのよー
でもそれがありえるとしたら、噂通り、あの1年は「消えて」いるのだろう

「ああ、今度は特急券の白を鳴かなかったのよー」
「後で絹ちゃんにどんな感じやったか聞いといてや。興味あるわ」
「照に聞いたらいいのよー?」
「いや、照にはまだ消えてないんちゃう? ちゃんと鳴けとるし」

相手によって消えやすさというのがあるのかもしれない
絹ちゃんには完璧に消えているのだろう

441: tell you that I love ...(7-6) 2012/09/22(土) 09:42:56.00 ID:jkTB8KBn0
「とうとう照が役満まで来たのよー」
「これ振ったら、絹ちゃん飛ぶな・・・・」

4巡目にしてもう国士を⑨待ちで張った
ほんと、味方で良かったのよー・・・・

「絹ちゃんも張ったのよー」
「役ないけど、どないするんやろ?」

そしてまさかのオープンリーチ

「ちょ、絹ちゃんどういうことなのよー」
「あ、でもあの1年差込みにきたで」
「差し込ませて裏3とか、絹ちゃんすごいのよー」
「人間、捨て身になると違うな・・・」

しみじみとつぶやく怜

「怜は捨て身になっちゃダメなのよー」

一応釘を刺しておく
明日の中堅戦が今日以上に厳しくなるのはわかっているけれど

「分かっとるよ・・・自分が一番な・・・・」

前半戦が終わり、照は一人で20万点以上
これで勝ち抜けは決まりだろう

「相手が神代やったら、そもそも無茶もさせてもらえんかもしれんしな・・・」
「どういうこと?」
「独り言や、気にせんといて」

神代の名前が聞こえたけれど、何かあったのだろうか・・・

明日、何もなければいいけど・・・・
悪い予感がする・・・





-side 桃子-

そして再び始まる、宮永照による蹂躙
それでも、2位を確保した私は、ただそれを安全圏から見守るだけ

もう私は、宮永照からも、見えない――

442: tell you that I love ...(7-6) 2012/09/22(土) 09:45:54.52 ID:jkTB8KBn0
-準決勝副将戦、後半戦開局

東 東横桃子
南 宮永照
西 愛宕絹恵
北 薄墨初美


立ち親で、鬼門さんに北家に座られるのはちょっと気味が悪いっすね・・・
まあでも関係ないっす
もう鬼門さんには私は見えないっすから

何の気もなしに北を切る

「ポンですよー」
「なっ・・・」

鬼門さんと、私の間に横たわる3枚の北
な、なんで見えるっすか・・・

その2巡後、鬼門さんが東を暗槓
上がられたら2着が遠のくっすよ・・・・

5巡後

「ツモですよー」

開かれた手は、小四喜
待ちは⑤⑧の両面・・・

って、⑧ピンは私が捨ててるんすけど
3着の私から上がれば、ほぼ2着を確定できるのに見逃す理由はないっす

・・・・あー、あれっすか、自分の能力に関係ある牌だけは見えるっていうやつっすか
まだまだ自分のステルスも甘いってことっすかね

でもそうと分かれば、次の親の時には切らなければいいだけっす
まだまだ上がりにいくっすよ

443: tell you that I love ...(7-6) 2012/09/22(土) 09:48:29.16 ID:jkTB8KBn0
-南2局7本場

宮永照  311400
愛宕絹恵  22400
薄墨初美  16200
東横桃子  50000


違和感は、もう確信に変わっていた
私はもう、チャンプからも見えていない

始めに感じた違和感は、東場のチャンプの連荘中

私が切った6萬に一瞬手が止まった
その直後9萬でツモ上がり
安目見逃しはよくある
けれど6萬はタンヤオが付く高目。それを見逃す理由なんてない

東場のチャンプの親番が流れ、再び南場のチャンプの親
その最中でも、私の捨て牌を見逃す

1本場の時には、7ソウで手が一瞬止まり、その後9ソウツモ
3本場の時には、4ソウを切ったのにもう手は止まらず、その後同じ4ソウツモ
5本場の時には、②⑤⑧の3面待ちに対して、②⑧と2度も当たり牌を切って反応なし


私は、もうこの卓に存在しない――


そしてもう7本場
他の二人はなす術なく、どんどん振り込んでいく
私もツモで削られていくけど、振り込まない私は点数を減らさない

次のチャンプの手は役満っす・・・・
ツモなら16700オール。鬼門さんがトんで終了っす

チャンプ相手に、時間はかかるけど消えられることは証明できたっす
決勝戦では消えた段階で攻めに入ってチャンプに勝ってやるっす

でも今は、ただ静かに、鉄槌が落とされるのを見守るだけ

他の二人を見る
振れば終わり、かと言ってツモ上がりされても終わり
メガネさんと鬼門さんがお互いを見て、そして小さく首を振る

さっきはオープンリーチなんて奇襲をされたっすけど、そもそも手が入らなければそんな真似はできない
これで終戦っす・・・

一応チャンプの捨て牌を見る

東北⑧4二

うーん、とりあえず国士とかではなさそうっすけど、四暗刻単騎とかだったら読みようがないっすしね・・・
まあ、もう消えているから関係ないっすけど

何気なく、中を切る




「ロン」




「大三元」





目の前が、白く染まる

今、なんて言った?

444: tell you that I love ...(7-6) 2012/09/22(土) 09:51:55.35 ID:jkTB8KBn0
世界が色彩を取り戻す


照手牌:白白白発発発中中①①六七八


絶望で、今度は真っ暗になる

「なんで、消えているはずじゃ・・・・」

「48000の7本場、50100」

「あっ・・・・」

私の持ち点は、50000点ちょうど


トんだ??


「なんでっすか。消えてるはずだったのに。全部演技だったんすか、私をだますためにっ」

何度も、見逃す必要の無い当たり牌を見逃していた。これは事実
それでもロンできたっていうなら、わざと見逃していたとしか考えられない

薄墨初美のように東や北がキー牌になる人ならともかく、宮永照と中には何の関係も無い
打点が上がって役満に到達しただけで、宮永照は役満を能力であがるわけではないのだから


対局が終わったからか、チャンプから張り詰めていたものが消えさる

「いや、消えていたよ。特に南場に入ってからはほとんど見えなかった」
「じゃあなんで!」

消えていた?
そう、消えていたはずだった

チャンプはほほを掻きながら、少し恥ずかしそうに答えた

「なぜか、牌の赤い部分だけは見えたんだ」

・・・赤い部分?

「なんすか、それ・・・」

意味が分からない
牌の赤い部分って、萬って字は赤いし、7ソウにも赤い部分はあるけど・・・・

じゃあ、途中で手が止まったのは、赤い部分が見えたから?

「萬という字だけは見えたけど、数字が分からないから特定できないし、ピンズもソウズも赤い部分がぼんやり見えるけどこれも特定できなかった。切った瞬間は見えるけど、すぐに分からなくなってしまうから。だから、はっきり分かったのは、赤ドラと中だけだった」

赤ドラはもちろん赤い
そして中も、赤い
だからっすか・・・・でもなんで赤い牌?

445: tell you that I love ...(7-6) 2012/09/22(土) 09:53:33.53 ID:jkTB8KBn0
「松実宥か・・・」

メガネさんが呟く

3-1の先鋒。やたら寒がりで夏でもマフラーをしているらしいと話題になった3年生
その人は赤い牌が集まりやすいらしい

でも今、目の前に立っているのは宮永照であって松実宥ではない
もしそれでも、今ここにいない松実宥が、宮永照のそばにいるのなら・・・

「完敗っすね」

それほどの絆が二人にあるのなら・・・

私には、まだそれほどの深い絆はないから・・・

「完敗っす・・・・」

わずか100点でも足りなければそれで終わり
私は残りの点棒全部を差し出した

「でもいつか、この点棒は取り返すっすよ!」
「ああ、待っているよ」

加治木先輩みたいに、どんな些細なことにも注意を払って考えていれば、こんな不用意な振込みは防げたはずっす

こんなんじゃ、とても先輩の隣には、並べない

「待ってるっすよ、絶対に追いついてみせるっすから」

打ちひしがれている暇なんてない
先輩も、宮永照も、この学校にはあと1年しかいないのだから

450: tell you that I love ...(7-7) 2012/09/23(日) 09:52:19.82 ID:p80yp9Cn0
-side 恭子-

モニターをぼんやりと眺める

「負けてもうたか・・・」

ため息をつく
天江と戦ってみたかったけど、まだお前には早いということなんやろうか
柄でもないな、そんなこと考えるなんて・・・

「運に見放されたな。確率4/9の方やったな」
「まあ、1回は役満あがっとるし、あれ以上どうしようもできんやろうな・・・」

セーラが力なく笑う

「長かったね・・・みんなおつかれ」

いつものダルイは流石に言わない
でも白望の表情が変わらないので、相変わらず何を考えているのかはよく分からなかった

「マケチャッタネ」

エイちゃんの声は震えていて聞き取りづらかった
まあ、フォローは白望に任せる・・・

「ただいまですよー」

そこに、うつむきながら初美が戻ってきた

「お帰り初美。気持ちえーくらいボロ負けやったな」
「うう、ごめんなさいっ」
「ジョークやん、ジョーク。そんなに落ち込まんでや」

セーラが慌ててフォローする
流石に今の初美にそれは通じんで・・・

「あの消える1年に完全にやられたな。1人が傍観決め込んだら宮永照を止めるのは困難や」
「完全に存在を忘れてしまうほどだったのですよー。あんなのオカルトですよー」
「お前がオカルト言うなや」

今でも引き合いに出される冬の個人戦。園城寺怜、花田煌、そして松実玄・・・
3人で成し遂げた、宮永照の振り込み
さすがにあそこまではしなくても、3人が宮永照を止めるという意思の下に行動すれば、役満までの連荘はなかなかいかない

だがあの1年が完全に傍観を決め込み、さらにその捨て牌まで見えないとなると、絹ちゃんと初美が必死になっても止めるのは難しい

勝負を決めたのは結局、絹ちゃんの決死のオープンリーチ
あれがなければ絹ちゃんがトんで、そのとき2位だったうちのクラスが決勝へ駒を進めていただろう
それで勝ち進んだところで、決勝でまともな戦いができるとは思えへんけどな・・・・

なんにせよ、あの1年が2着狙いの殲滅作戦に出た段階で、大将戦に回ってくる見込みは薄かった

「まあ、副将宮永照の段階で、あいつらの作戦勝ちやったのかもしれんけどな・・・」
「それはそれで悔しいのですよ」

3年1組が、正確には宮永照が誰かに狙われているのは知っている
かえって変なことに巻き込まれるくらいなら、決勝に進まない方がよかったのかもしれん・・・

でも、それでええんか・・・

「恭子まで回せなくて申し訳ないのですよ」
「凡人の私に回したって、結果は見えとるよ」
「恭子、そうやって自分をすぐ卑下するもんやないで。1000点でも残っとったら逆転したったのにくらい言いや」
「1000点スタートでいきなり満貫でもツモられたらそれで終わり、そんな大言はけん」
「じゃあ、1000点スタートやったら始っから諦めるんか?」
「そんなわけあらへんやろ。上がりに向かうに決まっとる」
「だったらそれでええやろ」

セーラが笑う
ほんま、女にしとくのがもったいないくらい頼もしいやつや

451: tell you that I love ...(7-7) 2012/09/23(日) 09:53:59.40 ID:p80yp9Cn0
せやな。何ができるか分からんにしても、何もしないのは間違っとる

「負けたもんやしゃーない。でも、まだうちらにはできることがある」
「ん、なんや、応援か?」
「まあ、応援っちゃ応援やけどな・・・」

うつむいているエイちゃんと、ダルそうに慰める白望を見る
あの2人には、あとで説明すればええか・・・

「ちょっと聞いて欲しい、協力しろとは言わんけど、結構ヘビーな応援やで」

私は知っていることを話した
由子がクラス対抗戦に出ていない理由、そしてその原因・・・

「赤阪先生に止められた?」
「そう、まあ先生も本意やないとは思うけど、由子に出るなって言ったのは事実や。宮永照のクラスを、負けさせるために」
「クラス対抗戦でなんでそんなことするのですかー。理解できないのですよ」
「その辺は分からん・・・」

分からないけど、動きがあるのは事実

「じゃああれか、竜華のクラスが宮永照を倒すために部長連合組まされたって噂もマジモンなんか?」
「おそらくな・・・」
「クラス編成にまで口出せるとか、ちょっとやそっとの話じゃないのですよー」

初美の声が震える
ただの一介の生徒が、どうこう出来る話じゃないかもしれんのは分かっとる

でも、現に由子が巻き込まれ、そして決勝には洋榎が出るのは確実、絹ちゃんも決勝に出る
それに、初美も、神代と石戸が決勝に出る
セーラは怜と竜華
白望とエイスリンは、臼沢と姉帯

これだけ決勝に出るメンバーに関わりがあるんや、何かできるはず

「考えすぎならええ。でも、本気で宮永照を外から負けさせようとするなら、いろいろ考えられるんや・・・」
「・・・ダルそうな話してるね」

いつの間にか、白望とエイスリンがこちらに来ていた

「ああ、もうエイちゃんは大丈夫か」

コクリと小さく頷くエイちゃん

「なら話すで。考えられる可能性。杞憂ならええけど・・・」

452: tell you that I love ...(7-7) 2012/09/23(日) 09:55:51.79 ID:p80yp9Cn0
「そこまで、してくるのですか・・・」

初美の声は暗い

「分からん。仮に私が誰かに『宮永照を負けさせろ』と言われた時に、考える手や」
「分かった、なんならソフト部動員してもええ。何があってもええように備えとこか」

今にも飛び出しそうなセーラを止める

「いや、あまり事を大きくするんも、まずい」
「じゃあ、船Qを恭子の参謀に付ける。あいつもこういうのは得意そうや、荒事は俺に任せろ」

船久保か。確か洋榎のいとこ。愛宕先生ともコネが取れる、か。

「分かった。じゃあ呼んできて」
「おう、任せとけ。しっかり頼むで、総大将」

セーラが教室をあっという間に飛び出していく

「ダルイけど・・・私たちはどうするの?」
「臼沢を見といたって。多分姉帯は狙われん」
「ドウシテ?」
「姉帯が転校してきたのは校長の手配って話や。首謀者があのトシさんとは考えにくい。姉帯はそれなりに打てるんやろ、負けさせたい宮永のクラスにそんなやつ入れるわけあらへん。さらに言えば、姉帯に手を出せば校長の顔に泥を塗ることになる。美術部で何かしてくるなら、臼沢の方や」
「分かった・・・ダルくなければいいけど・・・」
「そう願う」

まあ、臼沢はまだ安全やろうとは思うけども・・・

「連れてきたで!」
「な、なんです、の・・・はぁはぁ、江口、先輩足早すぎですわ、はぁはぁ」
「早すぎやろ!」

勢いよく教室の扉が開き、汗一つかいていないセーラと、汗だくの船久保が入ってきた
まだ白望と少し話ししただけやで・・・

「時は金なりやで」
「で、なんですの・・・。いきなり、参謀の出番やって・・・はぁはぁ」
「まあ、ちょっと休んどき」
「そうさせてもらいます」

船久保が適当な席についてつっぷす
その間に初美と話をする、まあそんなにしてもらうことはないけども

「で、私はどうするのですか?」
「とりあえず石戸と神代に、変わったことがないか聞いといて。他のクラスには危害は及ばんと思うけども、逆に勝ったら何かもらえるとかそういう取引みたいなんはあるかも分からん」
「分かったのですよー」

これで一通り、現状で打てる手は打った
あとはもう少し手配が必要

「で、危害とか不穏な言葉出てましたけど、なんですの?」

息を整えた船久保が立ち上がる

「私に知恵貸したって。クラス対抗戦の決勝、誰にも汚させへんためにな」
「とりあえず事情をうかがいましょ、話はそれからですわ」

メガネの端を持ち上げ、少しだけ笑う船久保
頼りにさせてもらうで

首謀者が誰かなんて知らんけど・・・
見とれよ、由子を巻き込んだこと、後悔させたるからな

462: tell you that I love ...(7-7) 2012/09/26(水) 23:26:21.07 ID:UgNQJfeS0
-side 浩子-

末原先輩から聞かされた話は、正直言って一介の生徒が関わってどうこうなる話とは思えなかった

「推察するに首謀者は、理事長ないし理事長の関係者、あるいは理事長を脅迫などした部外者、というところでしょう。理事長が何らかの形で関わっていると考えるのが自然でしょうな」
「ふむ、流石にソフトボール部の名参謀と呼ばれるだけはあるな」
「その上で、末原先輩はどうされたいのですか? 首謀者の特定なんてのは一介の学生の分を超えます」
「私もそこまでは思っとらん」

ゆっくりと首を振る末原先輩

「ただ私が許せんのは、宮永照を負けさせたいとかいう訳のわからん理由で大の大人が首突っ込んできとることや。明日の決勝だって、負けさせようとなりふり構わず何かしてくるかもしれん」

怒りに拳が震えている

「由子かて代表選に出たかったって言っとったのに出れんかった。それに他のクラスかて真剣に戦ってきた、それをぶち壊されるのだけは勘弁ならん」
「なるほど、目標としては試合妨害の阻止というところですね」
「せや。みんなが真剣にやった結果宮永照が勝とうが負けようが、それはどうでもええんや。やけど、ちょっかい入れて勝敗歪ませようだなんて、そんなのは許せん」
「まあ、それが落としどころでしょうな」

私が冷静にならんとあかんな、これは

末原先輩の怒りは、友人である真瀬由子が試合に出れなかったところから始まっている
私情を挟めば、それだけ視野は狭くなる。首謀者特定して警察につき出すとか言いだしたら止めようかと思っていたが、とりあえずそこまでは考えてはいないようだ。それでも私は、必要であればブレーキ役にならんとあかんな

今、モニターはB卓の大将戦を写している
もうオーラス、何も起こらなければ3年2組と1年5組の決勝進出だろう

「さしあたり、直接的な妨害が考えられる3年1組の護衛から考えましょか」
「とりあえず次鋒の臼沢は、同じ美術部の小瀬川白望に任せてある。美術部は校長のトシさんが直接顧問しとるし、狙われる可能性は低いと思っとるけどな。ついでに大将の姉帯も狙われにくいと思っとる」
「首謀者は、何を狙ってくると考えてますか?」
「今日の副将戦を見て、首謀者はこう思うやろ。『宮永照に回す前に、どこかをトバしてしまえばいい』」
「まさに、私もそう思います」

副将戦開始時には85600点だったものが、終わってみれば36万点
それこそ100点で回ってきても、逆転してどこかを飛ばして優勝しかねない
なら大将をどうこうしても仕方がない

「じゃあどこをトばすか。理想はもちろん、3年1組やろうな」
「まあ、中堅までで2年10組がトぶとか不自然すぎますし」

モニターを見る
残りの組がどこになるかで、対応が変わってくる

「決まったな。決勝は3年2組と1年5組やな」

463: tell you that I love ...(7-7) 2012/09/26(水) 23:28:23.34 ID:UgNQJfeS0
「あー、ならなおさら、中堅で3年1組がトぶのが理想ですわ・・・」

3-2は学年ランク2位の愛宕洋榎
2-10は学年ランク3位の神代小蒔
1-5は学年暫定ランク1位の原村和
そんな中、園城寺先輩だけは、学年ランク103位

客観的に、ここで園城寺先輩がトんでもなんら違和感はない

もともと3年2組と2年10組は、3年1組を倒すために組まれた刺客
そこに勝ってもらわな困るわけで、そもそもトばす候補に入るはずもない

「とりあえず、一番の護衛対象は怜や」
「ありうるとしたら、真瀬先輩のように部活絡みの脅しでしょうか?」
「でも怜はマネージャーやろ。あるなら、竜華のレギュラー剥奪みたいな脅しになるかもしれんな」
「おばちゃん、いや、愛宕先生がそんな脅し使うやろか・・・」

曲がったことは嫌う人やし、いくら理事長絡みでもそこは断ってくれると思いたい
あー、でもおばちゃん確か派閥が理事長派やん、あんまり期待は出来んかも

「そうは言っても、同じ脅しは使えんとは思う。由子はレギュラー当落線上くらいやから外されても不自然やないけど、竜華とセーラはエースと4番やからな。そうそうレギュラーから外すのは難しいやろ」
「となると、怪我させるとかそんなことしてくるんでしょうか?」
「そこまで強攻に出てくるとは思わへんが・・・。とりあえずセーラと新免、体育会系のノリでよく話すらしいから、セーラには寮に向かってもらってる」
「寮?」

試合が終わってまだそんなに経っていない
園城寺先輩はまだ寮には戻っていないのではないだろうか

「怪我させたら、見た目でわかるやろ。だから分からん方法を取ってくる・・・・杞憂で済めばええけどな」

大きくため息をつき、末原先輩は窓の外を眺めた
その時、校内放送が鳴り響く

『2年10組愛宕絹恵さん、至急職員室まで来てください』

声こそ事務員さんの声やが、これは・・・

「ん、絹ちゃん使って何する気や?」

なんとかするなら中堅まで、その前提が崩れかねない動き

「どないします、様子探りに行きます?」
「いや、私たちが動いていることは極力悟られたくないし、別に何でもない用事なのかもしれへん。3年1組でないなら、下手に動かん方がええやろ」
「そうですな・・・」

他のクラスへの働きかけならば、危害ということはないだろう・・・

「あと、別件で調べてほしいことがあるんやけど」
「なんでしょ?」
「過去のクラス対抗戦、部活対抗戦、冬の個人戦。それぞれの優勝者調べてくれんか、ここ10年くらい」
「まあ、よろしいですけど・・・・何の関係がありますの?」
「いや、杞憂ならええんやけどな・・・」

返答になっていない返事が返ってくる
表情からするに、これ以上は望めそうもなかった

464: tell you that I love ...(7-7) 2012/09/26(水) 23:32:22.97 ID:UgNQJfeS0
-side セーラ-

新免那岐と連絡を取り、怜の部屋の鍵を受け取る
杞憂ならいいと何度も恭子は繰り返した
たかが学校の1イベントで、そこまでしてくるとは思いたくない
急いで怜の部屋へ向かう

何もなければええ
でも、もし何か起こるのなら、間に合ってくれ・・・


「考えられる中で一番姑息なんが、怜の薬の入れ替えや」
「は、なんやそれ」
「ちいとばかし、いつもより効き目の弱い薬と入れ替える。対局中、怜が不調を訴えても3年1組にまともな代走はおらん。由子は出れんしな。急遽誰かに出てもらっても、まあトぶやろ。洋榎に神代に原村が相手じゃ、由子が出てもギリギリやろ・・・」
「そこまでしてくるんかっ。ふざけるな!」
「あくまで想像や・・・。そこまでしてこないと信じたい」


そんな会話があって
もういてもたってもいられなかった

クラス編成まで弄ってくる相手が本気になれば、そのくらいしてきても不思議ではない

園城寺怜と書かれた部屋の前につく
とりあえずノック。反応はない
借りた鍵を取り出し、ゆっくりと回す。カチャっと音がした。鍵はかかっていたようだ

周囲を一度見回り、ゆっくりと扉を開けた

「おんやー、本日2人目のお客様かい」
「誰や!」

不意に声がして、思いっきり扉を開けた
中にいたのは

「三尋木先生っ」
「おう、まさかセーラちゃんが来るとは予想外。どういった風の吹き回しかなー」

のんきに袖を振り回し、三尋木先生が笑う

「鍵かかっとったやん、なんでこんなところにおるんや?」

まさか先生が薬の入れ替えを?

「そりゃ担任だし、怜ちゃん病弱だから合鍵をもらってるのさー。いい加減退屈でしょうがないし、話し相手になってくんねーかな? えりちゃん試合の経過、メールでしか送ってくんねーからさー、ひどくね。もっと会話しようよって言っても、仕事中ですの一点張りだぜ?」
「鍵はええとして、ここにおった理由を聞こうか?」
「ん、ただの店番だけどもー。知らんけど」
「店番?」
「そそ、薬局のねー」

薬局・・・
やっぱり薬なんか

「怜の薬、返してもらうで」
「いやいやいや、それは誤解誤解。誰か薬を入れ替えにくるかもしんねーと思って、今日一日この部屋で待ってたんだからさー」

力ではかなわないと思ったのかどうか分からないが、先生が慌てて両手をぶんぶんと振る

「今朝の段階から、この部屋でずっと待っとったっていうのか?」
「そそ、もうまじ教師の鑑だよねー。っていうか職員室にいると動向をマークされそうだからとっとと避難してきたんだけどさー、知らんけどー」

ふとゴミ箱を見る
コンビニ弁当とペットボトルが捨てられていた

怜はコンビニ弁当なんてまず食べない。少なくとも、ここで先生が食事をしたのは間違いないだろう。そして食事をしたということは、薬を入れ替えに来た訳はないのだろう

犯行現場でご飯を食べるなんて意味が分からへん

「2人目って言っとったな、俺の前に誰か来たんか?」
「藤田ちゃん。あの人寮管担当だからねー、合鍵なんて好きに使えるから要注意と思ってたら案の定さー」
「藤田先生のことか?」
「そだよ。あの人も理事長派だかんねー。校長派の私は肩身狭いのよー」

なんか派閥があるんやろうか
そんなのには興味はない

「まあとりあえず警戒といてくんねー。流石にセーラちゃんに睨まれるとビビるわ」

流石に敵ではないだろう
警戒を解いて、部屋に入ると開けっ放しだった扉を閉めた

465: tell you that I love ...(7-7) 2012/09/26(水) 23:35:14.29 ID:UgNQJfeS0
流石に敵ではないだろう
警戒を解いて、部屋に入ると開けっ放しだった扉を閉めた

「んで、セーラちゃんは自主的にここにきたわけ? わっかんねー、うちのクラスに怜ちゃんの薬にまで気が回る人なんていたかな?」

面白そうに笑う先生

「末原恭子や、知っとるか?」
「おおう、あのサッカー部の司令塔かー。面白いねぇ、まさかいくのんも恭子ちゃんに見破られるとは思わないだろ」
「いくのん? 赤阪先生か?」
「まあ理事長のわがままに付き合わされていくのんも大変なんだろうけどねー、知らんけど。いろいろ画策してんのはいくのんだよ。まあ今のところ私も潰せることは潰してるけど、流石にいくのんが顧問してる由子ちゃんまでは守れなかった」

一瞬顔を伏せる先生
だがすぐに顔を上げ、能天気なまでの笑みを浮かべる

「いやー、それにしても副将宮永照と知った時のいくのんの顔はウケたわー。偽オーダー組んでわざと見せたってのにねー、まんまとはまってくれた」
「偽オーダー?」
「そそ、先鋒宮永照って書いた偽オーダー。加治木ちゃんに頼んで、ギリギリで差し替えたんだ。普通にオーダー出したら、理事長派はオーダー差し替えてきそうだったからねぇ」

昼行灯にみせかけて、裏ではずいぶん動き回ってくれてるんやな・・・

「先生、このあと俺らはどうすればええ?」
「逆に恭子ちゃんはどう動くつもり?」

臼沢は小瀬川に任せてある、姉帯は襲われないだろう
怜は最悪寝ずの番をしてでも俺が守ってやれたとして・・・

あれ、松実と宮永はどないするんやったっけ?
やばい、聞いてへんかったわ!

「あらら、まあセーラちゃんらしいっちゃらしいけどねぇ」

うんうんと頷き、扇子をパタパタと仰ぐ

「じゃあこれは伝えといて。宮永照には何の危害も加えられない、そういう理事長通達だからね」
「なんや、理事長が犯人なんか?」

またパタパタと扇子を仰ぐ

「大人もめんどくさいんだ、その辺は深く考えなくていいよ」
「じゃあ残りの松実はどないや?」
「宥ちゃんも大丈夫。ボウリング部の顧問、晴絵ちゃんだからね」
「赤土先生は校長派ってやつなんか?」
「そういうこと。まあそれだけじゃないけど、そこも深く考えなくていいよ」

そしてパタパタしていた扇子を、パンと景気よく音を立てて閉じた

「まあ、大人のごたごたは、大人に任せておきなって。それに薬の交換を潰しておけば、それほどできることはないよ。せいぜい、久保ちゃんの3年2組といくのんの2年10組が、3年1組狙い撃ちを指示されるくらいさね。いくのんだって、別に警察沙汰にまでするつもりはないさ」

3年1組狙い撃ち、か
特に2組の先鋒福路と次鋒弘世なら、うってつけやな・・・それで中堅の洋榎でトドメ
十分ありうる作戦やし、普通に打ってそれで怜が負けるようなら、それはそれで仕方ない

「差し当たりの問題はクリアってことでええんか?」
「わっかんねー、この先どんな妨害が来るのかわっかんねー。やばくね、やばくねー」
「素直にクリアしたってことにしとけや、切りがあらへんで」
「ま、でも私一人じゃ全部はカバーしきれないし、恭子ちゃんが動いてくれるなら助かるわ」

ほんま、真面目なんだか不真面目なんだか、よくわからん先生やな・・・

469: tell you that I love ...(7-7) 2012/09/27(木) 00:47:12.89 ID:BJEROJJz0
-side 良子-

園城寺怜の通う病院を教えろ

赤阪先生から言われた時に、気づくべきだった
さらに薬を飲む時間や、保健室に薬の備えはあるかと詳しく聞かれ、後悔した

自分が理事長派とやらにいつのまにか組み込まれてしまっているのは分かっていた
それでも、積極的に協力する気はなかった
だから園城寺さんの担任の三尋木先生に、薬の入れ替えが画策されていると伝えたのが昨日

『そこまで考えてなかったわ、助かる。でもあんまり無茶すんなよ、一応あんた理事長派なんだからさー』

結局誰かに無理をさせて自分自身はセイフティに逃げ込むだけ・・・
それでいいのだろうか・・・

「怜、迎えに来たよ」
「怜ちゃん、大丈夫?」
「おー。宥姉ちゃんに照、お疲れやー。すごかったなぁ」
「おつかれなのよー」

保健室の扉が開き、入ってきたのは宮永照と松実宥
少し前に見舞いに来た清水谷竜華がニヤリと笑う

「でも明日は私が勝つでー」
「どうぞ。でも最終的に勝つのは、私たちのクラス」
「軽くいなされたなぁ、竜華」
「くっ、これくらいでは泣かへんもん」

そこに、携帯電話が鳴る
携帯を取り出したのは清水谷さんだった

「なんやのこんな時に・・・って久保っちか。もうめんどくさそうやなぁ」

仕方なく電話に出る

「はい清水谷ですけど・・・・ミーティングですか、意味あるんですか?・・・・まあ行きますけど・・・・」

心底嫌そうに電話を切る

「今から明日に備えて3年2組でミーティングやと・・・・今更そんなのしたってしょうがないと思うんやけどなぁ・・・。それより怜といたいってのになぁ」
「ぶつくさ言わんと行ってき。久保ちゃん怒らせる方がめんどくさいで」
「それもそうやな・・・怜、ミーティング内容はあとで教えるからなー」
「え、いいのかなぁ・・・」
「竜華はああいうやつやで、宥姉ちゃん」

カバンを持ち、清水谷さんはさっと保健室を出て行った
これで少しは静かになる・・・

「で、怜。具合はいいの?」
「おー、大丈夫やで。薬も飲んだしな」
「でも明日は今日以上に厳しいから、ちゃんと休むのよー」
「由子そればっかりやなぁ。飽きるで」
「怜ちゃんが大丈夫なら、もう放課後だしそろそろ帰ろうか」

薬と聞いて、少しだけ体が震える・・・
ここにある薬は、園城寺さんがいつも飲んでいるものと同じものが予備で保管してある
変えろと言われて渡された薬は捨てた。少し弱めただけとは言っていたけれど、それで命の危険にさらされることだってある、さすがにイージーに考えすぎだ

あとで三尋木先生に連絡を取って、もし薬を取られたのならこの予備の薬を持っていこう
保健室に忘れ物があったので届けに行ったと言えば、言い訳としては十分だろう

4人を見送ると、私は自分の携帯電話を取り出した

メールが来ている
三尋木先生から。藤田先生が来て追い返した、薬は大丈夫

「よかった・・・」

たとえ反逆者の烙印を押されたとしても、私はそれを誇りに進んでいける
簡単に返信し、メールを履歴から消した

あとは、明日園城寺さんがここに担ぎ込まれてこないことを祈るだけ
彼女、なんだかんだで無理をしてしまうから・・・
475: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) 2012/09/27(木) 01:33:48.03 ID:BJEROJJz0
とりあえず、ここまでのまとめを上げておきます 
うーむ、ちょっと悪乗りだったかなぁ・・・先生の裏舞台書いたの 


【先生リスト (これまで名前が上がっている人のみ)】 
3年1組  三尋木咏(校長) 
3年2組  久保貴子(理事長) 
2年10組 赤阪郁乃(理事長) 
1年5組  赤土晴絵(校長) 

担任クラス決めてない 
藤田靖子(理事長) 
針生えり(理事長) 

保険医 
戒能良子(理事長) 

校長 熊倉トシ 
理事長 ?? 

基本、理事長派閥が強いです 
4日目は生徒中心になるので、もうそんなに派閥云々は出てこないと思います 


【4日目・決勝進出メンバー】 
3年1組 
先鋒 松実宥 
次鋒 臼沢塞 
中堅 園城寺怜 
副将 宮永照 
大将 姉帯豊音 

3年2組 
先鋒 福路美穂子 
次鋒 弘世菫 
中堅 愛宕洋榎 
副将 清水谷竜華 
大将 石戸霞 

2年10組 
先鋒 荒川憩 
次鋒 松実玄 
中堅 神代小蒔 
副将 愛宕絹恵 
大将 天江衣 

1年5組 
先鋒 宮永咲 
次鋒 高鴨穏乃 
中堅 原村和 
副将 新子憧 
大将 大星淡

478: tell you that I love ...(7-8) 2012/09/28(金) 00:46:09.84 ID:MDliH0GT0
-side 照-

すぐに帰るのももったいない気がして、中庭のベンチに宥と2人で座った
微妙に距離を開けて座る。流石に人目もある中では、密着するのははばかられた

「赤い牌が見えたなんて、面白いね」
「ああ、自分でも正直何が起きているのか分からなかった」

ステルスすること自体は東1の段階で把握できても、実際に消えると存在していたことも忘れてしまう
でも時々赤い部分がちらつき、最後の「中」ははっきりと見えた

あの直撃がなければ、彼女が2位抜けしていただろう
そして決勝戦では見えない脅威にさらされていたに違いない・・・

「宥がそばにいてくれているみたいで、とても嬉しかったよ」
「そうだね。じゃあ、私が照ちゃんに膝枕してもらったら、連続和了とかできるかな?」
「いや、それは・・・」

無邪気に微笑む宥
でも、私は少しへこむ

「宥は宥のままの麻雀でいい。私みたいになっちゃダメ」

私の麻雀は、多くの人に恐怖を植え付けるらしい。そんなつもりはないのに
宥には、そんな風になってほしくない

「そうなの? 照ちゃん強いしかっこいいのに」
「だから、私は強くもかっこよくもないって言った」
「じゃあ、かっこいいし強い」
「逆にしただけ」
「うーん、じゃあどうしようかな」

なにやら考え込む宥
強く見えても、強いと言われるだけの成績を残していても、私は自分のことを強いと思えたことはない

「ねえ、照ちゃん」
「なに?」
「照ちゃんは自分自身のこと、嫌い?」

突然の質問にすぐに答えが出ない
宥は微笑みを浮かべていた。私の気持ちを和らげるかのように

私は小さく首を振った

「よく、分からない。少なくとも、現状が好ましいとは思ってない」
「なら大丈夫だよ、照ちゃんはもっと強くかっこよくなれるから」

何が言いたいのか、よく理解できなかった

無言のまま、宥が体を寄せてきた
肩と肩、腕と腕が重なり合う。それだけで心がほぐれていくのは、どうしてなんだろう・・・・

「現状に満足せず、さらに上を目指す照ちゃんかっこいい。っていうのじゃ、ダメ?」
「それは、かっこいいのかな・・・」
「うん、かっこいいよ」

今までだったら、そんなのはただの虚勢だと思っていただろう
上を目指しているかのように繕っても、自分を守る鎧をどんなに強固にしても、中身がそのままだったら意味がないから
でもその中身を、私自身を、宥なら解きほぐして、変えてくれる気がする・・・

「じゃあ、照ちゃんが私の好きなところを挙げてみて?」
「え?」

また突然の質問
改めて言われると、それを本人を目の前にして言えとなると、正直かなりはずかしい・・・

それでも心が言葉になって口をつく。感情が溢れ出てくる

「包み込んでくれるっていうのかな。一緒にいて安心できて。笑顔が可愛いし、それはもうとろけちゃうくらい可愛いし。宥の方が私より強いんだよ、私はボロボロで、宥は私を包んで癒してくれて」

嬉しそうに聞いてくれる宥
知りうる言葉をすべて使っても足りないくらいにしゃべる私

誰かの魅力についてこんなに喋ったことなんてあっただろうか・・・
うん、ない。宥が相手だから、できること

「ええっと、あと何を言ってなかったかな」
「たくさんたくさん言ってくれたよ。すごく嬉しい」

不意に宥は私の体を引き寄せ、抱きついてきた

479: tell you that I love ...(7-8) 2012/09/28(金) 00:49:20.28 ID:MDliH0GT0
不意に宥は私の体を引き寄せ、抱きついてきた

宥の髪の匂いで、宥の熱で、私はぽーっとする
宥と接している部分が自分のものでなくなって、宥の中に吸い込まれていく感覚
それがとても心地よくて、私も宥の背中に腕を回す

放したくない
ずっと抱きしめていられたら、どれほど幸せだろう

今、この幸せと共に在ることを素直に感じられれば、それでいい

・・・今は先のことなんて考える必要はない


『じゃあお姉ちゃんの名前はどういう意味なの?』
『照はね、日の光っていう意味』
『日の光、お陽さまのこと?』
『そう、みんなを照らす、太陽』
『だからお姉ちゃんは、麻雀をするときちょっとずつ点数が上がっていくんだね』
『ふふ、そうかもね。お陽さまは少しずつ昇っていく、それと同じだね』


・・・今は咲のことなんて


『私が咲をいっぱい照らしてあげる。だから咲は、いっぱいお花を咲かせるんだよ』
『うん!』


どうして、今このタイミングでこんなことを思い出すの・・・


「照ちゃん、泣いてるの?」

宥の声で現実に引き戻される
自分が嗚咽しているのを、ようやく自覚する


「私は、咲の太陽になれなかった」
「どうして?」
「咲の麻雀が造花になっていくのを、私は止められなかった」

±0に調整することを悪いこととは思わない。調整が必要な場面もあるだろう
でも、麻雀に限らず勝負事は、勝ちを目指すもの

±0のために咲き誇る嶺上開花は、私には造花にしか見えなかった
造花に、太陽なんていらない

咲のことは好き、とても大切な妹
なのに・・・・

480: tell you that I love ...(7-8) 2012/09/28(金) 00:50:21.39 ID:MDliH0GT0
「照ちゃん!」

宥がいつもより強い口調で私の名を呼ぶと、突然宥は私の膝に頭をうずめた
私が宥を膝枕している格好になる

「え、なに?」

宥といると突然のことばかり起きる・・・
俯いていると宥に泣き顔を見られてしまうし、涙で濡らしてしまうので、慌てて上を向いた

「照ちゃん、こっちむいて」
「・・・イヤ」

それだけは聞けない
私は意地を張って空を見上げる
太陽は、雲に隠れて見えない

でも、宥という太陽には、雲は一つもなかった

「今日私が照ちゃんのそばにいられたなら、照ちゃんも私のそばにいられるよ。だから明日、照ちゃんは私と一緒に、咲ちゃんと麻雀しよう」

もう、宥はどうして・・・・

どうしてそんなに・・・


私がこんなふうに咲を照らせていたら、咲はまっすぐ勝利を目指して打つようになってくれた?


もう理由なんてない

私は宥の頭を軽く持ち上げて

その唇と唇を重ねた







明日咲と打つ麻雀は、一体どんなものになるのだろう・・・