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1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 10:37:07 ID:qi3B5FuV0
和「ああ……これが……咲さんの花園ですか……」 

咲「あ……恥ずかしいよ……和ちゃん……そんなにじろじろ見ないで……」 

和「だって……綺麗なんですから……もっと見させてください……」 

咲「あううう……////」 

和「咲さん……こんなに真っ赤で……とても美しいです……」 

咲「和ちゃん……」 

 ―――――― 

和「そんなオカルトありえません!」ガバッ
 

引用元: 咲「え? どの学年が一番強いかって?」

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 10:38:11 ID:qi3B5FuV0
祝・アニメ追加放送ッ! 

・阿知賀も頑張ってるので咲SSです。 

・内容、喋り方、方言、打ち筋、能力に違和感、矛盾あるかもですすいません。できる限り本編準拠にしたかったのですが、能力不明、能力相性などの都合上、オリジナル要素も出てきます。 

・話の構成をしたのが二ヶ月前なのと、資料が単行本しか手元にないため、最新話を完全に反映することができていません。すいません。主に阿知賀編大将ズ、淡の能力や姫子の学年などがその被害を受けています。 

・微妙に手牌描写があります。萬子:一二三、筒子:①②③、索子:123、字牌:白發中、赤:[]つき、鳴き:/で区切る、となっております。 

・ルールは、喰いタンあり、赤四枚(五、5、⑤、⑤)、ダブロンあり、ダブル役満なし、大明槓からの嶺上開花は責任払い、その他細目は適宜説明ありとなっております。 

・嫁のことはぜひ応援してあげてください。 

・順位予測・獲得点数予測・強さ議論などはご自由にどうぞ。あ、展開だけは読めてもそっと胸に収めてくださると嬉しいです。 

・では、長々と見苦しくてすいません。始まります。

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 10:39:40 ID:qi3B5FuV0
 二十一世紀。 

 世界の麻雀競技人口は一億人の大台を突破。 

 我が国日本でも、 

 大規模な全国大会が毎年開催され、 

 プロに直結する成績を残すべく、 

 高校麻雀部員達が覇を競っていた…………。 

 これは、 

 その頂点を目指す、 

 少女たちの――あるかもしれない――軌跡!! 

<咲――その花は受け継がれる――>

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 10:40:48 ID:qi3B5FuV0
 インターハイを終えて、一週間後、昼下がり。 

 清澄高校麻雀部、部室。 

和(わ……私ったらなんて夢を……!!?) 

咲「あ、和ちゃん、起きた」 

優希「のどちゃん、人が話してる最中に転寝とかいい度胸だじぇっ!」 

 咲と和はベッド。優希は部室の中央に突っ立っている。部室には三人しかいない。 

和「すいません、ちょっとうとうとしていたので、もう一度最初からお願いします。えっと……なんの話でしたっけ?」 

咲「優希ちゃんが、どの学年が一番強いかって話をしてたんだよ」 

優希「そうだじょ!! のどちゃん、寝てる場合じゃない!!! これは由々しき問題だじぇ! 我ら清澄一年トリオは全国の一年生代表として声高に言うべきなんだじょ! 清澄の活躍は一年生トリオによるもの! ゆえに、一年最強!」 

咲「優希ちゃん、こないだの優勝インタービューのこと、まだ気にしてるの?」 

和「そういうことですか……。優希、部の代表として上級生二人がインタビューを受けるのは当たり前のことですよ」 

優希「うう……二人は個別のでっかい記事があるからそんなことが言えるんだじぇ!」

7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 10:45:26 ID:qi3B5FuV0
咲「それは……まあ、和ちゃんはインターミドルチャンピオンで、地区大会のときから取材を受けてたし……」 

和「咲さんは大将として優勝を決めた人で、インターハイのMVPでしたから、記事になるのは当然です」 

優希「二人ともひどいじょ! 私の活躍は!? 先鋒戦で全国王者を粉砕した私の成果がなぜ記事にならないんだじぇ!?」 

咲「お姉ちゃんを粉砕……してたっけ?」 

和「いえ、東一局でお義姉さまが『見』に回っている隙に親倍をツモったくらいです」 

優希「もう泣きたいじょ……」 

咲「あ、で、でも! お姉ちゃんを相手にほぼ無傷で帰ってきたじゃない!」 

和「それだけじゃありません。優希は玄さんにドラを抱えられている状態でも、しっかりと高い手を和了っていました。大丈夫です。私たちは優希の強さをわかってますから」 

優希「二人だけにわかってもらっても嬉しくないじぇー! 世間に知らしめたいじぇー!」 

和「もう……どうしたいんですか?」

9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 10:48:03 ID:qi3B5FuV0
優希「あの眼鏡の記者に記事の差し替えを要求するじぇ!」 

咲「えっと、どんな風に?」 

優希「見出しはこうだじぇ! 『インターハイ優勝校・清澄! その大躍進を支えたのは、三人の一年生《ニューカマー》!!』」 

咲「ニューカマーって……」 

優希「MVP・咲ちゃん、全中王者・のどちゃん、そして、そんな二人に一目置かれている清澄の切り込み隊長・片岡優希の対談形式だじょ!」 

和「一目置かれているって自分で言っちゃいますか」 

優希「これをメインに持ってきて、残りを、例の部長と染谷先輩の記事で埋める。完璧だじぇ。のどちゃんと咲ちゃんは、存分に私の強さを語ってくれていいじょ!」 

咲「……対談形式か……そうだね……あんまり目立たなくて済むからいいかも……」 

和「えっ!? 咲さん?」 

咲「いや、だって、私一人の記事とか……雑誌に載るの恥ずかしいから……。ほら、個別のインタビューで見栄えがするのって、お姉ちゃんとか和ちゃんくらいだと思うし。それだったら三人で……和ちゃんと一緒に……記事になりたいなーって……」 

和「……なるほど。わかりました」 

優希「決まりだじぇ!!」 

 優希、右手を高々と突き上げる。 

優希「清澄の活躍は我ら一年ありき! 一年最強! ゆえに我最強! この事実を大衆に叩きつけてやるじぇー!!」 

??「聞き捨てならないわね」

10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 10:53:17 ID:qi3B5FuV0
 計ったようなタイミングのよさで麻雀部の扉を開け放ち、姿を現したのは―― 

優希「ぶ、部長!? いつから!?」 

久「わりと最初のほうから」 

咲(あっ、部長が悪い顔してる) 

和(嫌な予感しかしません) 

久「黙って聞いていれば、なに? 一年生が最強? それはちょっと言い過ぎじゃないかしら。 
 あなたたちが強いのは認めるし、あなたたちがいなかったら清澄はインターハイに出場することすらできなかった。 
 けれど、それだけで一年生が強いみたいな、ちょっと調子に乗ってる感じの話になるのはいただけないわねぇ。 
 そんなのが記事になったら、部長の私の指導が行き届いてないみたいになるじゃない。それは困るわ」 

優希「で、でも! 一年生が活躍してたのは清澄だけじゃないじょ。阿知賀ものどちゃんのお友達が引っ張ってたチームだったじぇ。 
 それに、あのしらたき糸こんにゃくだって、大将は一年生だったじょ!」 

久「阿知賀の一年生コンビの話なら私も聞いたけれど、あれって要するに、あの二人が阿知賀がインターハイに出場するきっかけを作った、ってことでしょう? 
 チームを引っ張る引っ張らないはまた別だわ。白糸台の大星淡に関しては、うちと同じ、ただの戦略よ。なんなら個人のデータをまとめてみましょうか? 
 もちろん、あなたたちのように活躍した一年生もいるけれど、総合的には三年生のほうがいい結果を残しているわ」 

優希「ふん、総合なんて言葉を持ち出す時点で部長は負けを認めているようなもんだじぇ。大衆が求めているのは話題性だじょ! 
 のどちゃんのおっぱいがある限り、我ら一年生が最強であることは間違いないんだじぇ!」 

久「あら、胸の大きさで比べるなら、私たちの学年には怪物がいるわ。あなたも知ってるでしょ? 永水女子――石戸霞」

11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 10:56:56 ID:qi3B5FuV0
優希「……咲ちゃん! 今すぐのどちゃんのおっぱいを揉むんだじょ!!」 

咲「えええ!?(揉みたいけど////!)」 

和「優希、怒りますよ!!(そういうことは二人のときに////!)」 

久「とにかく、麻雀の強さも、話題性も、私たち三年生があなたたち下級生に劣る要素は何一つないわ」 

??「下級生……とは大きく出たな、清澄の!」 

??「その思い上がりは訂正してさしあげなくてはなりませんわねっ!」 

 開け放たれた扉の向こうから、颯爽と姿を現す二つの影―― 

透華「麻雀の強さ? 話題性? それらを兼ね備えているのはわたくしたち二年生の他にいませんわ! そうですわね、衣?」 

衣「清澄の大言壮語には笑止千万。有象無象の他学年など、衣たちの敵ではない!」 

久「……あら、二人とも、早いのね」 

咲(スルーした!? 龍門渕さんたちの挑発をあっさりスルーした!?) 

和「部長、早いってどういうことですか?」 

久「ああ、あなたたちには言ってなかったわね。今日呼び出したのはコクマ関連で話があったからなの」 

和「そんな大事な話なら事前に説明してください」 

透華「清澄、わたくしたちを無視するとはいい度胸ですわね」

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 10:58:19 ID:qi3B5FuV0
久「ああ、ごめんなさい。ま、あなたたちの言いたいことはわかるわよ。なんたって去年のインターハイを騒がせた学年だものね。 
 天江さんに、神代小蒔と荒川憩……今年の咲や和たちに負けずとも劣らない活躍だったわ」 

透華「わかってるなら、話は早いですわね」 

久「それでも、私はやっぱり三年が最強だと思うの」 

咲「あの……部長の言ってる最強って、もしかしてお姉ちゃんのことですか?」 

和「ああ、確かにお義姉さまは、強さも話題性も十二分ですからね」 

久「いやいや、もちろん宮永照は私たちの学年の誇りだけれど、それはそれだわ。私はあくまで、三年生が、下級生に負ける要素なんて、ないってことがいいたいの。 
 ねえ……あなたもそう思うわよね?」 

??「えっ……? それは……その……」 

 久に呼ばれ、両手にバスケットを抱えておずおずと現れたのは―― 

美穂子「勝ち負けはなんとも言えませんが……。ただ、チームをまとめる最上級生として、きちんと責任を果たそうと心掛けてはいます」

13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 10:59:22 ID:qi3B5FuV0
久「長野最強は謙虚なのね、虚勢を張ってばかりのお子様たちとは違うわ。ところで、その手に持ってるのは?」

美穂子「あ、クッキーを……。皆さんで食べれたらいいと思いまして」 

久「ふ~ん、いい匂いね。いっただきっ! うん、美味しいわ。さすが美穂子」 

美穂子「ふふ、上埜さんのお口に合って何よりです」 

透華「そこ! いちゃつくのは後にしてくださいまし!!」 

久「そういうことだから、続きはまたあとでね、美穂子」 

美穂子「はい、上埜さん……/////」 

透華「きーーー!!」 

久「まあまあ、そんなカリカリしないで、龍門渕さん。えっと、どこまで話したかしら?」 

透華「わたくしたちの学年が最強だというところまでですわ!」 

久「そうだったわね。それで、優希たちは一年生が最強だって言うのよね?」 

優希「もちろんだじぇ! 上級生なんてまとめてけちょんけちょんにしてやるじょ!!」 

久「で……私は三年生として、二人の言うことをそのまま聞き入れるわけにはいかない、と」 

 不敵な笑みを浮かべ、周囲を見回す久。 

久「なら、勝負しましょう!!」

14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:01:23 ID:qi3B5FuV0
全員「!!?」 

久「自分の学年が最強だって言うのなら、その最強の学年の中の選りすぐりでチームを組んでみればいいわ。 
 学年ごとにチーム分けをして、正々堂々麻雀で白黒つけましょう!」 

衣「清澄の、それはどこまで本気で言っている……?」 

久「どこまでも本気よ。選抜の範囲だって長野県だけなんてセコいことは言わないわ。どうせやるなら派手にいきましょう。全国規模でやるの。 
 インターハイ優勝校・清澄主催、全国選抜学年対抗戦!!」 

衣「……面白い。ルールは?」 

久「競技ルールは基本的にインターハイと同じ。ただし、対抗戦というからには大人数でやりたいわよね。 
 そこで考えたんだけど、先鋒戦、次鋒戦、中堅戦、副将戦、大将戦……それぞれ一人じゃなくて、二人が半分ずつ戦うのはどう? 
 例えば、私が中堅戦の前半を戦ったとしたら、後半は美穂子、みたいな」 

透華「つまり、各対局の前後半戦をそれぞれ別の人間が戦う――東南戦を十回やるということですわね?」 

久「ま、大体そんなところ。だから、各チームは総勢十人になるわけね。学年対抗というからには、少人数の化け物だけで力比べをするんじゃ、みんな結果に納得できないでしょう? 
 だって、天江さんと咲と宮永照が同じ卓を囲んで、その結果三人のうち誰かが勝ったとして、それがそのままその人の所属する学年が強いだなんてことになる? 
 そういうのは個人戦でやればいいの。これはあくまで、学年対抗の『団体戦』なのよ」 

和「あの……それって結局、部長が最初におっしゃっていたように、総合力で勝る三年生が有利なんじゃ……?」 

久「わかってるわ。だから、当然私たち三年生チームにはハンデを設ける。とりあえず、宮永照は使わない」 

咲(お姉ちゃん……自分が除け者になったら寂しがるんじゃ……)

16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:05:57 ID:qi3B5FuV0
久「ま、もっと言えば、インターハイの団体戦決勝にいた私以外の三年生は選ばないわ。要するに、白糸台、阿知賀、臨海の三年ね」 

和「まあ……それが妥当と言えば妥当なのでしょうか」 

久「他のみんなはどうかしら? 成り行き上、私と美穂子が三年チーム、龍門渕さんと天江さんが二年、優希と和と咲が一年チームの代表者ってことでいい?」 

衣「異議無し」 

優希「望むところだじぇ!」 

久「いい返事ね。じゃあ、対抗戦の会場とか、日程とか、各学校への通達とか、そういう事務作業は私がなんとかしとくから、あなたたちは好きなようにチームメンバーを集めるといいわ」 

咲「えっ、今日はコクマの話があったんじゃ?」 

久「もうコクマどころじゃないでしょ。今日はこれで解散よ! お疲れ様!!」 

咲「えー……」 

優希「こうしちゃいられないじぇ! 咲ちゃん、のどちゃん、作戦会議に行くじょ!!」 

和「え、わっ、ちょっと優希!?」 

透華「わたくしたちも一旦うちに帰りましょうか。みんなの意見を聞きたいですわ」 

衣「うむ。やるからには必勝! 全力で敵を蹴散らすまで!」

17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:09:54 ID:qi3B5FuV0
 各々、部室を飛び出していく。残された久と美穂子。久は、美穂子のクッキーを摘んで、すたすたとベッドへ向かう。ついていく美穂子。 

美穂子「上埜さん、初めからこのつもりで……?」 

久「今回の全国で活躍したメンバーの中から、いずれ世界の舞台で戦う選手が出てくることを考えると、全国の有力選手同士が戦う機会は多いほうがいいと思うのよ。 
 コクマも大事だけど、そういう公式の場だけじゃなく、非公式の場でも自由に卓を囲みたいじゃない」 

美穂子「なるほど。あ、でも、あの、一つ質問が……」 

久「なに?」 

美穂子「学年対抗ということは、全部で三チームですよね? 残りの一チームはどうするつもりなんですか? まさか、プロを集めるとか……?」 

久「いくら私でも、学生の遊びにプロを十人も呼んでこれないわよ。大丈夫。全国は広いもの。もう一チームくらい簡単に出来上がるわ」 

美穂子「そうですか。まあ、上埜さんがそう言うなら」 

久「それより、美穂子。私たちも作戦会議をするわよ。けど……どこで誰が聞いてるかもわからない。耳元でそっと囁いてあげるから、もっと近くに来なさい」 

美穂子「……はい///」 

 こうして、全国選抜学年対抗戦の火蓋は切って落とされたッ!!

18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:13:37 ID:qi3B5FuV0
 二時間後、清澄高校麻雀部、部室。 

 静かな室内に、扉を蹴破るような勢いで飛び込んでくる者が一人。 

??「お前ら待たせたなっ! 本日の主役の登場だし!!」 

 ネコミミを立てて登場した彼女を出迎えたのは、しかし、一人で頭を抱えるワカメ色の眼鏡っ娘だけだった。 

??「なんじゃ……風越の大将、お前さんもお呼びが掛からんかったか」 

 暗い顔でそう言ったのは、清澄次鋒・染谷まこ。 

池田「お前も、ってどういうことだ? お呼びが掛からない?」 

まこ「わしらは選考漏れってことじゃ」 

池田「? 何言ってるんだし」 

まこ「いいから、これ読んでみぃ」 

 雀卓の上に置いてあった一枚の紙片をぺらりと掲げる、まこ。 

池田「全国選抜学年対抗戦……? 混成チーム代表のみなさんへ……?」 

まこ「うちの一年トリオ、龍門渕の天江衣と龍門渕透華、それに久とあんたらんとこのキャプテンさんがそれぞれ代表になって、全国から選抜したメンバーで学年対抗戦をするんじゃと。 
 で、わしらにはなんの連絡もなく、久から連絡を受けた通りの時間にのこのこやってきた。要するに、そういうことじゃ」 

池田「すまん、意味がわからないし」

22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:20:45 ID:qi3B5FuV0
まこ「もともと今日は長野の有力選手がここに集まることになってたんじゃ。じゃけど、その学年対抗戦の企画が急に持ち上がった。 
 各チームの代表者からお呼びが掛かったメンバーは、そっち優先ってことでここには来ない。 
 ここに来るのは、長野の有力選手ではあっても、全国選抜には漏れるような、間抜けだけってことじゃ」 

池田「それは……なんだ、あたしたちは、天江衣が率いる二年生チームから、外されたってことか?」 

まこ「ほういうことじゃ。ま、確かにうちの学年は他の学年に負けず劣らず化け物揃いじゃからのう。わしらを誘うくらいなら、真っ先に神代小蒔か荒川憩をメンバーにするじゃろ」 

池田「…………マジ許すまじだし、天江衣っ!」 

まこ(おーおー完全に久の読み通り燃え滾っとるのう……) 

まこ「……で、そんな風越の、あんたに朗報じゃ。その紙、最後のところをよく読んでみぃ」 

池田「『ここにやってきたあなたたちが、学年対抗戦の残り一枠――混成チームの代表者です。全国の選考漏れ選手たちをかき集めて最強のチームを作ってね☆』……ってなんだしこれ!!!」 

まこ「各学年選りすぐりの最強軍団に、余り者が徒党を組んで喰らい突いてみろってことじゃろ」 

池田「上等だし!! 華菜ちゃんを二年選抜に入れなかったこと、後悔させてやるし!!」 

まこ(単純じゃの……。いや、しかし、正直、わしとこいつの二人じゃ役者不足もいいところなのは否めん……せめてもう一人、まともな協力者がいれば……)

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:22:29 ID:qi3B5FuV0
 そんな思いを見透かすように、まこの携帯が鳴る。久からのメール。その内容は――、 

『まこ、感謝しなさい。長野で最も頼りになる人を、あなたたちにプレゼントするわ』 

まこ(どういうことじゃ……?) 

 首を傾げるまこ。直後、部室の外から足音が聞こえる。やってきたのは―― 

??「あっれー? おかしいな。集まってる面子はこれだけかー?」 

 彼女は、ワハハ、と軽く笑った。 

まこ(ええ……!? 久……これのどこが『長野で最も頼りになる人』じゃ……!) 

池田「……鶴賀の中堅、お前もお呼びがかからなかったのか?」 

蒲原「お呼び……? ワハハ、なんのことやら。ま、確かに私は今日のコクマの説明会には呼ばれてないぞー。私はただの付き添いだー」 

まこ(ん……?) 

 落胆していたまこがはっと顔を上げる。蒲原は、廊下の向こうにいる誰かに声を掛ける。 

蒲原「おーい! なんか愉快なことになってるみたいだぞー。そっちはなんか聞いてないかー?」 

 蒲原が声をかけた人物が、ふらりと、まこたちの前に現れる―― 

??「愉快なことってなんだ……? んー……ああ、そう言えばさっき久から『よろしくね』って意味不明なメールが来たな。って、なんだ、これだけか? どうなってる?」 

まこ(ああ……確かに、こりゃ色んな意味で頼りになるのう。混成チームなんて寄せ集めの司令塔にはもってこいじゃ……!)

24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:23:01 ID:qi3B5FuV0
池田「いいところに来たな、鶴賀の大将! 一緒に魔物退治といこうじゃないか!!」 

 池田は、まこから渡された紙を、後からやってきた彼女に見せる。 

 彼女は、一通り紙を読むと、うんざりしたように肩を落とした。 

かじゅ「久のやつ……『よろしく』ってこういうことか……」 

 全国選抜学年対抗戦、最後の一チームも、始動!

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:26:58 ID:qi3B5FuV0
@一年選抜チーム 

咲「じゃあ、とりあえず全国区のメンバーはおいおい集めるとして、まずは長野から、誰か選抜チームにいれたい人はいる?」 

和(咲さん、意外と乗り気ですね) 

優希「咲ちゃん、意外と乗り気だじぇ」 

咲「あ……いや、一応ね。成り行きとはいえ一年生の代表になったわけだから、負けないように頑張らないとなーって(お姉ちゃんが参加してないところで負けるわけにはいかないよね……)」 

和「私は……県内では、一人だけ、全国に連れて行きたい人がいます」 

優希「私も同じくだじぇ。あ、たぶん、のどちゃんとは別人だから、安心するがいいじょ」 

咲「それって……まあ、たぶん私も知ってる人なんだろうけど、和ちゃんと優希ちゃんは、その人が全国でも通用するくらい強いと思う?」 

和「思います」 

優希「間違いないじぇ」

28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:27:58 ID:qi3B5FuV0
咲「わかった。これで五人だね。あと五人……全国のチームの中から、味方にしたい人はいる?」 

和「私は、やはり阿知賀の穏乃と憧ですかね。旧知ということもありますし、実力も申し分ありません」 

優希「実力で言うなら、しらたき糸こんにゃくの大将がぶっちぎりだじぇ」 

咲「高鴨さん、新子さん、大星さんね。あと……二人か」 

和「こうして十人も集めるとなると、全国で私たちが対戦した一年生って思ったより少ないんですよね。他の一年生にも聞いてみましょう。 
 私、穏乃たちに連絡してみます。反対側のブロックで、誰かいい人はいなかったかって」 

咲「うん。私も、お姉ちゃんを通して大星さんに連絡とってみる」 

優希「そっちは任せたじぇ。私は長野の二人のところに話をつけてくるじょ!」

29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:30:04 ID:qi3B5FuV0
@二年選抜チーム 

透華「というわけで、十人のうち五人はわたくしたち龍門渕のメンバーでいいとして……」 

純「バカかお前は。長野の県大会で優勝できないようなチームを丸ごと組み込んで、全国選抜に勝てるわけねえだろ」 

一「そうだね。ボクも、うちのチームからは透華と衣だけでいいと思うよ。自分たちが弱いとは思わないけれど、全国は広い。声を掛けるなら、長野より他県を優先したほうがいいと思う」 

衣「ならば、今すぐにでも全国行脚の準備をするか?」 

ともき「ちょっと待って。一人だけ。長野の二年で、推薦したい人がいる……」 

透華「……智紀、あなた、それはもしかして彼女のことですの……?」 

ともき「そう。ある意味で……彼女は長野県最強の二年生」 

透華「まあ……智紀の言いたいことはわかりますけど。確かに、彼女みたいな人もチームに一人くらいはいたほうがいいのかもしれませんわね。 
 いいですわ、智紀と純と一は、彼女を迎えにいってくださいまし。わたくしと衣は、ハギヨシと全国に飛びますわ!」

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:30:48 ID:qi3B5FuV0
純「一応聞いておくが、永水の神代小蒔は誘うよな?」 

一「三箇牧の荒川憩も、だよね?」 

衣「当然至極」 

透華「彼女たちを除いてわたくしたちの学年は語れませんわ」 

純「容赦ねえなぁ。三年は宮永照を使わないって宣言してるのに」 

一「正直、衣と神代小蒔と荒川憩のいるチームとなんて、ボクは戦いたくないよ」 

ともき「地獄絵図」 

透華「ふふ……去年のインターハイを思い出しますの。宮永照がデビューした一昨年よりも、清澄が湧かせた今年よりも、全国の舞台が荒れに荒れていた……去年のことを――」 

 透華の身体から、冷たい空気が、じわりと広がる。 

透華「わたくしたちの学年が最強だと、今一度世間に知らしめてやりますわ」ゴッ

32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:32:40 ID:qi3B5FuV0
@三年選抜チーム 

美穂子「よかったんですか、加治木さんを手放して」 

久「まあ、私が長野から連れていくのは、美穂子かゆみのどっちかだけにしておくつもりだったから」 

美穂子「どうして……私を選んでくれたんですか?」 

久「ゆみは、敵に回すほうが面白いからよ」 

美穂子「私は敵に回しても面白くないと?」 

久「違うわよ。美穂子はゆみと逆。味方にしておくほうがおいしいの。こうして手作りのクッキーが食べられるわけだしね」 

美穂子「お上手ですね、上埜さんは」 

久「……さて、ピロートークはこれくらいにして、本題といきましょうか」 

美穂子「はい」

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:33:47 ID:qi3B5FuV0
久「ま、ベストフォーが選べないわけだから、順当にベストエイトから摘んでいくのがいいわよね」 

美穂子「千里山、姫松、有珠山、新道寺の四校ですか」 

久「ただ、正直、有珠山に声を掛けるのは……あれよね」 

美穂子「はい、あれですね」 

久「そこで、これは対戦経験があるから贔屓目になっちゃうのかもしれないけれど、シード校の永水、それに、全員が三年っていう宮守を選考対象に入れるっていうのはどうかしら?」 

美穂子「いいと思います。その二校なら、私も上埜さんを見るついでに観戦してましたから、強さは十分に知っているつもりです」 

久「決まり。じゃあ、早速連絡を取りましょうか! まずは洋榎からっと……」 

美穂子「……上埜さん、やっぱり対戦者の連絡先はゲットしてるんですね。本当に、浮気者です」 

久「ふっふーん、なんのことかしら~」

35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:37:45 ID:qi3B5FuV0
@奈良県某所 

憧「うん! オッケー、わかった。あっ! じゃあ、こっちはこっちで私から連絡してみるよ。うん、じゃ、またあとでね~」 

初瀬「憧、どうしたの?」 

憧「いや、ちょっと面白イベントが起きる感じなの! うーん、明日の部活が楽しみ~」 

初瀬「なになに? 麻雀関係のことなの? 教えてよー」 

@阿知賀女子麻雀部・翌日 

穏乃「憧、和から連絡来た?」 

憧「来た来た!」 

穏乃「参加、する?」 

憧「もちろんでしょ!」 

穏乃「だよねー!!」 

玄「二人とも、そんなにはしゃいでどうしたの?」 

穏乃「あっ、玄さん! 実は今度、和たちが中心になって、全国選抜学年対抗戦ってのをやるみたいんです! それで、私と憧が一年の選抜チームに誘われたんですよっ!!」 

憧「学年対抗戦だから、出るとしたら玄や灼は二年選抜だね」 

灼「ふーん……」

36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:38:55 ID:qi3B5FuV0
宥「あれ? みんな集まって、どうしたの?」 

憧「あ、宥姉! なんかね、今度、全国選抜学年対抗戦ってのがあるらしくてさ!」 

宥「学年対抗……? ってことは、もし呼ばれても……私だけはみんなと一緒のチームにはなれないんだね……」 

穏乃「あっ、でも、なんか、宥さんは呼ばれないみたいですよ!」 

宥「えええっ?」 

穏乃「三年選抜チームはハンデとして、インターハイの決勝出場校からメンバーを選ばないそうなんです! だから、宥さんは呼ばれません!!」 

宥「」 

宥「…………寒い」 

玄「えっ!? おねーちゃん、待って!? どこ行くの!? おねーちゃーーーん!!」 

憧(穏乃……あんたねえ!) 

穏乃(そ、そんなつもりじゃ……)

37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:42:43 ID:qi3B5FuV0
@白糸台高校麻雀部 

菫「聞いたか、照。全国選抜学年対抗戦の話」 

照「聞いた。咲から連絡来て、そのことで淡と話したいって」 

菫「ああ、なるほどな。淡はどうしてる?」 

照「たぶん、そろそろ戻ってくる」 

淡「あー! テルー、携帯ありがとー。なんかねー、私を一年選抜のメンバーにしたいって、サッキーが!」 

菫「サッキーって……お前らいつの間に仲良くなったんだ?」 

淡「そりゃテルの妹だもん。会った瞬間からマブダチだよね!」 

照「咲は……一年選抜チームは、どんな感じになってるか聞いた?」 

淡「いやー、特に興味なかったから。たぶん、のどっちとシズノンは入ってるんじゃない? あと、テルにラッキーパンチかましたタコスの子」 

菫「ああ……片岡のことか。原村と阿知賀の高鴨は知り合いみたいだし、そうすると新子もメンバーになるのか……。随分と偏ったチーム編成になりそうだな。大丈夫か?」 

淡「大丈夫、大丈夫ー」 

菫「余裕だな、淡」 

淡「そりゃー、だって、まー……」ウネウネ 

淡「三年生ハンデってやつでテルが参加しないんでしょ? だったら他の選抜チームがどんな人を連れてきたって私一人いれば楽勝だってー。 
 しかも今回はサッキーも味方だしね! 負ける理由がない!」

40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:46:43 ID:qi3B5FuV0
菫「……と、淡は言ってるが、お前らはどうだ?」 

尭深「…………」ズズズ 

誠子「私たちには選抜の誘いなんて来てないですよ」 

菫「そのことだが、三日後に龍門渕高校の天江さんと龍門渕さんがうちにいらっしゃるそうだ。二年選抜チームの代表者だよ。たぶん、お前たちをメンバーに誘うつもりなんだと思う」 

尭深「…………」ズズズ 

誠子「どうですかね、正直、その龍門渕の――天江衣……あいつの目に適うとは思えないですが」 

菫「なんだ、二人して。自信がないのか?」 

尭深「…………」ズズズ 

誠子「うちの学年は、天江衣、神代小蒔、荒川憩が飛び抜けてますから。淡じゃないですけど、あいつら三人が揃ったら負けはないと思いますよ。あとは人数合わせです」 

菫「おいおい……これから白糸台を背負って立つやつが何を弱気なこと言ってんだ」 

淡「テルー、神代ってあの巫女さんのことか? あの人テルより強いのか? 天江衣とか荒川憩ってのは?」 

照「うーん。そうだな……私の口からはなんとも。ただ、単純に去年のインターハイの結果を言うなら……」 

 照、少し遠い目をして、去年のことに思いを馳せる。 

照「荒川さんは、私の次に強い選手だった。天江さんは、私より点を稼いだ選手だった。神代さんは、私から見ても異質な選手だった。これは、事実」

41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:47:25 ID:qi3B5FuV0
 照の静かな言葉に息を飲む面々。 

 そのとき、不意に、白糸台高校麻雀部の門を叩く者が現れた。 

菫「ん、誰だ……? 龍門渕さんたちにしては早過ぎるような……」 

 果たして、門を開けた菫を待ち構えていたのは――

42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:49:15 ID:qi3B5FuV0
@姫松高校麻雀部 

洋榎「おー! 出る出る!! あっ、ちょっー待ってーな。恭子ー! 由子ー? おるかー!?」 

末原「なんやねん、騒々しい」 

由子「なんなのよー?」 

洋榎「清澄の久から連絡あってな、今度、全国選抜学年対抗戦っちゅーのをやるんやて。で、あいつら、うちと千里山、それに新道寺と永水と宮守の三年に声をかけとるそうなんや。 
 なんでも総勢十人のチームらしいで。恭子、由子、せっかくやし三年チームに一緒に出ようや!」 

末原「出ぇへんわ! 私はええから、永水のおっぱいお化けとか、宮守の巨人を紹介せえよ。無理無理!!」 

由子「ってゆーか三年の選抜なら白糸台はー? 宮永照と弘世菫は鉄板っしょー? それに臨海の辻垣内までおらんっちゅうのはどういうわけなのよー?」 

洋榎「そこはな、なんか下級生へのハンデなんやて。白糸台と阿知賀と臨海の三年は選抜に入れへんのやて」 

末原「なんのハンデやねん。学年対抗って、一年なら宮永咲と大星淡、二年なら神代小蒔と荒川憩と天江衣が出てくるんやろ? 
 そんなやつら相手に宮永照抜きなんてハンデやない。ただの自殺行為や」 

洋榎「うちがおるやん。一、二年なんぞに負けへんよ」 

由子「なんか言うてはりますけどー?」 

末原「言わせとけ。まあ、とにかく洋榎は出たらええわ。なんの文句もない。姫松の主将でエースやからな。けど、うちは堪忍してな。うちより強い三年ならいくらでもおるて」 

洋榎「そんなんやってみんとわからん思うけどなー」 

末原「わかるて。ちなみに、うちで声掛けられたんはあんただけか?」

44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:52:21 ID:qi3B5FuV0
洋榎「みたいやな。ま、三年代表は久やからな、姫松いうたら愛宕洋榎ってイメージなんやろ。ああ、あと二年のほうもな、これから龍門渕の連中が視察に来るんやて」 

末原「龍門渕……天江衣か。誰か目当てがおるん?」 

洋榎「いや、目当てはたぶんないで。あちこち見て回ってから決めるゆーてたわ。 
 阿知賀を通って、うちに来たあとは、三箇牧、千里山、新道寺、永水って回って、最後に飛行機でトンボ帰って白糸台に行くんやと」 

由子「三箇牧と永水……本格的なのよー」 

末原「天江衣と荒川憩と神代小蒔が揃うわけやね。恐ろしいわー」 

洋榎「やから二人とも二年相手にビビり過ぎやろー。しゃーないやっちゃなー。ほな、久には恭子と由子はパス言うとくわ。 
 代わりに、永水の石戸と宮守の姉帯な。オススメしとくわ。他に誰かええやつおるかー?」 

末原「そらまーやっぱ千里山やろ。あそこの三年なら、誰を引っ掛けても間違いないわ」 

洋榎「わかった。言うとくー」 

由子「ほな、頑張ってなのよー」 

末原(ちゅーか、学年対抗戦って……ようわからんけど四チーム目はどないなっとんのやろ……あとで調べたろか……)

45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:53:19 ID:qi3B5FuV0
@千里山女子 

セーラ「なあ、誰が出るー?」 

怜「じゃんけんで決めたらええやん」 

竜華「じゃんけんて、んな適当な。三人とも出るんはあかんの?」 

セーラ「姫松が愛宕の洋榎さん一人なんやて。やから、千里山からも一人のほうがええかなって。大阪三年枠二人ってことやな。 
 それ以外のメンバーは他県で埋めてもらうことにしたんや。せっかくの全国選抜やしなー」 

怜「ほなセーラでええやん」 

竜華「せやな。セーラ、頼むわ」 

セーラ「膝枕されてるやつとしてるやつが言うても、サボリたがってるようにしか聞こえんわ」 

怜「いや、セーラしかおらへんて。洋榎さんが姫松のエースなら、セーラは千里山のエースやもん」 

竜華「せやせや。ぶちかましてきてやー」 

セーラ「……ほな、とりあえず麻雀するときは制服着てなくてもええか聞いてみるわ。ダメやったら二人どっちか出てや」 

怜「うち、病弱やからー」 

竜華「わっ、出たで! 病弱アピール!」 

セーラ「だーもー、真面目に話聞けやー!」

46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:53:54 ID:qi3B5FuV0
 と、そんなはしゃぎまわる上級生を遠目に見ている下級生が、二人。 

泉「……先輩方、楽しそうですね」 

Q「まあ、お祭り好きやしな」 

泉「船久保先輩も、さっき龍門渕の方と話してはりましたよね」 

Q「いやいや、うちの学年はな、例の三人がおる以上、選抜ゆうても他は所詮人数合わせやねん。色んなとこ回ってから決める言うてたし」 

泉「私、連絡すら来ないんですけど……ベストエイト入りしたチームの一年やのに……」ズーン 

Q「ド、ドンマイやって……!!」

47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:54:57 ID:qi3B5FuV0
@宮守女子麻雀部 

豊音「えー! ちょー行きたい! ちょー出たい!! えっ……? 宮永照は除外…………? あっ! でも、神代さんは? 原村さんは!? たぶん出る!!? 行く行くちょー行くー!」 

塞「え、なに、なんの騒ぎ?」 

エイ(血みどろの合戦の絵) 

塞「え? ええっ?」 

胡桃「なんか、全国選抜学年対抗戦をやるんだって」 

シロ「ダルい……」 

豊音「ねー! 三年選抜にうちから二人出してほしいんだって! 誰出るー!?」 

胡桃「とりあえず、豊音、行きなよ」 

豊音「うん! だから、もう一人!」 

塞「私、パス。全国選抜なんて化け物大集合なイベント、モノクルの予備がいくつあっても足りないわ」 

胡桃「私もパスかなー。三年生集めてるのってあの清澄の主将でしょ? きっと姫松のうるさい人も誘われてるんだろうし。マナー注意するのが大変」 

シロ「私もパス。ダルいから」 

エイ(くじの絵) 

豊音「ハイ、じゃあみんなでアミダを引きましょうー!」

49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:57:36 ID:qi3B5FuV0
@永水女子麻雀部 

霞「うちは三年生が三人いるわけだけど、どうしましょうか」 

初美「姫様の敵ですかー。ちょっと興味ありますー」 

巴「はるるのほうは、なんか連絡来た?」 

春「」フルフル 

巴「そっか……。じゃあ、一緒に姫様の応援しよっか」 

春「」コクコク 

霞「あら、巴ちゃんは姫様の味方なの?」 

巴「いや、いくらカスミンとハッちゃんでも姫様には敵わないでしょ」 

初美「なんですかー? 巴には三年のプライドがないんですかー?」 

巴「別にそういうわけじゃないけど……どっちにしろ私には姫様を敵に回すなんて真似はできないよ」

50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:58:15 ID:qi3B5FuV0
霞「そう言えば、世間では人気投票とか一位予想とかやってるそうよ。この学年対抗戦。テレビでも放送されるんですって」 

巴「一位予想って、どの学年が勝つか、ってこと?」 

霞「そう。思ってる以上に色んな人に見られてるみたいなの。一般の人もそうだし、プロの方々にもね。だから、相手が誰だろうと、下級生相手に三年生が負けるわけにはいかない……と私は思うのよね。初美は?」 

初美「モチのロンですよー。上等ですー。一、二年に賭けてるやつら、まとめて吹き飛ばすですよー」 

霞「じゃあ、そのように伝えておくわね。ところで、当の姫様の姿が見当たらないけど……どちらに?」 

巴「ああ……それなんだが……」 

霞「?」 

巴「いま、龍門渕の天江衣さんと龍門渕透華さんがいらしててな……その、奥の神殿のほうで……」 

初美「あー……。道理でさっきから寒気が止まらないってわけですねー。いやいや、これに勝つのは骨が折れそうですよー」 

春「」ブルブル 

霞「ちょっと、様子を見てきましょうか……」 

巴「えっ!? おい、ちょっと待て、カスミ――!?」 

 瞬間、霞の身体から禍々しい気配が溢れ出る。 

霞「ごめんなさい。あとでお祓い……お願いね?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:58:57 ID:qi3B5FuV0
@新道寺女子麻雀部 

すばら「全国選抜学年対抗戦……? それに……私が……ですか?」 

すばら「ええ……ええ。はい。喜んで! 私なんかでいいのなら!! ええ、こんなすばらなことはありません!!」 

すばら「はい……力不足だとは思いますが。精一杯、頑張ります!! よろしくお願いします! はい、では!!」 

すばら「こんな……こんな大役……! 任されましたっ!!」 

哩(花田は誰と何を話しとん……?) 

姫子(さあ……) 

江崎(なんもかんも新政府が悪い……) 

美子「あのーなんか清澄の竹井さんから電話きとっとよー」

52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 11:59:28 ID:qi3B5FuV0
@劔谷高校麻雀部 

友香「あっれー? 先輩一人ですかー?」 

美幸「そーなのよーもー」 

友香「お茶淹れます?」 

美幸「もらうもー」 

友香「先輩は、全国選抜学年対抗戦の話、聞きました?」 

美幸「聞いた聞いた。けどなーうちらベスト16だからもー二年と三年は声掛からないっしょもー」 

友香「おっ、なんですか、一年は声掛かるかもしれないって?」 

美幸「知らんのもー? 案外一年生レギュラーって貴重なのよもー? インターハイで活躍した高校の一年を上から取っていけばぎりぎり友香か莉子くらいまでは……って思うのよもー」 

友香「ま、でも私ら、主催してる清澄とは直接戦ってませんからね。あ、どうぞ、ダージリンですー」 

美幸「どーもー」

54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 12:01:22 ID:qi3B5FuV0
@鶴賀学園麻雀部(混成チーム事務所) 

 各々が選りすぐりの猛者を集めている中―― 

 順調に行き詰まりを迎えている、混成チームの面々。 

かじゅ「いや、正直、これは無理だ」 

まこ「そらそうじゃろ」 

かじゅ「めぼしいところは全部押さえられてる」 

まこ「本当に余り者軍団になりそうじゃな」 

かじゅ「せめて……勝つのは無理だとしても……噛ませ犬になるとしても……インパクトを残して散りたい」 

まこ「今のままじゃただ地味なだけのチームじゃからのう」 

かじゅ「誰か……誰か……強くなくてもいい。みんなの記憶に残るような選手が……!!」 

 そのとき、全国各地を飛び回っていた池田、帰還。 

池田「よう……待たせたな……!!」

55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 12:03:00 ID:qi3B5FuV0
まこ「おう、風越の。あんまり期待しとらんが、どうじゃった?」 

池田「ふっふっふー」 

かじゅ「なんだ? 頭のネジが飛んだか?」 

池田「飛んでないし! ってそんなことより! 見つけたんだよ! 最強の助っ人を!!」 

まこ「なんと!?」 

かじゅ「それは本当か!?」 

池田「ああ……全国に行くような有名チームは全滅だった。だけど……各地を回っている途中であたしは気付いたんだ。 
 うち――風越と同じように、全国には惜しくも予選大会で涙を飲んだ強豪校が無数にあるはずだって……そして、見つけた!」 

まこ「なるほどのう、全国に出て来てない有力チーム……それは盲点じゃった!!」 

かじゅ「言われてみれば……今年の荒川憩や天江衣がそうだ。全国の団体戦には姿を見せていない。だが強い。そういう面子が集まれば……或いは最強のチームを作れるかもしれない!」 

池田「そういうことだし!」 

まこ「それで、その最強の助っ人とやらは!?」 

池田「既に電話で連絡を取ってある。じきにここに来る!」 

かじゅ「見たことのない強者……楽しみだ!」 

 やがて……鶴賀学園麻雀部の扉を開く者が現れる。 

池田「この気配……! 来たな……!!」

57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 12:04:48 ID:qi3B5FuV0
 扉の向こうから姿を現す――縦ロールッ!! 

??「ふふ……全国選抜とやら……この私に声を掛けないとは、どうやら三年代表の竹井久というのはとんだニワカのようだな!!」 

 その者、幼き頃から麻雀に親しみ、鍛錬を重ねし指には――マメすらできないッ!! 

まこ(これは……逸材じゃ……!! 誰じゃかわからんが……すごく……すごく……オーラを感じる!!!) 

かじゅ(こんな……これほどのオーラを全開に出来る者など……確かに全国の舞台ではお目にかかれない!!) 

小走「安心しろ、お前たち!! この小走やえが来たからには、お前たちに負けはないっ! 大船に乗ったつもりでいろ!!」 

まこ・かじゅ(す――凄まじい『噛ませ』のオーラッ!!!) 

池田「小走さんは三年生で、奈良県の伝統校・晩成で先鋒を務めていた方だ。 
 今年、清澄とともに大躍進をして伝説になった阿知賀女子を最も苦しめた――最初にして最大の敵。それが、晩成高校だし。ちょうど、清澄が風越に苦戦したように!」 

まこ(風越に苦戦した覚えはないんじゃが……) 

かじゅ(どうしよう……さすがにメンバーに入れる前に、とりあえず一局今いる面子で打ってみようか……) 

小走「ん、なんだ? 私じゃ不満か? ま、ニワカに私の王者の資質を見抜けといっても無理があるか。そう思って、お前たちが喜びそうな、わかりやすい土産を持ってきた」

59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 12:06:55 ID:qi3B5FuV0
池田「土産……ってなんですか、小走さん!?」 

小走「王者には王者の匂いがわかる……! 来る途中、この私が唯一、王者の中の王者として認めているお方を、ここに連れてきた!」 

池田「だ、誰ですか!?」 

小走「逸るな二年坊。弱く見えるぞ?」 

池田「は、はいっ!」 

小走「おっ、と……いらっしゃったようだな。どうぞー! こっちでーすっ!!」 

 小走に促されて、一人の人物が部室に現れる。 

 その人物を、当然、まこもかじゅも池田も知っていた。 

 否、今年のインターハイに関わる者で、彼女を知らない者などいないだろうッ! 

??「えーっと、なんて言っていいか……」 

 王者の中の王者……それ即ち、白糸台高校麻雀部の――!! 

菫「私ですまんな」 

 弘世菫ッ! 王者の中の王者! 白糸台のシャープシューター!! 

かじゅ「いやいやいや! そんなことは全く……! こちらこそ本当になんか申し訳ない!」

61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 12:11:09 ID:qi3B5FuV0
菫「ああ……本当に、大丈夫。えっと、清澄の染谷さんは……先日はどうも。それと、鶴賀の加治木さんと、風越の池田さんでよかったか。 
 その、学年対抗戦の話は私も聞いてる。話を聞いたときから四チーム目はどうするのかと気になっていたが、なんだか、やはりというか、大変そうだな」 

かじゅ「ありがとうございます。全国区の有力選手はほとんど他チームが押さえていて……弘世さんのような力のある人に協力してもらえて……本当に嬉しいです」 

菫「あ、いや……そのことなんだが……」 

かじゅ「なんでしょう?」 

菫「私は、今回の対抗戦は遠慮しておくよ」 

かじゅ「え……?」 

小走「弘世さん、そんな……!」 

菫「代わりと言ってはなんだが、まあ、身近に出たそうなやつがいたので、連れてきた」 

かじゅ「え……? あの……一応心の準備をしておきたいので先に聞いておきます。それは……誰ですか?」 

菫「それはだな……」 

 そのとき! 麻雀部の部室に、夏だというのにコートを着てマフラーを巻いて手袋をつけた不審人物が入ってきたッ!! 

??「寒い……」ガタガタガタ 

小走「ああっ! お前! あいつの姉!!」 

宥「寒いよ……寂しいよ……私も……仲間にいれて……」 

 そう言い残して、宥はばったりと倒れた。

62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 12:14:18 ID:qi3B5FuV0
まこ「こいつは阿知賀の松実宥……? そういえば、白糸台と同じで、阿知賀も三年は除け者じゃったのう」 

かじゅ「なるほど……さすが弘世さん、渋い人選です。私も機会があって対局したことがありますが、松実宥さんなら申し分ありません」 

菫「ん、ああ、まあ確かに彼女は私も強いと思うが……しかし、助けなくて大丈夫か?」 

小走「おい池田、なんか毛布とかもってこい!」 

池田「え!? は、はいっ!」 

 小走にパシられて従順に走り去っていく池田。ややあって、足音が戻ってくる。 

まこ「ん……風越の、えらく早いな」 

 ぐったりとしている宥を看ていたまこ、顔を上げる。 

??「どーも。ここが学年対抗戦の混成チームの事務所でええんか?」 

??「あの……先輩? そろそろ事情を説明してくれませんか? これはなんの罰ゲームなんですか?」 

 足音の主は池田ではなかった。関西弁を話す彼女たちは――!! 

まこ「あんたら……姫松の?」 

末原「正解や、清澄の染谷まこ。うちは姫松の大将をしとった末原恭子。こっちは先鋒の上重漫。 
 で、混成チームの代表者にお願いがあって来たんやけど……えーっと……この倒れとるんは……? もしかして阿知賀の松実宥……? と……白糸台の弘世菫!? …………と誰?」 

小走「ふん、私を知らんとは底が知れる。ニワカにもほどがあるな!」 

末原「はあ?」

64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 12:17:37 ID:qi3B5FuV0
かじゅ「ああ、なんでもない! なんだかごちゃごちゃしていてすまないな。皆さんはるばる長野まで来てくれて疲れているんだ。 
 それで……どこから話せばいいのか……。一応、私が混成チームの参謀をしている、鶴賀学園の加治木ゆみだ」 

末原「おう、よろしくな。えっと、鶴賀の加治木……ああ! 知っとるわ! 長野の県大会で宮永咲と戦っとった三年やん! 
 いやービデオで見させてもろたわー! 親近感やわぁ……大将戦はごっつーメゲるやろー? そっちも天江衣と宮永咲で魔物二人やもんなー! 
 あ、そういやさっき、大将戦に出てたもう一人――ニャーとか言う変な子とすれ違ったわ。あっちは全然気付けへんかったけどな」 

かじゅ「それで、末原さん、お願いというのは?」 

末原「せやせや。あんたら混成チームにな、この子を差し上げに来たんや」 

漫「ええっ!? 末原先輩!? なに言うてはるんですか!?」 

末原「混成さんはきっと人手不足やろー思てな。はるばる大阪から持ってきてん。お願いやから受け取ってーな」

かじゅ「それはもう! 喜んで! やったぞ清澄の、まさか姫松から二人もうちに来てくれるなんて!」 

まこ「ほうじゃな! これはひょっとするとひょっとするかもしれんのう!」 

末原「え……? あ、いや、うちは……」 

漫「先輩……一緒とちゃうんですかー? ようわからんですけど、どうせ麻雀やるんやったら……うち末原先輩と一緒やないと嫌ですわー……」 

末原「うーん……」

65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 12:19:58 ID:qi3B5FuV0
かじゅ「末原さん……私からも頼む。実は……私もあなたに親近感を持っていたんだ。準々決勝では清澄を応援しつつ、こっそり姫松も応援していた」 

末原「ホンマかいなー」 

かじゅ「魔物退治は確かに疲れる。心が折れそうになる。でもそれ以上に……」 

末原「……オモロイねんな」 

かじゅ「……じゃあ!」 

末原「ええやろ。加治木さん、あんたとは気ぃ合いそうや。学年対抗なんてもんに興味はあらへんかったけど、魔物退治なら付き合うたる。 
 なんや、結局ミイラ取りがミイラっちゅーか、こんなことなら生贄をあと二人も用意せんでよかったかもしらんなー」 

菫「生贄……とは?」 

かじゅ「二人も?」 

末原「せや。魔物退治にうってつけの面子、ちょーっと来るついでに拾ってきてん。うちの漫ちゃんと、もう二人。今は旅の疲れで保健室で寝とるけどな」 

かじゅ「一体誰なんだ……その二人というのは」 

末原「うちが連れてこれんのなんて大阪人だけや。ただ、姫松やない。北の大阪代表や」 

まこ「千里山女子……!!?」 

末原「そゆことや。ま、期待してくれて大丈夫やで。うちよりもずーっと強い人らやから」

66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 12:22:42 ID:qi3B5FuV0
 と、部室の外からバタバタと足音が聞こえてくる。全員が入り口のほうに振り返る。部室に走りこんできたのは、池田。その手には、毛布。 

池田「も、毛布もらいに保健室に行ったら……なんか関西弁の女が二人でいちゃついてたし……!!」 

 息を切らす池田。その後ろから近付いてくる、痴話喧嘩の声。 

??「アホ、本気で心配したやんか! 貧血の真似ってなんやねん!」 

??「せやからごめんてー。それに疲れてたのはホンマやもん。ほんで、膝枕してもらおー思て」 

??「思て、やあらへん。もう二度と膝は貸さん!」 

??「えええ!? それだけは堪忍してや!」 

 池田の背後から現れた、夫婦漫才コンビ――!! 

末原「どや、加治木さん? 大物やろ?」 

かじゅ「ああ……これは驚いた!!」 

怜「あっ、どーもよろしくです。千里山の園城寺怜いいます」 

竜華「同じく、清水谷竜華や。うちの怜がやっぱ対抗戦出たい言うから連れてきました。 
 って……うわっ!? 白糸台のシャープシューター!? えらいビッグネームがおるやん!! 誰や、混成なんて余り者集団やから大活躍できるゆーたの!」 

末原「うちうち」 

菫「あ……いや、私は混成チームには参加しない」 

竜華「なんや、そうなん?」

67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 12:25:47 ID:qi3B5FuV0
かじゅ「弘世さんは、松実宥さんを紹介するために、ここまでいらっしゃってくれたんだ」 

怜「松実宥ってあの阿知賀の松実宥……? どこにおるん――って、これか!? この毛布の塊か!!」 

菫「あ、あの……」 

竜華「そっかー。白糸台と組むんもそれはそれでオモロい思たけどなー。なんや、王者はこういうお祭りは嫌いなん?」 

菫「いや、そのだな……」 

かじゅ「どうしました、弘世さん?」 

菫「とりあえず、重要な勘違いを一つだけ訂正させてほしい」 

かじゅ「はい」 

菫「小走さんに拉致された私が連れてきた私の代わりというのは、松実宥さんではない」 

かじゅ「と……言いますと?」

70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 12:27:19 ID:qi3B5FuV0
菫「私のチームメイトがどうしても対抗戦に参加したいと駄々をこねてな。一緒に連れてきたんだ。 
 で、ちょっと寄り道すると言って途中で分かれて……そろそろ来るはずなんだが……もしかすると道に迷っているのかもしれん」 

まこ「弘世さんのチームメイトで……道に迷うって…………まさか!!」 

菫「ん? なんだ、清澄のも迷子体質なのか?」 

かじゅ「………………弘世さん、その、改めて聞きますけど、あなたの代わりに来る人というのは、一体誰なんですか……?」 

菫「ああ、たぶん、みんな知ってるやつだと思うが――」 

 菫は、その場にいる全員を見回してから、言った。 

菫「宮永照だ」 

 一方その頃、長野某所――。 

照(うう……ちらっとでいいから咲に会いたかっただけなのに……ここ……どこ?) 

 インターハイチャンピオン――宮永照は涙目でさ迷っていた。

71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 12:32:27 ID:qi3B5FuV0
@全国各所 

「私が……全国選抜に?」 
「面白いっすね。乗ったっす」 
「一年選抜に!? 私を? うっそマジでー? なんでー?」 
「一年選抜!!? ホンマですか!? これ夢? 夢じゃないですよね!?」 

「ええええっ! 二年選抜!? わ、わた、私なんかでいいんですか!?」 
「……選抜……選ばれてしまった……」 
「えええ、うちがですか? それは……もう、やります! やらせてください!」 
「はあ……それホンマでっか? まあ、ええ機会やとは思てましたから。ほな、よろしくです」 
「わっ、本当に誘われちゃった!? どど、どうしよう……!」 
「ま、やるだけのことをやろうよ」 

「部長、私って二年ですけどよかですかね……?」 
「よかよか。それくらいの無理はねじ込むけん」 

 こうして、全国選りすぐりの猛者四十人が東京に集う――!!

72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 12:35:54 ID:qi3B5FuV0
 インターハイ会場。実況室。 

すばら「さあ!! 始まりましたっ! 全国選抜学年対抗戦!! 一週間の準備期間を経て、ついにここ、東京・インターハイ会場にて開催と相成ります!! 
 あっと、申し遅れました! 私はこのたび『声』を買われて実況を務めます、新道寺高校二年、花田煌です! 以後、よろしくお願いします!! すばらっ!」 

すばら「さて、今回の競技ルールですが、基本的にはインターハイと変わりありません。ただし、参加者は倍の十人。 
 先鋒戦から大将戦までの各対局を、二名で半分ずつ行う形式となります。要するに、各戦の前後半で選手が変わるということです!」 

すばら「では、早速選抜選手の発表といきましょう……とその前にっ! 今日は解説として各学年から一名ずつ計三名の方をお呼びしております! 
 まずは三年生からこの方、白糸台のシャープシューター! 弘世菫さんっ!」 

菫「弘世菫です。本日はよろしくお願いします」 

すばら「弘世さんは、注目している選手はいますか?」 

菫「とりあえず、うちの一年坊がはしゃぎ過ぎないか心配です」 

すばら「なるほどっ! 後輩を見守るために解説を引き受けてくださったのですね。すばらな先輩心です!」 

菫(同学年にも心配なやつはいるが……)

73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 12:38:42 ID:qi3B5FuV0
すばら「続いては二年生。龍門渕高校から、卓の流れを操る男! 井上純さん!」 

純「井上純だ。まず言っておく、オレは女だ」 

すばら「井上さんは、注目している選手はいますか?」 

純「ま、オレもそっちの弘世さんと同じで、チームメイトの動向が気になるな。あと、何人か全国区じゃない長野の面子が混じってるようだが……そいつらが全国レベルを相手にどう戦うのかも、オレ的には見所だ」 

すばら「主催が清澄さんだからというのもあるのでしょう、確かに今回は全国選抜と言いつつ長野県勢が多数を占めてますね。なぜか臨海や有珠山からは一人もエントリーされていませんが、それについてはどう思いますか?」 

純「臨海の面子はのきなみ帰国中、有珠山も有珠山で外国みてえなもんだから仕方ねえだろ」 

すばら「北海道のみなさんすいませんっ!! さて、解説最後の三人目を紹介するといたしましょう。初々しい一年生です。晩成高校より、岡橋初瀬さん!」 

初瀬「初瀬です。なんで呼ばれたのかわかりません。でも頑張ります」

74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 12:41:16 ID:qi3B5FuV0
すばら「晩成高校というと、昨年までずっと奈良県の代表だった強豪校ですね!」 

初瀬「はい。今年は阿知賀に負けてしまいましたが、伝説はそう何度も起きません。来年は晩成が奈良県王者に返り咲きます」 

すばら「さて、そんな晩成高校からは一名だけエントリーされていますが、そのことについて何かコメントはありますか?」 

初瀬「たぶん……私が憧から聞いた話をうっかり言っちゃったからだと思います。 
 出るって聞いたときはびっくりしましたけど……でも、先輩なら全国区の人たち相手でも勝てるって信じてます! 
 あ、もちろん、憧や穏乃さんの活躍も、同じ一年生として期待しています!」 

すばら「同じ高校の先輩と、同じ学年の友人……もし両者が直接戦うことになったら、どちらを応援しますか?」 

初瀬「もちろん、先輩を応援します!」 

すばら「言い切りました! すばらな迷いのなさだと思います! 以上、解説の弘世さん、井上さん、初瀬さんでした!!」 

菫「じゃあ花田さん、そろそろ選手の発表をお願いします」 

純「みんな待ってるぜ」 

すばら「わかりました! それでは行きましょう、まずは一年選抜チームからっ!! 以下の十名となっております!」

75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 12:42:25 ID:qi3B5FuV0
@一年選抜チーム 

 宮永咲、原村和、片岡優希(清澄) 

 南浦数絵(平滝) 

 東横桃子(鶴賀学園) 

 高鴨穏乃、新子憧(阿知賀女子) 

 大星淡(白糸台) 

 二条泉(千里山女子) 

 森垣友香(劔谷)

77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 12:47:29 ID:qi3B5FuV0
すばら「パッと見た感じでは、順当にインターハイで活躍した一年生を集めてきたという印象を受けます。弘世さん、いかがでしょう?」 

菫「私も同じ感想です。ただ、何名か長野の選手が混じっているようですね」 

すばら「南浦選手と東横選手ですね。井上さん、何かご存知ですか?」 

井上「東横ってのは、県大会でうちの龍門渕透華と清澄の原村和を相手に区間一位を取った鶴賀の隠し玉だ。 
 南浦ってのは個人戦だけに出てきたやつだな。確か、福路、原村、宮永咲、竹井に次いで五位だったはずだぜ」 

初瀬「南浦というと、プロの南浦選手を思い浮かべますね」 

井上「ああ、なんか孫らしいって噂だな」 

菫「ほう……」 

すばら「いずれにしても強力な選手であることに間違いはないようです。これは期待が高まりますね。では、二年選抜チームの発表といきましょう! こちらの十名です!!」

78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 12:48:03 ID:qi3B5FuV0
@二年選抜チーム 

 天江衣、龍門渕透華(龍門渕) 

 妹尾佳織(鶴賀学園) 

 松実玄、鷺森灼(阿知賀女子) 

 渋谷尭深(白糸台) 

 神代小蒔(永水女子) 

 荒川憩(三箇牧) 

 愛宕絹恵(姫松) 

 船久保浩子(千里山女子)

80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 12:51:31 ID:qi3B5FuV0
すばら「見事にビックネームが揃いましたね!」 

初瀬「天江衣選手、神代小蒔選手、荒川憩選手ですよね。去年、私は中学生でしたが、あんなに興奮したインターハイは初めてでした」 

菫「火力の高い選手と手堅い選手の二種類に大別できる気がしますね」 

井上「オレは安定したやつと不安定なやつの二種類に見えるけどな」 

すばら「ふむ、不安定……といいますと?」 

井上「永水の神代小蒔は確かに強いが、打ち筋にブレがある。阿知賀の松実玄も諸刃の剣みたいなもんだし、うちの龍門渕透華もデジタル派のくせにムラっ気たっぷりだ。 
 極めつけは、鶴賀の妹尾香織」 

初瀬「東横選手と同じ高校の、長野の選手ですよね。どういった方なんですか?」 

井上「簡単に言えば、ド素人だ。県大会には人数合わせで参加していた」 

菫「ド素人って……よくそんな選手をこの選抜対抗戦に起用しましたね、龍門渕さんは」 

井上「ま、理由は見てりゃわかるし、或いは、わからずに終わるかもしれねえ」 

すばら「非常に意味深な発言が飛び出しましたっ! 気になるところですが、先に進みましょう! お次は三年選抜チームの発表!! こちらの十名です!!」

81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 12:53:11 ID:qi3B5FuV0
@三年選抜チーム 

 竹井久(清澄) 

 福路美穂子(風越女子) 

 愛宕洋榎(姫松) 

 江口セーラ(千里山女子) 

 石戸霞、薄墨初美(永水女子) 

 白水哩、鶴田姫子(新道寺女子) 

 小瀬川白望、姉帯豊音(宮守女子)

82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 12:54:33 ID:qi3B5FuV0
すばら「いやはや……ハンデを背負ってなお、この層の厚さ! さすがの最高学年(まあ姫子さんは二年生なんですけど部長と一心同体だから三年生みたいなもんですよね!!)ですっ!! すばらっ!!」 

初瀬「ハンデってなんですか?」 

すばら「インターハイの団体戦決勝に出た三年生は選抜チームに入れない、というハンデです。ただし、代表の竹井選手は例外となりますが」 

初瀬「あっ、だから弘世さんがこちら側にいらっしゃるんですね!」 

弘世「ま、ハンデなんてあってもなくても私は傍観しているつもりでしたが……」 

井上「しかし、改めて眺めると本当に隙のねえ面子だな。なんつーか、例えば強さランキングってのがSからEまであったとして、ランクAの選手だけを集めましたって感じだ」 

すばら「このチームを崩せる隙があるとしたら、どこでしょう?」 

初瀬「ランクAの人たちが揃っているっていうなら、それを超える、ランクSの人たちが鍵、ですかね?」 

菫「いや、それはどうでしょうか……」 

すばら「弘世さん、何か?」

84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 12:56:38 ID:qi3B5FuV0
菫「私見ですが、このチーム編成は下級生への挑戦状なんだと思います。全国から選りすぐったランクAの集団――言い換えれば、各チームを牽引する主将・エースの集まり。 
 このチームは、下級生にとって一つの壁なんだと思います。ラインと言ってもいい。それを超えられなければ、全国に出るようなチームを引っ張っていくことはできない。 
 だから、なんとかして打ち倒してみろ――そんな後輩へのメッセージが読み取れます」 

井上「なるほどな。言われてみると、見事に各校の顔みたいなやつらが集まってやがる」 

菫「ま、そんな感じです。というわけで、私はむしろランクAに届かない――ランクB以下の選手たちが、いかに『先輩』という牙城を崩せるのか。 
 そこに、このチームを倒す鍵があると思います」 

すばら「弘世さん、すばらな解説、ありがとうございました! やはり、三年生のことは三年生が一番よくわかっているんですね!」 

菫「ああ、じゃあ、わかるついでにもう一つ」 

すばら「なんでしょう?」 

菫「このチーム編成からは、何よりも三年生たちの『絶対に後輩には負けたくない』という意地が感じられます。要するに、三年生が一番ガキっぽいということです。 
 チェスの駒が全部クイーンだったらいいのに、って考える子供みたいなもんですよ。いや、実際よくこんな飛車角だらけのチームを作ったと感心しています」 

すばら「なるほど! では、綺麗に落ちたところで、最後のチームを発表いたしましょう。今回の全国選抜学年対抗戦の影で蠢いていたアウトロー集団! 
 混成チームの十名です!!」

85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 12:57:29 ID:qi3B5FuV0
@混成チーム 

 染谷まこ(清澄) 

 池田華菜(風越女子) 

 加治木ゆみ(鶴賀学園) 

 宮永照(白糸台) 

 松実宥(阿知賀女子) 

 園城寺怜、清水谷竜華(千里山女子) 

 末原恭子、上重漫(姫松) 

 小走やえ(晩成)

86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 13:00:23 ID:qi3B5FuV0
井上「とりあえず、晩成の小走やえってのは何者なんだ?」 

初瀬「小走先輩は、我が晩成の先鋒を務めていました。打ち筋はスタンダードと言いますか、王道を貫くタイプです。 
 また、とても経験豊富な方で、場面によって打ち筋を変化させる、といった柔軟性にも優れています」 

菫「私は、風越女子の池田華菜選手、それに鶴賀学園の加治木ゆみ選手について聞きたいですね」 

井上「池田も加治木も、県大会の大将戦で清澄の宮永咲とうちの天江衣を相手取った選手だ。負けこそしたが、あの魔物どもと戦って心が折れなかった――そのメンタルの強さは全国レベルだと思うぜ。 
 池田は猪突猛進な高火力タイプで、バカだ。加治木は変幻自在なオールマイティ雀士で、切れ者だな」 

すばら「どなたも実力は十分ということですね!」 

菫「実力で言うなら、阿知賀の松実宥選手は非常に安定しています。清澄の染谷まこ選手も隙のない良い打ち手です。私は先のインターハイで二人と卓を囲んみました。とても手強かったです」 

初瀬「そう言えば、これで清澄高校、阿知賀女子学院、千里山女子高校は、レギュラーの五人が全員どこかのチームに選抜されたことになりますね。次に多いのは、姫松の四人ですか」 

菫「清澄・姫松、阿知賀・千里山は、準々決勝、準決勝と、都合二度戦っていますからね。なにかと因縁めいたものがあるんでしょう。うちと新道寺みたいなものです」 

すばら「その節はどうもでした」 

菫「ああ、花田さんのお気持ちはわかりますよ。公式戦であいつと二連戦というのは、かなりのプレッシャーだったでしょう」 

すばら「いえ、光栄なことです。あの方と二度も戦えたという事実は、私の麻雀人生の中でずっと輝き続けると思います。 
 ……ということで、いい加減、このチームで一際目立つあの方について触れましょうか!!」 

菫「宮永照か」 

井上「宮永照だな」 

初瀬「宮永照選手ですね」

88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 13:03:13 ID:qi3B5FuV0
すばら「皆さんに率直に聞きます。全国王者・宮永照を擁する混成チームが、他の学年選抜を『喰う』可能性は、どれくらいあると思いますか?」 

初瀬「私には異次元過ぎてなんとも……」 

井上「オレは、まず混成チームそのものがけっこう強いと思うぜ。少なくとも、当初想定していただろう噛ませ犬的なチームとは程遠い。 
 そこにあの宮永照が加わってるんだ。他学年の選抜チームは、せいぜい足元をすくわれないように気をつけたほうがいいだろうな」 

すばら「弘世さんは、いかがですか?」 

菫「私は、もちろん照の存在は大きいと思いますが、絶対ではないとも思っています。 
 現に私たち白糸台高校は清澄高校に破れたわけですから。照がいれば勝てるなんて、そんなことは信じてはいないですよ。 
 ただ、一つ言わせてもらえば……」 

すばら「なんでしょう?」 

菫「照と同卓することになる人間は、死線をさ迷うことになります。お気をつけて」 

すばら「おっしゃる通りですっ!!! 冗談抜きで死に掛けますからっ!!!」 

菫「以上」 

すばら「はい! ありがとうございました! それでは、オーダー発表までもうしばらくお待ちください! 全国選抜学年対抗戦、先鋒戦は、これから一時間後となります!!」

90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 13:07:24 ID:qi3B5FuV0
 全国選抜学年対抗戦・開会式 

 インターハイの組み合わせ抽選会が行われたステージ。 

 壇上には、実況の花田。そして各チームの代表者の計五名。 

 フロアには、残りの対抗戦メンバー、解説の面々、その他、対抗戦には参加しないがチームメイトを応援しに来た強豪校のレギュラー……総勢六十人ほどの雀士たちが、思い思いに集まってそれを眺めている。 

すばら「皆様お待たせいたしましたぁ!! 各チームオーダーが出揃った模様です! 間もなく先鋒戦開始となります!! 
 がっ!! その前に各チームの代表からご挨拶ですっ! まずは……どなたから行きましょう!?」 

かじゅ「じゃあ……トリになる前にさっさと終わらせておくとしよう」 

すばら「お願いしますっ!!」 

かじゅ「えー……私たち混成は、最初はただの寄せ集めだった。が、なんの因果か全国の有力選手が次々に加わり、ついには宮永照を獲得するにいたった。正直、持て余している」 

かじゅ「先のインターハイで、私は長野の鶴賀学園の大将として出場した。 
 新設校ということもあり、私ともう一人の三年を中心に、集まってくれた面子だけで県予選を戦い、ついに私たちは決勝まで駒を進めた。 
 出来すぎもいいところの結果だ。私は、実際、決勝に出れただけで満足した。が……しかしだ!」 

かじゅ「あのときも……そして今も、こうして戦いの舞台に立つと、欲が出る。勝ちたいと、強者を打ち負かしたいと、本気で思う!」 

かじゅ「私たちは、学年対抗とやらに興味はない! ただ己が勝つためにここに来た! 鶴賀は県予選の決勝で破れたが……今日――この混成チームでは勝たせてもらう! 
 以上、混成チーム代表、加治木ゆみだ!!」

91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 13:09:43 ID:qi3B5FuV0
怜「ひゅー! よう言ったでー加治木代表ー! うち病弱やけど任しときー!!」 

竜華「やから、あんたはさり気なく病弱アピールすな!!」 

末原「やめやアホ。加治木さんがせっかくええこと言うたのに、あんたらのせいで関西勢以外全員引いとるやん。チャンピオンなんかぴくりとも笑てへんで」 

漫「先輩、それ元々ちゃいます?」 

照「………………」 

宥・小走「…………ぶふっ!!」 

まこ・池田(うわっ! 奈良の人たち今チャンピオンを笑った!!?) 

久(ふふ……さすがね、ゆみ。もうチームメイトから信頼を得てる。やっぱりゆみは敵に回してこそだわ) 

美穂子(あ、上埜さん……楽しそう。加治木さんカッコいいからなぁ……) 

モモ(先輩……学年対抗には興味ないって……私は……強くなった私を先輩に見てほしくてここに来たのに。 
 先輩は混成チームで麻雀するほうが楽しんスか……? 宮永照みたいな……鶴賀より強い仲間に囲まれてるほうが欲張れるんスか……? 
 そんなの……私は認めたくないっす……!) 

かおりん(加治木先輩が敵かぁ……。部内では何度も対局してきたけど、今日は練習とは違うんだ。わたし……頑張らなきゃ!) 

すばら「加治木ゆみさんの痺れる挨拶でした! さて、二番手はどなたでいきましょう!?」 

久「私でいいかしら?」 

すばら「どうぞっ!」

95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 13:13:38 ID:qi3B5FuV0
久「どうも皆さん。三年選抜代表の竹井久です。三年も前の話だけど、上埜久のほうが通りがいい方もこの中にはいるのかしら? 
 いえ、やっぱり竹井よね。なんたって、全国優勝したチームの主将で、唯一の三年生なわけだから……」 

まこ(おお、煽っとる煽っとる) 

咲(部長遊んでるなー……) 

久「ま、とは言うものの、この中には私より強いって自信満々の一、二年生もいっぱいいるでしょうね。けど……強い弱いだけで麻雀をしていられるのなんて今のうちだけなのよ? 
 一、二年生のみなさんはまだわからないと思うけど、三年生になるっていうのはね、あなたたちが思ってる以上に大変なことなの。 
 自分自身の引退も近い。後輩は言うことを聞かない。先生や他校の人とも付き合わなくちゃいけない。みんなの期待にも応えなきゃいけない……」 

久「かく言う私もインターハイの準々決勝ではプレッシャーに負けたわ。自分らしさを見失った。ま、一人で立て直したけどね」 

久「チームを代表するということがどういうことか。チームを率いるということがどういうことか。チームを背負うということがどういうことか。 
 それを、これから先輩になっていく――今はまだ後輩であるあなたたちに教えてあげるわ。そのために今日は全国から最高のメンバーを集めたつもりよ。 
 もちろん負けてあげる気はさらさらない。全力で叩き潰してあげるから、あなたたち死ぬ気でかかってきなさいっ!!」 

優希「上等だじぇえええ部長! 絶対負けないじょー!!」 

穏乃「うおおおお! なんか燃えてきたあああ!!」 

憧「あ、なんかあの二人似てる。中身が」 

和「! やっぱり憧もそう思いますか!?」 

久「以上! 三年選抜代表、清澄、竹井久でした!!」

98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 13:17:24 ID:qi3B5FuV0
豊音「わー竹井さーん! ちょーカッコいー! サインちょーだいー!」 

シロ(うわーダルい……って思ってるの私だけ……?) 

美穂子(上埜さん……素敵です……!) 

洋榎(久のやつ言うことだけは一丁前やの。ま、うちレベルともなれば言わずとも背中で語れるんやけどな) 

セーラ(清澄の三年はたった一人……ここまで来るのは大変やったんやろなぁ。もし……うちに怜や竜華、それに他のみんながおらんかったら……あかん。全国どころか府大会で負けてまう気ぃするわ) 

霞(あらあら……なんだか青春っぽくていいわね。うちだと普通の先輩後輩関係は作れないから、ちょっと羨ましいわ) 

初美(清澄の部長は何を言っても裏がある気がしてならないですよー) 

哩(清澄、竹井久か。五人しか部員がおらん小さなとこの部長やのに……しっかりしとんなぁ。公式戦で一度打ってみたかったと) 

姫子(さすが……全国優勝するようなチームの部長ともなると……貫禄があるとです。ま、うちの部長ほどやないですけど……!!) 

すばら「心に沁みる挨拶をありがとうございました! この不肖・花田、戦いには参加できませんが、先輩方の熱き思いを実況席から受け取りたいと思いますっ! 
 では、続いては――」 

 瞬間、開会式の会場が、闇に包まれるッ!! 

すばら「すばっ!? えええ!? なんでいきなり停電…………って、うええええええ!???」 

 闇の中、光を放つ金色の魔物が、一人ッ!! 

衣「前座大儀。下がっていいぞ、清澄の……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 13:22:46 ID:qi3B5FuV0
久(あらあら、また一段と張り切ってるわねぇ……) 

透華(衣……楽しそうでなによりですわ) 

咲(すごい……まだ午前中なのに……!) 

淡(へえー……) 

 衣、壇上の中央に進み出て、仁王立つ。 

衣「二年選抜代表……龍門渕高校、天江衣だ」 

すばら「え……えっと、ど、どうぞっ!!」 

衣「初めに断っておくと、衣は二年生だが、先輩はいない。後輩もいない。なぜなら、衣たち龍門渕高校麻雀部は、元々校内にあった麻雀部を力で圧倒し、追い出し、その上に新しく作り上げたものだからだ。 
 ゆえに、衣は学年を超える繋がりというものが、よくわからない」 

衣「そんな衣は他の三チームに対してなんの言葉も持たない。だから、ここから先は、敵ではなく味方――二年選抜の全員に向けた言葉になる……」 

衣「お前たち……今日は好きなように打つがいい。結果がどうなっても誰も何も咎めることはない。衣が願うことはただ一つ。 
 全員が、己が納得できるような麻雀を打ってほしい! 最後まで自分の麻雀を貫いてほしい! それだけだっ!! 
 学年に拘る者は拘ればいい。勝敗に拘る者は拘ればいい。みな……それぞれにこの対抗戦に思うところはあるだろう。その思いを――全力でこの戦いにぶつけてほしい!」 

衣「その結果……! もし我ら二年選抜が勝つようなことがあれば――それは全員で勝ち取った勝利だ! 各々胸を張って母校に帰るがよかろう!! 
 いいか、お前たち!! 今日は祭りだッ!! 楽しんだ者が勝者ッ!! みな……今日は一緒に心ゆくまで遊ぼうではないかッ!!」 

 電気、復旧ッ! 拍手、喝采ッ!

102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 13:24:58 ID:qi3B5FuV0
かおりん「天江さんカッコいいです……!!」パチパチパチ 

小蒔「いいご挨拶でした……」パチパチパチ 

玄「なんかわからないけど感動した……」パチパチパチ 

灼「同じ学年とは思えない貫禄……」パチパチパチ 

憩「衣ちゃん、のっけからはしゃぎすぎやでー」パチパチパチ 

絹恵「なんやー天江さんってイメージとちゃうなー? ごっつええ人やん。浩ちゃんどう思う?」パチパチパチ 

Q「せやな。もっと唯我独尊な感じやと思っとったけど、ちゃんとうちらのことまで考えてくれてたんやな。意外や」パチパチパチ 

尭深(……さすが……)パチパチパチ 

衣「以上! 二年選抜代表、龍門渕高校、天江衣!」 

すばら「怒涛のご挨拶ありがとうございました! 私も仲間として聞いてみたかったところではあります! ええ、精進しますとも! 
 あっ、停電と発光には何もツッコみませんよ!! さて……最後になりましたが、一年選抜の代表挨拶をお願いします!」 

咲「あ……ああ、えっと、一年選抜代表、清澄の宮永咲です。ええ、本日はお日柄もよく……」

103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 13:30:20 ID:qi3B5FuV0
優希「咲ちゃん全然ダメだじぇ! マイク貸すじょっ! あーあー。えー!! 我は清澄高校一年、片岡優希! 先輩方みたいに長々話す気はないじょ! 
 言いたいことは一つ! 我ら一年最強! 上級生は全員顔を洗って待ってるといいじぇっ! はい、じゃあせっかくだからみんな言いたいこと言えばいいじょっ!」 

 優希、マイクがワイヤレスなのをいいことに、壇上を飛び降りて、フロアを駆け抜ける! 

 一年選抜、次にマイクを受け取ったのは――! 

南浦「え……? あ、えー。私のことなど全国区の方々は誰も知らないと思う。しかし、今日私と戦う者は、きっと一生忘れられない名になるだろう。 
 平滝高校、南浦数絵。……はい、どうぞ」 

友香「えっ? これ全員回すパターンでー? あーあー。劔谷高校の森垣友香です。よろっ! 
 えっと、私が負けて劔谷が弱いみたいに思われるのは嫌なんでー、今日は一年というか劔谷を代表して、絶対に皆さんに勝ちたいと思いますんでー。ハイ、次あなたね!」 

泉「あーあー。どうも、千里山の二条泉です。千里山はレギュラーが全員この場におるんで、あんま滅多なことは言えないですけど、私も負ける気はありません。 
 特に三年生の方々にはインハイで苦い思いをさせられたので、きちんと借りを返すつもりでいます。以上です。えっと、あ、じゃあどうぞ……」 

憧「いや、すっごい恥ずかしいんだけどコレ……!? えっーと、阿知賀の新子憧です。えー、私は、自分が所属する阿知賀女子麻雀部の全国出場を、十年前と今年の二度で終わらせるつもりはありません。 
 なので、今の上級生がいなくなっても阿知賀が全国にいけるよう、これからも頑張っていくつもりです。先輩方は私の目標であり、超えなければいけない壁です。 
 今日はその壁に、体当たりでぶつかっていきたいと思います。できれば倒します。はい、シズ、パス!」 

穏乃「ううおおおおおおお!!! 二年生!! 三年生!! 一年生もっ!!! 今日は強そうな人たちいっぱいで興奮してますっ!!! 
 こんなところで勝てたらきっと気持ちいいだろうなああああ!! だから勝ちますっ!! 阿知賀、高鴨穏乃! えっと、次は……!」 

モモ「鶴賀の東横桃子っす。とにかく勝つっす。今日はそのためだけに来たっす。見ていてください……以上っす。じゃ、どうぞ」 

淡「やっほーい! 年寄りの雑魚ども! 私は白糸台の大星淡だよ!! お願いだから簡単にやられちゃわないでよねー? 
 みなさんせいぜい私を倒せるように頑張ってくださーい。そんだけー。じゃ、サッキー、戻すねー!!」

105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 13:32:38 ID:qi3B5FuV0
 淡、フロアから壇上目掛けてマイクをパス。マイクは放物線を描いて、綺麗に咲の手に収まる。 

咲(わー戻ってきたー……みんなの痛い視線と一緒にマイクが戻ってきたー……) 

 咲、少し漏れそうになる。助けを求めるように、和に目線を送る。 

咲「ごめん、和ちゃん、うまいこと収めて。お願い」 

和「はあ……わかりました」 

 和、少しうんざりしたような様子で、壇上へ。マイクを受け取って、いつの間にかピリピリと剣呑な雰囲気に変わってしまった会場内を見回す。 

和「えー、これは、この対抗戦の話が持ち上がったときから個人的にずっと気になっていて……今も黙って話を聞いていれば、三年生が強いだとか、一年生が強いだとか、二年生こそは……などと皆さんちらほら言われていますが……」 

和「そんなオカルトありえません」 

和「麻雀の強さと学年が比例するなんてことはないんです。差があるとしたら、純粋に経験の差でしかありません。 
 十分に経験があれば一年生でも強い人は強いですし、たとえ三年生であっても弱い人は弱いでしょう。それだけです。 
 もちろん、こんな一回限りの大会で強さの序列は決められません。これで勝ったからどうだということもないでしょう。ただ、もちろんやるからには負けるつもりはありません」 

和「名目が学年対抗戦であろうとなんだろうと、私はいつも通りに打って勝ちたいと思います。相手が何年生の誰であろうと関係ありません。 
 全力を尽くして戦いますので、どうか、皆さんよろしくお願いします。清澄、原村和でした」 

 ぺっこりんと頭を下げる、和。 

 しかし、場の空気は回復するどころか、ぴきりと凍りついていた。 

すばら「(和、相変わらずのエアーノーコントローラーっぷり! すばらくない!!)えっと………………じゃあもうさっさと先鋒戦を開始しましょうか!!? 
 選手のみなさんは一旦控え室に戻ってくださいっ!!」

106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 13:36:26 ID:qi3B5FuV0
@一年選抜控え室 

友香「みなさーん、お茶淹れましたんでー。飲むー?」 

淡「もらうもらうー」 

泉「ほな、うちもいただきます。おお、ええ香りですねっ!」 

憧「咲はどう思う? あの二人勝てそう?」 

咲「(いきなり呼び捨て!? 和ちゃんのお友達アグレッシブ!!)え……? うん、大丈夫だと思うよ」 

和「穏乃……さっきから何をやってるんですか?」 

穏乃「いや……この隅っこのほうから……いい匂いがするんだけど……あっ!! これだ!! うおおおおなんだこれ!! 見えないけどなんかぷにぷにしてる……!?」 

モモ「あの…………私の胸に何か用っすか?」 

穏乃「あっ!? 鶴賀のモモさんじゃないですか!! インターハイではお世話になりましたっ!!」

107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 13:38:06 ID:qi3B5FuV0
@二年選抜控え室 

玄「走っていっちゃったね。転ばないかな……?」 

小蒔「先鋒戦をモニターで見るなんて、ちょっと不思議な感じです!」 

玄「あ、それわかりますー!」 

Q「っちゅーか、あの二人が先鋒なんは勿体無い気がするなぁ。普通に大将でええやん」 

灼「まあ、先鋒に強い人っていうのはセオリーだから、間違ってないとは思うけど」 

憩「そんな細かいこと考えてるんとちゃうよ、どうせ早く遊びたいだけやねんて」 

かおりん「あの……インターハイを見てたときから気になってたんですけど、なんでいつもお茶飲んでるんですか?」 

尭深「…………ノーコメント」 

絹恵「コラそこ、ちゃんと応援しいや」

110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 13:40:28 ID:qi3B5FuV0
@三年選抜控え室 

久「みんな、このオーダーで不都合はなかったかしら?」 

美穂子「私は上埜さんの言うことに従います……たとえそれがどんなことでも////」 

洋榎「うちは文句ないで。先鋒もあの二人でええと思うしな」 

初美「私も問題ないですよー。どこに置かれても仕事はきっちりしますからねー」 

姫子「ばってん、竹井さん。むしろ竹井さん自身は大丈夫とですか? けっこう思い切ったオーダーですけど……」 

哩「思うところがあるんやろ。心配はしとらんけん、好きにしたらよか」 

霞「みなさんリラックスしてるわねぇ。あっ、鹿児島から持ってきたお土産があるのよ。どうぞ召し上がってー」 

セーラ「おおっ!! お土産やて!? さすが霞姐さんは気ぃ利くなぁー!!」 

霞「姐さん……? 同い年なんだけど……」ゴゴゴゴゴゴ

111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 13:43:57 ID:qi3B5FuV0
@混成チーム控え室 

まこ「本当にあの二人で大丈夫じゃろか。先鋒でトビ終了ってことはないと思うが」 

かじゅ「まあ……いくら全国クラスとは言え、半荘二回で十万点を削り取れる者は限られている。そのうち一人はうちにいるしな」 

照「…………」 

末原「さっきからチャンピオン全然喋らへんけど、もしかして人見知りしてはるの?」 

照「……………………」 

漫「先輩っ!! これ図星ですよっ! 顔真っ赤になってますやん!」 

怜「意外やなぁ。チャンピオンて外から見んのと内から見んのでこんなちゃうんや。あ、よく見たら膝が空いて……」 

竜華「あんた浮気か!? 早速浮気か!?」 

宥「あの……みなさん、そろそろ始まりますよ~」

112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 13:45:46 ID:qi3B5FuV0
すばら「それでは!! お待たせいたしましたぁ!! ついに全国選抜学年対抗戦、先鋒戦が始まります! 各チームのオーダーは以下の通りです!!」 

@一年選抜:片岡優希(清澄)・南浦数絵(平滝) 

優希「数絵、まずは私から行くじぇ!」 

南浦「わかった。トバなければ私がなんとでもする」 

@二年選抜:龍門渕透華(龍門渕)・天江衣(龍門渕) 

透華「ま、わたくしが様子を見てきますわ」 

衣「じゃー衣は後半からだなー!」 

@三年選抜:小瀬川白望(宮守女子)・姉帯豊音(宮守女子) 

豊音「はいはーい! 私、天江さんと打ちたいっ!」 

シロ「お好きにどうぞ……」 

@混成:池田華菜(風越女子)・小走やえ(晩成) 

池田「天江衣が後半か……なら、あたしも……!」 

小走「いや、池田、お前は前半に出とけ」

114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 13:50:05 ID:qi3B5FuV0
@実況室 

すばら「対局者は席についてください! ペアの方は、こちら実況席の隣に特別観戦室を設けておりますので、そちらへどうぞ!!」 

菫「へえ……そうなのか」 

純「場合によってはここに呼べるように、ってことか」 

初瀬「あ、私に言っていただければいつでも呼びにいきますね」

115: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 13:51:54 ID:qi3B5FuV0
@対局室 

東家:片岡優希(一年選抜) 

優希(知った顔ばっかりだじょ。残念……どうせなら初めてのやつをぶちのめしたかったじぇ!) 

南家:池田華菜(混成チーム) 

池田(惜しいな……天江が先鋒だっていうから借りを返せると思ったのに。ま、小走さんには小走さんの考えがあるんだろうし……とにかく目の前の敵を倒すし!) 

北家:龍門渕透華(二年選抜) 

透華(風越と清澄は……ま、いいですわ。宮守の三年――ひとまずはあなたが敵でしてよ!) 

西家:小瀬川白望(三年選抜) 

シロ(三人ともやる気満々かぁ……ダルいなぁ。清澄もまた起家……けど、あのときは神代がいたからな……それに比べると楽できるかな……?) 

 それぞれの思惑を胸に、意地とプライドを懸けた戦いが今――始まるッ!! 

すばら『先鋒戦、スタートですっ!!!』 

優希「そっれじゃー! 今日一発目のサイコロを回すじぇー!!」 

 先鋒戦前半――開始ッ!!

117: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 13:56:50 ID:qi3B5FuV0
@実況室 

すばら「さあ、配牌も終わり、一年選抜・片岡選手から第一打が放たれました!! とうとう麻雀が始まりましたね、弘世さん!!」 

菫「そうですね。対抗戦の話が持ち上がってからここまで……長かったです。やっと戦いが始まったと安心しています」 

純「まだ試合はほとんど動いてないけどな」 

すばら「井上さんは、この四人の中では、誰が最初に動くと思いますか?」 

純「いやいや、そんなのオレに聞くまでもないだろ。ここにいるやつは全員こないだのインターハイを見てんだろ? 最初に仕掛けるやつが誰かなんて、わかりきってることじゃねえか」 

すばら「これはこれは、失礼いたしました!」 

菫「決勝の先鋒戦前半――東一局、私は控え室から見ていましたが、いや、やられたと思いましたよ」 

純「あいつもあいつで大した化け物だからな。長野県の個人戦――予選は東場だけだったが……その結果がありありと物語ってるぜ。 
 こと東場に限れば、あいつは間違いなく全国トップクラスの打ち手だ」 

初瀬「あっ――! 今、点棒ケースを開きました! たぶん、千点棒を出すんだと思いますっ!!」 

すばら「おおおおっと!! 早くも試合が動きます!! 最初に仕掛けるのはやはりこの人ッ!! 一年選抜・清澄高校・片岡優希だああああ!!」

119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 13:59:39 ID:qi3B5FuV0
@対局室 

東一局・親:優希 

 六巡目 

優希「リーチだじぇっ!!」タァンッ 

シロ(んー、そろそろかなと思ってたけど、やっぱ来ちゃったか……) 

透華(きー! 目立ちやがって、ですわ!! 原村といい嶺上使いといい、清澄の一年は本当に腹立たしいですの!!) 

優希「対抗戦最初のリーチはいただきだじぇ!! そしてこの対抗戦――東二局は来ないッ! 
 最後のリーチも私がいただいて、一年が最強であることを世に知らしめてやるじぇ!!」 

 優希、トラッシュトークッ! 池田、苦笑ッ!! 

池田「いや……いくらお前が強くても、さすがにそれは不可能だし」 

優希「むっ……? 風越池田、いまさり気なく私のことを『強い』って言ったか?」 

池田「まあな。あたしがこんなことを言うのはアレだけど、お前ら清澄は普通に強いし。そりゃみんな認めてることだ。インターハイはマグレで優勝できるような大会じゃない。 
 そんなインターハイの優勝校で先鋒を務めて……チャンピオンとも立派に戦ったお前のことを、強くないなんて思ってるわけないし」 

優希「今日は妙に話がわかるじゃないか、池田! その通りだじょ! 私は強いんだじょ!! もっとちやほやされていいと思うんだじょ!」 

池田「ああ……ま、そうかもな」 

シロ(話してないで早くツモれって。いや、それとも……ツモる必要がない…………とか……?)

120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 14:05:14 ID:qi3B5FuV0
池田「けど悪いな、清澄の! お前の先制リーチはお預けだし! 東二局もすぐに来るし!! だから――今すぐその目障りなリー棒を引っ込めろし!!!」 

優希「は……?」 

池田「ロンッ!! 平和赤一……2000!!」 

優希「じょーーーーーー!!!?」 

シロ(ふーん……風越・池田……知らない選手だったけど、東場の片岡の速さを上回れるのか……長野は魔物の巣窟だなぁ) 

透華(池田華菜……衣相手の情けない姿ばかり見ていましたけれど、こうして戦ってみるとなかなか厄介な相手ですわねぇ……。負けちゃいられませんわ!) 

池田(我ながらダサい和了だなぁ……。いつもなら先制リーチが入っても和了り拒否して高めを狙うんだけど。 
 清澄の片岡……こいつにそれは通じないだろう。ここで和了っとかなきゃ……きっと先に和了られてた。それくらい東場のこいつはブレなく強い……けどっ! 華菜ちゃんはもっと強いんだし!!) 

優希(池田ァ!! やってくれるじぇ!! 東場でこのまま負けるわけにはいかない……すぐ巻き返すじょ!!) 

タ:98000透:100000白:100000池:102000

122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 14:08:27 ID:qi3B5FuV0
@実況室 

すばら「決まったああああ!! 学年対抗戦最初の和了りは――混成チーム先鋒・池田選手のダマ平和っ!!」 

純「セコくて地味な和了りだな」 

初瀬「池田選手は実は四巡目からテンパイしていましたよね。どうしてリーチをかけなかったんでしょうか?」 

菫「もっと高めを狙える……そう考えたんでしょう」 

初瀬「あ、いえ、それはわかるんですけど……。でも、あの形から狙える高めって要するに断ヤオですよね?」 

 池田手牌:二三四[五]六七45⑦⑧⑨②②:ロン3:ドラ③ 

初瀬「この手で六筒を待つくらいだったら、先制リーチを掛けて裏を狙ったほうが無難だと思います。 
 確かに断ヤオがつけばリーチツモで満貫に届きますが、今みたいに手替わりを待っている途中に和了り牌が出てきたら、せっかくの満貫もたったの2000点にしかなりません。 
 なら、リーチを掛けて3900を確定させておき、満貫は裏ドラ期待……少なくとも、私ならそう打ちます」 

純「初瀬さんの意見はもっともだな。筋は通ってるし、かなり現実的だとオレも思う。で、それに白糸台の三年生はなんと答える?」 

菫「初瀬さんの思う『狙える高目』と、池田選手の思う『狙える高目』が、同じだとは限らない」 

初瀬「えっ……? でも、一通や三色は面子を崩さないとダメだし……一盃口も遠過ぎますよ?」 

菫「いや、もっと簡単な方法でいいんですよ。手っ取り早く飜数を上げられる方法――例えば、雀頭にドラを重ねるとか、五索を赤ドラに切り替えるとかね」 

初瀬「そ、そんな都合よく引けますか?」

123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 14:11:34 ID:qi3B5FuV0
菫「さあ、どうでしょう。ま、仮に赤五索、六筒、三筒、三筒と都合よく引いたとしましょう。そうすれば、あの2000の手がたった四巡で断ヤオ平和ドラ二赤二――ダマッパネに化ける」 

初瀬「いや、確かにそうですけど……」 

菫「で、万が一一発ツモなんてことになれば、あっという間に倍満です。先制リーチで手堅く3900を狙うか、数巡待って最大16000をものにするか……池田選手は恐らく後者を狙っていたんだと思います。 
 『裏はめくらないでおいてやる』とか、そんなことを言いそうな顔をしていました」 

初瀬「信じられません……」 

菫「信じる信じないはまた別の話ですよ。ただ、自分の手がどれくらい高い手になるか、今見えている手にどんな可能性があるか――そういうイメージをどれだけ具体的に描けるかで、実力に大きな差が生まれます。 
 池田選手はたぶん、そういうイメージ力に優れた選手なのだと私は思いますね」 

純「言い得て妙だな」 

すばら「すばらっ!! たった一度の和了りを見ただけでかなり深いところまで切り込んでくれました!! これが白糸台高校のシャープシューター!! 目の付け所がシャープです!!」 

菫「初瀬さん、麻雀はより多く点を稼いだ者が勝つ競技です。あんまり早い段階で自分の手を見限っては手牌が可哀想ですよ。狙える高めはどんどん狙ったほうがいい」 

初瀬「勉強になります!!」 

すばら「さあ! そうこうしている間に東二局がじわじわ進行しております!!!」

127: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 14:15:58 ID:qi3B5FuV0
@対局室 

東二局・親:池田 

 七巡目 

優希(タコスチャージもばっちり……配牌も三色確定ドラ二……勢いは削られてない……でもあと一歩テンパイが遠いじょ)タンッ 

池田(清澄はまだ張ってないのか? それともダマで十分な手だとか……。ま、どっちだったとしても押せ押せだしっ!!)タンッ 

シロ(んー……清澄はそろそろ危ないかな……風越さんはまだ……龍門さんは……果たしてどう出るか)タンッ 

透華(さあさあ、いらっしゃいましっ! と……来ましたわねっ!! タンピンテンパイ……しかし、テンパイ即リーはさすがに早計もいいところ。 
 状況はまだ動くかもしれませんし、三色への変化も決して無茶ではない……。がっ!! しかし、ですわ!!) 

 透華のアホ毛、回転ッ!! 

透華(ここでリーチをしないわけにはいきませんわ。先制リーチにはそれだけの価値がありますの。それに、3900だってわたくしにとっては十分大きいですわ。今は満貫やハネ満は必要ない。 
 何より……このままダマで通して……もしなんの変化もなくロンでもしようものなら……さっきの風越とどん被りですわ!! しかも点数まで風越と同じ! 
 どうせ解説の純が『セコい』だの『地味』だのこき下ろすに決まってますの!! そんなことになるくらいなら……わたくしが『対抗戦初リーチ』をいただきますわよっ!!)タンッ 

 透華、力強く、捨て牌を曲げる! 

透華「リーチですわっ!!」スチャ

128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 14:18:21 ID:qi3B5FuV0
優希(じょーー!? 初リーチ盗られたじぇ!? でもこっちだってイーシャンテンだじょ。追っかけリーチしてやるじぇ!!) 

シロ「ポン」タンッ 

透華(一発消されたですわ!!) 

優希(ツモ飛ばされたじぇ!!) 

シロ(これで流れてくれればいいけど……そうはいかないか……?) 

 透華、ツモ牌を見て、歯軋り。 

透華(く~~~宮守の! なんだか手の平の上で転がされたような感じがしますわ! けど……まあ、もらえるものはもらっておきますの!) 

透華「ツモですわ。リータンピンツモ、裏は……なし。1300・2600ですの」パラララ 

シロ(うわ、和了られたか……これは一番ダルいパターンになりそうだな) 

優希(じょー……ツモさえ飛ばされなければ……!) 

池田(束の間のトップだったな。ま、清澄がいる以上、東場が安く早く回るんなら、それはそれで悪くない) 

タ:96700 透:105200 白:98700 池:99400

129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 14:21:46 ID:qi3B5FuV0
@実況室 

すばら「二年選抜・龍門渕選手! 手堅く5200の和了りで暫定トップに立ちました!! 
 これは先ほどの池田選手とは対照的に、龍門渕選手はテンパイ即リーしてきましたね。井上さんはチームメイトとして、この和了りをどう評価しますか?」 

純「ただ目立ちたかっただけだと思うぜ。間違いなく『対抗戦初リーチ』がしたかっただけだな。あと、ダマで和了ったらさっきの池田と被ると思ったとか。 
 ま、あそこは先制リーチがデジタル的にも正解だったんじゃねえの? 変化はできるが、現実的には期待値が低過ぎる。5200なら上出来だ」 

すばら「目立ちたい欲求とデジタルを両立した和了りということですね!」 

純「透華らしいっちゃらしいな」 

初瀬「あの、見てて一つ気になることがあったんですけど」 

すばら「はいっ、どうぞ!」 

初瀬「今の小瀬川選手のポンなんですが……あれは一発消しにしては少々雑ではなかったですか? あのポンで小瀬川選手はほぼ役がない状態になってしまいました。 
 普通、一発消しをするにしても、自分が和了れる形を残すと思うんですが……」 

純「役無しでも強引に鳴くことはあるぜ。相手にいい流れがいきそうだったら、オレは鳴く。ただ、これはオレだからできることであって、あんま一般的じゃない。 
 小瀬川ってやつも、オレ寄りの人間なのかもな」 

初瀬「流れ……オカルトですか。私は苦手分野ですね。うまくできる気がしません」 

菫「私もオカルトは苦手ですが、今の小瀬川選手の鳴きなら、理解できなくもないですよ」 

すばら「と、言いますと?」

130: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 14:24:22 ID:qi3B5FuV0
菫「いや、単純な経験則です。今の龍門渕選手の和了り牌――あれは元々片岡選手のツモ牌であり、同時に有効牌でした。 
 仮に、小瀬川選手の鳴きがなければ、イーシャンテンだった片岡選手は龍門渕選手の和了り牌を手牌に組み込んで、追っかけリーチに走ったでしょう。 
 小瀬川選手はむしろそちらを警戒していたんじゃないでしょうか」 

井上「ありえる話だな。実際、片岡と小瀬川はインターハイで対戦してる。東場の片岡を直に感じたことがあるなら、オカルトに頼らなくても張ってるか張ってないかくらいは経験的にわかる……かもしれねえ」 

初瀬「確かに、対戦しているうちに相手の癖や打ち筋が見えてくる、というのはわかる気がします。じゃあ、さっきの小瀬川選手は、過去の対戦経験から、片岡選手の放つ危険な気配を感じ取っていたんですね?」 

菫「そんなところだと思います。で、龍門渕選手のリーチが入ったところで、小瀬川選手はそれを利用することにした。 
 ツモ番を飛ばして片岡選手を焦らせ、他家のリーチというプレッシャーで以てペースを狂わせ、あわよくば流局に持ち込む。 
 流局であれば、役はなくとも形式テンパイさえ作っておけばマイナスにはなりません。ま、鳴いた直後に龍門渕選手が和了ったことについては、小瀬川選手も予想外だったのかもしれませんが」 

純「言われてみりゃ、和了った透華を面倒臭そうな顔で見てたっけな」 

初瀬「お二人とも……よく対戦者を観察していらっしゃるんですね」 

純「オレは得意だからな、そういうの。場の流れも読めるし」 

菫「対戦者をよく観察するのは勝負の基本ですよ、初瀬さん。私たちが戦っているのは機械じゃない。生きた人間です」 

純(機械みたいな打ち方をする最強のデジタルが一人いるけどな) 

菫「かく言う私も、先のインターハイでは自分でも気付かないような癖を見抜かれて苦戦しました。 
 初瀬さんも、敵の牌譜を見るときは、時間の許す限り映像で確認したほうがいい。得られる情報はただの紙よりずっと多いはずです」 

純(映像を見てるほうが逆に混乱を招くステルス女もいたっけな) 

初瀬「勉強になりますっ!!」 

すばら「お三方!! お勉強もすばらですが!! 東三局が開始早々とんでもないことになってますよ!?」

131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 14:26:35 ID:qi3B5FuV0
@対局室 

東三局・親:シロ 

 洗牌中。 

シロ(清澄は当然要警戒だけど……長野の二人も気を抜ける相手じゃない……困ったな。アミダで負けたから出てみたものの……下手な全国大会よりよっぽどダルいぞ……これ) 

 浮き上がる山牌。回る賽。 

シロ(先鋒戦に出たのだって……さっさと終わらせてあとはのんびり観戦したかったからなのに……裏目裏目だなぁ。いや、それとも、この卓は今日のオーダーの中ではマシなほうなのか……? わからない……) 

 配牌、理牌。 

シロ(ただ……一つ言えることは……) 

 シロ、視線を手牌から、卓を囲む面子へと向ける。 

池田「龍門渕っ! 初リーチくらいで調子に乗るなし! すぐにトップ奪い返してやるから覚悟しろし!!」 

透華「好きなだけ吠えてるといいですわ、風越。そのまま吠え面かかせて差し上げますわよ!!」 

優希「お前たちっ! もう私に勝った気でいるとはおめでたいやつらだじょ! 東場はまだ終わってないじぇ!! ここから先は、ドンタコス優希の独壇場だじょ!!」 

シロ(この卓の面子が今日トップクラスにウザいのは間違いない…………豊音じゃないけど……ちょーダルい……もう帰りたい)

132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 14:28:22 ID:qi3B5FuV0
 シロ、溜息とともに、第一打。 

シロ(別に私が頑張らないでも豊音が適当にやってくれるから先鋒戦は大丈夫だろうし……このままゆるゆる打ってようかな……) 

 透華が牌を切り、ツモ番がシロの対面に坐す優希に回る――! 

優希「ふっふっふ……」 

シロ(何笑ってんだ……? って、まさか……) 

優希「お前たちの活躍もここまでだじぇ! 東場の神が私にもっと輝けと囁いているのが聞こえるじょ!!」タァン 

 優希、その第一打を――曲げるッ!! 

優希「対抗戦……最初で最後のダブルリーチだじぇ!!」 

シロ(いや、最後のかどうかはわからないだろ……) 

 そして、ツモ番がシロに戻ってくる。 

シロ(こんなの振り込んだってただの事故だけど……清澄の場合は振り込まなくてもツモってくるだろうからなぁ。 
 一発親っ被りなんて勘弁だし……うーん、せめて被害を最小限に……この辺りで、どっすか……?)タンッ 

 シロ、強引に中張牌を切る。ロンの声はかからない。 

 同様に、鳴きの声も入らない。 

シロ(……………………あれ?)

133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 14:29:58 ID:qi3B5FuV0
@実況室 

すばら「小瀬川選手っ!!! 片岡選手のダブリーに対していきなりド真ん中から切っていったぁ!! 全く引く気が見られませんっ!!」 

初瀬「これは……でも、ただ強気というにはやっぱり少し違うような」 

純「そうだな。小瀬川は今度こそ一発消しをしたかったんだと思うぜ。つーか、第二打であんだけ的確な牌が切れるとか、あいつどこまで見えてんだよ」 

菫「偶然もあるのでしょうが、小瀬川選手の一打は、確かに他家が鳴けるところを出しました。 
 ですが、どうやら他家がその意図を理解していないようですね。ぴくりとも反応しません」 

純「ま、あいつらならそうだろうなぁ。小瀬川白望は判断を誤った。龍門渕透華と池田華菜に共闘なんて概念はない。目立ちたがり屋と、自己中バカだからな」 

すばら「さあ!! 小瀬川選手のすばらプレーも不発に終わり、清澄が一発目をツモります!! 果たして本当にここで和了るのかっ!!」

135: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 14:33:35 ID:qi3B5FuV0
@対局室 

シロ(もしかして……こいつら……!) 

透華(ダブリーなんてただの運。だからなんだって感じですわ。安牌が増えるのを待ちつつ、いつも通りに和了りを目指しますわよ!!)メラッ 

池田(恐がってばかりじゃ東場の清澄には勝てない! ダブリーなんて華菜ちゃんが和了って蹴散らしてやるし!!)ニャー 

シロ(こいつら……! 自分が和了ることしか考えてない……!?) 

 シロの思い、届かず! 優希、ツモ牌を見て、高らかに笑う! 

優希「来たじぇ来たじぇー!! お前たちっ! 反撃の狼煙をその目に焼き付けろ!! タブリー一発ツモドラ一……裏一!! 3000・6000だじょ!!!」 

シロ(ほーらツモったー……親っ被りとか……最悪だ……ダル過ぎる) 

 頭を抱えるシロ。 

シロ(こうなったら……どうしよっかな……うーん……なんか変な気がするけど……今よりはマシだ……こっちも本気でいこう……) 

 のらりくらりと先鋒戦を終わらせようとしていたシロ。が、あまりに空気が読めない面子に囲まれて、むしろ全力で戦ったほうがダルくないと方針を急転換!! 

 あくまで自分のことしか考えていない長野勢、その変化には気付かない! 

シロ(こいつら全員……ヘコませる……!!)ゴゴゴゴゴゴ 

 岩手の眠りたがりの獅子が、ここに目覚める!! 

タ:108700 透:102200 白:92700 池:96400

137: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 14:35:03 ID:qi3B5FuV0
東四局・親:透華 

透華(さあっ! この親で稼ぎますわよ!)タンッ 

優希(東場でトップを譲るわけにはいかないじょ……この局もいただきだじぇ!)タンッ 

池田(龍門渕も清澄も配牌からよさげな感じだな……けど、実は華菜ちゃんもいい感じなんだし!)タンッ 

シロ(…………)タンッ

139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 14:36:46 ID:qi3B5FuV0
@実況室 

すばら「長野勢っ! 全員が開始早々リャンシャンテンと好配牌に恵まれています! まだ和了りのない小瀬川選手には苦しい展開ですね!」 

初瀬「小瀬川選手はさきほどから防戦一方ですね。どうしたんでしょうか」 

菫「宮守の小瀬川選手はこの対抗戦に乗り気じゃなかったそうですよ。クジで負けたからここに来た、と姉帯選手が言っていました」 

初瀬「クジって……じゃあ、小瀬川選手はこのまま何もせずに半荘を終えるつもりなんですか?」 

純「ああ……だからあんなやる気のねえ打ち方だったんだなぁ。原点で姉帯に回せば十分って感じだったぜ。ま……少なくともさっきまでは」 

初瀬「えっ? さっきまでは?」 

菫「ハネ満の親っ被り……というよりはその直前の打牌で鳴きが入らなかったこと――あれで小瀬川選手の顔つきが変わりました」 

純「長野の面子があまりに空気読めないからキレたんだろ」 

初瀬「はあ……しかし、やる気を出したとしても、現状苦しいことに変わりはないですよね。どうするつもりなんでしょうか?」 

菫「どうにでもしますよ。ひよっ子三人を黙らせるくらい、小瀬川選手には造作もないことでしょう」 

すばら「おおおおおっと!! 早くも場が動く模様っ!! これはまさに掴み合っての殴り合いとなりそうです!!」

140: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 14:39:07 ID:qi3B5FuV0
@対局室 

 六巡目 

透華「リーチ、ですわ!!」タンッ 

優希「(龍門渕の親リー……望むところだじぇ! 今度こそ追っかけで粉砕してやるじょ!)こっちもリーチだじぇっ!!」タンッ 

池田「(二人とも仕掛けてきたか。華菜ちゃんもテンパった……ここはダマでは済まされないしっ!)リーチだしっ!!」タンッ 

 三家同時リーチッ!! 

シロ(…………)タンッ 

 しかし、シロに動揺は見られない!! 

 ノータイムで危険牌を手出しッ!! 

透華「(今度こそ一発ツモでしてよ!!)ツモ…………! ならずですわっ!!」タンッ 

 透華、一発来ず! 

優希「(二度目の一発いただきだじぇ!!)来るじぇ来るじぇ…………ってなんでそこなんだじょっ!?」タンッ 

 優希、一発来ず!! 

池田「はは……お前らじゃ所詮役不足(誤用)なんだし! この華菜ちゃんが一発の見本を見せてやるっ! にゃあ~~~~っ!! …………これじゃないし!!」タンッ 

 池田、一発来ず!!!

142: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 14:40:47 ID:qi3B5FuV0
 三人が三人とも一発を逃し、場につかの間の静寂が訪れるッ! 

 それを見計らったように、シロ、盛大に溜息ッ!! 

シロ「はぁぁぁぁ…………」 

透華・優希・池田(溜息!?) 

 三人の視線が集まる中、気だるげに山牌へ手を伸ばすシロ。 

 ツモを手牌に収め、不要牌を河に置く。 

 打ち出された牌は――横向き!!! 

シロ「あのさぁ……熱くなるのは勝手なんだけど……」 

 ロンの声は――掛からない!! 

シロ「もう少し静かに打ってくれないかな……ダルいから」 

 シロ、点棒ケースから千点棒を取り出して、場に置く。 

シロ「リーチ……誰も和了らないなら、この場はこれで仕切り直しってことで……」 

透華・優希・池田(~~~~!!) 

タ:107700 透:101200 白:91700 池:95400 供託:4000

143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 14:42:14 ID:qi3B5FuV0
@実況室 

すばら「四家立直いいいいいいいい!! 三家同時リーチから、小瀬川選手の機転でまさかの流局ですっ!!」

初瀬「驚きました……好配牌だった他家の手に追い付くスピードもそうですし、いくら場を流すためとはいえ、あの状況で躊躇なく危険牌を切れる判断力もすごいと思います」 

純「さっきまでの小瀬川なら、間違いなくオリて他家が潰し合うのを傍観してただろうな」 

菫「普通に考えればそれが無難でしょう。打ち合いなら他家で点のやりとりがあるだけで、自分はマイナスにならないですから。 
 しかし、小瀬川選手は自分以外の誰かが和了ることをも嫌った。これ以上他家に点を与えるつもりはない、という宣戦布告ですね」

144: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 14:43:49 ID:qi3B5FuV0
@三年選抜控え室 

久「もう、白望ったらやる気になるのが遅いんだから。困ったもんだわ」 

美穂子(上埜さん……どんどん呼び捨ての人が……私のライバルが……増えていく) 

洋榎「ま、いくらマイナスになろうとうちがなんとかしたるけどなー」 

姫子「私らは反対側のブロックですけん、よう知らんのですけど、宮守の小瀬川さんはどげん強かとですか?」 

初美「うちの姫様相手に区間一位を取ってたですよー。まあ、あくまでただの結果ですけどー」 

霞「豊音さんにも驚いたけれど、やっぱり宮守のエースと呼ぶべきは彼女じゃないかしら。安定して強いし、結果を残してるものね」 

哩「なんや、やっぱ強かね。今日の味方はいっぺん打ってみとうやつばっかと」 

セーラ「せやけどなぁ……強い強い言うても清澄の一年は止まらなそうやで。ホンマに大丈夫かいな?」 

久「どうでしょうね。初美さんたちが評価してる通り、白望は強いわ。けれど……それで簡単にやられちゃうほど、うちの子たちはヤワな鍛え方はしてないつもりよ」 

洋榎「お前はどっちの味方やねん。……って、おい? 久? どこ行くんやー?」 

久「ちょっと野暮用~」

145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 14:45:44 ID:qi3B5FuV0
@対局室 

東四局一本場・親:透華 

 八巡目 

シロ(まあ……やる気を出したところで、私は豊音みたいな便利能力を持ってるわけじゃないからなあ……配られた牌と来る牌で戦うしかない)タンッ 

透華「チー、ですわ!」タンッ 

シロ(親の龍門さんがこれで二副露……鳴きを駆使したデジタル打ちか。スピード重視で連荘狙い。この人……天江衣の親類ってわりにはかなり手堅い打ち手なんだな……意外だ) 

 シロ、今更ながら、倒すべき他家を観察。 

シロ(天江衣と言えば……こっちのネコっぽいのも縁があるんだったか……県大会の決勝で二度も戦って……二度ともボロ負けしたとか) 

池田「リーチだしっ!!」スチャ 

シロ(けど……このテンパイ率とテンパイ速度……エイスリンほどじゃないけど、十分全国上位レベルじゃないのか……? 火力も高そうだし……こんなやつをトバすとか天江衣ってどんだけ……)ツモッ 

 シロ、ツモ牌を手牌の上に置き、長考。 

シロ手牌:三四四五五六七八九九白西西・ツモ二・ドラ一 

シロ(んー……二萬か……ここが分かれ道っぽいなぁ……風越さんのリーチが入ったばかり……なんか引っかかる……ま、じゃあこっちにしてみようか……)タンッ 

 シロ、打、四萬ッ!

148: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 14:55:37 ID:qi3B5FuV0
@実況室 

すばら「小瀬川選手っ! なんとあの状況から四萬切りいい!! 不可解な打牌ですっ!! 一体彼女には何が見えているんでしょうかっ!!」 

初瀬「池田選手の和了り牌を読んだということでしょうか?」 

 池田手牌:①②③一一一三七八九123・ドラ一 

純「いや……そういうのとはまた違う気がする。もし池田のリーチを警戒しているなら、まずは池田の安牌である字牌から切ればいい。そうすりゃ清一も見えてくるしな」 

菫「小瀬川選手はたまにこういうセオリー外の打牌をしますね。急がば回れというか、一見して不合理な打牌を選ぶことで、結果的により高い手で和了ることが彼女の得意技のようです。 
 ただ、狙ってやっているというよりは、迷っているうちになぜかそうなってしまう――という感じなのだそうですが」 

純「なぜか、ねえ。確かに、小瀬川はなぜか安牌の字牌ではなく四萬から切った……それを今うちの透華がポンしたわけだが、それによって池田の一発は消えた。ツモ順もズレた。結果論だが、随分と流れが変わったような気はする」 

すばら「池田選手はツモならず! そして……注目の小瀬川選手にツモ番が回ってきますが……おおお、これは――!!」

149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 14:57:54 ID:qi3B5FuV0
@対局室 

シロ(さーて……張ったなぁ) 

 四萬切りから四巡後、山から五筒、六筒、一萬、赤五萬を引き入れ、シロの手はがらりとその雰囲気を変えていた。 

シロ手牌:一二三四五五六七八九九⑤⑥・ツモ[五]・ドラ一 

シロ(ここは……リーチしたほうがいいもんかな……どうだろ。微妙だな……)タンッ 

 シロ、打、九萬ッ! 

 リーチ、せずッ!! 

シロ(この巡目……三副露の親に、明らかに高めの手でリーチをかけてる上家……突っ張るのはさすがに無理。この手ならダマで和了っても十分だし。それに……さっきから清澄が静かなのが……気になるな) 

 シロ、対面の優希に目をやる。 

 優希、ちょうど山から牌を引いたところ。シロの視線に気付き、顔を上げる。 

優希「……なんだじょ?」 

シロ「いや、別に、見てただけ」

152: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 15:02:13 ID:qi3B5FuV0
優希「ははーん、わかったじょ。さては貴様……今頃になってやっとテンパったな?」 

シロ「対局中にそういうこと言うのはどうかと思う」 

優希「対局なら――もう終わりだじぇ!」 

シロ「は……?」 

 優希、ツモ牌を卓に叩きつけ、手牌を倒すッ!! 

優希「ツモ!! ツモ、東、赤二っ! 2000・3900は2100・4000だじょ!!」 

 シロ、晒された優希の手牌を見て、前局とは別種の、感嘆に似た溜息を漏らす。 

シロ(ああ……同じ待ち、か。確かにこりゃ……一歩遅かったなぁ) 

 優希手牌:五六六六七[⑤]⑥[5]67東東東・ツモ④・ドラ一 

優希「ほれ見たことかだじぇ。東場の主役たる私が、お前みたいな手抜き眉毛にやられるわけがないんだじょ」 

シロ「私の眉毛は手抜きじゃない」 

優希「眉毛は手抜きじゃなくても麻雀は手抜きだったじぇ。そんなやつに負けるほど、私は安くないんだじょっ!!」 

シロ「ま、それはごもっとも」 

 シロ、手牌を伏せて、ふうっと気持ちを切り替えるように息を吐く。 

シロ「けど、清澄の。ここからはこっちも本気だ。そっちの苦手な南場で稼がせてもらうよ。せいぜい、インターハイのときみたいな不用意な振り込みには気をつけるといいさ」

155: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 15:04:10 ID:qi3B5FuV0
優希「ふふふ……だからお前は二流なのだ、手抜き眉毛!」 

シロ「はあ……?」 

優希「さっき言ったはずだじょ。お前と私の対局はこれで終わりだじぇ。なぜなら……南場の主役は――私じゃないからだじょ!!」 

 優希の掛け声とともに、開く対局室の扉! 

 瞬間、吹き抜ける、一陣の風ッ!! 

シロ(なんだ……? 暖かい……風……?) 

 シロ、風上――優希の後方に目を向ける。 

 そこに立っていたのは――、 

南浦「さあ……南場を始めましょう」 

タ:120900 透:97200 白:89600 池:92300

156: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 15:05:41 ID:qi3B5FuV0
@実況室 

すばら「これはまさかのおおお!!? ここで南浦選手が片岡選手との交代を要求っ!!! これはルール的には問題ないのでしょうか!!?」 

菫「『先鋒戦から大将戦までの各対局を、二名で半分ずつ行う』――我々は半分の切れ目を前後半で考えていましたが……例えば二度の東場と二度の南場、これもある意味半分です。 
 東南戦中に交代してはいけないというルールは明言されていないので、アリといわざるを得ないでしょう」 

純「このルールを作ったのってあの清澄の部長だよな……この状況……あいつの狙い通りなんじゃないか?」 

初瀬「わ、私、ちょっと竹井選手を呼んできます!」 

久「もう来てるわよ」 

初瀬「うわっ!!? こ、こんにちは!!」 

久「こんにちは」

157: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 15:06:57 ID:qi3B5FuV0
すばら「竹井選手っ!! ずばりこれは計画通りですかっ!?」 

久「まさか。こんな奇策は想定の範囲外よ。びっくりして飛んできたの」 

純(嘘つけ……このタイミング、明らかにこいつ南浦が出てくる前から控え室を出てたろ) 

すばら「そ、それで、どうするんですか!? この選手交代は認められるんでしょうか!?」 

久「ルール上は問題ないわけだから、この先鋒戦だけ認めてあげたら? 
 ただ、あんまりほいほい対局者が変わるのは気が散っちゃうだろうから、今後は普通に前後半で分けることにしましょう。いかがかしら?」 

すばら「そ……それで他の方が納得できればいいですが……おおっと!! やっぱりというかなんというか、対局室が揉めておりますっ!!」 

菫「ま、そうなるでしょうね」

160: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 15:09:32 ID:qi3B5FuV0
@対局室 

透華「あなたたちっ! 卑怯ですわよ!! そんな……ルールの穴をつくようなこと!!」 

池田「東南戦は東南戦で一つだろ!? 切り離してやっていいわけがないし!!」 

優希「別にそんなことないと思うじょー」 

南浦「途中交代を禁止する、というルールはないわけですし」 

シロ(この南浦って人は知らないけど……まあ清澄は南場が苦手なんだし……こういう交代も作戦的にアリな気がするけど……。 
 なんか龍門さんと風越さんの反応を見る限りそれだけじゃない気がするなぁ……さっきの『風』のこともあるし……) 

 シロ、騒がしく子供っぽい優希と、落ち着いて大人らしい南浦の、どこか正反対な雰囲気を見て取って、合点がいく。 

シロ(ああ……そういうことか。この南浦さんって人は……本当に清澄と逆なのか……) 

 東風戦限定で長野最強の打ち手――片岡優希。 

 県大会の個人戦の結果から、それは誰もが認めるところである。 

 しかし、そんな優希が、東南戦になった途端に土をつけられた相手。 

 それが――南浦数絵。 

 彼女の牌譜を見た者なら、一目でその特異性に気付くだろう。

162: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 15:11:41 ID:qi3B5FuV0
シロ(彼女は南場に強いのか。話では、長野の個人戦で五位だったってことだけど……もし南風戦なんてものがあれば……たぶん一位になるような選手なんだろうな。 
 なるほど。それで龍門さんと風越さんはあんなに突っかかるのか……) 

 収集のつきそうにない言い合いを続ける長野勢。 

 と、傍観していたシロが、不意に口を開く。 

シロ「私は長野県民じゃないからさ……正直、長野の面子なんて清澄の五人と長野一位の福路さんしかまともに知らない……。 
 その、南浦さんって人も、なんかすごいのか知らないけど……全国から見ればまったく無名なわけだ。そんな選手が南場だけ出てきたところで……何かが変わるとは思えないんだけどな……」 

 わかりやすいシロの挑発に、優希と南浦は微笑み、透華と池田は絶句するッ! 

シロ「だからさぁ……いくらでも交代すればいいんじゃない? なーんか見ててダルいんだよね。上級生が揃いも揃ってバタバタと……別に騒ぐようなことじゃないでしょ。一年の小細工くらい認めてあげようよ。 
 東南戦を二人で戦うなんて……二人で一人前の……一人じゃ半人前の一年のやることだろう? それともあれかな……龍門さんと風越さんは、南場の南浦さんがそんなに恐いわけ?」 

 シロの言葉に、いとも簡単に臨界突破する透華と池田。 

透華「上等ですわ!!! やってやろうじゃありませんかっ!!」 

池田「暫定ラスのやつが何を偉そうなこと言ってんだし!! お前に言われなくたってそんなことわかってたんだしっ!!!」

163: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 15:13:13 ID:qi3B5FuV0
 荒々しく席に戻る透華と池田。 

 シロは悠然と背もたれに身体を預けて、正面に立つ優希にだらだらと手を振る。 

シロ「清澄、これで私らは一勝一敗ってことにしとく。続きはまたどっかでやろう」 

優希「ふん、いつでも相手になってやるじぇ!」 

 火花を散らすようにぶつかる二人の視線ッ! 

 その間に割って入る――南浦数絵ッ!! 

南浦「宮守の三年生……もう次の戦いのことを考えているんですか?」 

シロ「んー。そんなことはないよ? 実は、今けっこう楽しんでる」 

南浦「そうですか……それはよかったです。手抜きの相手に勝っても、私の目的は果たせませんから」 

シロ「へえ……大した自信だなぁ」 

南浦「あなたの言う通り、私はまだまだ全国から見れば無名です。だからこそ、今日は名を上げるためにここに来ました」 

 南浦、睨むようにシロを見つめる。 

南浦「宮守の三年生……あなたを倒せば、私の名前はどれだけ上がりますか?」 

 先鋒戦前半、南入――ッ!!!

165: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 15:18:52 ID:qi3B5FuV0
南一局・親:南浦 

 五巡目 

南浦「……リーチ」チャ 

池田(こいつ……いくら南場に強いからって速過ぎだし……!)タンッ 

シロ(速いだけで済めばいいけど……たぶんそうじゃないんだろうなぁ……。なら……試しにちょっと揺さぶってみるか……) 

シロ「……リーチ」スチャ 

透華(宮守もリーチですの!? 親リー含めた二家同時リーチを相手に突っ張るのはいくらわたくしでも厳しいですわ。なのに……なんですの!? この安牌のなさっ!?)タンッ 

南浦「それ、ロンです。リーチ一発……裏二。12000」パララ 

透華「」プスプス 

シロ(あちゃあ……リー棒が無駄になったか。それにしても……本来ならただ速いだけのリーのみが一発と裏で親満かぁ。 
 どんな打ち方をしても南の風が味方してくれる……だから強気の打牌ができるって感じかな。呆れるほどの好循環だ……) 

池田(南浦数絵……個人戦ではうちのみはるんがお世話になった……その借りはきっちり返すし!) 

南:133900 透:85200 白:88600 池:92300

166: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 15:20:44 ID:qi3B5FuV0
南一局一本場・親:南浦 

 八巡目 

南浦(生牌の中……鳴きたければ鳴けばいい)タンッ 

池田「それ、ポンだし!」タンッ 

南浦(これくらいは想定内。こちらも形は悪くない。十分に勝負できる) 

シロ(風越さん……役牌か。点差とこの人の打ち筋を考えれば、役牌のみなんてことはまずないはず。なら……ここは少し働いてもらおうかな)タンッ 

透華(落ち着くのですわ、龍門渕透華! これくらいの劣勢……はねのけて見せますの……!)タンッ 

シロ「ポン」タンッ 

透華(宮守の鳴き……食いタン狙いですの? さすがに食いタンのみとは思えませんが……ドラは九索だから使えない……赤が固まっているとか? なんにせよ、ツモが二連続で回ってくるのは助かりますわ!)ツモッ 

透華(来ましたわ……! 混一ドラ一テンパイ! ただ……捨て牌からして染め手とバレバレ……ここはヤミで通したほうが無難かもしれませんわね……)タンッ

167: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 15:23:16 ID:qi3B5FuV0
南浦(龍門渕の手が進んだ……? 宮守の鳴き……あれで多少風が乱れましたか。ここで筒子は切れない……)タンッ 

池田「それロンだし。中ドラ三、8000は8300」パラッ 

南浦(む、安めかと思ったらドラを固めていましたか……) 

池田「注意散漫だな、南浦数絵。名を上げたいなんてほざくなら、まずはこのあたしを倒してからにしろし!」 

シロ(なんかそれっぽいこと言ってカッコつけてるけど……それってつまり自分は三下ですって言ってるようなもんじゃ……? 
 あと、注意散漫って、三萬で和了ったっていう駄洒落? まぁ……ツモ順をズラした甲斐はあったかな。予想通りドラを抱えていた……そんなんツモられるのは勘弁だしね)パタッ 

透華(風越・池田……地味に強いですわね。ずっと冗談で大将をやってるんだと思ってましたわ!) 

南:125600 透:85200 白:88600 池:100600

168: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 15:25:51 ID:qi3B5FuV0
南二局・親:池田 

 十二巡目 

池田「リーチだしっ!」スチャ 

南浦(風越……またですか。東場南場関係なく攻めてきますね) 

透華(これは……今度こそオリですわね) 

シロ(走ってるなぁ……この感じ……放っておくと手がつけられなくなるか……) 

 次巡 

シロ「それ、ロン」パラッ 

池田「にゃーー!?」 

シロ「タンピンドラ一……3900」 

シロ(勢いに乗れば強いタイプ……。けど、周囲を見ずに走り過ぎだな。そのへんが付け入る隙ってことで) 

南:125600 透:85200 白:93500 池:95700

171: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 15:29:00 ID:qi3B5FuV0
南三局・親:シロ 

 五巡目 

シロ(オーラスも近い……今のままじゃ原点回帰も危ういかもなぁ。さすがにマイナスで豊音に回すのは忍びない。できれば連荘したいとこだけど……うーん……これ……何切ろう……)タンッ 

 十巡目 

南浦「リーチ……」スチャ 

池田(にゃ……イーシャンテンなのに……! 仕方ない、一旦回るし)タンッ 

シロ(みんな本当に打ち合いが好きだなぁ……リーチした数で競ってるんじゃないんだから……先制リーチに拘らず……慌てず騒がず手を作るのも大事だって言ってやりたい……)タンッ 

透華(く~……ままなりませんわねぇ……去年の全国を思い出しますわ……!)タンッ 

 十七巡目 

シロ「っと……これはまた……随分と深いところに埋まってたな」パラララッ 

南・池・透(なっ……宮守……!?) 

シロ「ツモ……三色三暗刻……4000オール」 

南:120600 透:81200 白:106500 池:91700

172: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 15:31:05 ID:qi3B5FuV0
@実況室 

すばら「決まったあああ!! 三年選抜・小瀬川選手!! これまでの分を取り戻すような二連荘! ラス親で二位浮上ですっ!! すばらっ!!」 

初瀬「捨て牌がまたわけのわからないことになってます……。序盤、私なら平和三色を狙うかなと思って見てたら……五巡目でいきなり方向を変えました。 
 まさか、あの平和手から……三暗刻にシフトするとは」 

菫「分かれ道はいくつもありました。平和三色に行く道、鳴いて食いタンを狙う道、対々を目指す道……捨て牌を見る限り、そのどれもがよくてイーシャンテン止まりです。 
 最悪、溢れた牌で南浦選手に振っていた可能性もありました。小瀬川選手は、数ある道の中から、最も安全で、最も高い手をものにした……拍手を送りたいですね」 

純「あの和了りは真似できる気がしねえな。マヨヒガじゃないが……小瀬川だって狙ってやってるとは思えねえ。迷っているうちに宝の山にたどり着いた……そんな打ち方だった」 

すばら「さあ、ここから小瀬川選手の連荘となるのか!! それとも南浦選手がリードを守りきるのか!! 他家の巻き返しはあるのか!! 注目ですっ!!」 

純(透華がラスか。この状況……さすがに小瀬川や南浦を出し抜くのはきついか……? いや……それでも透華なら……)

173: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 15:32:16 ID:qi3B5FuV0
@特別観戦室 

優希「こらー数絵! あんな手抜き眉毛に負けるんじゃないじょっ!! さっさと突き放すじぇ!!」 

豊音「いやー片岡さん、うちのシロはそんな簡単じゃないよー?」 

小走「同感だな。ニワカにはわからんだろうが、あの打牌……ありゃ相当打ってる。あいつを攻略するのは私でも骨が折れそうだ。池田も頑張ってるが、ま、厳しいだろう」 

衣「お前たちの目は節穴か? これまでの戦いなど、あの場に龍を呼び込むための誘い水でしかなかったというのに……」ゴゴゴゴゴゴ 

小走(こいつ……このプレッシャー……本当に人間か……?)ゾッ 

衣「お前たちは感じないか? 大河の底に巣食う龍が……水面から顔を出そうとしているのを……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

174: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 15:37:21 ID:qi3B5FuV0
@対局室 

南三局一本場・親:シロ 

シロ(なんか……今局は場が落ち着いてるな。それに……なんだろう……この背筋が凍りつきそうな悪寒……神代が何かを降ろしたときにも似てるような……)タンッ 

透華(…………)タンッ 

南浦(おかしい……風が凪いでいる? それに……寒い? 身体の震えが止まらない……清澄の嶺上使いと対峙したときも……これほどではなかったはずだが……)タンッ 

池田(みんな急に大人しくなったな……お腹でも壊したか?)タンッ 

シロ(来た……テンパイ。さっきと矛盾するようだけど、ここは素直にリーチかな。これで……トップをまくる……) 

 シロ、捨て牌を掴み、リーチと発声しようと、口を開く。 その――刹那ッ! 

シロ(っ――!?) 

 鉄砲水にでも飲まれたような衝撃が、シロの身体を突き抜けるッ! 

 シロ、思わず、振り返るッ!! 

 そのプレッシャーを放つ『主』――龍門渕透華のほうを……ッ!! 

透華()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 

シロ(今のは……なんだ……? なんというか……龍に喰われるみたいな……) 

 シロ、対面に目を向ける。南浦も異常に気付いた様子。目を見張って透華を見ている。

175: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 15:41:35 ID:qi3B5FuV0
シロ(他のやつも気付いてるのか……? 豊音や清澄の宮永咲、永水の石戸も大概化け物だと思うけど……こいつは……或いはあいつら以上かもしれない) 

南浦(冷たい……深い川底に引き込まれたような……芯から凍る冷たさ。静かな水面ほど……深いところは激流になっているというが……ちょうどそんな感じだ。 
 この落ち着いた河の底には……龍がひそんでいたというのか……?) 

池田「? おい、なにしてんだし、切るなら早く切れよ」 

 池田、鈍感ッ!! 

シロ(こいつ……! このレベルのプレッシャーになんも感じてないのか? 実はけっこう大物なんじゃ……。いや、まぁ冗談はさておき……) 

 シロ、透華を横目で観察するも、正体見えず。 

シロ(……ここは……少し様子を見たほうがよさそうだな……) 

 シロ、川の温度を指先で確認するように、ゆっくりと河に牌を捨てる。 

 その――直後ッ!!! 

透華「ツモ……断ヤオ赤一ツモ……1000・2000は……1100・2100」 

シロ(やっぱり……あのまま普通にリーチを掛けていたら振り込んでいた。にしても不気味なくらい地味な和了りだな。 
 とりあえず親っ被りの被害は小さくて助かったけど……それとも……ここからチャンピオンよろしく地獄が始まるとか……?) 

南浦(龍門渕透華……私の支配をまるで受け付けていない。ラス親……連荘はさせない。先に和了って断ち切る……!) 

池田(ん? 二人ともなんで龍門渕のこと見てんだし) 

南:119500 透:85500 白:104400 池:90600

176: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 15:45:16 ID:qi3B5FuV0
@実況室 

すばら「小瀬川選手! リーチするかに思えましたが……なぜか面子を崩して放銃を回避しました!!」 

初瀬「最初は普通にリーチって言おうとしてましたよね。それから、龍門渕選手のほうを見て……なにか驚いたような表情をしていました。 
 なんにせよ、あそこでテンパイを崩すのは意味不明です」 

純「さすがに小瀬川はいいカンしてやがる。しかし……まさかここで目覚めちまうとはな。確かに、今日は強えやつがわんさか集まってるから……ありえるかもとは思っちゃいたが……」 

菫「目覚めた……というのは龍門渕選手の変化のことですか? なにか心当たりが?」 

純「あぁ……オレたちは『アレ』を、便宜的に『冷たい透華』と呼んでいる」 

初瀬「冷たい……?」 

純「そうだ。雪解け水が流れる春の川のような……日の当たらない地下を伝わる水無し川のような……触れるものを凍てつかせる冷たさだ」 

すばら「よ、よくわかりませんが!!! 何やら不穏なことになっているようです!! が、場はあくまで穏やか進行していますっ!!!」

178: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 15:49:35 ID:qi3B5FuV0
@対局室 

南四局・親:透華 

南浦(なんだこれは……東場でもないのに配牌がバラバラ……? ツモも最悪……まるでテンパイに持っていけない……)タンッ 

南浦(優希に聞いた話では……確か天江衣がこういった重たい場を作るという話だったが……龍門渕透華……これもまた人外の何かなのか……?)タンッ 

南浦(テンパイに持っていけない上に……鳴くチャンスもない……ありえない……南場の私と……先ほどまで好調だった岩手の小瀬川白望……それに場に関係なく勢いのある風越の池田華菜……私たち三人を同時に押さえ込むなど……不可能なはず……)タンッ 

南浦(よ……よし……!! なんとかテンパイまで持っていくことができた……!! 相変わらず鳴きも何もなく静かな場だが……私なら……この凪いだ場でも風を起こすことができる……!!) 

南浦「リー……」 

透華「ロン……」パラララ 

南浦(なあっ……!? 直前で待ちを切り替えている……!? 不自然過ぎる……まさか……私への直撃を狙って……!!?) 

透華「發ドラ一……3900」 

南浦「……はい」 

シロ(不自然な待ちの切り替え……さっきの私のときも……普通にリーチをかけていれば振り込んでいた……リーチ宣言牌で和了るとか……そういう感じの……豊音の背向と似たような能力……? 
 けど……それだけではこの重たい場を説明できない……鳴くこともできないし……一体この人はなんなんだか……) 

南浦(わけがわからない……しかし……このまま終わるわけにはいかない……!!) 

池田(んー……? この手の重さ……なんかデジャヴだし……) 

南:115600 透:89400 白:104400 池:90600

181: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 15:55:18 ID:qi3B5FuV0
南四局一本場・親:透華 

シロ(リーチ宣言牌で和了る能力だとしたら……対策は豊音の先負と同じ……リーチしなければいいだけのこと……素直に手を進めていくと……たぶんさっきみたいなことになる……だから……ここは少し回り道をしてみるとしようか……)タンッ 

シロ(ちょっと情報が足りな過ぎるな……できれば……鳴いたりして場を引っ掻き回したいんだけど……それを封じられてるっぽいし。 
 まあ……オーラスだから……一回和了ればそれで終わる……あと二、三回くらい連荘されるのはもう仕方ないとして……突破口を見つけることに尽力しようか……必要なら他家のアシストに回ってもいい……)タンッ 

シロ(けど……まさか豊音と同じ多重能力者ってことはないよね……? あれだと突破口を見つけた途端に別の能力で刈り取られる……そうすると手がつけられない。 
 まあ……天江衣の能力から類推すると……場を支配する系の何か……って……それって一番突破しにくいやつだよな……。 
 宮永照の連続和了とか天江衣の海底と同じ……目立った特長として見えるものはほんの氷山の一角で……本当に恐るべきはそこに持っていく圧倒的な支配力……うわ……ダル過ぎる……)タンッ 

 十三巡目 

シロ(さて……散々回り道して……役無しだけどテンパイ……ここは……リーチをかけたほうがいいのか……かけないほうがいいのか……わからないけど……とりあえず様子見でツモ狙いかな……)タンッ 

透華「ツモ……チャンタツモ……2000は2100オール」 

シロ(げ……うわ……そういうことするのか……) 

南浦(直前の宮守の捨て牌を見逃してツモ和了り……? こちらは相変わらず一向聴から先に進めなかったというのに……随分と余裕じゃないか……!) 

池田(んー……打点は低いけど……この一向聴から動けない感じ……間違いなく天江衣と同じ何か。 
 そういえば……龍門渕透華と天江衣は従姉妹なんだっけか……偶然じゃないとしたら……そろそろなんとかしないと全部持っていかれるし……!!) 

南:113500 透:95700 白:102300 池:88500

183: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 15:59:14 ID:qi3B5FuV0
南四局二本場・親:透華 

シロ(そっか……少し……見方が違ったみたいだな……この人は豊音じゃない……条件付きで支配力を発揮するタイプじゃなくて……常時発動型の能力……リーチ宣言牌で和了るとか……そういう発想ではこの場の謎を紐解くことはできない……)タンッ 

シロ(さっきの……私の捨て牌を見逃して……直後にツモ和了……あれで……少しだけど見えた……この人……リーチ宣言牌で和了る能力じゃない……リーチできない場を作る能力なんだ……。 
 そう考えると……このやけに静かな河も頷ける……となると……たぶん……リーチだけじゃない……もし……この穏かな河を生み出すことがこの人の力なら……恐らく……)タンッ 

透華()タンッ 

南浦()タンッ 

池田()タンッ 

シロ「チ……」 

透華「ロン……三暗刻……4800は……5400」パラララ 

池田「にゃっ!?」 

シロ(やっぱり……そういうことか……この人が何を支配しているのか……これでおおよそ把握できた……けど……もし私の考えが正解だとして……一体どうやって止めればいいのやら……) 

南浦(これといった特徴のない安手で四連荘……!? わからない……宮永咲のときはカンを封じればいいという対応ができたが……私には……これが能力なのかそうでないのかも区別ができない……どうする……どうすれば……!) 

池田(龍門渕……連荘で巻き返してきたな。それに比べて華菜ちゃんは……一人沈み!? そんなの絶対嫌だし!!) 

南:113500 透:101100 白:102300 池:83100

184: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:02:24 ID:qi3B5FuV0
@実況室 

すばら「またまた和了りましたあああ!! 龍門渕選手!! オーラスで猛ラッシュです!!」 

純「このまま他家が何もできなけりゃ、この対抗戦もこれで終了かもな」 

初瀬「それは……この先も龍門渕選手が和了り続けるってことですか? そんな無茶苦茶な」 

菫「いや、龍門渕選手はあの天江選手の親族だと聞いています。初瀬さんも、全国で三校を同時にトバすなんてことをやらかした天江選手の無茶苦茶さは知っているでしょう? 
 それと似たようなことを、龍門渕選手もできるとしたら?」 

初瀬「……いったい龍門渕選手は何をしているんですか?」 

すばら「井上さん、できれば解説をっ!!」 

純「まあ……詳しいことはオレもわからんが……透華のあれは、衣の『場の支配』ってやつと似てるとこがあるな」 

初瀬(天江選手の『場の支配』ってのが私は初耳なんですが……ま、まずは話を聞きますか……) 

純「『治水』とでも言えばいいのか。透華は……川を支配してるんだよ」 

菫「川……『河』ですか」 

純「そうだ。なんつーか、きちんと整備された川ってのは、決まってるルートを淡々と海へ向かうだけだろう? 透華はその『流れ』を支配してるんだ。『河』の有り様を決定してるっつーのか。 
 たとえその流れに逆らおうとしても、その流れを乱そうとしても、河の主――『龍』の支配がそれを許さない。透華以外の何人も……『河』に『手出し』ができなくなる」 

初瀬「『河』に手が出せないって……鳴けないってことですか?」 

純「鳴けないで済めばまだいいんだがな。あの『龍』は……『河』から牌を掬うことすら許さない」

185: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:04:42 ID:qi3B5FuV0
菫「ロン和了りができない……と?」 

純「そういうことだ。『河』を支配する『龍』は頑固でな。鳴くことも、和了ることも許さない。リーチや暗槓すら、『河』を乱すこととして押さえつける。 
 他家は、ただ静かに……河の流れが終着の海に行き着くのを見ていることしかできない」 

初瀬「鳴けないしリーチも無理でロンできないって……。で、龍門渕選手だけは河に出た牌で自由に和了れるんですよね。あまりに一方的な状況……どうやって攻略すればいいんですか?」 

純「例えばだが、うちの衣みたく『河』ではなく『海底』から牌を掬えるやつは、あの支配の中でも和了れる。 
 あとは……永水の石戸なんかがそうだと思うんだが……『山』を支配できるなら、牌を『河』に流れる前に掘り出せるわけだから、普通に対抗できるはずだぜ。 
 と、ま、決して無敵ではないんだよ。透華自身だって無限に和了れるってわけじゃないから、案外プラス五万くらいで『龍』が引っ込むかもしれねえし」 

初瀬「五万って……。というか……今の話だと、なんのオカルトも使わないで和了るのはどうやっても無理ってことになりません?」 

純「どうだろな。たとえオカルトに頼らなくても、相当の豪運と、龍の支配を逆手にとるような奇策でもあれば……なんとかなるのかもしれん。 
 去年のインターハイでは、透華がロンする一瞬の隙を突いて、強引に頭ハネで他家をトバしてたやつがいたな」 

すばら「聞けば聞くほど大変な状況のようです!! 果たして龍門渕選手は止められるのでしょうか!? 止めるとしたら、それは一体誰なのでしょうか!? 
 先鋒戦前半オーラス!! 引き続き目が離せません!!」

186: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:07:54 ID:qi3B5FuV0
@対局室 

南四局三本場・親:透華 

シロ(まずいな……もし仮に……龍門さんが河を支配する能力を持っていたとすると……こちらはリーチができない……さらには鳴けない……恐らくはロン和了りすらできない。 
 ということは……この重たい場で龍門さんを止めるには……龍門さんより早くツモる以外に方法がない……)タンッ 

シロ(けど……河を支配するということは……こちらの捨て牌を支配するということで……捨て牌を支配されてるということは……手牌を支配されているのと同じだ……そんな状況で龍門さんより早く和了れるとは思えない。 
 敢えて逆らっても手が遅くなるだけ……無理に崩して誰かに差し込んだり鳴かせたりとかしようとすると……たぶんそれこそ龍門さんの思う壺……さっきの風越さんがそうだったように……その瞬間に出和了りされる。 
 参ったな……これはダルいじゃ済まされない……)タンッ 

 一方、南浦。 

南浦(く……南場だというのに……! せめて鳴くことができれば……再び風が私に吹くはずなのに……!!)タンッ 

南浦(上家が龍門渕透華だからだろうか……さっきから鳴くこともできない……かといって門前で進めても一向聴から抜け出せない……この場を意図的に作り出しているのか……化け物め……!) 

 一方、池田。 

池田(この感じ……もう何度も体験した……あの最悪の地獄だ……さっき……どうにか場を乱そうとして……宮守の手が進みそうなところを出してみたけど……それを狙われた。 
 どういう理屈で何が起こってるのかはよくわからないけれど……わかるのは……普通に打ったら……また負ける……!!!)タンッ 

 池田、辛酸ッ! 

池田(負けるのか……また負けるのか……あたしは……! 去年も今年も天江に負けて……個人戦では結果を残せなくて……何が風越のナンバーツーだ……! あたしは……弱い……!!)タンッ 

池田(キャプテン……あたし……どうしたらいいんですか……キャプテン……!!)

187: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:09:56 ID:qi3B5FuV0
 ――回想・風越女子麻雀部・インターハイ県予選後―― 

久保「ああ……? 今なんつった、池田ァ!」 

池田「ひっ……いや……その……次期キャプテンの話は……光栄なことなんですけど……あたしに務まるか自信がなくて……」 

久保「自信がないだァ……? 何を甘えたこと言ってんだ、池田ァ!!」パァン 

池田「っ……!! すいません……!!」 

久保「テメェがなんと言おうと……次期キャプテンはテメェ以外にありえねえんだよ! 自信がねェ? バカかお前。福路は自信を持ってキャプテンになったとでも思ってんのか? 
 テメェはこの一年あいつから何を学んできた!?」 

池田「キャプテンから……学んだこと……」 

久保「いいか? 福路の全国個人戦が終わったら問答無用でテメェが新キャプテンだからな。それまでに……その根性を叩き直してこい。拒否することは許されねえ」 

池田「は……はい……」 

 * 

美穂子「あら……華菜……どうしたの?」 

池田「あ……キャプテン……あの……その……」 

美穂子「?」 

池田「えっと……なんでもないです……!」ダッ 

 ――――――

188: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:12:20 ID:qi3B5FuV0
池田(結局……キャプテンには何も言えなかった……言えるわけない……あの人に……もう引退するあの人に……これ以上迷惑なんて掛けられない……これまで……あたしはずっと守ってもらってきたんだから……)タンッ 

池田(そう……キャプテンは……ずっとあたしたちを守ってくれていた……弱音なんて吐いたところ……見たことなかった……だから……あたしは決めたんだ……あたしもそうなろうって……! 
 コーチの言う通り……きっとキャプテンだって……自信がなくなったり……辛いときもあったんだ……けど……それを後輩のあたしたちには見せなかった……あたしも……そういう風にならなくちゃいけないんだ……!!)タンッ 

池田(そのためには……まず……勝つ……!! 強くなる……!! そのために……今日あたしはここに来た……!!)タンッ 

池田(けど……これが現実……! 天江と恐らく同種類の魔物……龍門渕透華……どういうわけか豹変したこいつに……今のあたしじゃ歯が立たない……!!)タンッ 

池田(悔しい……悔しい……っ!! なんであたしはこんなに弱いんだ……!! なんであたしは……キャプテンみたいに強くないんだ……!! 
 これからは……あたしがキャプテンになるのに……!!!)タンッ 

池田(でも……ただでは終われない……決めたんだ……今年……天江に負けたとき……! 誰に見られても恥ずかしくない打ち方をする……どんな状況でも諦めない……何事も……前向きに楽しんでいくって……!!)タンッ 

池田(笑ってやる……!! 最後まで……負けたって……あたしは笑ってやる……!!)タンッ 

池田(だって……それくらいしか……今のあたしが自信持てることなんてないから……!!)タンッ 

 池田、笑顔ッ!!!

191: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:14:05 ID:qi3B5FuV0
池田(さあ……海の底が近い……これで海底なんて和了られたらトラウマフラッシュバックだし……! けど……そうじゃなければ……!!)ツモッ 

 池田、十七巡目、ラスツモは手牌にまったく絡まない字牌ッ!! 

池田(そうじゃなければ……違う未来がある……! もちろん……これで……あたしの負けは確定なんだけど……! 本当に……やってらんないし……!!)タンッ 

 池田、前進ッ!! 

 一方、シロ、南浦、苦戦ッ!! 

シロ(んー……この一枚だけある南…たぶん……南浦さんが鳴けるんだろうけどなぁ……間違いなく龍門さんの待ちだろうしなぁ……)タンッ 

透華(…………)タンッ 

南浦(ダメだ……また……手ができなかった……! これでは……ずるずると……静かな水面の下……冷たい激流に……溺れてしまう……!!) 

 静かに流れゆく川の水は、やがて、海の底へと辿り着く。 

 海底牌を手にする南浦、しかし、どうにもならず。安牌を龍が支配する河へ流す。 

 龍、不動。 

 和了りの出なかったことにひとまず安堵の溜息を漏らす、南浦とシロ。 

透華「テンパイ……」 

シロ「ノーテン(やっぱり……七対子南待ち……困ったな……)」 

南浦「……ノーテンです(く……こんなことが……!!)」

193: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:16:08 ID:qi3B5FuV0
 手牌を晒す三人。 

 親のテンパイ流局で、連荘は確定。 

 各人、南四局四本場の戦いへと、思考を切り替える。 

シロ(龍門さんに隙がなさ過ぎる。回り道すれば先にツモられる……無茶をすればロンされる……普通に進めても手の平の上……しかも……今みたいに出したらそこで終了みたいな不要牌を掴まされたら……完全に身動きが取れなくなる。 
 ぎりぎり思いつく範囲で頭ハネならロンできそうだけど……今回のルールだと……頭ハネは採用してないからなぁ……どーすんだろこれ……ダル……) 

南浦(落ち着け……私。この場は龍門渕に支配されている……そう考えて打ったほうがいい。 
 けれど……そういう相手は個人戦にはいなかった……団体戦に出れなかったことがこんな形で響いてくるとは……ここは……宮守が何かを掴んでいる風に見える……彼女の意図を読み取って協力するのが一番か……) 

 しかし、そうではない者が――場に一人だけ残っていた……ッ!! 

池田「だから……お前らは一体どこ見て麻雀やってんだし。どうして再重要危険人物である華菜ちゃんを無視して場を進めてるんだしっ!!」 

透華(………………) 

南浦(風越……何をぐだぐだと言っている?) 

シロ(無視するとかしないとかじゃなくて……海底を誰も和了らなかったんならそれで対局は終わりでしょうに……) 

 池田、『それ』に気づく様子のない三人を見かねて、立ち上がる。

194: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:18:27 ID:qi3B5FuV0
池田「とにかく……先鋒戦前半はこれで終わりだし!」 

シロ「いや、いつ先鋒戦の前半が終わったんだって……」 

池田「ちっ、ちっ、ちっ。宮守の三年、観察力が足りないし。河をよく見てみろよっ」 

 池田に促され、河を眺めるシロと南浦。 

 鳴きもリーチもなく、静かに流れた河。 

 最初に気づいたのは、シロ。 

 続いて、南浦が息を飲む。 

池田「本当は九種九牌で流そうと思ったんだけどな。さっきから誰も鳴きを入れないから、モロバレ国士よりはマシかと思ってやってみたら、まさかの大成功だし!! 
 つーか、お前ら河くらいちゃんと見とけよ。終盤のほう、華菜ちゃんずっと鳴かれるんじゃないかってひやひやしてたのに」 

シロ(いや……たぶん気付いたとしても鳴けなかっただろうけど……まさかそれを逆手に取るとはね……!) 

南浦(そもそも鳴きがどうこうではなく……こんなの……やってみようと思ってできる役ではないはず……なんという強運……!!) 

 池田の河から浮かび上がってきたのは、さながら燈篭流しの如く、龍の支配を逆手にとって紡がれた、十七の光――!! 

池田「流し満貫……!! 2000・4000の三本場は、2300・4300だしっ!!」 

 流し満貫――その成立条件は、以下の二つ!! 

 流局時の捨て牌を全てヤオ九牌で構成することッ!! 

 そして――自身の捨て牌を一度も鳴かれないことッ!!!

198: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:22:48 ID:qi3B5FuV0
池田「ま、なかなか楽しい麻雀だったし。また次打つときがあったら、今度は負けないから覚悟しろしっ!!」 

 点棒を受け取って、笑顔で対局室を後にする、池田。 

 シロと南浦は、溜息でその背中を見送る。 

 透華はといえば――予期せぬ反撃に龍が鎮まり、池田の点数申告を受けて元の透華に戻っていた。 

透華(あれ……わたくしは何を……? って!? 先鋒戦前半が終わり!? なにがどうなってるんですの!!? なんか点棒が勝手に増えてますわ!?) 

シロ(いやいやいや……まさか本当に原点で豊音に回すことになるとは。本音を言うと……どんな打ち方をしようとプラスで終われると思ってたんだけど……それだけ手強い面子だったってことか。 
 ホント……ダルい。ま、少しは楽しめたからいいけどさ) 

南浦(一応優希のリードを守った形ではあるけれど……私自身はマイナス。悔やんでも悔やみきれない。これではいい道化だ。次こそ……誰が相手だろうと勝ってみせる……!) 

 全国選抜学年対抗戦・先鋒戦前半――終了ッ!! 

<結果> 
一位:優希・南浦+11200(111200) 
 >優希(+20900)・南浦(-9700) 
二位:小瀬川白望+0(100000) 
三位:龍門渕透華-3200(96800) 
四位:池田華菜-8000(92000)

199: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:27:03 ID:qi3B5FuV0
@会場某所 

 流し満貫で先鋒戦前半に幕を引き、笑顔で対局室をあとにした、池田。 

 しかし、対局室を出るやいなや、池田は控え室ではなく、トイレのほうに走った。 

 その目には――涙。 

池田(負けた……! また負けたし……!!) 

 脳裏に過ぎるのは、先の県大会。 

 団体戦も個人戦も、池田の成績は、決して満足できるものではなかった。 

 池田は、ただ美穂子の背中を遠くから眺めているだけだった。 

 自他共に認める風越のナンバー2。 

 しかし、ナンバー1との差は、あまりに大きい。 

池田(あたしが……! 新キャプテンのあたしがもっと強くならないと……キャプテンが安心して引退できないのに……!! どうしてあたしは……こんなに弱いんだ……!!) 

 池田、トイレの鏡の前に立って、情けない自分の泣き顔を見る。 

 手など抜いていない。決して恥ずかしい打ち方などではなかった。最大限の力で、真正面から敵を倒しにいった。 

 例えば、美穂子なら、或いは久保でさえも、池田の成長と健闘を称えてくれるかもしれない。 

 それでも――負けは負け。

202: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:29:29 ID:qi3B5FuV0
池田(清澄の片岡も龍門渕も……平滝の南浦ってやつも……あたしが卒業するまで……ずっと長野で戦い続けることになる相手。 
 天江衣も……清澄の大将だって……長野を制するためには絶対に倒さなきゃいけない相手だ……!) 

 鏡の中、ライバルたちの顔が浮かんでは、消える。 

池田(本当に……この先……あたしはあいつらに勝てるのか……? あたしは……風越の新キャプテンとして……堂々とあいつらの前に立てるのか……? 
 また清澄や龍門渕や鶴賀と決勝をやったとして……本当にあたしは風越を優勝に導くことができるのか……? こんな……負けてばっかりのあたしが……?) 

 圧し掛かる、結果という、現実。 

 福路美穂子は、勝ち続けた。 

 池田華菜は、負け続けた。 

池田(悔しがってる暇はないのはわかってる……! コーチの言う通り……自信がなくても弱くても……キャプテンになるあたしは前に進んでいかなくちゃいけないんだ……!! 
 けど……けど……!! キャプテン……あたし……どうやったらキャプテンみたいに強くなれますか……!? あたし……できる限り頑張るつもりなんです……!! 胸を張って前を見て……楽しんでいくつもりです……!! 
 でも……このままじゃ……こんな弱いあたしのままじゃ……麻雀を楽しむことだって……いつか……できなくなってしまいそうです……) 

 池田、前を見ていることも辛くなって、俯く。 

 と、背後に人の気配―― 

小走「池田……? こんなところで何をしている?」 

 顔を上げる池田。鏡の中には、小走やえの姿。

203: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:31:08 ID:qi3B5FuV0
池田「こ……小走さん……!?」 

小走「なんだ……池田。泣いてたのか?」 

池田「え……う……その……」 

小走「別に恥ずかしがることじゃない。負けたら誰だって悔しいものだ。それに……私と池田はこんな機会でもなければまともに会うこともないだろうからな。 
 よかったら……私に話してみろよ。これでも私は三年、ニワカ二年の悩み相談などお手のものだ」 

池田「小走さん……すいません……ありがとうございます」 

小走「で……どうした、池田」 

池田「はい……なんだか、弱い自分が情けなくて」 

小走「弱い……? お前が? まあ……さっきはさすがに相手が相手だから力不足の感はあったが……決して内容は悪くなかったと思うぞ」 

池田「でも……負けは負けですから。あたし……今日だけじゃなくて……今年の県大会からずっと負けっぱなしなんです。 
 そんなあたしが……今度……風越の新キャプテンになるんですけど……これから……本当にこんな弱いあたしが風越を引っ張っていけるのか……不安で……」 

 小走、腕を組んで、少し考える。

204: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:35:02 ID:qi3B5FuV0
小走「池田は……あのオーラス、なんで流し満貫を狙った?」 

池田「えっ? なんですか、いきなり」 

小走「いいから。どうしてお前は、あの九種九牌の配牌を見て、国士無双ではなく流し満貫を狙ったんだ?」 

池田「それは……確かに国士を和了れれば一発逆転はできますけど……今日のあたしは大将じゃない。先鋒です。一発逆転を狙う必要はありません。 
 だから……チームのためを思えば……たとえラス確定で……あたし自身が負けることになっても……可能な限り点棒を守って次に繋いだほうがいい。そう判断したからです……」 

小走「なんだ……全然弱くないじゃないか、池田」 

池田「え……?」 

小走「池田はチームのことを考えて最善の選択をした。しかも……それを成し遂げた。十分強いじゃないか。もっと誇っていいと思うぞ」 

池田「でも……勝てなかったら意味ないじゃないですか! 一位を取れなきゃ意味ないじゃないですか……!!」

小走「一位ねぇ……県大会ならともかく……私らの学年は宮永照がいたからな……どう足掻いたって全国で一位は取れなかった。それでも、うちの部員は私ら三年についてきてくれたぞ? 
 池田たちの部――風越さんでは、福路さんが長野で一位を取れるくらい強いから、チームがまとまっていたのか?」 

池田「それは……違うと思いますけど……」 

小走「だろ? だから、ちょっと負けたくらいでいちいち下を向くな。お前はまだ二年だろうが。私らとは違う。負けても次がある。 
 そうやって……敗北をバネにして強くなればいいんだよ。ここぞというときに、笑っていられるようにな」 

池田「小走さん……」 

小走「福路さんだってそうだっただろう? あんな涙脆い人でも……お前たちが弱気になっているときには……強気の笑顔でいたはずだ。だから、お前たちは安心してあの人についていけたんだろう? 違うか? 
 別に麻雀が強い弱いはさほど関係ないんだよ。どんな苦境に追い込まれても……前を見て笑っていられる――それこそが、部をまとめる者として備えているべき資質なんだと私は思う。 
 お前らんとこの監督さんだって……きっと池田のそういう資質を見抜いているから……お前を福路さんの後任にしたんだろうさ」

205: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:37:19 ID:qi3B5FuV0
池田「前を見て……笑っていること……ですか。確かに……あたしの取り得なんてそれくらいしかないですもんね……」 

小走「そんなに卑下するな、池田。池田は麻雀も十分に強いと思うぞ。普通、流し満貫なんて狙ってできるもんじゃない。あれはお前の持ってる才能の一つだと私は分析する。 
 正直……羨ましいよ。私にはこれといった才能や能力はないしな」 

池田「ありがとうございます……お世辞でも嬉しいです」 

小走「世辞じゃないさ。本当のことだ」 

池田「……小走さんは、次の後半戦、天江衣に勝つつもりですか?」 

小走「さあな。打ってみないとわからん。色々噂は聞いてるけど、直に対局するのはこれが初めて。 
 ま、化け物だろうが魔物だろうがどうということはない。そう心配しなさんな。こっちは小三のときからマメすらできない。そう簡単には負けないさ」 

すばら『先鋒戦後半……間もなく始まります!! 選手のみなさんは対局室に集まってください!!』 

小走「と……マズい。悪いな、池田、先に戻っててくれ。少しくらいは一人の時間がほしい。こう見えて、私、けっこう緊張するタイプなんだよ」 

池田「あっ……すいません、わかりました。小走さんのおかげで……気持ちがかなり楽になりました!! あたし、あたしなりに、できるところまで頑張ってみますっ! 
 ありがとうございました!!」 

小走「いいって、気にするな」 

 気さくに笑う小走。池田、一礼して、早足にトイレを去る。

206: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:38:33 ID:qi3B5FuV0
 小走、池田が見えなくなったのを確認して、トイレから出て、池田が去ったほうとは逆の廊下の角へ話しかける。 

小走「って……こんな感じで大丈夫だった?」 

 廊下の角から出てきたのは――風越キャプテン・福路美穂子。 

美穂子「ありがとうございます。すいません、うちの後輩の面倒を見てもらって……」 

小走「いいよいいよ。福路さんの頼みなら、お安い御用。それに、あれでしょ? あいつって福路さんの前では強がるんでしょ? 身内には弱音を吐かなそうなタイプ」 

美穂子「そうなんです……本当、強い子なんです」 

小走「強がってる子、の間違いじゃない?」 

美穂子「ええ……そうとも言いますね」 

 クスクスと笑い合う、二人。

208: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:40:14 ID:qi3B5FuV0
小走「そういえばさ、福路さん。清澄の部長って、昔いつだったか福路さんが話してくれた上埜さんだったんだね。 
 開会式の挨拶聞いてたら突然懐かしい名前がでてきてびっくりしたよ」 

美穂子「ああ、そうなんですよ。私も、今年のインターハイで上埜さんを見て……本当に驚きました」 

小走「フフ、想い人と再会できてよかったね」 

美穂子「もう……そういうこと言わないでください////」 

小走「いいなぁ福路さんは……羨ましい。昔馴染みの相手が身近にいるってさ。高三になるともう……インターミドル時代の顔馴染みってどんどん少なくなっていくから」 

美穂子「そうですね。高校から急に活躍し始める人もたくさんいますし、色々な理由で麻雀から離れてしまう人もいますから」 

小走「お互い古株同士、まだまだ頑張ろうね。次はなんだろう……インカレあたりかな? ま、また機会があったらよろしく、長野最強さん。じゃ、私もう行かないとだから」 

 言って、軽い足取りで対局室へと向かう小走。 

 その背中を見送りながら、美穂子は小さく呟く。  

美穂子「ええ、また全国の舞台で戦えるのを楽しみにしていますよ…………奈良最強さん」

209: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:42:54 ID:qi3B5FuV0
@会場某所 

 我に返った龍門渕透華は、暗い表情で廊下を歩いていた。 

 そんな透華を、よく知った声が呼び止める。 

衣「とーか、どうした、浮かない顔をして」 

透華「衣……。申し訳ありませんわ、負けてしまいましたの」 

衣「なんだ、そんなことか。あれくらい、すぐに衣が取り返してやる」 

透華「ええ……そうですわね。衣のことは心配してないですわ」 

衣「ん……? 妙に歯切れが悪いな、とーからしくもない」 

透華「わたくしらしくない……そうですわね。確かに、わたくしらしくなかったですわ」 

衣「とーか?」 

透華「開会式で、衣が言っていたじゃありませんか。わたくしたち二年選抜の今日の目標は、自分が納得できるように……自分らしく打つこと。 
 それなのに、ですわ。トップバッターのわたくしが、いきなりわたくしらしくない打ち方をしてしまった。わたくし……どんな顔をして控え室に戻ればいいのか……わからなくなってしまいましたの……」 

衣「今日のとーかは……そんなにとーからしくなかったのか?」 

透華「らしくないですわよ。さっき……対局が終わってすぐにハギヨシを呼びつけて牌譜を見せてもらいましたの。愕然としましたわ……南三局一本場からの連荘……あまりにデジタルとはかけ離れた打ち方……。 
 あんなの……わたくしは認めませんわ。それに何より、あんな打ち方でしか勝てない自分が……嫌になりますの」 

衣「とーか……」

210: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:44:56 ID:qi3B5FuV0
透華「わたくしの中にも……きっと衣と同じように……魔物がいる。それは薄々気付いてましたわ。けど……だからこそ、わたくしは、普段のデジタル打ちを誇りにしていますの。 
 わたくしは、わたくし自身の意思と力で勝ちたいんですわ。あんな魔物じみた打ち方で……わたくしの知らないところで勝っても……何も嬉しくありませんの」 

 透華、悔しそうに、拳を握る。 

透華「本当に……嬉しくもなんともありませんわよ。わたくしは……わたくしらしく勝つために……日々己の力を磨いているんですの。決して、あんなわけのわからない力で勝つためじゃありませんわ。 
 それなのに……結局は、あのわけのわからないわたくしのほうが……わたくしが努力して作り上げたわたくしより……強い。本当に、あのわけのわからないわたくしは憎たらしいですわ。 
 そして、それ以上に……弱い自分が嫌になりますの」 

 透華、自嘲するように、力なく笑う。 

 衣、見るに見かねて、透華に抱きつく。 

透華「え……衣? なんの真似ですの……?」 

衣「元気を分けてる」 

透華「わたくしのことはいいですわ。控え室には……観戦室にいる智紀と一に会って気分転換してから戻りますの。あなたは早く次の対局に行ってくださいまし」 

衣「嫌だ。悲しんでる家族を置いてはいけない」 

 家族、という単語を聞いて、透華、何も言えなくなる。

211: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:47:27 ID:qi3B5FuV0
衣「とーかの憎むとーかのこと……衣もよく知っている。とーかの言う通り、あれはいつものとーからしくはない。一や純も、あまりあのとーかを好いてはないようだ。二人ともいつものとーかを気に入っているからな。 
 けど……衣は、少し違う」 

衣「衣は……いろんなとーかを知っている。いいとーかも、悪いとーかも、頑張ってるとーかも、ダメなとーかも。強いとーかも、弱いとーかも」 

衣「どんなとーかも、衣は好きだ。色んなとーかを……衣はとーかの家族だから……受け入れたいと思う。だから、とーかにも、色んなとーかを好きになってほしい。受け入れてほしい。 
 とーかが憎むとーかだって、とーかなんだから。とーかが嫌うとーかだって、やっぱりとーかなんだから。衣はとーかの全部が好きだから……今みたいに……とーかが自分を嫌いだって言うのは、聞いていて、悲しい」 

衣「衣も……ずっと自分の力が疎ましかった。この力のせいで……みんなが離れていった。こんな力、なければいいのにって思っていた……」 

衣「でも……衣はこの力のおかげで……とーかたちに会えた。清澄のノノカや咲とも友達になれた。そんな風にみんなと繋がることができて……この力が……今は、大切な衣の一部なんだと思える。 
 これが衣らしさなんだと思える」 

衣「できれば……とーかにも、そういう風になってほしい。自分らしくあるためには、自分のことを好きじゃないといけないって、衣は思うから。だから、もっと、とーかはとーかのことを認めていいんだ。 
 わけがわからなくても、憎らしくても、弱くても……」 

すばら『先鋒戦後半……間もなく始まります!! 選手のみなさんは対局室に集まってください!!』

212: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:49:21 ID:qi3B5FuV0
衣「とーか、わかった?」 

透華「……わかりましたわよ。衣にこんなに心配されるなんて……わたくしはお姉さん失格ですわね」 

衣「とーかは衣の姉じゃない。衣のほうが誕生日が早い」 

透華「冗談ですわ。まあ……そうですわね。とりあえず、今度じっくり『あれ』の牌譜を眺めてみようと思いますわ。
 去年のインターハイ、四校合同合宿、それから、今日の対抗戦。他にも探せば出てきますでしょ。そうやって……ちゃんと向き合えば、今よりは少し、好きになれるかもしれませんわね」 

衣「うむ。その意気だっ!」 

透華「衣のほうも、油断せずに頑張ってくださいまし。今日の面子はなかなか手強いですわよ。 
 よくよく考えたら、あの状態のわたくしがさらりとかわされるのは、去年のインターハイ以来のような気もしますわ。県大会の決勝レベルだと思って戦うと、痛い目を見ますわよ」 

衣「案ずるな、誰が相手だろうと蹴散らすまで」 

透華「なんだか、えらく気合が入ってますのね」 

衣「当然至極。妹の失点を埋めるのは、姉の務めだからなっ!」 

透華「ハイハイ。じゃあ……あとはお願いしますわね、お姉さま」

213: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:50:55 ID:qi3B5FuV0
@会場某所 

シロ「あうー……ダルー」 

豊音「シッロー!!! お疲れー! ちょーお疲れー!!」 

シロ「ごめん、豊音。正直、私いま、豊音のそのテンションについていけない」 

豊音「えー!? だってあの天江さんと戦えるんだよ!? 清澄の先鋒の子もいるし! そりゃテンションも上がるよー!!」 

シロ「…………一応、忠告しておくけど、今日の対抗戦は豊音でもそう簡単には勝てないと思うよ。最初から全力でやったほうがいい」 

豊音「シロじゃないんだから手なんて抜いたりしないよ。もちろん最初から飛ばしていくよー? 天江さんもいるしね」 

シロ「あと、清澄と、長野の南浦さんって子も、けっこうやるよ」 

豊音「その二人はさっき見てたから大丈夫。ちゃんと警戒してるって」 

すばら『先鋒戦後半……間もなく始まります!! 選手のみなさんは対局室に集まってください!!』 

シロ「じゃあ……まあ……いってらっしゃい」 

豊音「いってきまーす!」 

シロ(あ……そう言えば混成チームは誰が出てくるんだっけ……? 
 まあ……大丈夫か。聞いたことのない選手だからって油断するような豊音じゃないし。それに……さすがに天江衣以上ってことはないだろう…………たぶん)

215: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:52:08 ID:qi3B5FuV0
@会場某所 

優希「お疲れだじぇ、数絵」 

南浦「削られた。面目ない」 

優希「いいってことだじょ! 点数見てみるといいじぇ。我ら一年が暫定トップだじょ」 

南浦「それでも……私は負けたから。暫定トップなのは、あなたの手柄」 

優希「む……。数絵は……団体戦には興味ないのか?」 

南浦「興味がない……わけではないと思うが。ただ、私にとって大切なのは、あくまで私自身が勝つことだから。 
 みんなで戦うということがどういうことなのか……よくわからない」 

優希「そうか……それじゃあ……今日の対抗戦で勝つのは大変かもしれないじょ」 

南浦「……どういうことだ?」

216: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:54:36 ID:qi3B5FuV0
優希「今日の対抗戦――もしこれが個人戦だったら、数絵はきっと勝ち上がれると思うじょ。でも、今日は団体戦だじょ。この違いはけっこう大きいんだじぇ?」 

南浦「団体戦だろうが、個人戦だろうが、麻雀を打つことに変わりはない。卓につけば、誰もが一人。強い者が勝ち、弱い者が負ける。それだけだろう?」 

優希「ふふん。甘いな、数絵。そんなことを言っているうちは、数絵は私にも勝てないじょ」 

南浦「意味がわからない」 

優希「今にわかるじぇ」 

すばら『先鋒戦後半……間もなく始まります!! 選手のみなさんは対局室に集まってください!!』 

南浦「優希……あなたには感謝している。こんな全国区の猛者が集う場所に私を連れてきてくれて……私に戦いの場を与えてくれて、有難く思っている。 
 けれど、だからといって、あなたに私の価値観まで変えてほしいとは思っていない。 
 私は私が勝つためにここに来た。別に、団体戦の貴さを学びに来たわけではない。悪いが、あまりその辺りの期待はしないでほしい」 

優希「価値観とか、そんな細かいことはどうでもいいんだじぇ。私が数絵を連れてきたのは、単純に数絵がいればチームが勝てると思ったからだじょ。 
 数絵がいつも通りに打って勝てるならそれで何も問題はない……でも、もし、数絵がいつも通りに打っても勝てないくらい敵が強いときは……私の言葉を思い出してほしいんだじょ」 

南浦「…………善処する」 

優希「おうっ! さすが数絵は話がわかるじぇ! じゃ、行ってくるじょー! 今度こそ東場で終わらせてやるじぇー!!」

217: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:56:00 ID:qi3B5FuV0
@対局室 

すばら『さあ!! 場決めも終わり、各選手席に着きました……!! いよいよ先鋒戦後半のスタートですっ!!』 

東家:片岡優希(一年選抜) 

優希「よろしくだじぇ!」 

南家:姉帯豊音(三年選抜) 

豊音「よっろしくー!」 

北家:小走やえ(混成チーム) 

小走「よろしく頼む」 

西家:天江衣(二年選抜) 

衣「宜しく」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 

 再び優希の起家で始まる東南戦。 

 慣れた様子で最初の賽を回す優希。 

 前半戦の熱気も冷めやらぬまま。 

 後半戦――開始ッ!!!

219: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 16:59:45 ID:qi3B5FuV0
@実況室 

すばら「さて、メンバーも変わって後半戦が始まったわけですが、先鋒戦にして早速一人目の魔物が現れましたね、井上さん!!」 

純「さっきの南三局で別の魔物が既に出てたわけだが、まあ……知名度では衣のほうが上だろうな」 

菫「天江衣選手……うちの照や淡、それから永水の神代選手と合わせて、『天照大神』なんて呼ばれていますね」 

初瀬「天照大神……『牌に愛された子』というフレーズをよく耳にします。どういう意味なんですか?」 

純「そうとしか表現できねえんじゃねえか? あいつらの牌譜見てみろよ。デジタルとかオカルトとかの領域を超えてるぜ。オカルト派のオレですら、あの流れは意味不明だ」 

菫「強いて共通点を挙げるなら、どの選手も驚異的な『場の支配力』を持っていることですかね」 

初瀬「あの……『場の支配』って、さっきもちらっと出てきたんですが、具体的にどういうことなんですか?」 

純「例えば、さっきの透華は、他家の鳴きやリーチを封じていたな。同じように、うちの衣は、他家のテンパイ率を劇的に下げることができる。あと、あいつはリーチ一発海底とかを狙ってやったりするな。 
 それもこれも、他家の手牌や山の状態をある程度把握しているからできる芸当だ。ちなみに、衣は他家の和了りの高低を見抜ける」 

菫「うちの照は、連続和了を得意としています。それも、ただの連続和了じゃない。点数が徐々に高くなっていくやつです。これも、ある程度他家の手牌や山を掌握してないと成立しません。 
 照の連続和了はズラしても和了ったりするからかなり性質が悪いですよ。ちなみに、照は他家の打ち筋やその本質をたった一局で見抜くことができます」

220: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:02:16 ID:qi3B5FuV0
初瀬「あの……なんと言えばいいのか……天江選手やチャンピオンは本当に人間ですか?」 

純・菫「人間じゃねえよ(ないですね)」 

純「ま、それは冗談で、あいつらは人間だぜ。人間であってもらわないと困る」 

初瀬「どういうことですか……?」 

純「信じられないかもしれねえが、うちの衣だって負けることはある。他家に振り込むことも、出し抜かれることもある。 
 それは全部、あいつが人間だからだ。油断も隙もあるんだよ。だから、うまいことやれば、一般人でも魔物を倒すことができる……かもしれねえ」 

菫「倒すまではいかなくとも、一矢報いることくらいは私にだってできますよ。それが証拠にほら、どうもあの魔物って人種は序盤は『見』に回る傾向がある。 
 天江選手も、どうやらその例に漏れないみたいですね」 

すばら「来ましたあああああ!! 先鋒戦後半東一局!!! 場を動かすのはやはりこの人ですっ!!!」

221: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:05:48 ID:qi3B5FuV0
@対局室 

東一局・親:優希 

 十三巡目 

優希「リーチだじぇっ!!」スチャ 

 優希、前半戦から勢い止まらずッ!! 

優希(龍門渕のお子様……合宿で何度か対局したけど……打ち難さは咲ちゃん以上だじぇ。稼げるときに稼いでおかないとあとが恐いじょ) 

衣(清澄の……相変わらず東場の爆発力は大したもの。東一局……様子見のつもりではあったが……決して衣の支配は作用していなかったわけではない。よく自力でテンパイまで持っていったものだ。 
 しかし……いいのか? 確か、お前の下家にいる宮守の大将の得意技は……) 

 優希のリーチを受けて、イーシャンテンから伸び悩んでいた豊音の手が、進むッ!! 

豊音「んー……追っかけるけどー?」スチャ 

優希(あああああっ!? 忘れてたじょ!! こいつより先にリーチしちゃいけないって咲ちゃんにあれほど言われたのにっ!!) 

 次巡、優希、一発目のツモ牌を手に取る! それは優希の和了り牌ではなく――。 

優希(うう……!! 南無三だじぇ……!!)タンッ 

 無防備に捨てられた牌は、背後から忍び寄る影に刈り取られる!! 

豊音「ロン。リーチ一発……裏はなし。2600」 

 背向の豊音――健在ッ!!

222: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:07:18 ID:qi3B5FuV0
優希(ペンチャン待ちのリーのみ……そんなしょぼい手で私のメンタンピン高め三色の三面待ちが打ち負けたんだと思うと……ついもう一回リーチしたくなっちゃうじょ。 
 でも、やめといたほうがいいっぽいじぇ。もう次はない。どっかの三年とは違うんだじょ) 

豊音(んーラッキー! まさか直接戦った清澄の子が先制リーチをかけてくるとは思わなかったよっ!! 
 にしても……先負が発動できたからよかったけど……今の……イーシャンテンから手が進まなかったのはかなり不自然な感じだったなぁ。これが天江さんの力か。 
 んー……わくわくするっ!!) 

衣(さて……これで衣が南家。遊びは終わりだ。ここからは衣も本気で行く!!) 

タ:107600 衣:96800 姉:103600 や:92000

224: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:09:54 ID:qi3B5FuV0
東二局・親:豊音 

 十五巡目 

豊音(うーん。想像以上に手が進まない。鳴けないから友引も使えないし……。天江さん……この場を意図して作り出しているの……? 
 永水の霞さんの絶一門もすごいと思ったけど……あれはまだ終盤に付け入る隙があった。でも、これはなぁ……突破口を見つけるのは容易じゃなさそうだ)タンッ 

優希(来たじぇ……これは何度経験しても泣きたくなるじょ。まるで南場みたいな感じ。 
 咲ちゃんはまだカンできるからいいとして……鶴賀の大将や池田なんか……こんなのをどうやって切り抜けたんだじょ) 

 足元から這い上がり、徐々に高くなっていく水位ッ! 

 暗く重い海底へと――溺れていくッ!! 

 十七巡目――!!! 

衣「……リーチ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 

優希(このリーチは……本当に心が折れそうになるじぇ……!!)タンッ 

豊音(出た……! 噂の十七巡目リーチ!! あっ、リーチ入ったからテンパった!! すごく追っかけたい!! 追っかけられないけどー!!)タンッ

227: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:11:54 ID:qi3B5FuV0
 そして……運命の海底ッ! 

 魔物の手が――月を掬い上げるッ!! 

衣「ツモ。リーチ一発ツモ海底撈月……三暗刻……赤一……裏三!! 4000・8000!!」 

 天江衣――死角無しッ!! 

豊音(リーチ一発海底……!! すごいすごいちょーすごい!! もーすご過ぎて震える!! 涙出てくるっ!!) 

優希(裏三とか……さすがの化け物っぷりだじぇ。ま、だからこそ倒し甲斐があるってもんだじょ!!) 

タ:103600 衣:112800 姉:95600 や:88000

230: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:15:58 ID:qi3B5FuV0
東三局・親:衣 

 十二巡目 

優希「ポンだじょ!!」タンッ 

豊音(わっ!? 鳴かれた? って……これで天江さんに海底が行くわけだけど……これも計算のうちなの?) 

優希(龍門渕のお子様……これがお前の狙い通りなのは知ってるじょ。けど……だからなんだって言うんだじぇ! そんなに海底が好きならくれてやるじょ! 
 けど……海底なんて……海底に辿り着かなきゃ和了れないんだじょ!!) 

衣(清澄の……いかに東場に自信があるとは言え……そんな通り一遍等の攻めでは衣の支配は抜け出せない。衣の恐ろしさ……その身に刻んでやる……!!) 

 十六巡目 

優希(あ……和了れないじぇ……!!)タンッ 

豊音(またイーシャンテン止まりで、天江さんは海底コース。天江さんの力が本物なら……当然ここで……来るんだよね?)タンッ 

 十七巡目 

衣「リーチッ!!」スチャ 

 衣、再び十七巡目リーチッ!! 

 他家、動けずッ!!

231: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:17:47 ID:qi3B5FuV0
優希(頼むじょ……最後のツモ……東場の神よ我に奇跡を――ってだああああ!? これじゃないじょ!! 見放されたじょ!!)タンッ 

豊音(東場に強い清澄の子でも和了れないのか。力任せの打牌や運だけじゃダメだってことだね。天江さんの支配ってやつを抜け出すには……もっと別の方法が要る) 

衣「ツモ。リーチ一発ツモ断ヤオ……海底撈月……4000オール!!」 

優希(じょー………………最悪の展開だじぇ) 

 魔物・天江衣、二連続海底ッ!! 

 他の追随を許さない、圧倒的な力ッ!! 

 しかし……むしろ圧倒的だからこそ、燃え上がるミーハー女子が一人ッ!! 

豊音(きゃー! 天江さんちょーカッコいー!! 本当に狙って海底が和了れるんだ!! 生で体験すると迫力が全然違うっ!! って……さすがにそろそろ点数がヤバいけどー) 

 長野の魔物を目の前にして、岩手の魔人が微笑む……ッ!! 

豊音(天江さんは出和了りもある。けれど……気分的なものなのかな……今のところは海底に拘るみたい。ただ……さすがに三連続はいただけないかなー。 
 次も海底を狙うようなら……悪いけど……潰させてもらうよー?)ゴゴゴゴゴゴゴ 

 姉帯豊音、秘策ありッ!! 

タ:99600 衣:124800 姉:91600 や:84000

233: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:23:24 ID:qi3B5FuV0
東三局一本場・親:衣 

 十三巡目 

優希(相変わらず手が重いじぇ。けど、龍門渕のお子様はまだ動いてないじょ。海底狙いはやめた……? だとしたら、出和了り注意だじぇ……慎重に……慎重に……)タンッ 

小走「ポン」タンッ 

優希(じょ!? 混成の……誰だっけ!? いや、そんなことよりその鳴きは……!!)タンッ 

豊音(天江さん……この巡目で海底コースに乗った。既にテンパイはしてるみたいだけど……これはまた海底を狙うかな……?)タンッ 

衣(奈良の……晩成高校・先鋒――小走やえとか言ったか。鳴いて特に手が進んだ様子はないが……衣の支配の中で紛れを求めたのか? それとも……わざわざ衣に海底を差し向けた……? 
 生意気な。今局……出和了りでもよかったが……そんなに地獄が見たいのなら……いいだろう。何度でも見せてやる……!!)タンッ 

 十六巡目 

優希(デジャヴだじょ!! ヤバいじょ!! なんにもできないじょー!! せめて……誰かが鳴けそうな牌……って、そんなんわかったら苦労しないじょ!!)タンッ 

 衣の支配に翻弄される優希。どうにか衣を海底からズラそうと、手を崩してまで豊音にパスを送る。 

 しかし……今の豊音の目に、海底ズラしなどといったその場凌ぎの捨て牌は、映らない。 

 豊音、あくまで、正面から天江衣を打ち倒す構えッ!!

234: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:24:57 ID:qi3B5FuV0
豊音(六曜の中でも……『これ』はかなり使い勝手が悪いほうだからねー。公式戦で使うのは初めてかも。まあ……普通の人が相手だったら背向で十分対応できるんだけど……さすがに下家の十七巡目リーチは追っかけられない。 
 でも……追っかけられないなら……追っかけてもらえばいいだけの話だよねー?)ツモッ 

 豊音、イーシャンテンだった手が、この土壇場に来て、進むッ!! 

衣(む……宮守の大将がテンパイした……? 妙だな。衣は手を進ませるつもりなんてなかったのに。さては……こいつ……何かしたな……?) 

豊音(これで発動条件の一つ目――自分がテンパイしたときに他家がリーチを掛けていない――はクリア。 
 そして……あともう一つの条件――他家が、自分がリーチしてからツモるまでの間に、追っかけリーチを放ってくること――も、海底狙いの天江さんなら……この誘い……乗ってくれるよね……!?) 

 豊音、イーシャンテンからテンパイ、その不要牌を捨て……曲げるッ!! 

豊音「リーチ……!!」スチャ 

 豊音、明らかに衣を意識して、不敵に微笑む。 

豊音「さあ……追っかけてみー?」ゴゴゴゴゴゴゴ

237: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:27:26 ID:qi3B5FuV0
衣(宮守の大将……何か狙っているな。得意技は追っかけリーチだと思っていたが、追っかけられるのも望むところなのか。衣の支配を打ち破るような局所的な力を感じる……。 
 そのせいかはわからないが……この海底はいつもの海底と感覚が違う。和了れるかどうかは五分五分といったところ。感覚を信じるなら、ここはダマで通したほうが無難かもしれない。さて……どうする……?) 

 衣、しかし、逡巡は一瞬。 

衣(わかっている。ここで感覚に従って様子見に回るような……そんな戦う意思のない麻雀は……衣らしくない!! まだ結果が見えたわけではない……なら、ここは当然勝負するところ……!! 
 宮守の大将……好きなだけ罠を張るがいい! 策を巡らせるがいい!! その全てを……衣はねじ伏せる……!!) 

 衣、ツモった牌をそのまま卓に叩きつけ、宣言ッ! 

衣「通らば――リーチ……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 

 瞬間、先負と対をなす六曜――『先勝』が発動ッ!!! 

 それは、先制リーチをかけた者の第一ツモで和了る先負と、真逆の能力!!! 

 先勝は――追っかけリーチをかけた者の第一ツモで、和了る!!! 

豊音(天江さん……退くつもりはないってわけねー? それがあなたたち魔物の誇りなんだろうけど……誇りとは同時に……驕りでもある……!!)ゴゴゴゴゴゴ 

 十七巡目リーチを放った魔人と魔物……!! 

 両者ともに、狙うは闇に包まれた海の底――!!

238: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:28:41 ID:qi3B5FuV0
優希(じょー……なんか魔物が増えたじぇ……)タンッ 

豊音(さあ……天江さん……勝負……!!)タンッ 

 衣、運命の海底をその手に掴む――!! 

 瞬間、盲牌ッ!! 

 衣の表情は……!!? 

衣(――!? くっ……五萬じゃ……ない……!!?) 

 苦渋ッ!! 

 衣、唇をかみ締めて、逃した魚を河に流す!! 

 即座、魚は魔人の手によって吊り上げられる……ッ!! 

豊音「ロン……!! リーチ……河底撈魚!! 2600は2900!!」パラララ 

衣「~~~~~~っ!!」 

 かくして、魔物と魔人の一騎打ちは、ひとまず魔人に軍配が上がる!! 

 しかし、その勝敗は、決して結果ほどはっきりしたものではなく、白とも黒とも言いがたい、グレーッ!!

239: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:30:15 ID:qi3B5FuV0
豊音(今の……本気でヤバかったよー。先勝がまともに発動しているのに……何もかも根こそぎ持っていかれそうな感じがした。 
 天江さんがリーチをかけた時点では八割方いけると思ってたんだけどな……蓋を開けてみたら五分五分……まるでトシさんを相手にしてるみたい。できれば、もうこんな心臓に悪い真似はしたくないねー……) 

衣(宮守の大将……一点突破とはいえ……一時的に衣の支配を上回るとは。身近によほど強い指導者でもいるのだろうか……鍛え抜かれた粘り強さを感じた。 
 確か……インターハイでは咲がこいつと戦ったのだったな。今更ながら、とーかたちと全国で戦えなかったことが悔やまれる……衣も公式戦でこいつと戦ってみたかった……!!) 

 衣、失点はしたものの、強敵を前に、気分は高揚。 

 豊音、渾身の一撃も、火に油。 

 しかし、豊音の一撃は、決して軽くはない。 

 それは点数以上に、衣に重く圧し掛かる。

240: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:32:12 ID:qi3B5FuV0
衣(しかし……こいつに追っかけリーチが通じないとなると……迂闊に十七巡目リーチはかけられない。恐らく、こちらの海底狙いに気付けば……また今の力を使うだろう。 
 力は拮抗しているが……拮抗しているだけあって……確実に勝てる保障はない。厄介だ……衣は海底で和了るのが好きなのに……!) 

豊音(天江さん……これで得意の十七巡目リーチは封じた……よね? ま、意地でもう一回くらいはやってくるかもしれないし、そもそも先勝はリーチをかけてもらえないと発動しないから、ダマで海底狙いをされたらそれまでなんだけど。 
 まあ……ダマの海底なら、リーチも一発も裏も消える。県予選の天江さんの牌譜を見たけど……たまに海底でしか和了できないような無茶な形を作るときもあった。 
 でも……ダマの海底のみなんてさほど脅威にならない。その辺りまで牽制できたのは大きいかな……) 

 他方、魔人と魔物の駆け引きが繰り広げられる中で、やや置いていかれ気味の優希は――、 

優希(東場が……東場が終わっちゃうじょ!! 私が東場で焼き鳥断ラスなんて……あのオカルトノッポと風越のタコさんウィンナーにやられたときを思い出すじぇ。 
 ううう……困ったじょ。どうすればいいんだじょー……) 

 優希、打つ手無しッ!! 

タ:99600 衣:120900 姉:95500 や:84000

242: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:36:32 ID:qi3B5FuV0
東四局・親:小走 

優希(配牌は決して悪くないんだじぇ……ドラは毎回一、二枚は入ってるし……染め手か平和を狙いやすい形になってる……けど……)タンッ 

優希(それもこれも……龍門渕のお子様の手の平の上……東一局のあれは半分くらいマグレだったじょ。このままじゃまたイーシャンテン止まりだじぇ……何か……少しでも……前へ……!)タンッ 

優希(ぬ……これでイーシャンテン。混一中ドラ三……いつもなら手広く待ってテンパイ即リーだじょ。それとも……部長みたいに悪待ちでもしてみるか……? 咲ちゃんみたいに大明槓とか……? 
 なんて……無理無理だじぇ。私には……のどちゃんみたいな頭もないし……染谷先輩みたいな眼鏡もないじょ。どうせ槓材だって寄ってこないし、悪待ちしたって裏目るだけだじぇ……!) 

優希(いつか……もっともっといっぱい練習して……もっともっとたくさん強い相手と戦って……三年生になる頃には……もうちょっと器用に打てるようになってるのかもしれない……! 
 でも……今の私には……これが精一杯だじょ……!!)タンッ 

 優希、それが衣の支配下にあるとわかっていても、頑なに真っ直ぐ進むッ!! 

優希(東場で自分を曲げたくはないじょ……!! そうやって……いつも部長や染谷先輩や……咲ちゃんやのどちゃん相手に食らいついてきたんだじぇ……!! 
 これくらいのピンチは……もう慣れっこなんだじょ!!)タンッ 

 それは、決して思考放棄でも、自暴自棄でもないッ! 

 優希はただ、どこまでも自分を信じて、全力で、真っ直ぐに和了りを目指す!! 

 果たして、場が動いたのは……十三巡目ッ!!!

243: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:38:58 ID:qi3B5FuV0
小走「……」タンッ 

優希「チーだじぇ!!」タンッ 

 優希、混一中ドラ三……テンパイ!! 

 優希手牌:7899西西西中中中/(5)34:ドラ西 

優希(できれば門前で進めたかったけど……贅沢は言ってられないじょ。とにかくこれで張ったじぇ!! 全員覚悟するがいいじょ!! 東場の主役は絶対に譲らないじょ!!) 

豊音(うわー……張ったのかな? この状態でよく張れるな……さすがシロと張り合うだけのことはあるねー……)タンッ 

衣(清澄のテンパイ……12000といったところか。テンパイに持っていけるだけで十分なこの場において……リーチに頼らずハネ満手を仕上げてくるとは……全国大会を経て一段と力が磨かれている……)タンッ 

小走「……」タンッ   

衣「(だが……それでもまだ衣には及ばない……!!)ポンッ!!」タンッ 

優希(うっ……龍門渕のお子様が海底とは無関係に鳴いてきたじょ……これは……下手に打つと刺されるパターンだじぇ……) 

 衣の鳴きを受けた次巡、優希が引いてきたのは……一索ッ!!

244: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:41:47 ID:qi3B5FuV0
 優希手牌:7899西西西中中中/(5)34:ツモ1:ドラ西 

優希(これはまた……ビミョーなところを引いたじぇ。いつもなら何も考えずに捨てるところだけど……これを抱えても同打点のままでテンパイを維持できる。 
 龍門渕のお子様が鳴いた直後に引いた牌……いかにも当たりっぽい……一応抱えておくってのもアリな気がするじぇ。でも、抱えたら抱えたで、こっちの待ちが狭くなる。 
 どっちが正解か……んー……考えてもわからんじょ!!!) 

 優希、思い悩んだ末、ツモ牌を抱えることを選択ッ!! 

 しかし、全ては、魔物の手の平の上ッ!! 

 二つの分かれ道――その先にあるのはどちらも……死ッ!! 

衣「ロン。対々北……5200ッ!!」パララッ 

 衣手牌:①①①⑤⑤⑤1199/北北(北):ロン9:ドラ西 

優希(じょーー!!? 悪魔のシャンポン待ち……!!? どっち切っても不正解だったじょ……!!!) 

 優希、思わず天を仰ぐ。 

優希(うう……散々な東場だったじょ……。龍門渕のお子様と……宮守の超ノッポ……咲ちゃんは本当にこんなの相手によく勝ってきたじぇ……本当に……すごいと思うじょ……) 

 優希、悔しさが込み上げる……! 

 しかし、涙は見せないッ!!

245: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:43:25 ID:qi3B5FuV0
優希(今回は完敗だじぇ。でも、いいんだじぇ……目標は高いほうが燃えるんだじょ。まだまだ……今は届かなくたって……これから追いつけばいいんだじょ!!) 

 優希、静かに席を立って、場の面子に一礼する。 

優希「私はこれで失礼するじょ。色々と……勉強になったじぇ。けど……!! 私に勝ったくらいでいい気になるのは早いんだじょ! 私のあとには数絵がいる! のどちゃんも咲ちゃんもいるんだじぇ! 勝負はまだ終わってないんだじょ!」 

 優希の強気な言葉に、衣が座ったままで返す。 

衣「無論、そのつもりだ。最後まで手抜かりなく勝たせてもらう」 

優希「ふふん、せいぜい束の間のトップを楽しんでるといいじょ!」 

 優希、そのまま踵を返して、対局室を去っていく。 

 唯一手合わせの経験がある衣、やけに堂々とした優希の後ろ姿を見て、後輩の成長を喜ぶ先輩のように、抑えがちに笑む。 

衣(清澄の……力は伸びている……少しは知恵も回るようになった……しかし、それでもまだまだ甘過ぎる。もっと腕を磨いて出直してくるがいい……! 衣はいつでも受けて立つぞ!!) 

タ:94400 衣:126100 姉:95500 や:84000

247: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:44:33 ID:qi3B5FuV0
 片岡優希、先鋒戦後半、衣の支配下にありながら二度大物手をテンパイするも、和了れず。 

 結果、自らが前半戦に作った貯金を吐き出す、マイナス16800の大失点。 

 しかし、その表情に、絶望の色はない。 

 清澄高校一年・自称切り込み隊長・片岡優希。 

 価値ある敗北を手に、戦線離脱ッ!!

249: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:46:35 ID:qi3B5FuV0
@会場某所 

 南浦、モニターで東場が終えたのを確認し、対局室へ。 

 途中、南浦を迎えに来た優希と鉢合わせる。 

数絵「お疲れ、優希」 

優希「数絵……ごめんだじょ。負けちったじぇ」 

数絵「……その割りに、ヘラヘラと締まりのない顔をしているな。悔しくはないのか?」 

優希「そりゃ悔しいじょ。東南戦ならともかく、東風戦で負けるなんて……プライドズッタズタだじぇ」 

数絵「なら……どうしてそんな風に笑っていられる? どうして……前を向いていられる……?」 

優希「そりゃ、みんなを信じてるからだじぇ!」 

 南浦、怪訝そうに目を細める。 

優希「前までの私なら……今頃大泣きしてたと思うじょ。県大会の決勝も、前半に出てきた手抜き眉毛と戦ったときも……私は負けて……控え室で泣いたじょ。 
 部長は、原点で帰ってきただけ十分って言ってくれたけど……私はもっとチームの役に立ちたかったし……練習に付き合ってくれたみんなの期待に応えたかったじょ。 
 なのに……私は試合でいっつも勝てなかったんだじょ」 

数絵「それで……今度は開き直ったというのか?」 

 優希、南浦の棘のある言い方に、笑顔で首を振る。

251: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:48:43 ID:qi3B5FuV0
優希「そういうことじゃないんだじょ。そうじゃなくて……全国を戦っている途中で……私はものすごいことに一つ気がついたんだじぇ」 

数絵「ものすごいこと……?」 

優希「私が負けても……清澄は負けないんだじょ」 

数絵「…………は?」 

 優希、誇らしげに胸を張る。 

優希「次鋒の染谷先輩、中堅の部長、副将ののどちゃん、大将の咲ちゃん。みんな……私よりずっと強いんだじょ。 
 みんな……県大会でも全国大会でも……私の負けを取り返して……最後には勝ってくれたじょ」 

数絵「けど……それは、他の人はそうかもしれないが……でも、いくらチームが勝ったからって、優希が負けたことに変わりはないだろう」 

優希「そうだじょ。私が負けたことに変わりはないじぇ。でも、チームが勝ったなら、私の負けなんてどうでもいいって思えるんだじょ」 

数絵「どうでもいい……? 負けたことが?」 

優希「じょー、どうでもいいは言い過ぎたじぇ。なんというかだじょ……私は、私の勝ち負けに拘らなくなったんだじょ」 

数絵「優希が勝っても負けても、チームは勝つからか?」 

優希「そんな感じだじぇ。私は……私よりずっとずっと強いチームのみんなを信じるって決めたんだじょ。 
 私が泣くのは、先鋒戦で私が負けたときじゃない。大将戦が終わってチームが負けたときだって決めたんだじょ」

253: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:51:56 ID:qi3B5FuV0
優希「そうしたら……先鋒戦が少し違って見えた。私が先鋒戦でやるべきことは、一位を取ることじゃない。みんなの点棒を少しでも守って、できることなら増やすこと。 
 そして、最後まで諦めずに全力で打つこと……そういう風に思えたんだじぇ」 

優希「インターハイの決勝だって、当然、私は咲ちゃんのお姉ちゃんに勝てなかったじょ。大惨敗だじょ。けど……みんなはそれを責めなかった。よくやった、すぐに取り返してやるって言ってくれた。 
 その言葉を聞いて……私は負けたけど……胸を張れたじょ。心から、みんなを応援することができたんだじょ」

優希「今回の対抗戦だってそうだじぇ。部長は最初からこれを『団体戦』って言ってたじょ。だから……私は私のあとに続くみんなを信じる。 
 のどちゃんや咲ちゃん、鶴賀の影の薄いの、しらたき糸こんにゃくの大将、のどちゃんの奈良のお友達、あとよく知らないけど関西の二人……」 

優希「もちろん、数絵のことも、私は信じてるじぇ!!」

254: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:52:27 ID:qi3B5FuV0
 優希、南浦の右手を両手で包んで、満面の笑みを浮かべる。 

優希「数絵が勝つって、私は信じてるじぇ。数絵なら、私の仇を取ってくれるって信じてるじぇ。 
 そんでもって……そんな数絵を笑顔で送り出したいから……私は負けても笑っているんだじぇ?」 

 南浦、照れたように顔を背け、優希の手を振りほどく。 

南浦「やはり……私には団体戦のことはよくわからない。優希の言ってることだって……半分も理解できない」 

 言って、そのまま優希を置き去りにし、早足で対局室へ向かう南浦。 

 しかし、その右手は、優希の期待に応えるように、高く掲げられていた。 

南浦「とにかく……私は今度こそ……勝つ――!!」 

優希「おうっ!! 好きなだけぶちかますじぇっ!!」 

 南浦数絵――出陣ッ!!

255: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:54:17 ID:qi3B5FuV0
@実況室 

すばら「天江選手が片岡選手を直撃いいい! 姉帯選手が流れを止めたかに見えましたが、すぐに突き放しましたあああ!! これが魔物の力なのでしょうか!? 
 天江衣選手、その強さを余すところ無く見せ付けて東場終了ですっ!!」 

初瀬「いやぁ……本当に尋常じゃない場でしたねぇ」 

純「…………なんか妙だな」 

すばら「は……? 妙……?」 

菫「私も、少し気になることがあります」 

すばら「えっ? お二人とも、どうしました?」 

純「気のせいならいいんだが……。なあ、初瀬ちゃん」 

初瀬「(ちゃん!?)え、あ、はい。なんですか?」 

純「初瀬ちゃんトコの小走先輩ってのは、何者だ?」 

初瀬「いや、だから、うちの先鋒ですよ」 

純「晩成……ってのは阿知賀に負けたんだよな? そんとき、小走先輩と戦ったのは誰だ?」 

初瀬「松実玄さん……です」 

純「あのドラ娘か……。初瀬ちゃん、悪いんだが、あいつをここに呼んできてくれないか? 話が聞きたい」 

初瀬「えっ? 松実玄さんをですか? はあ……わかりました。行ってきます!」ダッ

256: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 17:57:05 ID:qi3B5FuV0
菫「井上さんも、小走選手のことが気になるんですか?」 

純「まあな。あいつがどれほどのもんなのか、対戦経験のあるやつに聞いてみたくなった。どうにも、さっきからうちの衣が不調っぽいからよ」 

すばら「不調……!? 天江衣選手が? あれでですか!?」 

純「ああ。いくら姉帯がオカルト技を持ってようと、それで衣が海底を和了れねえ……なんてことにはならねえんだよ。 
 同じように、いくら片岡が東場に強くたって、火力で衣が劣るはずがねえ。今の5200は衣にしては低過ぎる」 

菫「東三局一本場と、先ほどの東四局のことですね。私も、その二局での小走選手の動きに違和感を覚えました。 
 もしあれが天江選手の本調子でないというのなら、或いは小走選手にペースを乱されているのかもしれません」 

純「そうか……やっぱりあんたもそう思うか」 

すばら「あの……できれば私にもわかるように解説してほしいのですが……」 

純「じゃあ、まず、東三局一本場。衣が三度目の海底を狙いにいって、姉帯に振り込んだ局だな。このとき、衣は親だった。つまり、誰かが鳴かないと、衣に海底は回ってこない。 
 もちろん、衣が本気で海底を狙うなら、自分で鳴くことだってある。さっきの場合、衣は別に海底を狙っていたわけじゃなかったと思うぜ。出和了りするつもりだったようにオレには見えた。 
 けど……実際は、小走が片岡の二索をポンして衣に海底を回した。それを受けて、衣は狙いを出和了りから海底に切り替えた」 

すばら「まあ……そういうこともあるんじゃないですか?」 

純「じゃあ聞くが、なんで小走は二索をポンする必要があったんだ?」 

すばら「え……? どうしてでしたっけ……染め手か喰いタン狙い……?」 

純「よーく思い出してみろよ。あのとき、小走は既に、二索を暗刻で抱えていたんだぜ?」 

すばら「!? そ、そうでしたっけ!?」

260: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 18:02:22 ID:qi3B5FuV0
菫「ええ……井上さんの言う通りです。しかも、ポンしたあとも小走選手は手の内に二索を抱え続けていました。 
 ああいう鳴き方は、どこか清澄の宮永咲選手を彷彿とさせますね。嶺上開花を狙いにいく鳴き――テンパイと同時に加槓するための布石です」 

すばら「加槓狙いのポン……? それはつまり、小走選手もまた、宮永咲選手のように、嶺上開花を得意としているということですか?」 

純「バカ言うな。あんな魔物が二人もいてたまるかよ」 

すばら「じゃあ……」 

菫「小走選手は別に嶺上開花を狙っていたわけではないと思いますよ。彼女にとって重要だったのは……ツモ番さえ回ってくればいつでもカンができる――そんな状態を維持することだったんじゃないでしょうか?」 

すばら「なんでわざわざそんなことを……?」 

純「ニブいぜ、煌ちゃん。そりゃ、衣が十七巡目にリーチした直後に、加槓するためだろ」 

すばら「!!?」 

菫「カンの効果は何も嶺上牌をツモれるというだけではありません。海底牌を王牌に取り込む、という効果も付随します」 

すばら「な……なるほど!!! 小走選手はあのポンで……後々やってくるであろう天江選手の十七巡目リーチを無効化するつもりだったんですね!! 天江選手がリーチしたあとに加槓すれば……天江選手に海底は回らない!! 
 あれ……でも、結局小走選手はカンをしませんでしたよ?」

261: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 18:04:10 ID:qi3B5FuV0
純「そりゃするわけねえよ。あのときは、衣の十七巡目リーチに対して、先に姉帯のほうが仕掛けてたからな。 
 というか……小走は、姉帯が衣の十七巡目リーチを打ち破るような何かをするつもりなんだと……それを見越してわざわざ衣に海底を回した感じがするな。あのポンが加槓狙いになっていたのは、ついでの保険みたいなもんだ。 
 姉帯が衣を削れそうなら傍観。姉帯の仕掛けが衣に通用しない、または小走自身にとばっちりのあるような場合には、姉帯の何かと衣の十七巡目リーチをまとめて加槓で潰す……そんな意図があったように見える」 

菫「さらに言うなら、小走選手が最後まで二索を抱えていたということは……即ち、いつ海底牌が王牌に取り込まれるのか――そのタイミングを小走選手がずっと握っていたということを意味します。 
 つまり、あの海底牌は、その前の二局で天江選手が掬い上げたような……確かな形を持った月ではなかった。シュレディンガーの猫みたいなものでしょうか(誤用)。 
 いかに天江選手の支配力が絶対であろうと、あの海底牌だけは、小走選手の最後のツモ番まで……生きた牌なのか死んだ牌なのか不確定だった。井上さんの言う天江選手の不調というのは、たぶん、その辺りが原因なんだと思います」 

すばら「天江選手と姉帯選手の一騎打ちに見えたあの局の裏で……そんな謀略が……!!?」 

純「さて、じゃあ謎は解けたところで、東四局についてもちょっくら考察してみようか」 

すばら「お願いしますっ!!」

262: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 18:06:08 ID:qi3B5FuV0
菫「ま、図式は東三局一本場と同じですよ。小走選手は、恐らく片岡選手の手が進む気配を感じた。それで……今度は片岡選手に天江選手を削らせようとしたのでしょう。 
 狙い通り、片岡選手は小走選手の捨てた五索でハネ満の混一中ドラ三をテンパイ。しかし……テンパイさせてはみたものの、姉帯選手のときとは事情が違った」 

純「清澄の片岡は、姉帯のようにピンポイントで衣に標準を当てていたわけじゃねえ。東場なのをいいことに、ただ真っ直ぐ突っ走っただけだ」 

菫「当然、片岡選手がハネ満をツモる可能性もあります。そうなった場合、一番被害を受けるのは親の小走選手です。 
 だから、身の危険を感じるや否や、小走選手は作戦を変更。天江選手に北を鳴かせてテンパイさせ、片岡選手を一瞬で討ち取らせた」 

すばら「トップを引き摺り下ろすために他家を利用する……!! しかも、自分の失点が最小限に済むように何重にも保険をかけて……素早く場の変化に対応……!! 
 まったくもってすばらですっ!!」 

菫「驚くべきはそれだけじゃありません。小走選手にとって、今日の面子は初対戦の相手ばかりです。 
 にも拘わらず、小走選手は東一局から東三局のたった三局であの全国レベルの化け物たちの打ち筋を解析し……あの天江衣の支配下にありながらも、見事に打ち回して見せた。 
 こと対応力に関しては、うちの照にも匹敵する柔軟さじゃないでしょうか」 

純「そうだな。間接的にではあるが、衣の海底を封じて、火力もそぎ落とした。本人はただの一度もテンパイできてねえってのに、大したもんだぜ」 

すばら「あ、その、天江選手の火力をそぎ落としたというのも、やはり小走選手が?」

264: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 18:07:57 ID:qi3B5FuV0
純「ああ。さっきの東四局、衣がテンパイしたのは小走の北を鳴いたからだが、そもそもあの北は、小走が対子で抱えていたのを崩したものだ。どう考えても不自然だろ? 
 なんであの終盤まで、あいつは自風でも場風でもない北を抱えてたんだと思う? いや、配牌から対子になってたんならまだわかるぜ。 
 けど、あいつのところに最初の北が入ったのは確か五巡目くらいだ。普通なら速攻捨てるだろ、そんな不要牌」

すばら「抱えておいたほうがいい……そう判断するだけの理由があったんですね?」 

菫「順当に考えれば、北が天江選手の自風牌だったからでしょう。天江選手の場の支配力を考えれば、セオリー通りの打牌をしていては、天江選手の思う壺になりかねない。 
 私でも、それくらいは思い至るかもしれない。ただ……私なら、いざ自分の手が進みそうな状況になれば、さすがに手放すと思います」 

純「が、小走はそれをしなかった。八巡目くらいか、まるで北を吐き出せと言わんばかりに、あいつの手が進んだ。捨て牌を見りゃわかるが、あそこで北を手放せば、小走はテンパイまで辿り着けたんだ。 
 なのに、小走は頑なに北を抱え続けた。その結果――衣の打点が5200まで引き下げられた」 

すばら「北を抱え続けるだけで……そんなことができるんですか?」 

純「できるさ。ちょっと考えれば気付くことだ。もし、小走がもっと早くに北を手放したとして、衣がそれを鳴いたとき、本来小走に行くはずだったツモは誰のものになる?」 

すばら「誰って……ああ……そういうことですか!!?」

266: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 18:10:00 ID:qi3B5FuV0
純「そう――衣が小走から鳴けば……本来は小走がツモるはずだった牌が、以降、全て衣に流れるようになる」 

菫「ちなみにですが、麻雀では、鳴いた人が鳴かれた人のツモを引き継ぎます。例えば、天江選手のように海底を狙いたいのであれば、本来海底をツモる人――初期状態では南家です――から鳴けばいい。 
 まあ、皆さんご存知だと思いますが」 

すばら「なるほど……敢えて北を抱えることが、そのまま天江選手の思惑を外すことに繋がるんですね!!」 

純「そういうことだ。で、まあ、北を抱え続けた小走のところには、中盤以降、北を捨てていれば衣の手に収まっていたであろう、衣の有効牌が流れてきた。 
 具体的には、赤五筒と、一索。もし仮に、小走が北を早々に手放し、衣がそれを鳴いた場合。衣の手はこんな感じになってただろうな」 

 衣手牌:①①①⑤[⑤]⑤1119/北北(北):待ち9:ドラ西 

すばら「これは……先ほどと似ていますが……点数は全く変わってきますね」 

菫「対々北三暗刻赤一……12000ですね。先ほどの5200の倍以上の点数です。まあ、あくまで現行ルール上、の話ですが」 

すばら「ん? どういうことですか?」

267: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 18:12:32 ID:qi3B5FuV0
純「一索と一筒と五筒と自風の刻子を揃えたこの和了りの形――これは世が世なら、役満確定の超大物手なんだよ」 

菫「その役の名は『花鳥風月』……非常に風流な古役です」 

すばら「ほええ……古役ですか……!」 

純「衣のやつはわりとこういう古風な和了りを好む。なんたって『月』が入ってるしな。けど、それも現実では小走に阻まれて、確定とまではいかなかったわけだが。 
 ついでに言うなら、清澄の片岡があの場面で一索ではなく九索切りを選んだことについても……オレは評価したいね。 
 たぶんだが、衣は一索で和了りたかったはずだぜ。ま、点数は変わらないけどな」 

すばら「北を抱える――それだけで古役の役満手をたったの5200に引き下げた……想像以上にとんでもないことをやっていたんですね……!!」 

純「ああ。そして……オレの予感が正しければ、ここからが本番だぜ」 

すばら「というと?」 

菫「ここまで……小走選手は徹底して裏に回っていました。それは、天江選手の支配下で身動きが取れなかった――というだけかもしれませんが……果たして本当にそうでしょうか?」 

純「初対面の相手の得意技や引き出しを一通り見ておきたかった――そんな打ち回しにも見えなくはないよなぁ」 

すばら「では……もし動くとしたら?」 

純「そろそろじゃねえかとオレは踏んでる。だから、南場に入る前に、対戦経験のあるやつの話を聞きたかったんだ。あの打ち回しが偶然なのか……それとも全て計算尽くなのか……」 

 と、実況室の扉、開く!!

268: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 18:15:40 ID:qi3B5FuV0
初瀬「お待たせしましたっ! 連れてきましたよ、松実玄さんです!!」 

玄「連れてこられました! みなさんご無沙汰してますっ! で、私になんの御用でしょうか!?」 

純「よう、ドラ娘。県大会であの小走ってのと戦ったんだってな。どうだった?」 

玄「どうだったって……ものすごく強かったですよ!」 

すばら「ものすごく……とはどれくらいですか?」 

玄「だって、小走さん、あの先鋒戦で一度も私に振り込みませんでしたから」 

純「一度も……ってのは確かにすげえな。いくらドラ娘の手が読みやすいっつったって」 

玄「正直……あのとき私が小走さんを相手に勝てたのは幸運が重なったからです。最初の8000オール……あれがなかったら、結果はどうなっていたかわかりません」 

菫「最初……そうですね。阿知賀は無名校で、しかも晩成と当たったのは一回戦。データがなければ、対策の立てようがない」 

玄「そうなんです。あれは本当に私たちに有利な戦いでした。決勝で当たっていたら、少なくとも先鋒戦――私は小走さんに勝てなかったと思います。小走さん、あの最初の8000オールを見ただけで、すぐに私の体質に気付いたみたいでした。 
 先鋒戦、東二局には、もう私の弱点を見抜いて狙い打ちしてきましたよ。南場に至っては、私よりも小走さんのほうが稼いでいたくらいです」 

純「お前より稼いだ? 嘘だろ?」 

玄「本当です。ね、初瀬ちゃん?」 

初瀬「はい。まあ……さすがに最初の8000オールを皮切りにした序盤の荒稼ぎの分を取り返すまではいきませんでしたけど。確かに、先鋒戦の南場は……小走先輩のほうが優勢でしたね」 

すばら「ドラ爆体質の松実さんとまともに打ち合って稼ぐなんて……私には信じられません。園城寺さんやチャンピオンならともかく……」 

玄「ああ……花田さん……あの準決勝は大変でしたねぇ」

269: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 18:18:20 ID:qi3B5FuV0
純「思い出話は後にしてくれ。ほかに小走について、なんか客観的なデータはないのか?」 

初瀬「先輩は、奈良の個人一位です」 

純「はああああああ!!? 奈良一位!? そりゃマジか!?」 

初瀬「え……? 知らなかったんですか?」 

菫「まあ、私は知っていたよ。私たちの学年で、奈良の小走やえは、長野の福路美穂子と同じくらいよく聞く名前だ」 

純「そうだったのか……! あ、でも、奈良の個人戦って阿知賀の面子は出なかったんだよな……?」 

玄「はい。なんですけど、私たち阿知賀と晩成さんはインターハイの前に壮行試合をしていて、うちの五人と晩成さんの上位ランカーで入り混じって打ったんですが、そのときのトップも小走さんでした。 
 二位はうちのおねーちゃんで、私は全然でしたね」 

菫「ほう……あの松実宥を押さえてのトップとは」 

玄「小走さんは……本当に打ち方が柔軟なんですよ。打てば打つほど……こちらが勝てなくなってくるんです。あっ、そう言えば、私たち、インターハイの前にいろんなところと練習試合をしたんですけど……」 

純「はるばるうちにも来てくれたよな」 

玄「ええ……各県の二位さんと戦ったんです。それで……本当に色んな人と打ったんですが、その中で、私たち全員が勝てなかった人っていうのが……二人いたんです」 

純「一人は、うちの衣だな」 

菫「もう一人は?」 

玄「三箇牧の荒川憩さんです」 

すばら「まあ……そのお二人にみんなが勝てるようなチームなら、確実に全国優勝できるでしょうね」

270: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 18:20:14 ID:qi3B5FuV0
玄「はい……で、そのことなんですけど」 

純「なんだ?」 

玄「よくよく思い返してみれば、晩成さんとの壮行試合――あのとき、私たち五人は、結局、誰も小走さんに勝てなかったんですよね」 

菫「それは……興味深いお話ですね」 

純(おいおい……衣や荒川憩と同列に語られるレベルかよ……!? 冗談じゃねえ……強い強いっつっても……てっきり風越・池田の同類だと思っていたが……) 

玄「なんていうか、本当に本当に、あの県大会の先鋒戦で私が小走さん相手に区間一位を取れたのは、幸運だったんだと思います」 

初瀬「来年は、負けませんよ。憧にもよろしくお伝えくださいっ!」 

玄「うん! あっ、でも、憧ちゃんは今日は敵さんだからなぁ……」 

菫「別に伝えるのはこれが終わったあとでもいいでしょう」 

すばら「というか、初瀬さんは新子さんのお友達なんですから、直接言えばいいのに」 

初瀬「そ……それはなんというか……恥ずかしいんですっ!!」 

 和む四人を余所に、純は衣の身を案じる。 

純(衣……!! 気をつけろ……お前が負けるとは微塵も思っちゃいねえが……そいつはただの噛ませ犬じゃねえぞ……!! 
 そろそろ何かやってくる……腕の一本くらいは覚悟しとけ……!!) 

 先鋒戦後半、波乱の南入――!!

271: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 18:23:54 ID:qi3B5FuV0
@対局室 

 実況室の喧騒など届かない、静かな対局室。 

 優希が出ていってからしばらく経ったのち、暖かい風を纏って現れる――南浦数絵。 

 待ち受けるのは、いずれも自らの高校を牽引する実力の持ち主。 

衣「なんだ……随分と遅かったな。衣に恐れをなして逃げたのかと思ったぞ」 

 魔物――長野・龍門渕高校・大将……天江衣ッ!! 

豊音「南浦さん、長野の五位なんだってー? 一位と四位は福路さんと竹井さんなわけだから……来年は全国デビュー間違いなし? 今のうちにサインもらっちゃおうかなー」 

 魔人――岩手・宮守女子・大将……姉帯豊音ッ!! 

小走「ふん、またニワカが一人増えたか……」 

 王者――奈良・晩成高校・先鋒……小走やえッ!! 

南浦「……よろしくお願いします」 

 無名――長野・平滝高校・個人……南浦数絵ッ!! 

 四雄、激突ッ!!

289: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 19:19:27 ID:qi3B5FuV0
南一局・親:南浦 

 十巡目 

南浦(これが天江衣の支配か……先ほどの龍門渕透華と同種の何か……優希が苦労していたのも頷ける。けれど……前半とは違って……今度は優希が道を示してくれた。 
 天江衣も絶対ではない……セオリーに縛られないこと……そして……諦めないこと……覚悟して望めば……突破口は開けるはず……!)タンッ 

 南浦、意地のテンパイッ!! 

豊音(おっとー? こっちはまだサンシャンテン止まりだってのに……この東南コンビは本当に強いねぇ……対して……天江さんはどう出るかな……?)タンッ 

衣(南浦数絵……張ったか。18000程度……しかし……それが衣のぶら下げた餌だとは気付くまい……)タンッ 

 衣、南浦を釣り上げる準備は万全ッ!! 

小走(……)タンッ 

豊音「ポンッ!!」タンッ 

南浦(む……飛ばされた? いや、これは話に聞いている……宮守の鳴き……!) 

衣(宮守の大将……鳴いた瞬間に力が膨れ上がった……これが咲との戦いで見せた――もう一つの得意技か……!)タンッ

290: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 19:20:39 ID:qi3B5FuV0
小走(……)タンッ 

豊音「それもポンだよー」タンッ 

南浦(二連続……!? これは……宮守の力なのか……それとも……?) 

衣(まただ……また衣の支配が不自然に揺らいでいる……!? しかし……宮守の大将以外に……別段変わった力は感じないが……)タンッ 

小走(……)タンッ 

豊音(っと……さすがに三連続はないか……けど……今の捨て方……明らかに面子を崩して私に差し込んできてる。そういえば……さっきの先勝のときも……きっかけは晩成の人のポンだったっけ……) 

南浦(さて……やっとツモが回ってきたわけだが……)

291: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 19:22:45 ID:qi3B5FuV0
 南浦、長考。 

南浦(ふっ……優希に当てられたか。強敵を前に……私は少し冷静じゃなかったかもしれない。ダマの18000……改めて眺めてみると……こんないかにもな手はないな……) 

 南浦、ちらりと、対面の天江の様子を伺う。 

南浦(天江衣……二連続でツモ切り……既に張っていると見たほうがいいだろう。そして……今ツモった牌は、途中鳴きが挟まったものの、結局ツモ順は元通りだから、いずれにせよ私がツモっていた牌。 
 私のテンパイには絡まない不要牌だ。それも……対面の天江にわりと安全そうなヤオ九牌。当然……私はここで突っ張る選択をしただろう。 
 しかし……東四局……あの悪魔のようなシャンポン待ちを思えば……これが安全である保障などどこにもない……) 

 南浦、小さく溜息をついて、上家を一瞥。 

南浦(晩成の……天江と宮守は気付いているのかいないのかわからないが……モニターで見ていた私にはわかる。相当な手練。 
 たぶん……今の宮守への差し込みには隠された意図がある。例えば……私のツモ番を二度も飛ばすことで……頭を冷やせと言いたかったとか……) 

 南浦、一度目を閉じて、深呼吸。 

南浦(いいだろう。確かに……ここで突っ張るのは、素直という名の愚直かもしれない。 
 勝ちを放棄するわけではないが……この面子……石橋を叩いて渡るつもりで打たなければなるまい……ここは我慢が正解……それだって一つの戦い方だ)タンッ 

 南浦、ツモ牌を抱え、テンパイを崩す。 

 直後――!!

293: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 19:25:31 ID:qi3B5FuV0
豊音「チー!!」タンッ 

 歯を剥き出しにして笑む、魔人・姉帯豊音!! 

 魔物・天江衣、あくまで落ち着いて、ツモ牌を手にする。 

衣(宮守の大将が三副露……。いや、それよりも……南浦数絵。なぜテンパイを崩した……? 衣の狙いに気付いたか? 
 さすが、とーかや池田、それに鶴賀の大将をも個人で上回っただけのことはある、というべきか。清澄のゆーきと特性は似ていても……地力ではこいつのほうが一枚上手……同じ誘いには乗ってこないか) 

 衣、南浦に定めていた照準を、外す。 

衣(仕方あるまい。立て直すのに二、三巡掛かるかもしれないが……南浦数絵が退いた以上……この手はもう死んだも同然)タンッ 

 衣、南浦のオリを受けて、不慮の方向転換。 

 それは、ほんの僅かではあるが、確かな隙ッ!!

294: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 19:27:09 ID:qi3B5FuV0
豊音「それ……! ポン――!!!」 

衣(ここで喰らいつかれた……!? くっ……ほんの数巡前まで消え入りそうなほど小さな気配しか漂わせていなかったのに……!!)タンッ 

豊音(何を企んでたか知らないけど、やっと出してくれたねー? ぎりぎりまで力を溜めてた甲斐があったよー……!) 

小走(……)タンッ 

南浦(宮守がこれで四副露……せっかくの親だったが……ここまでか)タンッ 

 豊音、十二枚もの手牌を晒し、残るは孤独な裸単騎ッ! 

豊音「ぼっちじゃないよー……?」 

 しかし、それは、たった一巡の孤独ッ!! 

豊音「……ツモ!! 断ヤオドラ二――1000・2000!!」 

 友引――発動ッ!! 

豊音(いつまでもマイナスに甘んじていられない……! 天江さんはちょー強いし……他の二人もなんか不気味だけど……私だって負けてられないよー!!) 

衣(宮守の大将……衣の揺らぎを突いて確実に和了ってくる……打点が低いのがまだ救いか) 

南浦(前半の南一局と比べると……大分凹まされたな。我ながら不甲斐ない……) 

南:92400 衣:125100 姉:99500 や:83000

297: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 19:35:52 ID:qi3B5FuV0
南二局・親:豊音 

 十巡目 

南浦(天江衣の支配下では……セオリー通りに打つのは危険……こうして多少回り道をするのも悪くはないだろう。 
 場の支配といっても色々と種類があるのか……天江のそれは先ほどの龍門渕透華のそれと似ているが違うところもある……弱々しいが……まだ南の風は吹いている。 
 どんな打ち方だろうと……この風は――私に味方してくれるはず……!)タンッ 

豊音「チーッ!!」タンッ 

衣(また鳴かれたか……南浦数絵の吹かす風……その流れをうまく掴んでいるように見える。もっと言えば……咲が槓材を手の内に引き込むのと似ているな。 
 自分の力を信じられる者は……衣の予想を超えてくる。追っかけリーチといい、先制リーチといい……技巧に富んだ打ち手だ)タンッ 

小走(……)タンッ 

南浦(ん……鳴けるところが出てきた? 面白い……乱戦になれば……より天江を撹乱できるかもしれない……やってみる価値はある!!) 

南浦「チーです」タンッ 

豊音「それもチーだよー」タンッ 

衣(煩いやつらだ……それで衣を惑わしたつもりか……小賢しい!!)タンッ 

豊音「ポンだよー!」タンッ 

衣(ふん……鳴きたければ好きに鳴くがいい……)タンッ

298: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 19:37:20 ID:qi3B5FuV0
南浦(これは……どうする……? 少々強引な気がするが……ここで動かなければ宮守に先を超されるか……?) 

南浦「……ポンッ!」タンッ 

 南浦、イーシャンテンッ!! 

 しかし、それを見て、魔物は微笑む。 

衣「…………鳴いたな、南浦数絵?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 

南浦(え……? そんな……いや……まさか……!! 信じられない!! 私と宮守の二人がかりで場を乱したつもりが……それすら手の平の上だったというのか……!? この……化け物め……!!) 

衣「宮守のも……鳴いてはリーチをかけられまい。衣に対抗できる唯一の手段を自ら放棄するとは……愚かなことだ」 

豊音(んー……? あれ……ちょっと待って……今ぐるぐるしててわかんなくなったけど……そっか! 今の鳴きで海底は……! マズい……マズいマズいよー……!?) 

衣「朝生暮死……お前たちの足掻きもここまで……そのまま成す術もなく暗い水底に沈むがいい!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 

 天江衣、本日四度目の――海底コースッ!!

300: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 19:39:50 ID:qi3B5FuV0
南浦(風が……止んだ? そんな……さっき風が吹いていると思ったのは天江が支配を緩めていたからなのか……? ダメだ……もう何をしても手が進む気がしない……!)タンッ 

豊音(困ったなぁ……天江さんの言う通り……鳴いたら先勝と先負は使えない。友引だって……四副露にならないとその効果は発動しない。せめて……あと一度……誰か鳴かせてくれれば……!)タンッ 

 そして……間もなく辿り着く、大禍時の十七巡目――!! 

南浦(天江衣……龍門渕透華の一見して静かな雰囲気とは違う……牙を剥き出しにした魔物……! こんなの……どうやって打ち倒せというんだ……!!?)タンッ 

豊音(あー……とうとうここまで来ちゃったよー……これはもう覚悟を決めるしかない……か……!!)タンッ 

衣「……リーチ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 

 衣、貫禄の十七巡目リーチッ!! 

 供託に出されたたった一本の千点棒が、一瞬で場の空気を絶望色に染め上げるッ!! 

 打つ手無し、繰り返される東二局、三局の悪夢ッ!! 

 その――次の瞬間ッ!!

301: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 19:40:58 ID:qi3B5FuV0
小走「チー……」タンッ 

 海底に――光射すッ!!! 

衣(えっ……?) 

豊音(は……?) 

南浦(何事……?) 

 衣のリーチ宣言牌――その一萬を、下家がチー。 

 客観的に見れば、ただそれだけのこと。 

 しかし、たったそれだけの出来事を――場の支配者たる衣でさえも、それはあまりに唐突だった――うまく飲み込めない三者。 

 そんな魔物と魔人と無名を睥睨するは……奈良に君臨する王者――ッ!! 

小走「なんだ? 揃いも揃って呆けた面をして……そんなに一発消しが珍しいのか? まったくニワカにも程があるな」

305: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 19:43:54 ID:qi3B5FuV0
南浦(いや……一発消しとか……そういうことに驚いているわけではなく……!)タンッ 

豊音(天江さんが海底コースに乗ってから……誰も動けなかったっていうのに……どうしてこの土壇場になって……?)タンッ 

衣(こいつ……今まで一度たりともテンパイ気配を感じなかったやつが……今だってイーシャンテンに過ぎないというのに……どうしてこの場面で衣の海底を潰せる……? くっ……! 和了れない……のは当然か。なんなんだ……一体こいつ……何をした……!?)タンッ 

 そして、鳴きを入れて海底牌を手にした王者は、小さく溜息をつく。 

小走「おっと……まさか今日初のテンパイが海底テンパイなんて……ツいているのかツいてないのかわからんな」 

衣「晩成の……和了りでないなら早く牌を捨てないか」 

小走「まあまあ……そう睨みなさんな。心配しなくても、これはお返ししてやるさ」タンッ 

 小走やえ――その最後の捨て牌は、前巡で衣が捨てた……一萬ッ!! 

南浦(手出しの一萬……!?) 

豊音(喰い替え……!? そんな単純な方法で天江さんの海底を潰したの……?) 

衣(いや……違う……。そうか……今感じるこの気配……食い下がり千点……そういうことか……! こいつ……萬子ならなんでもよかったのか……!!)

307: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 19:45:40 ID:qi3B5FuV0
小走「テンパイ」パラッ 

衣「……テンパイ」パラッ 

豊音・南浦「ノーテン……」パタッ 

 明らかになる……小走やえの策略。 

 それは、東三局一本場での加槓には劣るが、衣の海底を、約四分の一の確率で無効化する保険――。 

 小走手牌:四五六七八九南南①①/(一)二三 

南浦(喰い替えの……鳴き一通……!?) 

豊音(なるほど……そういうことか……考えたねー……!) 

衣(否……こいつ……それだけじゃない。その捨て牌……衣の海底だけじゃない……『月』までをも的確に掬ってみせたのか……!?) 

 三人の視線が、恐らくこの半荘で初めて、小走に集まる。 

 小走、思わず、失笑。 

小走「どうした……? そんな感心したような目で見て……別に和了ったわけでもあるまいに。 
 それともなにか、ニワカにはこの程度の打ち回しが目新しいのか? オメデタイやつらだな……」 

 小走、ノーテン罰符を受け取ると、晒した手牌をさっさと崩し、次の対局へと思考を切り替える。 

小走「さーて……流れ一本場だ」 

南:90900 衣:125600 姉:98000 や:84500

309: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 19:48:59 ID:qi3B5FuV0
@実況室 

すばら「天江選手の海底が不発っ!!? 一体何が起きたのでしょうか!! 解説をお願いします、初瀬さんっ!!」 

初瀬「えっ!? 私ですか!?」 

すばら「はい。先輩の仕掛け……種明かしをするなら後輩の初瀬さんが適任かと!!」 

初瀬「頑張りますっ!」 

すばら「その意気やすばら!!」 

初瀬「えっと……まず天江選手が十七巡目リーチをしたときの先輩の手牌ですが……こんな感じです」 

 小走手牌:一二三四五六七八九南南①⑥ 

純「一通確定イーシャンテン。雀頭が場風牌だから、五筒や七筒が入っても平和はつかないな」 

初瀬「はい……で、先輩はここから天江選手のリーチ宣言牌……一萬を鳴きました。これは、萬子ならなんでもよかったんだと思います。 
 天江選手が十七巡目に何を切ってくるか……そこまではっきりとわかっていたとは思えませんが、萬子ならどれでも喰い替えで鳴ける一通の形にしておけば、全体の牌の総数的に136分の36……26パーセントの確率で天江選手の海底を防ぐことができます。 
 先輩は、恐らく配牌を見て、一通の形に持っていけると判断したんでしょう。できることならそのまま和了りたかったんでしょうが、それはできなかった。 
 しかし、たとえ和了れなくても、一通の形さえ出来ていれば海底無効化の布石にはなる……ただでは転ばないのが、先輩のすごいところです」 

菫「まあ……もちろん天江選手が萬子以外を捨てる可能性もありました。海底を防げたのは、26パーセントが小走選手の作戦勝ち、残りの74パーセントは運と見ていいでしょう」

312: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 19:51:32 ID:qi3B5FuV0
初瀬「そうですね。東三局一本場の加槓のときに比べると、先輩にしては運の要素が強い作戦だったと思います。でも、最後に先輩が海底でテンパイできたのは、純粋な先輩の実力だと思います。 
 なぜなら……先輩は天江選手の一萬を鳴いたあと、受けの広い六筒ではなく、一筒を手に残したからです」 

 小走手牌:一二三四五六七八九南南①⑥:チー一:捨て⑥ 

初瀬「先輩は……天江選手の待ちが一筒だと見抜いた。だから先輩は六筒を捨てた。確率に頼らず、テンパイできる道を自力で切り開いたんです。そして次巡……海底を迎えました」 

 小走手牌:一四五六七八九南南①/(一)二三:ツモ① 

初瀬「ここまで来れば、あとは天江選手の安牌である一萬を捨てるだけです。姉帯選手と南浦選手は張っていませんでしたから、一パーセントたりとも河底なんて可能性はありません。さすがの先輩です」 

純「ちゃちゃを入れるようで悪いが、何も一通の形にしなくても、衣の海底を防ぎたいなら、同じことがこんな形でもできるよな」 

 こんな形:二三四六七八******* 

初瀬「そうですね。これならたった六牌で全萬子を鳴くことができます。しかし、先輩は別に、天江選手の海底無効化を目的に打っていたわけじゃありません。海底無効化は、あくまで和了りを目指すついでの保険。 
 飜数を高めるために一通の形を残すのは当然です。あと、さっき言った通り、一通の喰い替えは河底の可能性を完全に消してくれますから、防御の面でも上の形より優れている……と私は思います」 

すばら「すばらっ、な解説ありがとうございましたっ!!! そんな初瀬さんの愛する先輩、晩成高校・小走やえ選手っ!! 後半戦開始からチームは最下位を抜け出せていませんが……ここから動きを見せるのでしょうか!! 
 それとも天江選手が魔物の力を見せつけ連荘となるのか!? 緊張の南三局流れ一本場ですっ!!」

314: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 19:55:15 ID:qi3B5FuV0
@対局室 

南三局流れ一本場 

 十一巡目 

衣(晩成の……先ほどは不意を衝かれたが……しかし、相変わらず気配は微々たるもの。それでも……この南三局に来て……こいつは今日初めて和了れるテンパイにこぎつけた。衣の支配の抜け道を見出したか……? 
 だが、所詮は1600の安手……衣の親を流してラス親で連荘する腹積もりか……それとも他に何か狙いが……?)タンッ 

小走(……)タンッ 

豊音(晩成の小走さん……さっきの海底無効化は驚いたけど……嬉しい誤算かな。だって……私が先勝を温存してなくても……小走さんが別のやり方で天江さんの海底を牽制してくれる。 
 気分的にすごく楽になったよー……これで心置きなく……友引が使えるっ!!) 

豊音「……ポンッ!!」タンッ 

 豊音、小走の手牌から捨てられた三筒を、即座に拾うッ!! 

衣(宮守の……! 先ほどの失態のせいか……こいつの打牌から迷いが消えている。衣の海底はもう恐くないとでも……? 
 しかし……悪いが今回は既に和了りの形を作ってある……四度も鳴かなければ和了れないお前より……速さでも高さでも衣のほうが上だ。それに……晩成の小走……今の一打……さては宮守が鳴くのを待っていたな? 
 宮守を相手に先制リーチはかけられない……しかし……宮守が鳴けば話は別だ。好きなようにリーチをかけられるし、安手でも裏や一発で高打点を狙える。悪くない戦略だ。 
 しかし……宮守が鳴いたことでリーチをかけられるのようになったのは……何もお前だけではない……!!) 

 衣――仕掛けるッ!!

315: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 19:57:47 ID:qi3B5FuV0
衣「リーチッ!!」タンッ 

 刹那――衣の下家から放たれる、轟々たる気運ッ!! 

衣(なっ……!? 待て……そんなバカな……!? こいつが和了れるのは安手だったはず……今の一瞬……宮守の鳴きに衣が気を取られていた間に……何が起きた……!!?) 

小走「拍子抜けだな……これはニワカどころじゃない。まったくのド素人の打ち筋だ。まさかこんな見え見えの染め手に、そんな危険牌でリーチをかけてくるなんてな。長野の魔物は他家の捨て牌を見ないのか……?」 

衣(染め……手……!? 一巡前まで1600だった手が……たった一巡で染め手だと……!?) 

 衣、端から順番に、流れるように晒されていく小走の手牌を見て、その仕掛けに気付く!! 

衣(はっ……!! そうか……1600……!! 25符2飜――その点数が意味するところは……つまり……!!!) 

小走「ロン。七対子混一赤一……12000は、12300」 

 小走手牌:一一二二三三[五]七七白白西西:ロン五 

衣(先ほど宮守に鳴かせた三筒……あれが衣に対する目晦ましになっていたのか……!! 確かに……この形の七対子なら……三筒を赤五萬に切り替える……たったそれだけの変化で……混一と赤ドラ――計四飜を上乗せすることができる。 
 咲が連カンで手を撥ね上げたような特別な力は何も要らない……万人が普通にやってみせる高めへの切り替え。 
 しかし……こいつはそれを衣に悟らせなかった。先ほどまでの微々たる気配そのものが……衣を油断させるために張られた伏線……! 
 こいつ……今まで大人しくしていたのは……衣の特性を見抜くためだったのか……!!)

317: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 20:00:36 ID:qi3B5FuV0
小走「龍門渕の……天江衣。片岡や南浦がテンパイしたときの打ち回しからして、他家の和了りの高低を見抜ける便利な感覚を持ってるみたいだが……お前のようなニワカには勿体無い能力だ。 
 少なくとも私なら……自分が牌を捨てる毎巡ごとに、他家の手牌をチェックするだろうな」 

衣「反論の余地は皆無だ。お前の言う通り、今の振り込みは衣の未熟さゆえの結果。正直……ただの人間にここまでの遅れを取ったのは初めてだ。しかし……次があるとは思うなよ」ゴゴゴゴゴゴ 

 衣の身体から溢れ出る、魔物の気配。 

 同卓する者が気配に敏感な者なら、反射的に慄いてもおかしくないはないプレッシャー。 

 現に、表情を硬くする南浦と、武者震いを抑える豊音の頬には、冷や汗。 

 しかし、奈良の王者は、悠然と微笑む。 

小走「強気な態度も見方によっては虚勢になる。悪いな、牌に愛された子。もはやお前は恐くない」 

衣「言うじゃないか……一般人。果たして、虚勢を張っているのは衣かお前のどちらか……今にわかるだろう。言っておくが、今のような奇策は二度と通じないぞ」 

小走「ふん、ニワカめ。大体その考えからして甘いんだ。どうせまた私がお前の油断を誘って討ち取るとか……そういう狡い打牌をするものだと決め付けているみたいだが……どうして私が地力で打ってお前を倒せないと……そんなことがお前にわかる?」 

衣「面白い……! そこまで言うのなら、その力……余すところなく見せてもらおうじゃないか!!」 

 衣、出力最大ッ!! 

南:90900 衣:113300 姉:98000 や:97800

322: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 20:08:41 ID:qi3B5FuV0
南四局・親:小走 

小走(有効牌……という考え方がある。例えば、字牌が一枚あるなら、その字牌の二、三枚目が有効牌になるし、数牌なら、対子・刻子にできる同牌――及び搭子・順子になる前後二つずつの計五種類が有効牌になる。 
 そんな……自分にとっての有効牌が……一体この場のどこに潜んでいるのか。それがわかれば……どんな状況にあっても自分に有利に場を進めることができるはずだ……)タンッ 

小走(これまでの天江や姉帯の動き……南浦に関してはさっきの前半戦の分も含めて……総合して考えると、私の有効牌は、恐らく山の中にはほとんど埋まっていない)タンッ 

小走(有効牌を集めるとしたら……せいぜいがこの序盤、イーシャンテンまで持っていければツいているほうだ。中盤以降――海底牌に近付くにつれて、山牌と河は、ある程度選択の自由がある序盤より、強く天江の支配下に置かれるようになる。 
 そこに私が付け入る隙はない。強いて言えば……リーチが絡むときの姉帯が、天江の支配に抵抗できる感じだが、そんなオカルトは私には関係ない。東場のときのように天江を削るアシストをするので精一杯だ)タンッ 

小走(山牌がダメで……あとは他家の手牌だが……これも期待は薄い。この重たい場で出和了りができるのは恐らく天江だけだろう。 
 また……他家の手から零れてくる浮き牌のうち……天江の有効牌にならないものは……鳴きを駆使する姉帯の有効牌になるはず。 
 ということは、いくら他家の手を鳴いて手を進めたところで、姉帯でもなければ和了りにまで持っていくことはできない。手詰まりだ……)タンッ 

小走(で……じゃあ一体私の有効牌はどこにあるのか。ごく僅かな可能性として、場の支配者である天江の手の中だ。しかし、そのカードはさっきの七対子で使ってしまった。もう天江を直撃するのは無理。 
 そもそも……天江の支配下において自力でテンパイしようと思っても……少なくともこの先鋒戦後半……七対子か国士無双以外に道はなかった。さすがに国士を狙えるほどの器量は私にはない。 
 さっきの七対子は半荘に一回来ればいいほうの偶然。門前でテンパイまで持っていけたこと自体が奇跡だったんだ。あんな和了りはもうできない)タンッ 

小走(さて……ようやくイーシャンテンか。中盤までにイーシャンテンに届くかどうかは賭けだったが、どうやら間に合ったみたいだな。 
 ここからは……天江の支配下にもない……姉帯に掠め取られる心配もない……そんな場の奥の奥まで手を突っ込むことになる。うまくいけば……天江も姉帯も出し抜ける)タンッ

324: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 20:10:22 ID:qi3B5FuV0
 着実に思考を積み上げていく、小走。 

 しかし、和了りを目指しているのは当然、小走だけではない。 

 先鋒戦後半オーラス……四者四様の思惑が交錯する。 

南浦(オーラス……ここで和了れなければ……私がここに来た意味がなくなってしまう。 
 しかし……一向に手が進まない……晩成の小走やえや宮守の姉帯豊音は……天江衣の支配の中でも和了ってみせた……なのに……私のこの体たらくはなんだ……!!)タンッ 

豊音(小走さん……特に変わったことをしているようには見えないけど。正直に言って……なんの能力もなく……天江さんを相手にこれ以上何かができるとは思えない。 
 私だって色々手を尽くしてみたけど……現状は六曜の力でなんとかするのが限界。一体……今度は何を狙ってるの……?)タンッ 

衣(晩成の……あれだけ大見得を切ったからには、何か仕掛けてくるはず。それがなんなのか……衣には見当もつかないが……なんであろうと真っ向から受けて立つ……!!)タンッ 

 十巡目 

小走(さあ……来たぞ……! この半荘……待ちに待った……千載一遇のチャンス……!! ここが勝負時だ――!!)

326: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 20:13:17 ID:qi3B5FuV0
 小走手牌:22267③④⑤七八九九白:ツモ2:ドラ二 

小走(山牌はダメ……他家の手牌も望み薄……となれば残るは――王牌しかない。その中でも特に……嶺上牌だ。なぜなら、山牌を支配する天江、他家から牌を拾える姉帯に対し……この下家の一年――南浦数絵は、恐らくドラを味方につけている。 
 前半戦で見せた、リーのみを裏ドラで親満に持っていったあの打ち筋。南浦が数牌メインで手を仕上げているなら、当然ドラ表示牌――及び裏ドラ表示牌は、彼女の有効牌に近いものになっているだろう。 
 今回で言えば、恐らく南浦の手の内には萬子の低めが集まっているはず。となれば、裏ドラやカンドラ表示牌の辺りには、同じく萬子の低めが眠っているに違いない。つまり……王牌のうち半分は、彼女の有効牌になるわけだ。 
 ならば……山牌でも、他家の手牌でも、ドラ表示牌でもないのなら……消去法で――私の有効牌は嶺上牌に眠っていることになる……!!) 

 小走、伸るか反るかの大博打――四枚集まった二索を……晒すッ!! 

小走「(来い……私の有効牌――!!!)――カンッ!!!」パラララッ 

 小走の突然の暗槓に、三者、動揺ッ!! 

衣(カン……!? しかもイーシャンテンからの……! まさか……こいつも咲と同じ……? いや、違う……咲の強大な気配とは似ても似つかない……これはただのカン。そうそう嶺上牌で手が進むことなどあるまい……!) 

豊音(暗槓……宮永さんを思い出すなぁ……そういえば、天江さんも県大会で宮永さんと戦ってるんだよね。私もカンには苦い思いをさせられた……嫌でも緊張するよ……!!) 

南浦(カン……!! 小走やえ……私たち三人が宮永咲と対戦経験があることを知っての奇策だろうか……? 否……違う、小走やえは宮永咲じゃない。きっと……彼女には彼女の考えがあって……この場に最適な策として……カンを選んだ……!!) 

 奇しくも、カンには思い入れのある三人。 

 そうとは露知らず、小走、嶺上牌をツモッ!! 

 捲られたカンドラ表示牌は――三萬ッ!! 

 それは確かに萬子の低めッ!! 

 ここまでは小走の読み通りッ!! 

 果たして嶺上牌は――!!?

328: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 20:18:27 ID:qi3B5FuV0
小走(っと………………は……はははは…………!) 

 嶺上牌を見て、思わず笑ってしまいそうになる、小走。 

小走「なあ、化け物ども……お前らは……麻雀を打つようになってどのくらいになる?」 

 小走、必死に笑いを堪えつつ、まるで世間話を振るように、気さくに三人に話しかける。 

 最初に返したのは、魔物・天江衣。 

衣「衣は……幼い頃より麻雀を含めたあらゆる遊戯に通じてきたが……自ら麻雀を『打つ』ようになったのは、ごく最近のことだ」 

 次に返したのは、魔人・姉帯豊音。 

姉帯「ルールとかは昔から知ってたけど……私は村のしきたりがあって外に出られなかったから……まともに人と打つようになったのは去年からだね」 

 最後に、無名・南浦数絵。 

南浦「私も……麻雀そのものは小さい頃からお祖父さまに仕込まれていましたが……表舞台に出ることはあまりありませんでした。特に団体戦は、編入先の高校が弱小だったので……今は個人戦のみで打っています」

329: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 20:19:11 ID:qi3B5FuV0
 三人の答えを聞いて、静かに自分の話を始める、小走。 

小走「私は……小さな頃から麻雀を打ってきた。小三の頃からマメすらできないほどに、数々の大会に出場して、強いやつや弱いやつ……異常なやつや普通のやつを相手に……何千何万局と戦いを重ねてきた」 

 目を閉じた小走の瞼に映るのは……数多の過去の牌譜。 

小走「その中で……私は気付いたよ。自分には、例えば宮永照のような、麻雀を打つための特別な才能はない。私に打てる麻雀は一般人のそれと何も変わらない。 
 だから……強くなるためには……勝ち残るためには……打って打って打って打って――打ちまくるしか道はなかった」 

 小走、瞼を開き、三人の化け物を見回し、自嘲気味に微笑む。 

小走「私は……お前らみたいな化け物とは違う。私にはなんの能力もない。お前らみたいな牌に愛されたやつらがふらっと大会に出てきたとき……真っ先に負けていい笑いものになるような……普通の人間だ。 
 そんな私は……ただ己の経験と知恵で牌をやりくりすることしかできない……言わばただの蛙だよ。ただし……私は大会を――大海を知っている蛙だ……!!!」 

 小走、嶺上牌を手に組み込み、不要牌の白を握るッ!!

330: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 20:19:46 ID:qi3B5FuV0
小走「お前らになんの事情があるかは知らん! しかし……今の話では三人とも競技麻雀の経験は浅いようじゃないか!! ならば……お前らがどんな能力や才能を持っていようと関係ない……!!! 
 まともな大会経験もないやつらに……百戦錬磨の私が負けるわけなかろう!!!!」 

 そのまま白を河に捨て――曲げるッ!!! 

小走「ニワカは相手にならんよ!!!!」 

 その口元には、確信と自信に満ちた、王者の笑みッ!!!! 

小走「お見せしよう……!! これが王者の打ち筋だッ!!!!」 

 小走手牌:67③④⑤七八九九/2222:嶺上ツモ5:捨て白:ドラ二・四 

小走「リーチッ!!」 

 小走、オーラスにして初のリーチッ!! 

 静寂から一転、俄かに湧く卓上ッ!!

333: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 20:22:34 ID:qi3B5FuV0
豊音(私がいるのに先制リーチ……!? 何をするつもりなのかわからないけど……小走さん……この背向の豊音を忘れてもらっちゃ困るよー?)ゴゴゴゴゴゴゴ 

小走(宮守の姉帯豊音……忘れちゃいないよ。けれど……そっちこそ……大事なことを忘れてるんじゃないか? この場を支配する魔物……天江衣の大好きな……海底撈月のことを……!!) 

 小走の暗槓――それは嶺上牌と同時に、後の海底牌をも東家の小走に齎す!! 

 必然、餌というには巨大過ぎる『月』に喰らいつく――魔物・天江衣ッ!! 

衣「ポンッ!!」タンッ 

豊音(ちょっ……私のツモ番が飛ばされた……!? こんなことって……小走さん……じゃあ今までの言動や態度は……全てここで天江さんを鳴かせるための布石……!? 私の先負を無効化するための!? まさか……信じられないよ……!!) 

小走(誘いに乗ってきたな……天江衣!! あそこまで煽ったんだ……この勝負……プライドの高いお前なら……一度私に潰された海底撈月で応えてくれるはずだって……信じてたよ!!) 

衣(わかっている……晩成の……これでいいのだろう……? 別に挑発など回りくどいことはしなくとも……貴様の誘い程度……衣はいくらでも乗ってやるというのに。 
 それがたとえ衣の弱点だとしても……それが衣らしさなら……衣は衣らしさを貫く……!! それが天江衣の打ち筋だ……!!)

337: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 20:27:55 ID:qi3B5FuV0
 交錯する、衣と小走の視線ッ!! 

 衝突する、意地と矜持ッ!! 

 衣の支配を振り切るように、力強く山牌に手を伸ばす小走ッ!! 

小走(ここから先は……なんの保険も保障もない運任せ……! こういう場面は初めてじゃないが……所詮私はなんの力もない一般人……どちらかと言えば競り負けることのほうが多い……!) 

 ツモ牌を握り、その慣れ親しんだ感触を、マメすらできない指先で確かめるッ!! 

小走(ただ……それでもたまに勝てるときがあって……これだから……麻雀はやめられないんだよ――!!) 

 小走、牌を手牌の右に置き、安堵の溜息。 

小走「ツモ……! リーチツモ……1300オール……!」 

衣・豊音・南浦「!!!?」 

 王者――辛勝ッ!! 

小走「まったく……麻雀って楽しいよな……! 一本場……ッ!!」ゴッ 

南:89600 衣:112000 姉:96700 や:101700

345: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 20:36:55 ID:qi3B5FuV0
 先鋒戦後半、ここまで場は終始、魔物・天江衣の支配下にあった。 

 しかし、衣の支配は強大ではあっても、絶対ではない。 

 魔人――宮守・姉帯豊音。 

 王者――晩成・小走やえ。 

 両名、その能力と技術をいかんなく発揮し、衣の独走に待ったをかける。 

 一方で、一つの和了りもなく、完封に甘んじた者が、二人。 

 一人は、既に戦場を後にした、東場最強――清澄・片岡優希。 

 そしてもう一人は、今なお苦悶する、無名――平滝・南浦数絵。 

南浦(南四局一本場……今現在……私の個人成績はマイナス14500点……まさか全国の化け物たちと自分の間にこれほどの差があるとは……思ってもみなかった) 

 自分と自分の祖父の麻雀の正しさを証明するため、ただ自らが勝つことを目的にこの戦いに臨んだ、南浦数絵。 

 しかし、もはやその目的を果たすことは、絶望的。 

 この場に自分がいる意味を、見失ってもおかしくはない、最悪の状況。

346: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 20:39:25 ID:qi3B5FuV0
南浦(私なりに手は尽くしたつもりだ。それでも……届かない。触れられない。それほどに……この敵は強い。正直なところ……全く勝てる気がしない……) 

 南浦、遠くでこの対局を見ているであろう、自らの師――祖父に思いを馳せる。 

南浦(お祖父さま……申し訳ありません。数絵は……今の数絵の麻雀では……この人たちには敵いません……。未熟な私を……お許しください) 

 祖父との約束を果たせないことに、潤む、数絵の瞳。 

 それでも、南浦は、滲む視界の中、前を見据えていた。 

『とにかく……私は今度こそ……勝つ――!!』 

 それは、つい先ほど交わした、新しい、もう一つの約束。 

 正反対な性質ゆえに、不思議と惹かれ合う、気の置けない友人との、大切な約束。 

南浦(せめて……優希との約束だけは……嘘にしたくない……!!) 

 友人は、言った。 

『今日の対抗戦――もしこれが個人戦だったら、数絵はきっと勝ち上がれると思うじょ。でも、今日は団体戦だじょ。この違いはけっこう大きいんだじぇ?』 

 その言葉の意味を、南浦はしかし、決して十全に理解しているわけではない。 

『もし、数絵がいつも通りに打っても勝てないくらい敵が強いときは……私の言葉を思い出してほしいんだじょ』 

 南浦、苦笑。

349: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 20:43:01 ID:qi3B5FuV0
南浦(思い出しても……何も変わらないよ。わからない。優希……悪いが……やっぱり私は団体戦に向いていないんだ。私は……団体戦に出ない理由を……チームが弱小だからだと言ってきたが……そうじゃなかったんだな。 
 恐らく……私は……チームが強い弱いに関係なく……団体戦には出れないだろう……私には……チームを思う心が……欠けている……) 

 涙が溢れそうになる、南浦。しかし、気丈に、目元を拭う。 

『私が泣くのは、先鋒戦で私が負けたときじゃない。大将戦が終わってチームが負けたときだって決めたんだじょ』 

南浦(確かに……私はもう負けを認めてしまった……この人たちには敵わないと思ってしまった……けど……まだ泣くようなときではないと……なぜか思える) 

『私が先鋒戦でやるべきことは、一位を取ることじゃない。みんなの点棒を少しでも守って、できることなら増やすこと。そして、最後まで諦めずに全力で打つこと……そういう風に思えたんだじぇ』 

南浦(優希……優希は負けても笑顔で私を送り出してくれた……! ならば……私も……笑顔で優希のところに戻りたい……!) 

 先鋒戦後半南場、激しい逆風に倒れそうになった南浦を支えたのは、暖かい南風ではなかった。 

 それは、爽やかで軽やかな、東の風。 

 南風よりも暖かな――友人の笑顔。 

南浦(優希……! 私はまだ……諦めない……! 最後まで……戦い抜く……!!) 

 南浦、不屈ッ!!

351: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 20:46:11 ID:qi3B5FuV0
@実況室 

すばら「小走選手がここにきて二連荘! 南四局は一本場となりました! 現在トップの天江選手は南場に入ってからまだ和了りがありません! 小走選手と姉帯選手がすぐ背後まで迫ってきています!! 
 まだまだ何が起こるかわからない状況ですっ!!」 

菫「和了りがないと言えば、東場の片岡選手も焼き鳥でしたし、南場の南浦選手もまだ焼き鳥のままですね」 

初瀬「一年選抜チームの二人にとって、この後半戦は厳しい戦いになっていますよね。同じ一年生として……見ていて不安になります。もし私があの場にいたらと思うと……恐くてたまりません。私なら、きっと今頃逃げ出していると思います」 

純「でも……あいつら二人はまだ諦めてねえと思うぜ」 

初瀬「そうですね……。しかも、二人とも、どんな状況になっても……笑顔のままでいるんです。それが……私には信じられません」 

純「初瀬ちゃんたちを負かした阿知賀の大将や、うちの衣と戦ったときの宮永咲もそうだった。ここぞっていうときにああいう笑顔でいられるやつは……結果云々に関係なく……強いやつなんだと、オレは思う」 

初瀬「強い……ですか。強いって、なんですかね……?」 

菫「さあ……なんでしょうね。たとえ照に訊いたとしても……あいつは『わからない』って答える気がします」 

初瀬「チャンピオンにもわからないんですか。私……私、どうやったら強くなれますかね……」 

すばら「私も、後学のためにぜひお聞きしたいですっ!」 

菫「井上さん、任せるよ」 

純「なんだよ、王者白糸台の三年ともあろうやつが……まあ、別にいいけどよ」 

菫「どうぞ」

354: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 20:48:53 ID:qi3B5FuV0
純「これはオレの考えだけどな。オレは……何かを信じて戦えるやつらが強えと思うよ。やつらの何かを信じる想いってのは、時としてオカルトじみた現象を引き起こすこともあるし、奇跡のように見える偶然をものにしたりする」 

純「信じるっつっても、その対象は色々だ。自分の能力、経験、技術、ポリシー……団体戦だったら仲間とかな。 
 これは、こと団体戦に限った話だが……自分の仲間を信じられるやつは、たまに、個人戦では絶対にお目にかかれないような、驚くべき打ち方を見せるときがある」 

純「実際に……見てみろよ。一年選抜の南浦数絵の手。先鋒戦前半からこれまでずっと、他家を打ち負かそうと高めを狙っていたやつが、一転して安く早く仕上げようとしてやがる。 
 このオーラス、終われば次鋒のやつにバトンを渡すことになるこの土壇場に来て……あいつの中で何かの変化が起こったんじゃねえかと、オレは睨んでる」 

すばら「しかし……南浦選手のあの穴だらけの手では……今のところはテンパイしてもツモのみ。いわゆるゴミ手にしかなりません。姉帯選手によって先制リーチが封じられているこの場では……あまりに頼りなく見えますが」 

純「だから……強いってのは勝ち負けじゃねえんだよ。ノミ手だろうがゴミ手だろうが和了りは和了りだ。別に南浦が負けたからって一年選抜が負けるわけじゃねえだろ? 
 次に繋ぐって意味では、南浦は恐らくこの対抗戦で初めて……個人じゃなく一年選抜メンバーとして、最善の選択をしている。それに、点差に縛られてちゃ衣の支配からは逃れられねえ。 
 さっきまでのままじゃ焼き鳥間違いなしだったやつが……僅かだが和了れる可能性を掴もうとしてるんだ。あいつは今……見た目以上にものすげえことをやってるんだよ」 

初瀬「勉強に……なります」 

すばら「ええ……まったくもってすばらです。頼りないとはとんだ失言でした。取り消します」 

純「ま、点数的に頼りないのは事実だよ。このまま行けば、南浦が和了れるのはゴミ手で間違いない。だが……それも今のところは、って話だ」 

すばら「何か、あそこから手を高めるような仕掛けがあるんですか?」 

純「いいや、そんなもんはオレも思いつかねえ。だが……言ったろ? 何かを信じて戦うやつは、時として奇跡としか思えないような偶然をものにするんだよ。 
 この勝負……南浦が諦めない限り……最後まで何が起こるかわからねえぜ?」

356: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 20:54:50 ID:qi3B5FuV0
@対局室 

南四局一本場・親:小走 

 八巡目 

南浦(張った……まさか……この点差で私がこんなゴミ手を張ることになるなど……私ですら予想してなかった。ならば、当然……天江衣にも……これは予想外に違いない)タンッ 

姉帯(んー、早いね。リーチは……どうだろう。あんまり高くなさそうだから、場面的にはかけたいはずだろうけど……期待はできないかな。うー……こっちもイーシャンテンだから、先負の準備は万端なのにー!!)タンッ 

衣(南浦数絵……張ったか。県大会決勝の咲の連続和了……あの初撃を思い出す……あまりに弱々しい気配。あのときの咲にはまだチャンスが残されていた。しかし、今のお前にはもう後がない。 
 もっとも……今はまだ先鋒戦……早和了りも一つの手段。逆転を決める高い手を和了るよりも、時として、負けを覚悟で安手を和了るときのほうが……勇気が要ることもある。 
 決してこいつは勝利を諦めたわけではない……他の二人同様、最後まで動向に注意を払わねばなるまい)タンッ 

小走「ポンッ!」 

衣(晩成・小走……! また仕掛けてきたか。まだリャンシャンテンだろうに……喰いタン狙いか。もしくは……こいつ……衣の支配が王牌にまで及ばないことを見抜いているのか? だとしたら……このポンは加槓への布石……!) 

小走(今回は順子ばかりで槓材になりそうなのがこれしかなかったからな。まだ四枚目が場に出ていない以上……無理にでも鳴いておかなきゃ有効牌を手にする手段がなくなる。さあ……頼むから来てくれよ……四枚目……!!)タンッ 

南浦(小走やえのポン……また嶺上牌を狙うつもりか……? 宮永咲でもあるまいし、なんの根拠があってそんな打牌を……? それとも……私には見えていないことがあるというのか。まったく……なんて深い場だ……)タンッ 

豊音(小走さんはこれでリーチがなくなった。いよいよ先負先勝は狙いにくくなってきたよー……全体効果系は天江さんに押し負ける可能性があるしなー……。 
 どうしよう……小走さんに連荘されるのもそれはそれで厄介だよね……じゃあここは……多少無理をしてみるのも吉ってことで!) 

豊音「カン!」パララッ

360: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 20:56:39 ID:qi3B5FuV0
衣(今度は宮守が……!? 新しい能力か何かか……? しかし……一見したところ特に意味はないように見えるが……こいつもこいつで底が知れん……不気味だな) 

豊音(んー……? なんだ、ちょっとは期待したのになー……これは要らないよー)タンッ 

小走(ちょ……それ私の……! だあああ、誰だっ! チーは上家からしかできないなんてルール決めたやつ!!) 

衣(宮守のカン……暗槓だからリーチは今後も可能……前局の晩成のカンを受けて、何かを試したのか? しかし、特に宮守にプラスに働くことはなかったようだな。 
 ま、晩成のに対しては……どうやらマイナスに働いたようだ。が……待て……これは…………!? 
 ……なるほど。どうやら衣に対してもマイナスに働いたか。宮守の……面倒なことをしてくれたな……!!) 

小走(ニワカめ……不用意なことを……!! カンをすることによる三つの効果……嶺上牌をツモれる……海底牌がズレる……そして……最後のもう一つのことをもっとよく考えてほしかったもんだ……! 
 しかし、もはや言っても仕方がない。これはカンを安易に戦略に取り込んだ私のミスだ。一つ教訓だな。私にはまだカンの研究が足りない。今度……宮永咲の牌譜でも眺めてみるか……) 

 直後、小走の手に、四枚目が舞い込んでくる。

363: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 20:58:37 ID:qi3B5FuV0
小走(これは……誰のどういった思し召しだろうか。加槓ね……まあ、それも一興といえば一興か。いいだろう……大局を見据えて痛みに堪えるのも王者の務め……甘んじて理不尽を受け入れよう。 
 ただし……天江衣……姉帯豊音……お前たちも道連れだ……!!) 

小走「……カンッ!」カンッ 

衣(晩成……!? こいつ……まさか気付いてないのか……? 否――こいつ……わかった上でそんな暴挙を……!! そんなに衣を削りたいのか……!? 一体なぜ……!!?) 

小走(ニワカが過ぎるな……天江衣……! 序盤の片岡のときと違って、こちらはもう十分に稼いでいる。ゆえにこういう戦略を選ぶことだってできるんだよ。 
 魔物のお前は点を稼ぐことを求められるスコアラーで……一般人の私は言わば繋ぎの捨て駒……原点で次に回せば十分な役回り……ならば当然……! 私はこの骨を切らせてでも……お前の肉を断ちに行く……! 
 それが団体戦というものだ……ッ!!)タンッ 

 姉帯豊音の暗槓。 

 小走やえの加槓。 

 嶺上牌が二つ消費され、 

 山牌が二つ王牌に取り込まれ、 

 そして――!!

364: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 21:00:54 ID:qi3B5FuV0
南浦(こんな……こんなことが……? 私はただ……優希の言葉を信じて打っていただけなのに……こんなことが起きるものなのか……?) 

 捲られる……二枚のカンドラッ!! 

南浦(ははは……! ありえない……こんな偶然が重なるのが団体戦の――仲間の力だというのなら……私には……到底理解できるはずがない……!!) 

 カンドラ表示牌は一索と五索――即ち、二索と六索が……ドラッ!! 

 南浦手牌:一三22456678⑦⑧⑨:ドラ9:カンドラ2・6 

南浦(だが……これもまた麻雀だというのなら……悪くない……!! 優希……! 優希の言う通り……団体戦は……私が思ってるよりもずっと……楽しいのかもしれない!!)ツモッ 

 南浦、山牌から引いたのは、待ちに待った二萬。 

 ツモのみのゴミ手が、暖かい南風を受けて、龍と共に天に昇る――!! 

南浦「ツモ……! ドラ四……!! 2000・4000は――2100・4100!!」 

 室内であるはずの対局室に、うなりを上げて吹き抜ける突風ッ!! 

 風に乗せて手牌を倒した南浦の、長い髪を一つにまとめていた紙紐が、解けてひらりと宙を舞うッ!! 

 しかし、そんなことなど気にも留めず、南浦は約束の右手を握り締め、天を仰ぐ。 

南浦(優希……見ていてくれたか……!! ほんの……ほんの少しだけど……取り返した……私はぶちかましてやったぞ……!!)

368: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 21:03:41 ID:qi3B5FuV0
 精根尽き果てた様子の南浦を横目に、上級生三人は、点棒を置いて立ち上がる。 

小走(にしても……まさか天江の支配下にありながら……ドラが乗った直後に一発で当たりを引き当てるとはな。南浦数絵……ニワカだが……末恐ろしい一年だ。 
 あー……しかし……今日は死ぬほど疲れたな。これだから魔物は苦手なんだ。もっと普通の麻雀が打ちたいよ。 
 まあ……でも一応帰ったら今日の牌譜を見直すか……カンのこともそうだし……どうやったらこの面子相手にトップに立てるか検討してみないと今夜は眠れん……) 

衣(爆発的な南風……今の今まで我慢して蓄えていた力を……最後に吐き出したのだろう。これが長野で五指に入るという打ち手……個人戦のみの出場だということだが……来年は衣も個人戦に参加してみようか。 
 そう言えば……晩成のこいつは……個人で全国に出たりしているのだろうか? あとで聞いてみなければ……) 

姉帯(ちゃー……これはやっちゃったよー。先鋒戦終わって三年選抜が四位なんて……ちょっと浮かれ過ぎてたかな? だって……こんな面白い人たちと卓を囲めるなんて……そんなにないことだもん! あの準々決勝も楽しかったけどね……! 
 というわけで……早く色紙とペンを用意してこなきゃ!!) 

 先鋒戦後半――終了ッ!!

370: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/10 21:04:32 ID:qi3B5FuV0
<結果> 
一位:天江衣+13100(109900) 
二位:小走やえ+5600(97600) 
三位:姉帯豊音-5400(94600) 
四位:優希・南浦-13300(97900) 
 >優希(-16800)・南浦(+3500) 
 >優希合計(+4100)・南浦合計(-6200) 

<前後半合計> 
一位:透華・衣+9900(109900) 
二位:優希・南浦-2100(97900) 
三位:池田・小走-2400(97600) 
四位:シロ・豊音-5400(94600)
続き